立食を立証せよ
話を壊さない程度に、いろいろな補足が入りました。
…はは、これはまた、前に来た時よりもたくさんありますね。食材が。
「…では、私はこれで失礼。」
「あ、はい。有難うございました。」
お姉さんが行ってしまわれた…しまった、女の人が好みそうな食べ物を聞いておくんだった。
なんせ今回のパーティーには貴族のお嬢様方もたくさん来ている。…うん、結婚相手を探しに来てるんだよね。国にも結婚のセオリーというものがあって、特にガチムチ国は身分よりも強さを重視してるから、身分が低くても強い人と結婚して、より強い子孫を残していくのがガチムチ国ではセオリーである。
華奢国では身分を大事にしているらしく、絵に書いたような政略結婚が行われているらしい。でも今の王様は平民上がりだが、魔力が強いので王様になったらしいが…きっと華奢国もガチムチ国もそんなに変わらないのでは、と私は思っている。
この国では身分?力?えー好きな人と結婚しなよー相手がよっぽど悪くなければ幸せになればいーじゃーんという考え方らしい。うちの母親も貴族の娘だが、平民の父を連れてきた時にまぁ、好きあっているなら仕方ないね、と許してもらっているらしい。…この国は本当にふわっとしている。そのおかげで過ごしやすいけども。
でも、女の人も男の人も、強い者同士で結婚した例はあまりない。強い女の戦士は貴族の病弱なお坊ちゃまと結婚していたり、男の戦士は気弱なお嬢様と結婚しといることが多いように思える。
…たぶん、そんな風にしていい感じにバランスが取れてるんだ、きっと。
食材に目を走らせていたら、左右から大きい影が二つ出てきた。
「おう、ナナセ。待ち焦がれていたよ。店を任されたそうだが、両親は元気かい?」
出てきたのは料理長だった。この赤いスカーフを巻いた料理長は豪快なフライパンさばきで二十人分の食材を炒めることが出来てしまう豪腕の持ち主だ。
うちの両親とも仲が良かったみたいで…料理長になる前からの付き合いだったのだとか。この前は会えなかったが、三年ぐらい前に会ったきりだ。
「はい、お久しぶりです。また厨房をお借りしますね。…多分別荘でイチャコラしてるんじゃないですか?」
そして、料理長の二の腕の筋肉を再び見る事が出来て光栄です。
「やぁ、ナナセ。また来たのかい。」
「お久しぶりです。また来てしまいました、厨房をお借りしますね。」
この青いスカーフを巻いた料理長の双子の弟さんで、お菓子を専門に作る言うなればパティシエさんである。
…赤の料理長に比べてこの人は、私が苦手としている人である。でもこの頃ツンデレも思えば美味しいと思い直してきたのでなんの問題もなくなった。
赤の料理長が文系、青のパティシエが理系。そんなところだろうか。
あと四時間で大量の料理を作らなければならないので、コックさんは皆忙しそうでこちらにかまっている余裕はないみたいだ。
「じゃあこのお肉は折りたたむようにして楕円の銀のお皿に盛り付けてね。いい?今回は戦士だけではなくて、女性もたくさん来るから。なので、盛り付けには充分注意してやってよ。」
「じゃあこのサンドは?これぐらい高いと運んでいる途中に崩れてしまうね。」
「…そうだね、それは上からこのピンでさしてもらって。」
「あん?ピンなんて指したら食べにくいだろ。」
「…僕の話聞いてた?見た目も可愛いから、見るのは女性。食べるのには食いごたえがあって男共が食べるでしょう。」
青の料理長は最初に盛り付けられた肉の塊を見て顔を引き釣らせた後に、赤の料理長さんの首根っこを捕まえて説教している。
それで青の料理長さんは赤の料理長さんに任せっきり…には出来ない。なにせこの人は盛り付けになんの意味もないと思っている。なぜなら「腹に入ればみんな一緒だし。」と考える人だからである。大変だなぁ、青の料理長。
正直にいえば私もそういう考えを持つ部類なのだが、今回は貴婦人方も来ると聞く。
そういうわけで、今回は自分好みの料理ばかりを作っていてはいけないのである。コルセットで締め付けられているであろう貴婦人方の事考えて、喉に通りやすいものを、考えることはまだ沢山あるのだ。
そして、何よりも、今回は家族で来る招待客もいるのだとか。その中には小さな女児男児…もちろん居るであろう。いなければ私が許さない。私は、ロリショタの「わぁしゅごい!きれー!」を聞くために今頑張っているような物である。
下心満載の動力源だと言われようがきにしない。後輩たちも年下ではあるし勿論みんな可愛い。
が、私の事を八の字だの変態だのと快く罵ってくれる後輩よりは、小さい子たちと戯れたいという下心はあるし、なによりそう考えていないとこの男所帯では正気を保っていられない。
女だけの空気がどれほど気楽なのか思い知らされる。
さて、私もそろそろ自分の出品する料理を作らなければ…とは言ってもなぁー…特になにも特産品がないのが現状であるが、逆に言えば採れないものもほとんど無いのである。
少し他の所をうろちょろして、ガチムチ国は肉、華奢国は魚をベースに作っているようである。特に華奢国が作ったものはその国の特徴らしく魔法が使われているらしく、動いている観覧車に乗った焼き魚がうねうねと動いている。…言っては申し訳ないが、食べにくそうである。
なので、私は野菜を使うことにした。この国でよく取れる、別に高級でもなく普通のいろいろな野菜をみじん切りにしていく。キャベツ(ぽいの)やブロッコリー(ぽいの)をベースに、色付けにパプリカ(ぽいの)などを入れて、ゼラチン質のものにコンソメと塩、胡椒を入れたものを切った野菜と混ぜて方に流し込んで、冷やして固めて切ったらもう終わりである。
ここの冷蔵庫は魔法がかかっているらしく、長い時間冷やさなければならないものも、三十分で固まるという優れものであった。欲しい。
…私が作ったのは煮凝り、シャレオツに言えばテリーヌという代物である。これで私はもう帰れるはずだが…時間が余ってしまったので料理長の二人に挨拶してから帰ろうと思う。
「ナナセ、僕のところにも口出しに来たのかい。」
「い、いや、そういう訳じゃないです。本当です。」
「悪いけどブレンボと違って僕は繊細なんだ。馬鹿にしないでもらいたいね。」
「…はい、すみません。」
さりげなく赤の料理長さんの名前が出たが、青の料理長の名前はブレンドという。一回名前を呼んだら睨まれてしまったので青の料理長、赤の料理長というふうによんでいる。人から名前を呼ばれるのは好きではないらしい。
大口を叩くだけあって、青の料理長が作るスイーツは繊細の塊だ。この飴細工なんか、触れたら天辺から崩れていってしまいそうなぐらいだ。
不思議な模様に彩られたチョコレートも並べられていて、その様子はまるで小さな宇宙がお皿に散らばっているようで、見ているだけで満足してしまいそうなくらいに美しい。
「あ…じゃあ、すみませんでした、お先に失礼します。」
「いや…別に。その試作品。持っていきなよ。」
端によけられている試作品…と呼んでもいいのかというぐらいに綺麗に飾り付けられている。これは…とても美味しそうだが一体どこに持っていけというのか。
「もう、おわったんでしょ。僕のところの料理気になるなら、お仲間と一緒に食べてきなよ。」
うろちょろしてたし。
…なんだか青の料理長の目には努力家の印象を与えてしまったみたいだが、テリーヌが固まるあいだ周りのてめぇサボってんなよという目が怖くて座らないでうろちょろしていたのが勉強熱心に見えただけである。それなのにこんな風にお菓子をを貰えるなんて…!
折角の休憩なので、謙遜はしないで、お皿を手に持って部屋に向かおうとする。
「それ食べたら、全員に料理運び手伝ってもらうからね。」
「おまかせください!」
闘技場の建設はガチムチ国が主に協力してくれたというのもあって、その国の文化に触れようということでガチムチ国の料理を多くするそうだ。華奢国がやったのは建設の設計図を書いたぐらいで、大したことはしていないからと料理を多く出すことを辞退したようだ。……めんどくさいだけなのだろうとの見解もあるらしいが。
私は、青の料理長さんに自分のを食べるくらいならそれ相応の飲み物を持っていけとのことで、美味しく入れた紅茶も用意して、部屋に向かった。
持っていくとみんなが本読んだりふざけあっていたりしていたが、お菓子を見せると美味しい美味しいと完食してしまった…あれ?私ひとつしか食べてなくない?
う、うん、まぁいいんだ。食べれたしまたあっちに戻ってつまみ食いするし、立食パーティーにはどうせ参加するし。
「あー…もうこんな時間だ。よし、運びに行くよー」
「うぇーい」
大ホールに着くと両腕に三皿ずつ乗せて運ぶウェイターさんやコックさんが忙しなく動き回っていた。
少し遅れてしまっただろうか。急いで料理を運ぶことにする。
あらかたの料理を並び終えて、ローストビーフを運んでいる時、独りでに浮遊するお皿を見つけた。色とりどりのマカロンがタワー状に盛り付けられた可愛らしいお皿である。
よく見ると、それはカタカタカタカタカタと小刻みに震えている。誰かが魔法で運んでいるのだろうと近くのテーブルにローストビーフを置いて、振り返った瞬間それは起こった。
ボファッ
タワーの天辺にあったマカロンが塵となって消え失せたのである。私は、きょろきょろとあたりを見回し、そしてある一点を見つめると、マカロンの皿を取ってテーブルに置いてからそこに向かった。
「オーガさん…」
ゲンドウポーズをしているオーガさんは難しい顔をして黙り込んだ。
「……………」
「オーガさん?」
「……………。」
「マカロンは犠牲となったのだ…」
「マモレナカッタ…!」
「じゃねぇよちゃんと運べこのすっとこどっこい。」
頭を軽くはたいて椅子から立ち上がらせる。まったく、見ないと思ったらこんなところにいたのね!
「だって魔法使えるならいけるかなー?って思っちゃうじゃないですか。なのにナミラちゃんとハモォヌちゃんが邪魔してくるから…」
「わかったけど私はオーガさんの魔法にそういう繊細さ求めてないから…」
樽潰さないようにするのにも精一杯なのに、マカロンみたいに柔らかいものの上タワーなんて難しい形を崩さずに運べるという自信がどこにあったのか。
持ち上げた時は大丈夫だったんですけど形維持するの思ったよりも苦痛だったんですよ…
まだぶつぶつと言っているオーガさんに受け取り皿を持たせて持っていかせる。そんなん魔法が使えない私には知ったこっちゃないです。
そして、いよいよ立食パーティー、開始である。
きっと色んな思惑が渦巻く立食パーティーは誰かの担当。
私が書けないからね(* ・´ ∀・`*)
担当:冬鬼




