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文化部員は転生したらしい。  作者: 冬鬼
3:ガチムチ国編
22/40

【番外編】夜の徘徊、はいかいいえで


☆月★日


突然だが、私は今隣国の王都に来ている。

なんでも料理やら勇者やら色々な噂がこんな遠い所まで広まってしまったらしい。騒がしいのも目まぐるしいのも嫌いじゃないけど大衆の目に晒されるのは勘弁して欲しいものだ。


そして関係ないが蛇が可愛い。可愛い。とりあえずかわいい。最近になってだんだんと部屋が蛇で埋まって来ているのには喜びが隠せない。


話を戻そう。この国は行きの馬車で先輩が言っていた通り「ガチムチパラダイス」だ。先刻見た『勇正武合』と言う名の腹筋崩壊の儀式と王都ならではの人混み、そしてこのゴツゴツ男児の巣窟「ガチムチヘル」は確実に私の気力を削り正直もうMPは0に近い。道中購入したガラス細工の蛇が唯一の精神安定剤だ。

今度ミキレイちゃんに協力を要請して蛇をモチーフにしたオルゴールでも作るかな。


余談だが私はミキレイちゃんと違って物作りが得意では全く持って無い。無いけど、物を作るのは好きだ。好きこそ物の上手なれと言う言葉の通り、好きな事はやっぱり人並みかそれ以上に出来る様になるもので、なんだかんだ書くのも描くのも作るのも好きな私は前々から皆の手伝いをちょこちょこやっている。決まった仕事が無いからニートだのなんだの言われるけど、ハモォヌちゃんの小説の校閲をやってみたり先輩のお菓子の新作にアドバイスしてみたりミキレイちゃんの作業の手伝いをしてみたりナミラちゃんの整体の助手を引き受けてみたりとなんやかんやみんなの役に立ってる筈だ。戦闘力的な面でも居なくなったらちょっとばかし不便だろう。

それに最近は暇つぶしに一人クエストに出掛けたりしてるし、そろそろニート卒業かなと思ってる。


ここからはページが微妙に余ったので備忘録としてなんとなく書いてみたので余談の余談の余談みたいなものだけど、海月館のメンバー全員、前世の記憶は中学生の部活、『例の文化部』の事以外どうにも漠然としていてうまく思い出せないらしい。

なんだか良く分からないが忘れ方には細かい個人差があるらしく、私はみんなの中で一番記憶の質の差が激しい。要するに『例の文化部』の事は昨日の事のように思い出せるのに、それ以外は家族の名前や人数さえも朧げだと言うことである。良いか悪いかは置いておくとして、正直こっちの方が都合はいい。記憶の容量の無駄使いを防げるから。


あ、あと、今の今まで書き忘れてたけど杖が出来上がってきてる。朝露で洗うとか湧き水に浸すとかヒイラギの木に立てかけて乾かすとか正直面倒だけど杖職人のおじいさんが教えてくれた事は一通りやってみた。図書館で色々調べて新しい事もどんどん盛り込み、『私なりの杖作り』がなんとなくわかって来た気はしてる。

杖って言っても色んな大きさがあるとは思うけど、この世界の杖の大きさはまあ本当にピンキリで大きいのは大きいし小さいのは小さい。

とりあえず、私の杖は75cmくらいの長さだ。作業中、どうやら暇だったらしく見せて見せてと寄ってきたハモォヌちゃんに「もし魔法が使えなくてもこれでタコ殴りにしたら多分それなりに痛いだろうね」と言ったら「オーガが言うと洒落になんないからやめて!」と言われた。なんでやん。


さて、今から私達は夜の王都を徘徊しようと思っている。なんでもここの名物は夜の露店らしく、同じ宿に泊まっている人は私達以外みんな露店を見に出て行ってしまった。今、ナミラちゃんが財布を紛失してみんなで大騒ぎで探しているので時間が出来て、これを書いていると言う訳だ。私が財布探しに参加しないのはあれだ。MPが無いからだ。面倒だとかそんなんじゃ、決して無い。




私は今、道の端にぽつんと置かれたベンチ代わりの岩に腰掛け、立ち並ぶ露店の裸電球(っぽいだけで恐らく別の物だと思われる)がきらきらと煌めいているのをぼんやり見つめながら先程購入した人形焼きのようなお菓子をほおばっている。

周りで騒いでいる筈のみんなは居ない。端的に言うと迷子である。いい歳して、迷子である。


「はぁ………………。」


至極当たり前の事なのだが、私は迷子になりたくてなったわけじゃない。偶然に偶然が重なり、結果として私が迷子になっていると言う現状が産まれてしまったのだ。正直右も左もわからない見知らぬ土地で迷子になってしまい全力で心細い。誰か助けてヘルプミー状態。放置プレイとかなにそれ怖い。動かないで座ってあげてるんだから誰か早いところ迎えに来てくれないかな。

一人寂しくお菓子を口に放り込むと、ちょっとパサパサした人形焼き(的な物)が口の中の水分をみるみるうちに奪っていく。うわぁ喉が渇いた。

飲み物でも買ってこようかと立ち上がり歩き出すと、不意に通りかかった露店の売り子さん(この国では珍しい華奢で色白な、しかも女性)に呼び止められる。


「ねぇお嬢さん、ピアスとかどう?買って行かないかしら?」


「え。」


売り子さんが私に勧めてきたのは、銀色の蛇のピアス。それだけならただ嬉しいだけなんだけど、なんとシンプルで洗練された感じのするそれはどこからどう見ても私の着けているモノクルの蛇と瓜二つだった。特にこの目元の辺り!そっくり!!

その売り子さんの露店の机に目を移せば、まあ、なんということでしょう!!モノクル蛇さんにそっくりな蛇があしらわれたアクセサリーが所狭しと並べられているではありませんか!!


「あの、これって…………。」


「私、ここの隣の隣の国でこう言うの作ってる人の店で働いてるの。で、今日はたまたまこっちに売りに来てたって訳。それ、うちのだよね?」


売り子さんはそう言って私の着けているモノクルを指さしてくる。うん。多分だけどこの売り子さんの言っていることと私の予想は正しい筈だ。


「うちのアクセサリーは全部正真正銘の魔道具だよ。お嬢さんのそのモノクルは…………見たこと無いからどんな用途だかわかんないけど、その蛇の目のとこの石はファントムクォーツだね。龍脈水晶とも呼ばれてる。石言葉は時空、過去の記憶、未来の情報、そして克服。」


「じゃあこれ、この石は?」


私が指したのはこの間ようやく割れた一昨年のモノクルに着いていた緑色の石と似た物が使われているアンクレットだ。


「それは緑のジャスパー。石言葉は判断力、創造性、永遠の夢、勇気、聡明、それとセルフコントロール、感情の抑制あたりかな。東の方では碧玉(へきぎょく)って呼ばれてるらしいよ。」


その他、今まで一年周期で割れてきた沢山のモノクルにそれぞれ使われていた石について覚えてる限り全部聞いてみたけど、どの年に貰ったものもその年私が一番つっかえていた事を解決する様な石言葉が含まれていた。

もしかしたら私は思いの外大切にされてきたのかもしれない。どうであろうと大して興味ないけど。


「で、そろそろ決めてもらえないかな?」


売り子さんの言葉に頷き、手に取ったのはペリドットの瞳をもつ凛々しい蛇の腕輪。


「限界を打ち破る太陽の石。良いんじゃないかな?」


実はこの石、ペリドットはあの雛鳥勇者くんが杖のコアに薦めて来たものだった。『限界を打ち破る』と言う石言葉はなかなか魅力的で杖のコアはペリドットにしようかなと思っている。それと揃えてのこの腕輪だ。なんとなく、今年届くモノクルにはペリドットがついている気がする。本当になんとなくだけど。


お金を払い立ち去ろうとしたらまた売り子さんが呼び止めて来たので止まって振り返ると、売り子さんは店の裏を暫くゴソゴソやって銀色の小さな金平糖のような形の星を模したものや宝石の破片のような物が銀色の細い鎖でくっついたシャラシャラ音の鳴る根付けの様な物を5つ引っ張り出し、店の名前や住所が書かれた小さなカードの様な物と一緒にして渡して来た。


「あなた海月館の人でしょう?あなた達の噂、こっちにまで届いてるの。個人的にはナミラが一番ツボね。あ、あとこれ、もし近くに来るようなことがあったら是非寄っていってね。」


「もちろんですよ。」


私が頷くのを見て思い出したかの様に「それと……。」と続ける。


「私エディって言うの。また会えたらその時はよろしくね?」


「私はオーガです。こちらこそ、よろしくお願いします。」


最後に、お互い軽く会釈して別れる。

暫く歩いたら先輩達はすぐ見つかった。ホッとしたけどそれよりもあまりに向こうが必死に探していたみたいで面白かったので「何みんなして迷子になってるんですか。」と言っておいた。


なんだかちょっとだけ、晴れ晴れした気分

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