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アスパシオンの弟子(コンリ版)  作者: 深海
番外編・聖剣さまの勲歌
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ほむらちゃんと私  第3話 (大団円。なのだろう)

 私が太陽神の幻像を映し出しますと。

 蒼い髪の少女は目を見開き、兵士たちは唖然。

 いやあ、幻像なんて今時めずらしいですよねえ。見たことない人がほとんどかも。

 メニスの王アイテリオンのせいで、便利なものはなんでもかんでも禁止されちゃって、大陸の文化レベルって今や原始レベルなんですもん。 

 どよどよどよめく者どもを前に、私は幻を神殿前に照射し続けました。 

 オオミカミノアメテラスは、スメルニアの主神。太陽の権化です。

 私が映写しているこの記録は、統一王国時代に催された、スメルニア自治区での太陽神祭の時のもの。

 境内に映しだされてた幻像です。

 あの祭り、たしか第二十一代目のご主人さまと、見にいったんですよねえ。

 とっても面白かったです。

 屋台がいっぱい出てまして、ご主人さまは綿アメ食べて金魚すくいしてました。あと、レーザー射的でわんさかと新作ゲームとかコンパクトなゲーム端末をゲットしてましたね。

 そういえば文明が頂点を極めていたあの時代。

 いかがわしい宗教はみんな鼻で笑われておりました。

 スメルニアの太陽信仰も、古くて原始的とか言われて、ずいぶん叩かれてましたよ。社での裁判の仕方が野蛮すぎるとかって。

 熱した鉄をご神体の前に持っていけるかどうかで、罪人の罪を判定する因習が儀式として残ってたんですよねえ。

 儀式なんで本気じゃない、韻律で手を凍結させてから運ぶんだから、とか、スメルニアの宗教団体が身も蓋もない弁明をしてました。

 でもさすがに、いけにえの儀式なんてなかったような……。


『我のもとに捧げられしこのいけにえ、ありがたく受け取ろうぞ』


 よしよし。兵士たちも将官も、巫女の少女もざわざわおろおろ、うろたえております。

 神様の映像、光量アップ!

 メニスに変身版竜王メルドルークの声って、やっぱりすばらしいですね。

 威厳があってとってもえらそう。あやつ、本体はちっさなトカゲでしたが、変身術でメニスの美丈夫に変身できたんですよ。

 それがもう、女の子をかどわかすほどの大変な美声の持ち主でした。

 この声で語りかけられたら、心はぐらぐら。きっとみなさん、耳を傾けてくれるでしょう――

 

『みなすばらしきいけにえよのう。しかしそこな少女。そなたはいらぬ』


 えっ? と蒼い髪の少女が目を見開きました。

 いけにえの骸をちらちら見ながら、私はえっへんと咳払いしました。

 少女はまだ十代。しかし折り重なっている者たちはどう見ても四十は越えていそうです。

 最後に殺される「巫女」だけは歳若いものを選ぶ、という決まりがあるのでしょう。

  

『好みでは、ない』

 

 私は竜王の美声できっぱり宣じました。


『できるだけ年取った者がよい。若いおなごはいらぬ』


「な、なにを、申されますっ!」

「た、たたた太陽の御神がとんでもないご神託を!」

「なんということだ!」


 今まで日蝕がおこるたび、こうして巫女を捧げてきたのだ、それは揺るぎなき伝統なのだ、と将官がだくだく汗を垂らしてうろたえましたが。

 私はひとこと、きつく断じました。


『飽きた』


「なっ……!」

「若いおなごは、飽きたですと?!」


『いままでいったい何人、我がもとに若きおなごが参ったことか。ひとりふたりならいざしらず、両の手にあまるほどとなれば、我の寵を得んと巫女同士が相争うは必至。我は彼女らに悩まされて大変なのじゃ』

「そ、そんな……!」


 死して神の花嫁となる。

 いけにえの巫女にはおそらくそんな意味があるのだろうと思ったら、図星でした。

 蒼い髪の少女は両ひざを折って地につけて、しくしく泣きだしました。


「今までずっと、この日を夢に見てきたというに……!」

 

 すみません。

 すみません。

 でも神様なんて実は――人の心の中にしか存在しないものですから。

 実在するのだったら、私もこんなことはしないで、ほむらさんをなんとか説得して送り出してやるんですけどねえ。

 

『若いのはとにかくいらぬ。どうしても我がもとへ来たいというのなら、もっと年を食うてからにせよ』

「な、何年、待てばよいのです! 何歳になったら身許に侍ることをお許しいただけるのですか?!」


『まあ、最低八十歳以上であろう。老衰で今にも……というのが我の最も好む贄である。なぜならば永き時によって刻まれし知や徳の年輪は、若さや純粋さとは比べ物にならぬほどの価値があるものじゃ。未熟な魂など、天界では――』

――『いやまさに。まさにそうだよなあ』

 

 え。


 し、神殿の奥から声が?!


『俺様、ほんと困ってたのよ。おじさんたちの魂もいっぱいいすぎて統制しきれないぐらいだし。若い奥さんばっかり増えても、争いの種になるだけなんだよな』


 神殿の奥からくつくつと笑い声が聞こえます。

 物質から発声される音波ではありません。

 これは、精神波――!

 な、な、な、何者? いや、若い奥さんばっかりって。ま、まさか。まさかそんな……!

 か、か、か、神様なんて。い、い、い、いな……


『そこな幻よ、大義であった。俺の言いたいこといってくれてありがとうな。いやあ、三番目と五番目と十二番目の奥さんがほんっとうざくて。若い女子はもういらんって言いに出て行こうと思ったら、我がしもべが代わりにいってくれてたなんてなぁ。やれ助かった』


 ちょっと、私しもべじゃないです。手下認定しないでほしいんですけど。

 今見ていた幻が神のしもべと聞いて、スメルニア兵たちはざわざわ。少女は唖然。

 どんっと凄まじい神気が神殿の中から吹き荒れてきました。

 神殿から出てきたのは、全身が燦然と輝く青年。

 なんと彼は、私が出した幻を右手のひとふりで打ち消しました。

 さらに、ほむらさんが必死に出していた、炎の結界もひと薙ぎで鎮火。

 な、なんという神力!


『ああっ! そんな……』

『安心しろ、そこなほむらの剣。この少女は俺のものだが、今はまだ天界へは迎えぬ。時がくるまで、おぬしに我が嫁の護衛役を任じようぞ』

『ほ、ほんとに! ほんとにあたしを? ご主人さまの守護剣に?』

『うむ。おまえはなかなか強そうだからな。そこの幻を出していたわがしもべといっしょに、我が未来の妻を守れ』


 ち、ちょっと私、神様を主人とするような仕様ではありません。勝手に手下のように扱わないでくださいよ。

 しかしましろにきらめく青年は私をガン無視して、すうと蒼い髪の少女に近づき。彼女の形よいあごを神々しい手でくいと持ち上げ、その額に……口づけを落としたのでした。

 まるで、いとしい恋人にするように。


『天界へ来るのは最低八十歳すぎたらだな。できれば百とか百五十とか、年取りまくってから来てくれた方が、本当にありがたい。なんもしらん小娘なんぞ、まじでろくな話し相手にならんのだ』

「百、さい……」


 嘆くことはありませんよ、お嬢さん。

 いやいや、そんなぼろぼろ涙をこぼさなくとも、百年なんて――


『泣くな乙女よ。おぬしは我の婚約者。我は時々ここにおりて、会いに来てやろうぞ。なればさびしくあるまい? 我々は恋人同士、というわけだ』


 蒼い髪の少女は震えながら、額に手をやりました。

 そこにはくっきり、小さなやけどのあとが残っておりました。

 神に見初められたという、婚約の証が。

 

『ああ、証をここにもつけてよいか?』


 光り輝く青年は、ゆっくりとおのが唇を近づけました。

 顔を真っ赤にして今にも卒倒しそうな、蒼い髪の少女に――。





 かくして。

 いけにえの巫女は最低あと六十五年ほど待たなければいけなくなり。

 死者の神殿にて、祈りと修練の日々を過ごすこととなりました。

 神たる青年は男たちも余っているからもういらないと仰ったので、以降、いけにえの儀式は行われないことに。

 ほむらさんは神様のお墨付きをもらって晴れて少女の守護剣となり、倉庫から出されていつも一緒。

 私もなぜか神のしもべとして、祭壇にまつられることになってしまいました。

 大団円。

 ええ、大団円です。

 よろこばしいことに、すべてほむらさんの望み通り。

 

「さて、御神酒をもってこようぞ」


 まあ、少女から毎日お酒をもらえて、満足ではあるのですが。


『ご主人さま、おともを』

「大丈夫、すぐそこの控え室からとってくるだけじゃ。ほむらちゃんはここにいなさい」

『はーい』


 あの太陽の神さまは週に一回ほどこの神殿にやってきます。

 少女の幸せそうな顔といったらもう……。

 しかし神様が本当にいるなんて。ほんとびっくりですよ。


『あら、いないわよぉ』

  

 え? 何をおっしゃるんですかほむらさん。 

 あの時ほんとに、神殿から出てきたじゃないですか。

 まばゆい光輝く青年が。そんで少女にちゅうしたじゃないですか。

 ちゅう。

 しかも今は、週一でデートですよ?

 

『まさかエクスちゃんも、幻を照射できるなんてねえ。手足がないからできないと思ってたわ』

 

 え?

 エクスちゃん、()?!


『でもあれ、ただの記録でしょ? あたしのは違うわよ』


 とたんに。

 祭壇がぺかりと光り。

 あの全身ましろに輝く青年が現れてひらひら手を振ってきました。


『あ、神さま――』 

『やほーう。これ、あたしの本体』


 え?!


『正確には、剣になる前の、生前の姿? 実体はないんだけどさ、韻律は使えるし。強いわよぉ?』


 え……

 ちょ……

 ま……


『神様なんて、いるわけないじゃなーい。エクスちゃんたら、自分も同じ手使ったくせに、まさかだまされちゃったの? てっきりばれてると思ってたわー。んもう、かわいいわね』


 そ、そん。な……!!


『まさかエクスちゃんが加勢してくれると思わなかったわー。動かない3D幻像でクオリティはイマイチだったけど、ほんとありがとね♪』


 ま、まるで本物のように動きまわってますよね、神さま。

 し、信じられない……なにこれっ。メニスの剣、どこまで高性能なの。

 じゃ、じゃあ、あのお涙頂戴の、ご主人失った話とか、は? 

 まさか、う、う、うそ?


『うそじゃないわ。あれはほんとうの話よ。私、目の前で幼いご主人さまを失ったことがあるの。あの子を思いだすと今でも涙がとまらないわ……。私にもっと力があれば……』

 

 ああ……なんて哀しげな声。光り輝く青年が辛そうにうなだれて……。


『だからもう二度と、ご主人さまを死なせないと心に決めたの。

 そのためには、なんだってするわ。なんだってね』


 か、神さまが、ほむらさんっていうことは……は……


『ふふふ。そうよ。あたし、ご主人さまと婚約しちゃったってことよねえ♪』


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


『また口づけさしあげようっと。ご主人さま、とっても喜んで下さるからぁ♪』


 うああああああああああああああああああああああ!!

 ちゅう!! 

 うら若き乙女と!!

 ちゅう!!

 うああああああああああああああああああああああ!!

 う、うらやましい!! 

 必殺神殺しぶちかましてやりたいほどうらやましい!!!!

 ていうか。

 なぜほむらさんのご主人さまが女子だらけなのか、今わかったような気が……

 うああああああああああああああああああああああ!! 

 3Dイケメン!! 3Dで動くイケメン!!!!

 ちょっと! 作った人どこ! 早く私も改造してっ!!

 イケメン出せるようにしてえええええっ!!

 あ。ああ……そういえば。

 喰っちゃってました。腹いせに。

 忘れてました。だいぶ昔の、ことなので。

 一万一千年前……。

 いちまん……。あっちはごまん……。

 一万年って、やっぱりまだ、だいぶ昔じゃない……んですね。

 まだまだ我が身は未熟。精進しないと……いけないんですね。


「ただいまじゃ、ほむらちゃん。エクスどの、本日の御神酒じゃ」


 あ……蒼い髪のお嬢さん。おかえりなさい。あり……ありがとうございます。

 あ、なんていうかその。

 あなたさまはにこにこで。幸せそうで。なによりです。ええ、ほんとなによりです。

 額の印、ほんと嬉しそうに時々さわってますもんね。あう……。


「感謝の言葉は、神さまに申し上げるように。これからもよく、わらわの神に仕えてたもれ」

 

 仕える……。

 あ。私――!


『もちろんですとも、ご主人さま。エクスちゃんは末永ーく、あなたさまの神さまにお仕えしますわ』

 

 ほむらさんの、手下にされて、しまった?!

 うあああああああああああああああああああああ!!

 み、認めません! 却下です!

 剣の主人が剣なんて!!

 絶対認めません――!!



 この時。

 私は誓ったのでありました。

 いつか私も必ずや。イケメン投影装置を装着し、うら若き乙女を主人としてみせると。

 そして。いつかほむらさんと私の立場を、逆転させてみせると。

 おのれええええええっ!!

 きっと実現させてみせますとも!

 私はまだたった一万と一千歳。まだ伸び代があるはず!

 って私が三万歳になったらあっちは七万歳?

 ……。

 ……。

 えっと。勝てる気がしな……い、いえ!

 決心したそばからひるんではいけません。

 力をたくわえましょう。とにかくがんばりましょう。

 ほむらさんを、ぎゃふんといわせるまで。


『エクスちゃん、祝詞の時間よ。みんなで楽しく歌いましょ♪』

「ほむらちゃんはよい声で歌ってくれるからな。わらわの神さまも大満足じゃ。ほれエクスどの、歌おうぞ」

『は、はい……』 


 



 こうして私はそれから数十年ほど、リア充極まりないほむらさんの下僕としてこき使われることになり。

 とある日、お使いに出されて拉致られて。

 最終的には、エティアの北の辺境にしばし落ち着く事になるのですが。

 しかもほむらさんはそれ以降も実に何世紀にもわたって私の天敵として、私をひどく悩ませるのですが。

 それはまた別の、長い長いお話となるのでございます。

 

 めでたし、めでたし?




 ほむらちゃんと私 ―― 了 ――

 






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