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26話:それじゃあ改めてよろしくね

「でも……先輩は何でどこの派閥にも所属してないんですか?」


 俺は素直に先輩にそう尋ねていった。 


「まぁ大した話じゃないよ。本当は私も入学した当初は自分の派閥を作って、そこで一緒に魔法の勉強をしながら切磋琢磨しあえる仲間を作っていこうと思っていたんだ。でもね……」

「でも?」

「でも私が一宮家の娘という事もあって、私の父や会社と繋がりを持ちたがっている生徒があまりにも多すぎたんだよ。私が一年生の頃は毎日のように父に会わせて欲しいとか、お茶会に参加させて欲しいとか沢山の生徒からそんな声をかけられていたものだよ……」

「そ、そんなに沢山声をかけられてたんですか? それは大変でしたね……」

「うん。そうなんだ。だから私が派閥を作ったとしても、その派閥に入りたいって言ってくれる生徒たちは純粋に魔法の勉強がしたい子ではなくて、一宮家との繋がりを持ちたい子しか来ないだろうなって事にすぐに気がついちゃったんだ」


 先輩は寂しそうな表情をしながらそう言ってきた。そしてそのまま続けてこう言ってきた。


「もちろん一宮家との繋がりを持ちたいと思う生徒たちを否定するつもりはないよ。そういう繋がりは将来に役立つ事は沢山あるだろうしね。だけど私は大好きな魔法を学びたいという気持ちでこの聖凛高校に入学したんだ。それなのに大好きな魔法を学ぼうとワクワクとしていた新入生の私に向かって魔法の話を一切してくれずに、最初から最後まで父の事や会社の事をずっと尋ねて来られたり、まだ会ったばかりなのにお茶会に招待して欲しいとかばっかり言われたのは正直しんどかったよ……」

「な、なるほど。それは先輩にとっては凄くしんどい事だったんですね……」

「うん。そうだね。それで入学してから早々にそんな話ばかり振ってこられて、何だかもう疲れてしまってね。それで私は派閥を作るのは諦めてしまったんだ」


 一宮先輩が派閥を作らなかった理由を教えてくれた。


 今の一宮先輩は三年生かつ生徒会長だから、下級生たちからしたら気軽に話しかけられる存在ではないので今は大丈夫なんだろうけど……でも一宮先輩が新入生だった頃は上級生たちから声をかけられまくって大変だったんだろうな。


「そうだったんですね……」

「うん。それでその後は派閥を作るのはスッパリと諦めて、それからは一人で魔法の勉強を毎日コツコツとやってたんだ。まぁ勉強をするのは大好きだったから毎日それなりに頑張ってはいたんだけど……でもやっぱり一人で魔法の勉強とかをするのはちょっとだけ寂しい気持ちもあったんだよね。だから神崎君が私に魔法について聞きたいって言ってくれたのは嬉しかったよ。それに神崎君は私と同じで魔法がすっごく大好きな子なんだなってのが伝わってきたから……ふふ、それも凄く嬉しかったよ」

「先輩……」


 先輩は笑みを浮かべながら俺に向かってそう言ってきた。でもやっぱりちょっとだけ寂しそうな表情になっている気がした。


(でもそんな気持ちになるのは俺もよくわかるよ)


 一宮先輩と話していて気が付いたんだけど、先輩は俺と同じタイプなんだ。純粋に魔法の勉強や研究がしたくてこの学校にやってきたんだ。


 だからこそ自分の派閥を作って一緒に魔法の勉強や研究をしながら切磋琢磨しあえる仲間を作りたいと本気で思っていたんだ。


 でも新入生の時点で色々としんどくなる事があって……それで先輩がやりたいと思っていた事を早々に諦める事になったなんて悲しすぎるよな。


 だから俺はそんな一宮先輩のためにも……。


「という事で神崎君も私と同じで魔法の勉強を沢山したいという気持ちが強いなら、派閥に入って研究や勉強をするのをオススメするよ。あ、もしも何処の派閥が良いかわからないというのであれば、私の友人が長をしてる派閥を紹介してあげるよ?」

「いえ。派閥を紹介して頂かなくて大丈夫です。俺は決めました。俺は……俺は一宮先輩の派閥に入ります!」

「……へ?」


 俺は先輩に向かってそんな事を宣言していった。するとまぁ当然だけど先輩はキョトンとした表情を浮かべ始めていった。


「い、いや、ちょっと待ってよ? さっきも言ったけど、私は派閥を作ってはいないんだよ?」

「もちろんわかってます。でも俺は派閥に入るとしたら、俺は一宮先輩が長をしてる派閥に入りたいんです。だから三年生かつ多忙な生徒会長の一宮先輩にこんな事を言うのはあまりにも不躾だと思うんですけど……それでもどうか自分の派閥を今から作って貰えませんか?」

「……え? い、今から私の派閥を……?」


 これはあまりにも意味不明なお願いだし、多忙な先輩にこんなお願いをするのはあまりにも不躾だというのもわかっている。


 でも俺は先輩のためにそんなお願いをしたくなったんだ。


「え、えっと。よくわからないんだけど……どうして神崎君は私に派閥を作って欲しいのかな?」

「理由は二つあります。一つは先輩が派閥を作りたかったという思いが凄く伝わって来たからです。俺と魔法の話が沢山出来て嬉しかったって言ってる時点で、先輩は入学してから今日に至るまで、本当はずっとこんな話を沢山したかったんですよね?」

「うっ……そ、それはまぁ……そうだけど……」

「ですよね。でもその願いを叶える事が出来なくて悲しい気持ちになったまま……そのまま卒業してしまうなんて、それは流石に悲しすぎますよ。先輩が卒業するまで後一年は残っているんですから……だから後一年だけでも先輩には派閥を作って楽しく魔法の勉強や研究をしていって欲しいと思ったんです」

「神崎君……」


 俺は一つ目の理由を先輩にしっかりと伝えていった。先輩が本当はやりたかった事をやらないで卒業しちゃうのは勿体ないし、悲しい事だと思ったからだ。


 そして先輩自身のために派閥を作って貰いたいわけではなく、俺自身のためにも先輩には派閥を作って貰いたいんだ。その理由はもちろん……。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど……それで、もう一つの理由は何なのかな?」

「それはもちろん、俺が先輩から魔法について色々と学ばせて欲しいからですよ。先輩のあの氷雪魔法を一目見ただけで先輩が今までずっと鍛錬を頑張ってきたというのがとても伝わってきました。本当に綺麗な魔法で凄く感動したんです。俺が今まで見て来た中で先輩の魔法が一番だと本気で思いました!」

「わ、私の魔法が一番……?」

「はい、そうです。それに俺が聖凛高校に入学したのは就職活動をするためじゃないんです。俺も先輩と同じで魔法を沢山勉強したくてここに入ったんです。だから俺が今一宮先輩に話しかけてるのは……一宮家とのコネが欲しくて話しかけてる訳じゃないんです。俺は一宮先輩の……いや、クリス先輩と魔法の話がしたくて先輩と話をさせて貰ってるんです! そして俺は先輩の練度の高い綺麗な魔法をもっと沢山見て色々と学ばせて貰いたいんです! だから……だからどうか俺を先輩の派閥に入れてください!」


 俺は先輩の目を見つめながら全力で本心を伝えていった。すると先輩はビックリとしながらも、それからすぐに少しだけ笑みを溢しながらこう言ってきた。


「……そっか。そう言ってくれるのは……ふふ、嬉しいな。実はこの氷雪魔法はね……風と水と雷の複合魔法はね……亡くなったお母さんが得意な魔法だったんだよ」

「え……えっ!? あ、そ、そうだったんですね……そ、それはその……」

「大丈夫だよ。気を使わなくて。亡くなったのはだいぶ前だから心の整理もちゃんと既に出来てるしね。それで私がまだ幼少だった頃にお母さんに魔法について沢山教えて貰ってこの氷雪魔法を頑張って習得したんだ。だからその魔法を綺麗だって言ってくれるのは……ふふ、凄く嬉しいよ。ありがとね、神崎君」

「い、いえいえ。俺は本当に思った事を言ったまでですから。でも先輩も幼少の頃から魔法の勉強をずっと励んでいたんですね。だからあんなにも練度の高い綺麗な魔法を使えたんですね。というか先輩があんなにも強かったのなら……もしかして俺が先輩をナンパから守る必要って無かった感じですか?」

「え? あぁ、いや、そんな事はないよ。だって模擬戦とか以外で魔法を人に向けて打つのは違法行為だからね。だからあの時は神崎君が来てくれてとても助かったよ。ふふ。そういえばあの時の神崎君はとてもカッコ良かったね」

「えっ!? あ、そ、そうですか? そ、それはその……あ、ありがとうございます……」


 一宮先輩は嬉しそうに笑いながらそう返事を返してきてくれた。俺は唐突にカッコ良いと言われてちょっとだけ顔を赤くしてしまった。


「そしてそう言えば……私はあの時に助けて貰った恩をまだ神崎君に返してなかったよね。それならあの時の恩をしっかりと神崎君に返さなきゃだよね?」

「え……? あ、そ、それじゃあ……もしかして?」

「うん。神崎君は一宮家との繋がりを持ちたいという訳じゃなくて、子供の頃から魔法が大好きな私に色々と魔法を教わりたいっていう事なら……わかったよ。それじゃあ私……神崎君のために派閥を作るよ。そして私が卒業しちゃうたったの一年間しか時間は残ってないけど……それでも良かったら私と一緒に魔法の勉強をしていこうよ」

「え……ほ、本当です!?」

「うん。本当だよ。でも私は生徒会の仕事も沢山あるからね。だから神崎君の魔法の勉強や修行に毎回しっかりと付き合ったりする事はちょっと無理だと思うんだけど……それでも大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です! というか、そういう事なら俺も生徒会に入りますよ! 是非とも俺を生徒会に入れてください!」

「え? 生徒会にも入ってくれるの? まぁ生徒会の仕事は沢山あるから新入生が入ってくれるのはありがたいけど……でも聖凛高校の生徒会って正直ただの雑用係みたいな感じだよ? 内申点が上がる訳じゃないから生徒会に入るメリットなんてほぼないよ?」

「はい、メリットなんて全然要らないんで大丈夫です。むしろ生徒会に入れば先輩と一緒にいれる時間も増えますし、必然的に一緒に魔法の勉強とか沢山出来ると思いますからね! だからこれからも俺に先輩のお仕事を手伝わせてください!」

「そ、そっかそっか。まぁ、そう言ってくれるのなら……うん。それじゃあせっかくだし生徒会の方もよろしくお願いするよ」

「はい、それじゃあ俺は派閥の一員となりましたので、これからは一宮先輩の手足として全力で動きます! だから何でも沢山命令してください! 生徒会の仕事でも派閥の仕事でも何でも従いますから!」

「い、いやいや。神崎君は派閥の意味をはき違えてるよ。派閥に入るというのは部下になるとかそういう意味じゃないからね」


 俺が鼻息荒くしながら全力でそう言っていくと、一宮先輩はちょっとだけ困った表情になりながらそうツッコミを入れて来た。


 でもそれからすぐに一宮先輩は俺の事を見つめながら優しく笑みを浮かべてこう言ってきた。


「ふふ、まぁでも君のおかげで私の高校最後の年は面白くなりそうだよ。だからこれから一年間よろしく頼むよ、幹也君。私の事もこれからは一宮じゃなくてクリスって呼んでくれて良いからね」

「はい、わかりました! それじゃあ改めて……これからもよろしくお願いします! クリス先輩!」

「うん、こちらこそよろしくね。幹也君」


―― ぎゅっ!


 そう言って俺はクリス先輩と固い握手を交わしていった。こうしてクリス先輩は入学した当時の夢であった派閥を作る事を決意していき、俺はそのクリス先輩の派閥に入る事を決めていった。


 そして今後聖凛高校で語り継がれる伝説の数々を俺とクリス先輩が共にこの一年間で作り上げていく事になるのだが……俺達がそれを知るのはまだ少し先の事である。


【第一部:完】

ここまで読んで頂きありがとうございました。

これにて第一部完とさせていただきます。

これからも色々と小説を投稿していきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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