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文化部員は転生したらしい。  作者: 冬鬼
4:日常が万丈。
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海水と梅雨の雨の共通点について。



梅雨は…というか雨があまり、私が好きではない。


工場にある小さな窓からしとしとと降る雨を眺め、そしてため息をつく。別に嫌いってわけじゃないのだ、好きじゃないだけで。

それはつまり嫌いということではないか、と自問自答しながら、手元にある、好きに加工していいという任された原石を磨きあげる。


やけに青いその石は、中心を見つめる程深い青に染まっていくように見える。しかし、純度の高い石だ。こんな原石どこにでもあるわけ無いだろうにとつい窃盗の線を疑ってしまう。まぁ、あの先輩じゃあ無理だろう。多分やらないしやったとしても一瞬で捕まりそうだ。


「ミキレイさん、調子はどうだい?」


「どうもお疲れ様です。海月館の方はいいんですか?」


「いやぁ、ここまで雨が続くと流石に客足が遠のくよねぇ。来てくれる人は居るけどさ、まず来ないからオーガさんに任せてるよ。」


「この雨ですもんね。」


話をまとめると、どうやらサボりにきた先輩は私の手元にある原石をみて、随分磨きあげたねぇと感嘆の声をあげた。


「でも渡した時と形が変わってないよね。加工してないのに磨いちゃっていいの?」


「…うーん、この石は元々この形で合っているような気がするんですよ。」


「ふぅん…そうなのかぁ。」


握りやすい楕円形の原石、というよりは磨きすぎてもう宝石にしか見えないほどの輝きを取り戻していた。…おかしい、こんなに磨いていただろうか。光り方が少し、強いにしては、鈍過ぎるような気がした。


先輩は私が訝しげに石を見つめているのに気付いて、先輩も青い石を覗き込む。


「うわ…っ」


「どうしました先輩、好みの幼女でも見つけました?」


突然仰け反った先輩の髪は今日も八の字だ。梅雨だからまとまらないのだろう。私も人の事は言えないけど。


「うぅん…そうだったらいいんだけどね。いや、この頃目が良くなりすぎちゃったみたいで、まだ慣れなくて立ちくらみがするんだ。」


「先輩そう言えば目が良くなるための薬草とか方法とか調べてましたね。」


「これ以上悪くなるとレンズが高くなるし分厚くなるからねぇ。」


お金はあんまり使いたくないからね、仕方ないね、と先輩は海月館の方に戻っていった。


青い石は強い光を弱めて、鈍い光が灯るだけだ。…灯る?間違いない、今誰かが光源調節をした。


「やぁ、ミキレイ。初めまして。」


「……ふ、不審者。」


「いやぁ、いや、やぁ!酷いね、不審者扱い。ううん、でも、突然現れた、ワタクシ。うん、うん。不審者、とされてもおかしくない。」


なんだこの変な喋り方は。もっとはっきりとものを言えないものか。黒いボロボロの布に包まれたそれは、顔の部分が真っ暗で何もない。ただ布から骨が出ているだけの姿である。

言うなれば、鎌こそ持っていないものの、姿はまんま死神だった。


「会いたかったよ!君のことは、うん、随分長く見てきた。そうだな、多分、二歳ぐらいの頃から!あの頃から君は鳥に追いかけ回されたり木のスプーンが折れたり、あぁ、実に愉快に不幸だった!」


「……そうですか。」


関わりたくない、と顔を歪める。話の通じない奴は苦手である。なんで人の話を聞こうとしないのか。

鳥に追いかけ回されたのは、実は、すこしトラウマである。後から親に聞くと、髪の毛を巣の材料にしたがっていたみたいだ。いい迷惑である。


「だけど、君が居なくなって、しまって、ワタクシはたいそう悲しんだ!うぅーん、ワタクシは探したよ、君みたいに観ているだけで愉快になれるのは早々居ない!だから、ワタクシは君がどんな不幸に見舞われるか、見る権利がある!」


「…お前にはそんな権利ないと思いますけど。」


「ふふ、ふふ!嫌そうな顔。でもワタクシにはもうちょっと感謝してもいいはず!君、何故なら一回死にかけた!樽の中につめられた、海賊が逃げるときに君の入った樽を捨てようとした!そこをワタクシちょっといじって…商船に移し替えた!だから君は生きながらえた。どうだ、感謝すべきことだろう!」


…正直、ほぼ気を失っていたからどうなっていたかわからない。海水を大量に飲んだことは覚えているが、自分がはっきりと覚えているのは、意識が浮上して顔を上げると目つきの悪い先輩が目をかっぴらいてて、その後に叩き付けられた事だけだ。


正直、幸運過ぎたと思う。無条件で家においてくれる、ご飯も寝床もくれる。それは普通の家ではありえないことだった。


「そこは、有り難うございます。」


「素直!いいね、不幸で素直で真面目に不憫!いい響きだ、やっぱり君は楽しい奴だ。死ぬには惜しい、君の不幸を待っている人が沢山いるから!そう、ワタクシたち死神がね!」


「………… 」


不幸を待っている人とは、やはりこの人の仲間たちの事なのだろうか。

こっちは困っているというのに、死神は他人の不幸が大好きで蜜の味らしい。


手元にある原石を、もっと目の細かい布で拭こうと棚にある布を手に取った。

それを見た死神は嬉しそうに体を揺らす。


「いやぁ、家を掃除してもらえると気持ちのいいものだなぁ。」


この石は死神の寝床であるらしい。つまりは元凶はこれだということか?


「捨てても大丈夫なんですか?」


「うんいいよ!でもすぐ戻ってくる、少しの不幸と一緒にね!」


君の仲間にも挨拶したいなぁとここに居着くつもり満々の死神はまた体を不規則に揺らす。


また窓の雨を見てため息を深く吐き出す。そうだ、そういえば。

海水といい、梅雨といい、水は自分にとって不幸を運んでくる物質らしい。たまに大きな幸運も運んでくるが、少しはどこかでせき止められてくれないものか。



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