ガチムチ国のガチムチバトル
馬車を預けた私たちはガチムチ国の商店街を歩いていた。売り子さんが男性ばかりで、呼び込みの声は野太い声が響く。
やっと到着したと思ったら一日早く着いてしまったようで、今日は宿を取って明日、お城に向かうことにした。お城というときらきらしいイメージだが、残念ながらここのお城は要塞のような、完全に戦争する気満々である。
「せんぱーい、宿空いてなかったです。でも夕方になったら空くそうですよ。それでも多分、大部屋でふとん引くことになると思います。それでもいいですか?」
「寝られればどこでもいいっしょ、さっき屋台の焼き鳥っぽいの食べたんだけどさ、やっぱりちょっと味薄いかも…惜しいんだよね、この味。」
「ヤベェ!なんかあっちに人だかりできてるぜ!行こうぜハモォヌ!」
ナミラさんは人だかりの方へとホイホイつられてしまった。
とりあえずわたし達も気になったのでついていくことにするが、嫌な予感がしてならない。
少し早足でナミラさん達を追いかけるとナミラさんはガチムチの茶髪のお兄さんに何やら説明らしきものを受けていた。
「…ふんふん、なるほど、わからん!じゃあ参加します!」
「ちょ、」
「三名チーム戦でよろしいですか?」
「よろしいです!」
「まっ」
「登録完了しました。では控え室はあちらです。」
「うわぁぁぁあやりやがった!」
ミキレイさんが頭のわかめをぶんぶんと振り乱しているところを見て、私は絶対にろくな事じゃないと確信した。
妙にやる気を出して反復横跳びをしてウォーミングアップしているハモォヌちゃんを見て震撼した後、私はミキレイさんに事情を聞くことにした。
「何があったの?!」
「先輩…なんか、トーナメントに参加することになっちゃいまして…」
「え、まじでいってる?」
「はい、言ってます。」
「文化部員だよ?」
「なにやってんだよワカメ!行くぞ!」
ハモォヌちゃんとナミラさんに連れ去られたミキレイさんはとても悲しそうな顔をしていた。きっと彼女の頭の中ではドナドナが流れているんだろう。
私も参加しようと思ったらどうやら三人いなければ出られないらしい。
正直時間も潰れて面白いものも見れそうなので、私とオーガさんは観客席で試合を見ることにした。
バトルの内容はそんなにきつく縛っていないらしい。
相手を死なせないこと、重傷を負わせないこと。正々堂々と戦うこと。魔法でも武道でもどっちでもいいけど、ちゃんと力加減を考える事。
道具も何使ってもいい。だが殺傷能力を持つものは禁止。
そして、優勝すると賞金と相手が指定した人数でいい宿の宿泊券がもらえるらしい、太っ腹である。
まぁ、ナミラさん達が参加するのは十代の部なので、なにか間違いが起きたら優勝するかもしれない。
優勝すると宿代が浮くので頑張って欲しいね。
「オーガさん何食べてんの?」
「さっき売ってたクッキーです。これだけじゃ物足りないですけどチョコつけたらいけますよ。」
「頂戴?」
「嫌です。」
だろうね。いいもんね、私だって買ってあるからいいし、別に少しぐらいくれたっていいんじゃないかなとか思ってないし、いじけてないよ!こっちみんな!
手元にあるスティック状のパンを食べながら会場を見ていると、放送がかかった。
「今から国に伝わる勇正武合の舞を披露します。前列のお客様は少しお下がりください。」
「ふーん、勇正武合だって、大層な名前だね、やっぱり長々とつまんないのがやりそう。」
「まぁ、幻想的なのは嫌いじゃないですけどね。」
そして、出て来たもの私とオーガさんは戦慄した。
目の前を歩くものをじっと、瞬きもしないで見つめ、上から下へとじっくりと眺めた。
そして私は口とお腹にてを当て―
声を出さないように思いっきり笑った。
目の前で踊るのは筋肉のついた素敵なお兄さん方だ。この状況でなければ私はこの眼福な光景をガン見していただろう。
だが、頭に孔雀の羽根を広げたようなキラキラの飾りをつけ、キラキラの胸当て…とゆうよりブラジャーをし、そして極めつけは下半身の飾りである、これはいけない。
耳の大きい鼻の長い動物があしらわれた物が下半身にくっついていて、鼻がブラブラと動くのだ。もう爆笑である。
中盤辺りになってようやく周りを見渡せる余裕ができた。
私とオーガさん意外笑っていなかった。真顔で見ていた、それも何か、ありがたそうに見ている。
そこで私は賢者タイムなるものに入り、頬の肉をかんで笑いを押しとどめていた。
ちなみにオーガさんは終わってもしばらくこっちに帰ってこなかった。
ようやく舞が終わり、いよいよ本番となった。一回戦からみんな張り切ってバトルしている。頑張ってるなー。
男達の激しい肉体のぶつかり合いを見ていると、なんだか創作意欲が湧いてくる。おうち帰ってお絵描きしたい。
そんな風に考えていると、あの三人が出るようだ。
格闘型が一人しかいないからどうなるか心配だ。優勝はしてほしいけど相手は男ばかりなので少し心配している。
同年代の子達と戦うように組まれているらしいが、それでもやはり鍛え上げられた肉体だ。ショタってなんだっけ?
そういえばさっきから気になってたんだけど、なんでミキレイさん帽子逆にかぶってるんだ。カウボーイハットに似ているそれは、逆にかぶっていると違和感しかない。
「レディー…ファイッ!」
『さーぁ!戦いのゴングが打ち鳴らされましたぁ!なんとぉチームダンゴムシの皆さんは全員女性!このむさくるしい男どもをどう翻弄するのでしょうかぁ!両者一歩も動いていません!おっとぉ早速ダンゴムシが何かを始めたぞ?何やら音を増幅させる魔石を手にとっているようです!一体何をするんだぁあ?!』
「YO!YO!YO!北の国からやってきたキタキツネをルールルル俺たちゃ貴婦人行き過ぎ貴腐人むしろ発酵そしたら納豆チェケラッチョ!」
「お前センスねぇな!」
「知ってるよ!なんでDJ?!ラップとかやったことないよ!」
『いきなり歌い出したァ!これは相手チーム困惑を隠せません!お?またダンゴムシの一人がなにかしだしたぞ?高速で横に動いている!なんだこれはっ!不可思議な踊りをしている!これはなんの意味があるんだ!…いや!これは!近付いている!相手チームに魔の手が迫っている!だがその動きが気持ち悪すぎて逃げ惑っているようだァ!頑張れ!頑張れ!諦めるなよぉぉ!』
「ウェーイウェーイ」
「うわぁぁあこっちくんな!」
「くそっこの好きに!」
『ようやく相手チームが攻撃を仕掛けた!なんとさっきから動いていない女性に剣を振りかざす!どうなってしまうんだァ!おっと、何故か飛んできた洗濯物に顔が塞がれたァ!何だこれは!何だこれは!赤いふんどしだぁぁあ!一体誰のなんでしょうか?!何故飛んできたんでしょうかぁ!この間に相手を動けなくする!そして誰のかもわからないふんどしを顔をさらに巻き付けたぁあまさにこれぞ外道!リングに舞い降りたダンゴムシに慈悲はないのかぁぁあ?!』
「わかった!やめろ!やめてくれ!それ以上何も言わないでくれ!」
「その時、ドアが開いた。君は焦った、誰かに見つかってしまうかもしれない。だが君はその時正常な判断ができなかった。恥ずかしいことをしている時を、誰かに見られてしまう、そんな背徳的な感情に君はさらにその熱く滾るものを―」
「降参するぅぅううう!」
「…ち ら り。」
「ヒッ!降参!オレも降参だ!」
『何と言うことでしょう!チームダンゴムシ!完 全 勝 利だぁぁああ!ゴングが鳴ると同時に歌声も止んだ!一体何だったというのか?!チームダンゴムシ、勝利と同時に観客の心を見事に手に入れたぞぉおぉ!』
「………」
「………ま、まともに戦う筈ないよねぇ。」
そんな感じで一回戦が終わり、なんだか力が抜けた。この調子ならなんとかなるのではないだろうか。
というか、あのふんどし飛んで来たのなんかあれだな、出来すぎてるな…これもナミラさんの運ってやつかなぁ。
「第二回戦に入る前に、勇正武合の舞を開始しますので、一歩お下がりください―」
まじかよ。
オーガさんは無言で下に俯いた。
そして、最後の決勝戦では真面目に戦う場面もあり、中々良かったんじゃないかと思う。ハモォヌちゃんのあれがきかなかったからなぁ。
仕方ないね、相手がホモだったもん。本物にはかなわないよ。
むしろ続きを聞きたそうにしていたね。
後のふたりはラップを歌っていたミキレイさんにペースを乱されたようで、そこでもたついた所をナミラさんがマッサージ。
いやー、力が抜けきってたね、それほど気持ちいんだね、仕方ないね。
結論をいうと、優勝してしまった。どういうことなの。いや!嬉しいけどさ!何かこう…ほら、予想外だったよ。
「ミキレイちゃんのラップ面白かったわーまたやって。」
「やだよ!」
「なんで帽子かぶってたの?」
「え、だってDJといったら帽子じゃないすか。」
「……あぁ、うん。」
だからってあの形の帽子はないと思う。




