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新世界の歌 8話 ウサギ魔人

 目の前に提示された恐ろしい物体を、俺の目は一瞬で拒否した。衝撃を受けた脳味噌の中に浮かんだ言葉を、何度も何度も一文字一文字反復させる。

 な。ん。だ。こ。れ。は。

 恐ろしいものから目を反らす。許容できないものは視界に入れないに限る。しかし逃避は解決にはならないとすぐに思い直す。では、どうすべきか。

 まずは深呼吸。そしてわが心を落ち着かせ脳味噌の中を整理するために、状況確認だ。

 現在、魔人ぺぺが封印されて二週間たっている。

 メキドの護国将軍にはヴィオが任じられた。

 兄弟子様ともうひとりはまだ幸い、メキドの摂政位から罷免されずにいる。

 もうひとりっていうのは、そこにいる赤と黄色のけばけばしい…………


「そこの奥さん! 饅頭いかっがっすかー?」


 ピエロ。


 ……。

 ええと、落ち着け俺。さらに状況確認しよう。

 蒼鹿家はアズハルの娘を無理やり立てて、メキドにいろいろ要求してきている。

 アイテリオンは正体をあらわし、監察官としてメキドの国政を牛耳り始めてそれを全部呑む予定でいる。現在はアミーケを搬送したため水鏡の里にいる、らしい。十割確定できないのは、奴が神出鬼没で、魔人団の白胡蝶の力によって好きな場所にいつでも出没できるからだ。しかしアリストバル護衛長たち最強どころが封印されているので、以前のような無敵っぷりは発揮できないだろう。

 それでもメキドの状況は深刻だ。国を護るべき摂政二人が、名を連ねど無力化されている。兄弟子さまは白胡蝶にやられて、温泉地で療養を余儀なくされた。そしてもうひとりは、そこにいる赤と黄色のけばけばしい……


「え? お手玉しろ? はいはい、できますよ。まかしてくださいねえ」


 ピエロ。


 ……と、化した。

 ……。し、深呼吸、しよう。

 しかしあの真っ白い能面はなんなんだ。サブイボでた。股間もきゅっとなった。あまりの衝撃におしっこちびりそう。これ、やばいぞ。だって。だって……。


「なんで……」

「いや、気持ちはわかる。すまん、俺もうかつだったよぺぺ。俺が温泉でぬくぬくしてるあいだにまさかこんなことになるとは」

「なんで……」

「いちおうな、回復させようと薬のまそうとか、話しかけたりとか、赤毛の女の子たちと一緒にいろいろやってみたんだが――」

「なんで、ウサギの着ぐるみじゃないんだっ!!」

「え」


 まずい。これは、深刻にまずい状況だ。もし我が師が何か策があってわざと身を変じているのなら、こんな気持ち悪いピエロになど決してならない。百パーセント、絶対に、ウサギの着ぐるみをかぶるはずだ。ピピちゃん。そう、あのニンジンぶしゃーのピピちゃんになるはずだ!


「ほーれほれほれほれ」ー―「きゃははは、おじさん、玉がぼとぼと落ちてるよ」「へったくそー」


 なんであんなにべったべたと、顔に直接おしろい塗ってるんだ。気味悪すぎる。

 なんでできもしない大道芸をぶざまに披露してるんだ。おそろしすぎる。


「はははは。おじさんだめだよねえ。はははは。おじさんは世界一だめなやつなんだよ。さーあ、うさぎ印の饅頭は、いかがすかー」

「おじさん、玉そのままだよう」「ひろいなよー」

 

 ああああ。子どもに拾わせて……。


「お。お。おしっ……お師匠さま!!」

「さあ風船欲しい子はこっちおいでー」


 ううっ。呼んでも振り向かない。ひたすら風船配ってる。も、もらいにいくか。


「おい、ぺぺ。よしとけ。無駄だって」


 兄弟子様の声を背にピエロに近寄る。


「お師匠さま。俺……です」


 我が師の顔をまじっと見る。ピエロもまじっと見てくる。でも、次の拍子にピエロはにっこりビジネススマイル。


「ああ、ごめんねえ。風船は子どもだけにあげてるんだよ」


 俺、顔変わったか? たぶんすんごい蒼ざめて口も開けててすごいアホ面だってのはわかっちゃいるが、魔人になった時のままで外見は十六歳、のはずだ。でも小じわとかあるのかな。ちょっと顔伸ばしてもう一度ピエロに見せよう。

 ……。

 ……。

 どうしよう……。反応しないよこの人。

 ちくしょう、怖すぎて唇震えちゃうよ。なんか息が苦しい。過呼吸か? 落ち着け俺。し、深呼吸だ。

 俺はがくがく震えながらも、風船を持つピエロの手首をがしりとつかんだ。


「いやでも! 俺、風船大好きだから! この柄! この柄が! 大好きだから!」


 びしりと風船に印刷されてるウサギ柄を指さす。だからくれ! 頼むからと懇願しつつピエロの面前に迫る。たとえピエロ菌に冒されていても、屋台で売ってるものはみんなウサギマーク入り。ウサギへの執着はかろうじてまだあるんだろう。だから脈は、ある!


「う、ウサギってほんとかわいいですよね!」

「そうだねえ。でもフンがくさいし、穴にすぐ隠れるからねえ。お客さんに時々怒られるんですよ。ウサギどこ? 見えないって。餌代もバカにならなくてねえ」

 

 ひいいいいいいい。お師匠様が口歪ませてすんげえ嫌そうな顔でウサギの悪口言うなんて! 嘘だ! だれかこれは悪い夢だと言ってくれ……!!


――「あ、ゴンザレスさん、今日はもうあがっていいですよ。ごろ寝してきて充電完了しましたから。あとは僕がやります」


 え?!

 なんだか背後から、ピエロと同じ声音が……聞こえる?


「ごしゅじーんさま、でもぉ」


 ピエロ、内股でもじもじ。いいからいいから、と我が師と同じ、しかしどことなく冷たい声が背後から。あれっ? と兄弟子さまがきょとんとする。


「このピエロ、ハヤトじゃねえの?」

 

 次の瞬間、ぼむっとあたりに煙がたった。ピエロが消えて、あとにはひらひらな札をつけたピエロのぬいぐるみが残る。これは……


「うお。式じゃねえか。便利なもんつかって従業員ふやしてるんだなぁ」 


 えっ?


「兄弟子様!! お師匠様じゃないじゃん!!」

「わりいわりい。声も姿もそっくりなんで、ついまちがえたわ」

 

 そっくりって。つい、って! ちくしょうポチの火炎放射で焼いてやる! い、いや落ち着け。とにかく落ち着け、俺。深呼吸するんだ……。


「ようこそ、ハッピーモフモフランドへいらっしゃいました」

 

 ふりむくと――


「ひっ!」


 さっきのピエロより、もっとひどいものがいた。顔だけ、でっかいウサギの着ぐるみ。そして体は。


「ママ、なにあれ」「きゃあ!」


 腰布一枚の、ひょろひょろしたあおっちろいスネ毛ぼうぼうの男。うわ、胸板うすい。あばら骨が浮き出てる。もしかしてろくにご飯食ってないんじゃ?着ぐるみの頭部のでかさで二頭身になってるけど、ただの変態にしか見えない。お客さんはどん引きして、一斉に人が退いて遠巻きになっている。 


「ちょっと園長! 服着てくださいって何度もいってるじゃないですか!」


 ピンク色のスカートの赤毛の娘が、あわてて緑と赤のピエロ服を持ってくる。しかし変態ウサギは無視。腰に手を当てて仁王立ち。


「どうぞウサギの楽園でゆっくり楽しんでいってください。さあちびっこたち、ついてきてください。これからこの『ウサギ魔人ぺぺ』が園内を案内してあげます」」


 ちょっと待てえええ―ー!!


「人の名前をかたるな! この変態スネ毛オヤジ!!」


 お。振り向いた。反応したぞ。あ。背を向けた。二、三歩歩いた。止まってこっち向いた!


「変態じゃない。僕は、アスパシオンのぺぺです」


 な……?!


「僕のかわりにお師匠さまがあそこの廃院の泉に封印されたんです。だから僕は永遠にここでお師匠さまのお墓を守るって決めたんです。だって僕はお師匠さまをだれよりも愛してるから。あの人は、僕の一番大事な恋人だったんだ。僕たち、相思相愛だったんだ。お師匠さまはまた僕のために……僕のために……身を……投げ出してくれたんだ……」


 な……んてことだ。ひっくひっくと、泣き声が着ぐるみの中から聞こえてくる。

 凍りつく俺の腕をつかみ、兄弟子様がずるずると変態ウサギから遠ざける。わかっただろ? と唇をきつく噛む俺の頭を、ぽふぽふ叩いて慰めてくる。憂いを込めたまなざしで……。


「今の話は要するにハヤトの脳内願望だ。自分が身代わりになってぺぺを助けた。あいつはそうしたかったんだ。そしてあいつは、ほんとにそういうことにしたんだ。自分の頭の中でな」

「俺……来るの遅すぎた……」

「いや、おまえの帰還は奇跡。俺たちには予期せぬことだったんだから、自分を責めるな。ハヤトにはやっぱり会わせない方がよかったかもしんないなぁ。すまん。おまえを見たらひょっとしたら元に戻るかも、って少し期待しちまった」


 もう回復する目はなさそうだな。兄弟子様はそう悲しげにつぶやき天を仰いだ。

 




 そんな馬鹿な!!

 俺は歯を食いしばり、ウサギ魔人を睨んだ。本当に狂いが入ったなんて信じられない。そんなの許容できない。正気に戻す手があるはずだ。

 何か……。そうだ、変身。ウサギのぺぺだ。俺がウサギになればきっと!

 園の端に走ってさっそく魔法の気配を降ろす。韻律を唱えるなり、どくりとオリハルコンの心臓が激しく心拍した。胸がギリギリ痛む。まだ浸透しているオリハルコンの血流に慣れ切っていないせいだろう。だが躊躇している場合じゃない。こらえて韻律を唱え続ければ。みるみる我が身は縮み、耳が生え、手足がもふもふになり……


「よし! これでどうだ!」


 ウサギと化した俺は、きぐるみのなかでひっくひっくと泣き声を上げる変態の前に立ちはだかった。


「ハヤト! みろ! 俺だ! ぺぺだ!」

「お。お師匠さま。お師匠さま……どうして僕なんかをかばったんですか……」


 うううう。ウサギのぺぺを見せてもだめだなんて。そんな……!


「し、しっかりしろ! ハヤト! 俺が見えないのか?! く、くそっ。う、ウサギキィーック!」


 すこーんと着ぐるみの横っ面を俺の後ろ足が直撃する。瞬間、沿道の柵にすっとぶウサギ魔人。どうだ、と息をつめて近寄るも。着ぐるみの中から聞こえてくるのはうつうつとした嗚咽。


「ちくしょう! なんで。なんでだようっ……ハヤト! なんでやねん!」 


 俺はウサギ魔人の首を掴んで激しくゆすぶり、幾度も後足キックで喝を入れた。しかしウサギ魔人は力なくだらりと伸びたまま。ウサギ頭の着ぐるみの中でしくしく嘆くばかり。バーリアルに取り付かれた我が師を正気に戻したあの解除呪文も……


「あ、あ、あ……愛してる! 愛してる! 愛してる! ……うあああああっ! これでもだめなのかあああっ」


 ウサギ魔人は、起き上がらなかった。兄弟子さまがおろおろと俺を止めに入った。


「ぺぺ、おいもうやめろ。そんなに蹴ったらハヤトが死ぬ」 

「いやだ。いやだこんなの。ハヤト!! ハヤトとおおおおっ!!」





 戦意と生気が全く無いウサギ魔人は、それからしばらく草原に伸びていた。ウサギのままの俺は兄弟子さまに抱かれ、園の外へと退避。温泉饅頭をおごられて、道端で涙をこぼしながら、もそもそほおばった。


「俺……これから時間の泉作る……もう一回過去に行きなおして、はじめから歴史を作り直せば……せめ、せめてお師匠さまがバーリアルにとりつかれて濡れ衣着せられるのを食い止められれば。俺が魔人にならなければ……」

「ぺぺ。そうできないから、こういう世界になってるんだろ? アミーケが言ってた。時間軸はただひとつ。何度過去へもどろうが、過去を変えることはできない。なぜなら未来からの干渉も加わってこの時間軸の世界は存在している、って」


 ちくしょう。わかってる。そんなのわかってる。でも、そんな願いを口にせずにはいられない。

 未来からの干渉。それもしっかり、過去の歴史に刻まれている。時間流は過去から未来へ流れているだけでなく、未来から過去へも常に流れている。だからあの三つの泉ができるわけで……


「それじゃ、お師匠さまを直す薬を開発する。妖精たちと一緒に、絶対造る。お、俺はなんでも作れるようになったんだ。鍛冶の技だけじゃない。たくさん、覚えてきたから。いろんなことほんとに覚えてきたから。なんでも造れるんだ」


 ぼろぼろ落ちる涙。草むらに吸い込まれていく輝きの粒。


「でも。でもさ。これだけは、ゆずれない……」   


 俺は饅頭を呑みこみ、ピンクのスカートの妖精のもとへ走って緑と赤のツートン服をもらうと。いまだに草むらに大の字で寝ているウサギ魔人に迫り、鬼気迫る顔で服を我が師の前に突き出した。


「服を着ろ! アスパシオン様からのご遺言だ!」

「遺……言?」


 ぺぺと名乗られたからには死んでも服を着せてやる。裸の変態魔人とか絶対嫌だ。そんなの許さない。無理にでも着せてやる! 

 そう思ってとっさに口からでた言葉だったんだが。なんとウサギ魔人はびくんとバネのように飛び起き、ざざっとものすごい勢いで寄ってきて、服をひったくってきた。


「お師匠さまが。僕に? ほんと? ウサギさん」 

「う、うん。着ないと許さないって」

「き、着る! 着るよ! 着ます!」


 ウサギ魔人があわてて服を着る。これは……も、もしかして。


「そ、それからアスパシオン様がご遺言でいってたぞ。着ぐるみを脱いでご飯を食えって」

「食べる! 食べますっ!」


 ウサギ魔人は瞬く間にすぽんとウサギの頭部をとり、屋台の温泉饅頭をかっこみはじめた。これは……やっぱり……! 


「おい、どういうことだ」

「兄弟子様、我が師はぺぺになりきってます。いや、正確には、我が師が思い描く理想のぺぺになってます」


 ちくしょう……このくそオヤジ、よりによって俺が一番嫌がるものになりやがった。

 つまり我が師のいうことしか聞かない、我が師だけを深く愛するというキモチワルイぺぺ。我が師が魔人になって二人で永遠にラブラブでウホッな生活を送ることを受け入れたぺぺになってるんだ。ぺぺならば、ウサギに反応しないのは当然。「キモぺぺ」は、師を弔うために師のお墓にウサギを集めている。ウサギ印の水筒も饅頭も風船も、みんな愛する師への供養というわけか……。

 非常に不本意な状態だが仕方がない。もとの我が師に戻すのは当分無理な感じだが、そうとわかればそれなりの対応はできる。


「それとな、ぺぺ。アスパシオン様はご遺言でさ、この俺の言う事をよーく聞くようにって言ってたぞ」

「ウサギさんのいうことを?」

「うん」


 どん、と俺は毛皮もふもふな白い胸を叩いた。


「俺、ピピ。よろしくな」

「ピピさん。わかりました、よろしくお願いします」

 

 非常に素直にぺこりと頭を下げてくる我が師。すごいな、『我が師の遺言』パワー。伝家の宝刀、最強の切り札、どっかの家の紋所どころじゃないぞ。よし。なんとかなりそうだ。


「それでさっそくなんだけど。ここのウサギたち、ちょっと貸してくれるかな」


 それは困ると困惑する我が師を遺言パワーで押しのけ、俺は草むらを見渡した。野に放たれたウサギ。ウサギ。ウサギ。ウサギ……。そう、こいつらが必要なんだ。アイテリオンを倒すためには。俺が仕込んだものを持っている動物たちが。何百年もかけて、増え続けてきたものが……。

  

  



 ごととん、ごととん、とポチ四号が音をたてて線路を走る。蒸気の煙を吐きながら、ファイカから遠ざかる。

 赤毛の子が乗ってる運転士席から、車両連なる後方をみやるウサギな俺。兄弟子さま。そして、ウサギの着ぐるみ魔人。そして貨物には、モフモフハッピーランドのウサギたち。

 ウサギ頭をかぶっていると落ち着くというので、俺は我が師の好きにさせてやることにした。こういうのはなるべく刺激したり強制したりしない方がいい。それにウサギにこだわりを見せたということは、我が師に戻ってくれる片鱗があるということだ。これをとっかかりに少しずつよくなっていけばいいんだが……。

 エティアに入ったポチ四号は、ジャンクションでポチ二号と遭遇した。


「おじいちゃん!」


 鉄兜のウェシ・プトリが満面の笑みで俺を迎える。


「潜みの塔の姉さまから伝信よ。培養カプセルにいれたとたん、レモンが目を覚ましたって」

「ぶ、無事か? 無事なのか?」

「体はまだちょっと動かせないみたいだけど、しっかり意識はあるって」


 酸素欠乏症で脳神経が麻痺したのか? でもよかった……。うう、頬が熱い。もしかして俺、赤くなってるのか? レモン、俺のために必死だったもんな。感謝してもしきれない……。

 しかしウェシ・プトリは最後に会った時よりずいぶん背が伸びたな。俺とフィリアが初めて出会った時そのものの姿になってる。

 フィリア。

 そういえば、彼女は元気だろうか。


「フィリアはメキドの王宮でヴィオに監禁されてる」


 安否を聞くと、兄弟子さまは苦虫をつぶしたような顔になった。


「あの子をえらく気に入ったヴィオが離さない。ハヤトにウサギをとられて激怒してるから、何か危害を加えられないか心配だ」

「まずはメキドへ。ウサギをヴィオに返します」

 

 俺はジャンクションに詰めてる妖精たちと一緒に、メキドとエティアを結ぶポチ二号にウサギたちを詰めかえ始めた。

 

「ヴィオを味方につけましょう」

「そんなこと可能なのか? あいつ、ほんとにおかしくなってるぞ」

「大丈夫です、兄弟子さま」


 ポチ二号の後続車両にいっぱいのウサギ。こいつらがいれば。 

 俺はどん、とモフモフな胸を打ち叩いた。胸を張り、自信に満ち満ちた顔で。


「任せてください!」


 こうしてウサギたちをつめこんだポチ2号は、一路メキドの王都へと走り出した。ふしゅうふしゅうと蒸気を吐き出し、ごっとんごっとん重たい車輪を回しながら。

 運転席には、鉄兜の娘。

 そしてウサギな俺。兄弟子様。だまりこくるウサギ魔人。


「きついのよ! おじいちゃん以外、石炭山に行って」

「えーっ。プトリちゃんケチ」

「ちょっと! 摂政さま、スカートめくろうと狙ってるでしょ」

「……そうですよ。僕のお師匠さまみたいなことしないでください」

「ま、まあまあみんな、狭いのは事実だから。俺以外石炭山に座ってよ」

「なにいってんだ、この鉄面皮ウサギが!」

「……そうですよ。僕のお師匠さまだって不当だって怒りますよ」

「もおおおお! そのウサギ頭が場所とってんの!」

「ごめんプトリ、ポチ2号って、ほんと4号より運転席狭いわ。時間できたら改造す……ふごおっ!」

「きゃあおじいちゃん! つぶれないで」


 運転席はおしあいへしあい。俺は何度も運転席から落ちかけたりぺしゃんこになりかけたりした。見かねて鉄兜娘が抱っこしてくれたので、兄弟子さまが嫉妬のあまり頭をかきむしり、ウサギ魔人は腹いせのごとく、運転席のどまんなかにでかいウサギ頭を鎮座させた。

 これが……僕らの大行進の始まりの始まり。

 勝利へとつながる道の、起点――。

 ポチはひたすら南へ走った。

 緑の巨木香り立つメキドへ。


 

 

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