見た目が全てなんて信用ならない。
「あぁ…暇だなぁ。ご飯とか食べすぎて入らないわ。畜生なんでこんなぴっちりしたのはいてきちゃったんだろう。」
今すぐリミッター解除して目の前のローストチキンを食べたいのを我慢して視界から肉を外す。突っ立ってるのもなんだな、と思ったので壁際に設置してある椅子に腰掛ける。
文字通り壁の花…花は言い過ぎか、蔦になった気分で煌びやかなホールを見上げる。こんなに明るいと海月館の照明が薄暗く感じるな。目がチカチカしてきたので慌てて俯いて目をしぱしばさせる。これ以上目が悪くなるのはゴメンだ。
遠くを見るとオーガさんがとっても可愛い女の子とお話というか、話しかけられていた。
なんだあれ、羨ましいな。でも女の子がもうちょっと、十歳ぐらい若ければ完璧だな。多分十六か十五ぐらいだし。
あれ、離れた、何だったんだろう。オーガさんなんかホッとした顔してんな。何か困ることだったのだろうか。
「師匠!」
相変わらずよく通る声だ。勇者くんがオーガさんに付きまとっていた。オーガさん振り向きもしないな、返事ぐらいして上げたら良いのに…振り向いたけど顔が明らかに不機嫌だな、オーガさんの顔ここまで動かす勇者くんもなかなか珍しい人だなぁと思う。
オーガさんはめんどくさそうだが、聞き流しているようだが、うんうんと頷いてはいるので、聞いているのだろう。何だかんだ言って時折口を開いているので会話になっている。…多分。
うんうん、仲良くするのはいいことだと思うよ、オーガさんも結局は勇者くん蔑ろにしないものねぇ。
特にすることも話すことも無いので、ウェイターさんが持っていたコーヒーを貰って、この会場のどこかにいるだろう後輩達を探そうと視線を滑らせる。だが、この広い会場を視線だけで見渡すのは流石に困難だったようで、ちらりとは見えたが、ご飯食べてるなぁぐらいにしか見えない。
しまった、本当にやることが無いな、動くのもめんどくさいし、料理担当は何時までいたら退室していいんだっけか。
壁に頭をくっつけると、僅かながら振動が伝わってくる。上の方がダンスホールだからかな?あんな優雅な踊りでも人数が多いし、こんなに振動が伝わってくるのか。
ダンスを一曲踊るのがノルマとかじゃなくてよかった。私女性パート踊れないしそもそも相手がいないよ。
見ず知らずの人誘ってシャルウィーダァンス?とか聞けないわ。その人のコミュ力に辟易するよ。
でも、私が思っていた振動と、頭に感じてる振動はどうやら違う種類のものだったらしい。
流れているワルツは一、二、三四。なので振動もタン、タン、タンタン、みたいな振動が来るはずだ。よっぽどなリズム音痴がいなければ。それなのに、私の頭に来るのはダダダダダという単調なリズムだった。
嫌な予感しかしない。杞憂で終わればいいけど、この日は無礼講で兵士達も浮かれている。そうとなれば、私の考えていることは現実味を帯びてくる。
近くのバルコニーに出てさっきいたあたりの下を見ると…嫌な予感は的中してしまったようだ。
何人かの男達がお城の壁に穴を開けて何か盗み出そうとしている……素振りをしている。何か持っているつもりで運び出している、何かを持って壁を壊したつもりでいる。少ししか壁は壊れていない。それもセメントで埋めればどうにかなりそうな程のものだ。
それなのに男達は嬉嬉として近くにある細い路地に入り、嬉しそうに何かを抱えている…私には何も見えないが。
何かがおかしい、と思って目を凝らしてみると手前の方にドリルらしきものを持って、あぐらをかきながら男達を見ているガルバテイストさんの姿が。その横ではクレイモアさんが爆笑している。バルコニーにまで届く野太い声だ。
「性格悪いなぁ……」
ぽつりと呟いたつもりが聞こえていたようで後ろをくるりと振り返って嫌な笑みをこちらに寄越した。まあな、とでもいいそうな笑い方だった。
幻影魔法で何らかの幻を見せているのだろう。必死になりながら宝を運んでいるつもりが何も持っていない。それをふたりは酒の肴にでもしているのだろうか。
うわぁ、大人って嫌だなぁと思ってその様子を見ていると後ろから声がかかった。
「あの、ご一緒しても?」
そう言って声を掛けてきたのは老婦人で、こんな人が着物を着たらすごいんだろうなぁと思える人だ。だからか、なんだか身につけているドレスがアンバランスに思えた。
「どうぞどうぞ、あ、椅子もこちらにありますよー」
「まぁ、まるで執事のようね。」
私の旦那様みたい、とクスクスとお上品に笑って腰掛ける。物腰もゆったりとしていて見ているだけで気持ちがほっこりする。縁側にいてほしい、猫が一緒ならなおよしだ。
旦那様みたいって、夫のこと旦那様って呼ぶのかぁ、可愛い呼び方だな、よっぽど仲がいいんだろうな。
「あんまり城には来ないものだから、気疲れしちゃって。だめね、年をとると……」
「私もこんなきらびやかな場にはなかなか呼ばれないので、中にいるのはどうも場違いなきがしてしまうんです。」
あらあら、まだ若いのに……そういいながら老婦人の指が不思議な動きをする。ピアノを弾いているような、滑らかな動き。
なんでいきなり指遊びをし始めたのかはわからないけど、老婦人が話始めたので耳を傾けようと前を向いた。すると、老婦人の後ろ側―ガルバティストさんたちのいるところがなんだか忙しそうだ。
男達はとっくにどこかへ行ってしまったようだ、だが、今度はガルバディストさんとクレイモアさんが飛んだり跳ねたりぴょんぴょんと忙しそう。
そして、私は規則性に気づいてしまった。老婦人の指が当たった位置が何かをガルバディストさんたちのいるところに降らせている。
驚いて老婦人を見ても、ニコニコと柔和な笑み。手の動きは止まらない。
そんな様子に気づいて私の方を見ると、さらに優しげな、それこそ菩薩のようなスマイルを私にくれた。
「おいたはだめよ、ねぇ…?」
「あ、はは……ですね。」
後にこの老婦人があのユイニーナちゃんのところの家令の奥さんだと知り、さらには若かりし頃のクレイモアさんとガルバディストさんの教育係だったことを聞き……なんとなく納得してしまう未来は、ガルバディストさんたちが降参してこのバルコニーに登ってくるまでのことだ。




