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文化部員は転生したらしい。  作者: 冬鬼
5:闘技場編
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闘技場に団子虫は害虫であるか?

「えぇー、ただいまよりぃー、国立ぅ闘技場建設ぅ記念ー、大ぃ闘技会をぉー、開催ぃしたいとぉーぉ思いぃます。」


マイクのせいでふざけているようにしか聞こえない司会者の開催宣言に、会場がどっと沸く。

ナミラさんやハモォヌちゃんはノリノリで「うおー!」だの「すげー!」だの「ゆでたまごー!」だの「さかなー!」だの叫んでいるが(叫び声が一部おかしいのは今に始まったことじゃないので今回はふれないでおく)、ミキレイさんはオルゴールを修理する手を止めて苦笑しているし、オーガさんに至っては耳を塞ぎながらものすごい形相で周りを睨んで…………あ、ナミラさんとハモォヌちゃんの背中に平手打ちしようとしてるね?ダメだよ暴力、暴力反対!


「じゃあ先輩を殴ればいいですか?あ、もちろんグーでですよ。」


「いやいやいや、…………心読まれた!?」


「口に出てたに決まってるでしょう?…………あ、そろそろみたいなんで行きますね。」


「はいはい、いってらっしゃい。頑張って賞金取ってきてね!!」


「まだ開会式ですからね?…………まあ、どうなるか分かりませんけどやるだけやってみますよ。」


「頼んだよー。」


私がそう言うと、オーガさんは他三人を連れて控え室へと移動していった。


前回、隣国の王都に行った時、ナミラさん、ハモォヌちゃんそしてミキレイさんの三人、チームダンゴムシはトーナメント戦を勝ち抜いて見事優勝してしまったのだが、今回のこれはそれとはまったく関係ない。

そもそも町と国じゃあ規模が違いすぎるというものだ。なんでも、今回の闘技会は、この国に初めてちゃんとした闘技場、コロシアムができたことを祝うために国をあげて開催する一大イベントらしい。

そして、なんでそんなちゃんとした大会に私達文化部員が出場することになったかというと、まあ、勇者と隣国の王様の強い推しがあったからなんだけど…………。


「えぇー、ではぁー、今回ぃー、闘技場建設にぃ当たりましてぇー、大変ーご協力ぅー頂いたぁー、隣国のぉー、王であるぅー、――様にぃー、ご挨拶をぉ――――」


ガチムチ国の王様、この国の王様、華奢国の王様、各お偉いさんの長ったらしい挨拶が一通り終わると、我が国の王様が優勝カップをかがげてずいっと前に出てきた。後ろには参加者の面々がずらっと控えている。

私は意気揚々と、持参した双眼鏡(ミキレイさんの自室から誰かが掘り出してきてそのまま全員で共用している)を覗いた。

え、あれミキレイさん達じゃない?なんであんな所に…………あ、オーガさんすごい嫌そうな顔してる。なんで…………勇者に背中を押されてるからかな、でも、前に…………あ、あれ杖じゃね?なんかやらされそうになってるのかな、まあ、ここからじゃどうすることもできないからほっとこうか。

オーガさんから目を離して、改めて王様の方を見ると、丁度今から開会宣言をするというところだった。


「只今より、国立闘技場建設記念闘技会を開始する!優勝者には、この優勝杯と賞金が記念として与えられる!!みな正々堂々、全力を尽くすように!!」


うおーー!!と、会場がこれでもかというほど賑やかになる。うちの国の人達もこんなに盛り上がれるんだね。穏やかな人が多いと思ってたからびっくり。…………他国から来たっぽい人もちらほらいるから、主にそっちが盛り上がってるのかな?

双眼鏡から目を離して、街道の出店で買ったクッキーを口に放り込むのと同時に、花火が大量に打ち上がってさらにびっくりした。どうやらオーガさんが無理やりやらされたのはこれらしい。死んだ魚のような目で花火を見上げるオーガさんはそれはもう虚しげで心が痛んだ。そして私はクッキーが変なところに入って思いっきりむせた。花火が上がってるのにむせて見れないなんてなんてこと…………。


ちなみに、今回の闘技会は七日間にわたって行われるトーナメント方式。ルールは、一、人が死なないようにすること。二、審判の指示に従うこと。三、正々堂々戦うこと。の三つさえ守れば、後は何でもありらしい。ちなみに、この中のどれか一つでも破ったらその時点で失格。追い出されちゃうね。

四人一チームのチーム戦だけど、全員で戦ったり一人で戦ったり、二人~などの人数が指定されたりもするらしいから、仲間の体力や相手との相性を考えるのもまた一興ってところかな。

参加チームは全部で27。今日は開会式と立食パーティーのみで試合は明日からなんだけど、みんなのチーム、『チームダンゴムシΧ(かい)』はなんだかよくわからないうちにシードになってたから明日もお休み。ゆっくり王都探索したり、敵の情報を集めようって感じかな。なんでも、この馬鹿でかい闘技場には色々な地形を模した会場があるらしいから、どんな地形があるか知っておいた方が対策も立てやすいかも。まあ、どちらにせよそこはオーガさんかミキレイさんに任せて、私は立食パーティーに出す料理を考えないとなんだけど。

オーガさん達が闘技会に誘われた反面、私は立食パーティーに料理を出すことになった。今回の立食パーティーは各国の名産を集めて土地のアピールをするのも兼ねてるから、この国からも誰かが出なくちゃいけなくて、でも、前もいったようにこの国にはこれと言った名産品がないから、一定以上の大きさの町全てから一品ずつ提出するようお触れがあったのだ。

私の町では、「ナナセちゃん王都に行くならついでで出してきちゃっていいわよー。」とのことだったのですぐに私が料理を出すことに決まった。

今夜の献立を考えているうちに、どうやら開会式が終わったらしい。興奮さめやらぬ様子で席を立つ人々に混じって会場を出て、みんなを迎えに行く。


「おかえりー、みんなどうだった?」


「どうって言われても…………。ねぇ、みんな。」


「私達立ってただけだしね。」


「校長先生の話ばりに長ったらしいご挨拶を延々と聞かされて疲れました。」


「率直だなー。」


「今日はどこに泊まるんすか?」


「参加者用の部屋があるらしいよ。」


「この闘技場に?豪華ですねー。」


「どうせ金がありあまってんだろ!」


「こらこら、そんなこと言わないの。」


「ここじゃなくて、別にホテル貸し切ってるんじゃないの?。なに、君ら話聞いてなかったの?」


「あー、そんなこと言ってたかもなー。」


「私はほら、寝てたから…………しかたないね!で、鍵はこれですね。部屋番号は………………」


そうして、なんやかんやあって私達無事ホテルの部屋にたどり着いた。入ると中は案外広く、ベランダや備え付けの洗面所もある、これは王都のホテルとしては標準的な設備だ。行きがけに預けた荷物もちゃんと届いている。

いくつかの荷物の中の一つの箱がガタガタと動いていたので、開けてみたら中からワサビが出てきた。


「私を置いていくだなんていい度胸ね。」


「え?なんで来たの?えさ…………食事は置いていったはずだよね?」


「こんな面白そうなお祭りに行けずお留守番なんてまっぴらごめんよ。…………文句があるならどうぞ?炎でお返ししてあげるわ!!」


「あ、もう、めんどくさいや。ご自由にどうぞワサビ様。」


違う階には大浴場やら露天風呂やらもあるらしいから後で見に行ってみようか。

立食パーティーまではまだ時間があるから、自由時間になり、みんな各自好きなことをやり始めた。

自由時間と聞くやいなや、ハモォヌちゃんは頭にワサビを乗せたままふらふらっとどこかへ放浪の旅に出てしまった。ミキレイさんは中断されていたオルゴールの修理の続きを始めて黙々と作業しているし、オーガさんは持参した本を読みふけっているので部屋はとても静かだ。やることもないので、私はナミラさんに肩をマッサージしてもらうことにした。


「いたっ、い、いやいや、え、いた、痛い痛い痛い痛い!!」


「ちょっとぐらい我慢してくださいよー。」


「ちょっとどころの痛みじゃないから言ってるんだけど!?」


それから三十分くらいたったころだろうか?突然ドアがノックされ、綺麗な茶髪ロングのお姉さんが調理場を使える番が回ってきたと伝えに来たので、私は必要なものを持って出かけることにする。


「じゃあ、行ってくるねー。」


「さよならー。もう帰ってこないでください。」


「失せろ八の字前髪ー。」


「後ろには気をつけてくださいね。」


「酷い!!……もう。行ってきます!!」


そう言って勢い良く出ていくと、茶髪ロングのお姉さんが苦笑しながら待っていてくれた。


「大変そうですね?……それでは、御案内いたします。」


「いや、もう、慣れました。えっと、お願いしますー。」


真っ赤な絨毯はふかふかで、なんだか落ち着かない。壁に飾られた絵画の価値について真剣に考えながら、私は調理場への移動を黙々と遂行するのであった。


担当:天灯

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