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文化部員は転生したらしい。  作者: 冬鬼
4:日常が万丈。
32/40

【番外編】過酷な過去を克服すべし

やぁ(」・ω・)

うちの可愛い後輩が番外編書いてくれましたよ。そろそろ文字数を多くしなければなと思っている今日この頃。でもまぁ私はお手軽感覚を目指しているので(震え声)

私は自室にて、ほの暗い灯りを頼りに、少し高くて足がぶらつく椅子に座って机に向かっていた。

理由は明白、日記を書くためだ。

三日坊主の私だけど、日記だけはなんだかやめちゃいけないと思っている。


そもそも、前世の私に日記を書く習慣は無かった。

飽きっぽい質で、色々な事が頭の中で完結してしまう頭でっかちな人間に日記は向いていなかったのだと思う。何度か書こうとしたことはあるが、長く続いた事は一度もない。

日記を書き始めたのは今世からで、きっかけは単純。友人がプレゼントにと贈ってくれたのだ。


その日から、サボる事はあってもほとんど毎日。私は日記を書き続けてきた。

今読んでいるのは、一冊目の日記。『あの子』に貰った、一番最初の日記帳だ。


ぱらぱらとページをめくり、目当てのページを見付けては付箋替わりの細長い紙を挟んでいく。

この行動に、別に深い理由はない。自分についての疑問を追求したいという非常にシンプルなに欲求よるもので、この日記に別段深刻な過去があるわけでもない。

私には細々とした不可解な事が多すぎると思うのだ。

こちらを見る蛇の不思議な視線や、モノクル、魔力、どこにいても聞こえる気味の悪い声。

単なる自意識過剰かもしれないけれど、まあ、明らかにしておいて損はないからと、こうやって手がかりになりそうな記録を拾っている。

物覚えはいい方だから、日記を見れば細かい事までしっかりと思い出せるしね。


そんなこんなで日記をざっくり流し読みしていると、一ページだけ変なページがある事に気付く。

と、同時に後ろでドアが開いた音がして、私はぱたんと日記を閉じて顔を上げた。


「あら、寝てなかったのね。」


ドアを開けて入ってきたのは最近産まれたワサビという名前のドラゴンで、私は少しだけほっとする。

こういうのをみんなに見られるのは個人的にあまり嬉しくない。

私の机の上に着地したワサビに、私は当り障りのない問をかける。


「どうやって入って来たんです?」


「ご覧の通り、ドアを開けて入って来たわよ?」


「見かけによらず器用なんですね。」


「そう言う貴方は見てくれに違わず失礼な人間ね。」


「気に触りましたか?」


「いいえ、別に。そんな事より、貴方、蛇やトカゲは好きなのに私には寄らないわよね。あんなに似ているのに。」


その返しに、私は数秒ほど戸惑う。

だって、彼女は明らかに意図的に私を避けていたのだ。私だって鬼じゃない。嫌がられるような事はしたく無いから、彼女には接触しないよう気をつけていただけなのに。


「あまり、私の事好きじゃ無さそうなので。」


何を求められているのかが分からず、私は静かに、そして正直に答えた。

しばらくして、再び首をもたげた沈黙を振り払う様にワサビが口を開く。


「そんなことないわ。ただ、『面倒事』に巻き込まれるのが嫌なだけ。」


『面倒事』。どこかで聞いたことのある響きだと思った。それも、かなり前に――――。

突然、私の頭の中で点と点がつながり始める。

目の前にいるドラゴンと『面倒事』。日記にあったおかしなページと、その時の記憶。

もしかしたら、何かわかるかもしれないと思った。


「ワサビさん。私は、昔ドラゴンに助けられた事があります。そのドラゴンも、あなたと同じ様に『面倒事』と口にしていました。その『面倒事』は、貴方の言う『面倒事』と関係ありますか。」


「…………それは、貴方の話を聞かなきゃ分からないわ。」


渋い顔をしたワサビに、意を決して切り出す。


「なら…………昔の話をしなきゃならないですね。」


私は、さっき見つけたおかしなページをもう一度開く。そこには、私が、私史上最も最悪な体験をした時の事が走り書きで記された紙が乱雑に張り付けられている。

私以外はおよそ読める物ではないだろうが、内容からすればむしろそっちの方が好都合だ。


私は、そのページを静かに読み上げ始めた。






私は、幼い頃からこの国の王都の郊外に住む貴族の家に預けれてた。両親は隣の国の王都で働いていて、とてつもなく長い間会っていないので顔もほとんど覚えていない。


その家には、私の他に二人の子供がいた。

一人はその家の長男で、代を重ねて半ば成金の様になった貴族もどきの両親に『次期当主』としてひたすら甘やかされて育ったただの馬鹿息子。


そしてもう一人。その家の『前当主』であった、馬鹿息子の祖父に当たる人に拾われたらしい、白い髪と瞳をもった女の子。

ちなみに、私を預かる事を了承したのも前当主のおじいさんだ。私に館の書庫の鍵をくれたのも、私に杖の作り方を教えてくれたのもみんなそのおじいさんがしてくれた事で、私は、あの人にだけはきっと頭が上がらない。

前当主の死後は、彼女は白い髪、私は強い魔力がそれぞれ不気味だと一家に遠巻きにされ、かといって捨てるわけにもいかないと煙たがられていた。

話は変わるが、その家における前当主の評価は最悪で、彼が死んだ後になって「変人」だのなんだのと散々喚いていた。下手に魔法を使って追い出されても困るから何もしなかったけれど、できればあの家とは二度と関わりたくない。


話を戻そう。例の白い髪の彼女は、今世の私における初めての友達というやつだ。

いつもぼーっとしていてつかみどころがなくて、とにかく良く分からない子だったけれど彼女以外にまともに話せる人が居ないようだったので私は彼女を話し相手にした。彼女も彼女で私しか話せる人が居なかったようで、思い返せばあれはもちつもたれつな、利害が一致した関係だった。

日記をくれた『あの子』とは、彼女の事だ。彼女は趣味だけは良い子だったから、贈り物はいつでも私の好みに合っていて、今もまだ使っている物もあるくらいだ。贈り物の費用をどこから捻出してきたのかは何度聞いても教えてくれなかったが、大方物置の物をこっそり売って稼いだんだろう。


そして、ここからが本題だ。ある日、私と彼女は火山の火口を見にいくとか言う、当時流行っていた金持ちの道楽に突き合わされることになった。

どうせ置いて行かれるのだと思っていたら、世間体があるからお前達も来いと言うのだ。

向こうは、私達がそこで断って自主的に家に残ってくれたらと思っていたようだが、たまには外に出るのも悪くないと私も彼女もついていく事にした。

火山の麓の高そうな宿屋で一泊、中腹の小奇麗な山小屋で一泊して、三日目に漸く火口まで辿りついた。

馬鹿息子と彼女が火口にもっと近くまで寄ってみたいと言うので、私も含めた子供三人は火口のすぐそばまで寄って下を覗いたりしていた。


それはびっくりするほど突然の事だったと思う。

機嫌よさそうに周りを見回していた馬鹿息子が、火口を覗く私と彼女を何の脈略もなくいきなり突き飛ばしたのだ。私と彼女は当然の如く火口に落ちた。

私は、死を覚悟して目をつむったけれど、そうはならなかった。火口の横穴に住んでいたらしいドラゴンが、私と彼女を受け止めて横穴に運んでくれたからだ。その時の事はとても良く覚えている。


気絶する彼女を横目で見ながらどうして私達を助けたのか尋ねたら、ドラゴンは「『面倒事』になるのを避けるためだ。」と言って、私だけを上に運ぼうとした。私が「彼女を助けて欲しい。」と伝えると、ドラゴンは「それは出来ない。」と言った。


「私と彼女の何が違うんですか?」


「私は王に仕えるもの。お前の様な者でなくても、人間ならまだいい。ただ、これを上へ返すのだけは、私が裁かれかねないから行うわけにいかない。」


「人間じゃないのなら、彼女は一体何なんですか。」


「白い子供は環境によって天使にも悪魔にも人間にも、何にでもなりうる。白いキャンバスの様なものだ。」


「…………上がだめなら、此処で育てるのは?その話が本当なら、彼女は此処でも生きていける可能性があります。そして、貴方が、貴方の仕える王に役立つ様に育てればいいでしょう?多分貴方は優しい竜です。だから、彼女にとって此処で暮らすのはもしかしたら上に行くよりもずっと幸せかもしれない。」


「それは貴方の望みか?」


「望みだと言って叶えてもらえるのなら、そうです。」


「…………分かった。貴方の思うようにしよう。そのかわり、此処で竜に会った事は誰にも話せないよう、魔法をかけさせてもらう。もしかしたらと言うことがあるかも知れないからな。」


「分かりました。」


そうして、私はドラゴンの魔法で館まで転送された。一家が帰って来て私を見た時の怯えた顔はとても面白かったけれど、その後彼らは更に私を避けるようになった。

馬鹿息子が私達を突き落としたのは親が色々と吹き込んだかららしい。珍しく馬鹿息子も叱られていた。


今私がこれを話す事ができるのは、恐らくドラゴンの魔法に綻びができたせいだろう。それがモノクルの守りせいか、はたまたそのドラゴンが死んでしまったからかは分からないけれど。


「ひとつ、引っかかります。あのドラゴンは『お前の様な者でなくても、人間ならまだいい。』と言いました。何だか、『私が人間ではない』ような言い方ですよね。それに、『面倒事』と言うのが単に『彼女』を助けた事によるものだったなら最初から二人まとめて放っておけば良かったんです。なのに、何故あのドラゴンは私達を助けたんでしょうか。」


ワサビはしっかりとこちらを見て話の続きを待っている。飽くまで直接問われるまで答えないつもりらしい。


すうっと息を吸って、私は言葉を発する。


「私は、人間ですか?」


「まあ、ほとんど人間だと言って差し支えないと思うわよ。」


そのゆるい答えに、何だか脱力してしまう。


「ほとんどって?何ですかそれまた微妙な…………。」


「ほとんどはほとんどよ。これはこちら側としたら見ればすぐ分かることなの。貴方には、ほんの少しだけど魔王の血が入ってる。」


「………………は?」


…………意味が分からなかった。


「だから!魔王よ魔王。ま、お、う!!」


「魔王って、…………魔王ですよね?」


「当たり前じゃない。それに、貴方それ先祖帰りよ。そのモノクルとやらがなければ、今頃どうなっていたことか………………。歳が十に満たない内に魔力を爆発させていたかもしれないわ。」


「はあ…………全く実感がわかないんですが。」


「とにかく!あんたは魔王の末裔!!知ったからには自覚を持った行動を頼むわよ。」


「い、いえっさー?」


その後ワサビは一時間程私にクドクド色々説明してきた。

私の聞いた、変なおっさんの不気味な声が、魔王の末裔の中で魔力の高い者に呼びかける元魔王派の幹部の声だと言うこととか、蛇は魔王が人間界への眷属としてよく使っていたから、ドラゴンと同じ様に魔王の血に敏感なのだとか、モノクルが魔力の放出を抑制していることだとか(放出されなかった魔力は体内に蓄積されるから、その場しのぎにしかならないらしいけど)とにかく色々。


「…………わかった?」


「まあ、大体は把握しました。」


一通り話し終わったようで、ワサビは盛大にため息をつく。

私はそんなワサビに確認のため質問をした。


「要は平和主義で行けばいいと?」


「ええ。私の母は魔王派のドラゴンだったけど、私はどちらかと言うと人間派だから、そうしてくれると助かるわね。」


「なるほど、分かりました。」


そう頷いて、私はワサビが退室できるようドアを開けた。


「今日は色々と教えていただいてありがとうございました。またわからないことが有ったら質問しても?」


「ええ、もちろんよ。貴方が望むなら、ドラゴンはそれを叶える義務がある。」


「人間派なのに?」


「そういう決まりなのよ。魔王派のドラゴンが全てにおいて魔王の言う通りにしないとだめなのはさっき話したけれど、知識に関してだけは魔王派、人間派関係なく魔王へ協力しなきゃいけないの。」


「大変ですね。」


「もっと労ってくれてもいいのよ?…………もしそんなことが起きたら明日は槍が降るでしょうけど。」


「失礼な。」


「お互い様よ。」


そう言って、私達は二人(?)で静かに笑った。

夜は着々と深くなってきている。私もそろそろ眠かった。


「おやすみなさい。ワサビさん。」


「ええ、おやすみ。」


そう言って、ワサビは部屋を出て行った。

後に残された私は一人、ぼんやりと考え事を………………したいと思ったけれど、眠かったので諦めて眠った。


次の日、私はいつも通り昼ごろに起きてぼんやりしていた。

紅茶を飲みながら昨夜の事を思い出す。私がぼんやりしているのは別に珍しい事じゃ無いので、誰にも何も言われなかった。

しばらく考えて、私は覚悟を決めた。


「先輩。庭で物を燃やしても良いですか?良いですよね。ありがとうございます。」


「いやいやいや!オーガさん!?私まだ何も答えてないよ!!ってか、何を燃やすつもりなの?もしかして何かやましいものでも………………」


「洗濯物、燃えたらすみません。」


「ああっ!!ちょっとオーガさん!………………行ってしまった。洗濯物、無事だと良いんだけどなぁ。」



庭に出た私は、適当な枯葉とか小枝を庭中集めて燃やし始めた。そして、燃やしたかったそれを火にくべる。


「…………日記帳かい?」


声を掛けてきたのは、先日家に住み着いた小人のおじいさんだった。

家のすぐそばで物を燃やされているのにも関わらず、その顔は穏やかだった。


「ええ。……隣ですみません。」


「いいってことよ。そうかぁ、あんたもまだ若いもんなぁ。消したい過去の一つや二つ有るもんかねぇ。…………それにしても多いな。」


「今書いてるもの以外は全部燃やそうと思って。次からは、書き上げてすぐ燃やすようにするつもりです。………………書いて燃やすって言うのは、心なんかの解放を意味するんですよ。」


私がそう答えると、おじいさんはにかっと笑った。


「じゃあ、あんたには囚われるような過去があったと。…………もう殆ど覚えちゃいないが、俺も昔は、それはそれは色んな事で悩んだなぁ。今思うと下らない事ばっかだっか気がするけど、その時の自分にとってはどれもこれも一大事だった。」


「今は?」


「今は気楽なもんよ。何があっても、ちょっとしたらすぐ忘れちまうからね。」


そうケラケラと笑うおじいさんを見ていると、何だかもう魔王とか世界とかがどうでも良くなってくる。

私は今が好きだから、それでいいかなって。

自然と口角が上がったのが自分でもわかった。


「………………しあわせだなぁ。」


立ち上る煙を小人の老人と見上げながら、私は本当に小さく呟く。

らしくなくって自分でも笑ってしまいそうだけど、まあ、たまには本音も言っておこうって事で。


きっとおじいさんには聞こえていたと思うけど、向こうが聞こえていないふりをしてくれたから、私も聞かれていないと思っているふりをした。


やがて、日記が最後の1ミリまで綺麗さっぱり燃え尽きる。


「燃えたな……。がんばれよ、若者。」


おじいさんの言葉に頭を下げ、私は海月館へと歩き出す。煙は未練がましく燃え尽きた日記の欠片から立ち上っていたけれど、それもすぐに途絶えた。



えー、前々から感想の所に何かいるなーと思っていた方もいらっしゃると思いますが、ここに来てやっと正規のご挨拶となります。

みなさん、はじめましての方ははじめまして!番外編担当の天灯と申します。


先日投稿しました『過酷な過去を克服すべし』で、ついに番外編、「オーガちゃん日記シリーズ」完走しました!!

私が連載的な物の中で完結させたのはこれで二シリーズ目だったりするのですが、前完結したのよりもこっちのがダントツで長いです。

…………文化部員自体はまだまだ終わりませんよ?


最後の最後でスランプからの文体変化。最終回になってもう文化部員のテンションじゃなくなってましたが、シリアス耐性のないみなさん息してますか?

個人的にオーガちゃんの冷めきった感じが気に入っているので、それを文章に含ませるのがすごい楽しかったです。時々ガードが緩むのがポイント。


えっと、オーガちゃんは終わったので次回からは本編と同じ様なテンションの、みんなでわちゃわちゃするゆるーいやつとかを書いていこうと思います。できる限り先輩視点で。無理だったらオーガちゃん視点で書いちゃうかもしれませんが。


構想が浮かんでるのは、童話のパロディだったり…………考えるだけでわけわからんカオスになりそうですね。

オーガちゃん以外のキャラをクローズアップした短編(人のキャラだから動かしにくいので、多分やるなら一話ずつになる)とかも挑戦してみたいところです。考えるだけでわくわくしてきますね!!


ともかく、これからも文化部員番外編担当として精力的に活動させて頂く所存ですので、文化部員、先輩ともども、今後ともよろしくお願いいたします!!


以上、天灯からのご挨拶でした!!

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