春の花が満開の頃。
「ナナセちゃあん、ちょっとお酒足りないわよぉ?」
「え…」
え、酒樽十二個ですよ?大体一つに三十リットルぐらい入ってるんですよ?どんだけ飲むつもりなんだろうか、この人達は…でも、まぁ、足りないというのならあれだ、奥にあるの出すしかないな、それで今日ガルバディストさんから、食べ物出したりカクテル作ったりしてくれるからってお給料貰えるし…うん、なんとかなるな。
「わかりましたぁ、じゃあ、奥から持ってきますねー」
「頼むわよぉ。」
そういえば、クレイモアさんはいわゆるオカマバーのママさんだけど、今でもサドガルマゾと繋がりはあるみたいだ。たまにガルバディストさんについていった時の話を聞くし、まだ冒険者を続けているのだろうか。
酒樽の中身は少し減っているけど、二つももっていけば大丈夫だろう。
例の如く二輪車に酒樽を積んで、クレイモアさんと並んで引いていく。他のみんなは先にいって、酒樽を持って行ってくれているはずだから、もう騒ぎ始めているだろうか。
こうして考えている間にもクレイモアさんはマシンガントークを続けてくれている。私は、あまり話上手ではないのでこうして喋り続けてくれる人はありがたい。その男らしい顔を柔和にしながら、引き締まった紅がさされた唇から、次から次へと話題が飛び出してくるのだ。
私が見つめているのがわかったのか、クレイモアさんはどうしたの、と優しい目をして訪ねてくれる。ああ、だめですクレイモアさん。そんな瞳で見つめられたら恋を
「そうそう!それでねナナセちゃん、そこのパン屋に通ってるいい男がいてねぇ、フリーだったらアタックしちゃおうかしら!」
「あー…残念ですけどその人パン屋の娘さんの彼氏さんですよ?」
「あぁん!?そうなの?残念だわぁ…」
しません、絶対にしません。というか出来ません。
化粧してない顔は男らしくて素敵だろうと何度思ったことか。お願いしても見せてくれないんだよなぁ…残念。
そうしてまたクレイモアさんといい男談義をしながらお花見会場についた。途中まで鬱蒼とした森の中を進んでいたのに、突然道が開けて、色とりどりの花に囲まれた広場が現れたのだ。
みんなもうどんちゃん騒ぎをしているようだ。だがゴミは出ていない。前にガルバディストさんが帰ってきた時は床に肉の骨とか散らかっていたのに。ここには一切それがない。ここは、ザドガルマゾ人達にとって特別な場所なのかもしれない。
「先輩先輩、紅茶下さい。」
「あ、オーガさん。いいの?紅茶で…折角お酒飲めるのに。」
「少し心配なんですよ。酔っ払ったらどうするんですか。」
オーガさんもオーガさんなりに、考えていたらしい。確かにオーガさんの力は計り知れないし、オーガさん自身も大きな力を使ったことが無いのだろう。…確かになぁ、ここでぶらっくほぉる☆とか言ってすべてを飲み込む闇の禁忌魔法とか使っちゃいそうだなぁ…
「よし、じゃあ紅茶にリキュール少し入れるだけにしとこうか。」
「…入れすぎないでくださいね。」
オーガさんにリキュールいり紅茶を渡して、入れ替わりにナミラさんがやってきた。お酒が飲みたくなったのだろうか。
ナミラさんはこちらにくるなり手を組んで、重要な決断をする時のような顔をした。…こんなに真剣なナミラさんを見るのは初めてだ。なんだというのだろう。もしかして、なにか面白いことでもいうのだろうか。
「ヤクルト下さい。」
「ありません。」
「チッ、なんだよーじゃあ、カルピスでいいっす。」
「ございません。」
有るわけ無いだろうこの馬鹿め。結局ナミラさんは無難にそんなにアルコール度数が高くないカクテルを所望したので作ってやった。
そうすると、次はハモォヌちゃんとミキレイさんがやってきた。ミキレイさんは手に氷を持って…いや、なんか花の形してるな。氷像ってやつかな?
ここでも物作りとは、ミキレイさんの物作りへの探求は凄まじいものである。
ハモォヌちゃんは頭に鳥のひなを乗っけている。…ん?どうしたのそれ、なんか鳴いてますけど?ひよひよいってますよ?動いてるよ?完全に生きてますよ?生物が乗ってますよ?
「あ、これさっきアマゾネスなお姉さんに乗っけられたんですー」
「何それ羨ましい。」
「面白かったですよー」
そんなミキレイさんの手は少し血が滲んでいる。あ、刺さったんだな。多分よそ見したからとかじゃなくて、なにか小動物が頭を小突いて手元が狂ったとかいう不幸な事故が起きたんだろうなぁ。
「お酒どう?」
「え、いいんですか…じゃあ、日本酒っぽいのください!」
「私はモヒートで…」
「ハモォヌちゃんオっシャレー、でもあれだよね、どうしてもモヒートもどきになっちゃうよねぇ。」
そりゃね、世界が違えば材料もちがうよね。
そんな風にして、今日の花見は終わりを告げた。夜になって、光の玉で照らされた春の花も見られたので私はとても満足している。
とりあえず、今日の花見で分かったのはオーガさんはお酒にあまり強くないということがわかった。
私は、このことによって、今後オーガさんに酒はあまり進めないという戒めとするだろう。




