【番外編】十.五文字飛ばして呼んだら暗号?んな訳あるか。_2
慌てふためく勇者を引っ張って街の入り口へ向かう。
だんまりって言うのも気まずいのでたわいもない話でもすることにした。
「そもそも、どうしてお前みたいな人間がこんな廃れた街へわざわざ訪れたんですか?」
「お、お前って何だよ!!敬語使えよ勇者だぞ!!………王に言われたんだ。「色々なものを見て学べ」と。」
「要は体よく追い払われたんですね分かります。賢明な判断だと思いますよまともな王様で良かった!!」
「結構酷い事言うね!?ってか敬語についてはスルー!?」
「毒舌とスルースキルと糖分は人類に残された唯一無二の希望です。」
「それ三つじゃん!!唯一無二じゃ無いよね!!」
こいつ、中々ツッコミに向いてるな………。先輩に師事を煽げばもしかしたら……………。
入り口が見えて来る位の所まで来ると、見えてきました。スライムウォールです。大きいですねー。
高さ4mは有るよ?やばくないですか?やばくないですか?横幅3m位有りますよ。ヤバいね。もうこの街の名物である街へ入る門が塞がれてるね。わお。
余りのデカさに皆避難しちゃってこの辺にはもう誰もいないって言えば分かりますか。分かりますよねこのデカさが!!
「うわぁお。こりゃまた随分沢山倒しましたねぇ。勇者様?」
嫌味ったらしく言って差上げれば、ぶすっとしてこう返してきた。
「クエストのためだし仕方無いじゃん。そもそも討伐依頼まで出てるんだし、悪い奴なんだろ?あいつら。」
………………何だ無知かこいつは。
さっきまで自分にツッコミをしていた相手だというのに………。余りの馬鹿さ加減に呆れ思わず溜息をつき脱力する。
「陸上のスライムは基本的に温厚です。討伐依頼が出てるのは好戦的な水中に居るスライムか、何らかの原因が有って好戦的になっている陸上のスライムですよ。でも、後者のパターンはかなり珍しくて、殆ど無いですね。
採集についても、『常識的な』冒険者は余程の事が無い限りは水中のスライムを狙います。
いくら温厚な陸上スライムだって、悪い事なんて何もしていないのに仲間をバサバサ倒されたら、スライムウォールになって街を襲いたくもなりますよ。
それにしても、貴方本当に勇者ですか?勇者ってもっと強く優しく麗しいものだと思ってたんですけど。貴方は弱くて生意気、性格最悪。でもって馬鹿で阿呆。顔が良いのはせめてもの救いですね。将来はヒモですか。可哀想な子。」
呆れたから一息で言ってあげた。有難いと思えよ私酸欠だよ。
「はぁ!?え、マジ?そうだったの!?」
「そうですよ。それより、着きましたよ。何とかして下さい。貴方勇者でしょう?」
「え、いや、アンタがさっきぶった斬った剣が無いと戦えないんだけど。」
「魔法使えないんですか!?」
「使えない。父さんまでは使えたらしいけどね!!」
マジかいな。勇者ってマリ…………じゃなくて有名なヒゲのおじさんと同じバランス重視で魔法と剣が両方達者なんじゃ無いの?
ってか、自分は魔法使えないのに何でこいつはドヤ顔してるんですかね?やっぱツッコミ出来ても阿呆は阿呆なのかな?
「じゃあどうやって落とし前付けるんです?これ、貴方のせいですけど?」
スライムウォールを指差して怒鳴ると、スライム達がこちらに気付いたらしく一瞬全体が畝ねる様に波打つ。ひゃー!組体操みたい。
どうやら、スライムウォールは勇者に反応しているらしく、勇者に近い土嚢が何かもう崩れそうだった。
「ほら!どうすんですか!!」
「どうするも何も、逃げるっきゃ無いだろ!!」
「はぁ!?そんなのクズじゃないですか!!立ち向かわないの?馬鹿なの?死ぬの?勇者がそんな脇役丸出しでどうするの?もういっそ死んじまえ役たたずが。」
「でも、無理だっつのこんなの!!」
勇者が涙目になりながらそう叫んだ途端、今まで何とか耐えていた積み上げられた土嚢なら何やらが崩れ始める。
え?普通は暫くしたら諦めて消えるよね?何で?あ、此処に勇者が居るからか!!
「っ!!街が!!」
スライムウォールは、家をも呑み込む。これは有名な話だけど、そんなスライムウォールがここまで大きいのだ。街が潰れるだろこれ。どうしようか。
「うぉう!ヤバイじゃんこれ!!逃げようぜ!!」
「んな事したら街が潰れるでしょうが!!この脳味噌無し!!」
勇者が役に立た無いなら私がやるしかないのか。面倒な事になったなぁ。
倒れ込んで来たスライムウォールをバリアみたいなものを張って抑えながら考える。
あー、でもあれはまだ成功するか分からない。ある意味一か八かだよね。でも、やってみますか。面白いし。
取り敢えず足手まといな勇者様を転送魔法で施設に転送しよう。
そう言えばあそこ、名前ないよなぁ、今度皆で決めようか。無事帰れたらの話だけど。
「まずお前は下がってじっとして……………は?」
振り返ると勇者は居ない。何処に行ったのかとキョロキョロ見渡すと………居ました。勇者です。
あの生意気な勇者どんがスライムに飲み込まれて居ます。
「なにやってるのばかなのしぬの。」
何で捕まっちゃってるんですかね?いやだって、普通バリアの中から出ないよね?この状況で。って、そうだ!勇者バリアに入れるの忘れてた!!てへぺろ☆……じゃなくて!!どうすんだよ勇者溶けるよ!?え?ああ、うん。どうしよう?!ああ!!…よし、こうなったら……………
「とっ、飛び込む!!」
スライムウォール、と、突入!!
スライムウォールの中は意外にも想像した不快感は無く、むしろ涼しくて心地よい。そして目を開けても痛くないのは少しありがたい。
前世で習得した平泳ぎの要領で勇者の元まで進み、スライムの端まで同じ方法で移動して、自分だけ先にスライムの外にでて…………………
「何さらしとんじゃあああああああっ!!」
引っこ抜く。
「ぶへぁ!!な、何だよ!?え?」
「スライムに飲み込まれるとか勇者としてどうなんです?馬鹿なの死ぬの?溶けるの?スライムに溶かされるの?勇者なのに!?勇者なのに!?」
ありえない!!と叫んでみれば、勇者も弱気に言い返して来る。
「勇者なのにって言われても、だって俺もう十代目だし……………」
「じゃあ人様の家から金目の物を盗むのをやめろ!!初代勇者はそんなことしなかったぞ!!多分だけど!!」
「ええ!?マジで?だって本に書いてあったんだけど?」
「え?」
「え?」
本?いや、そんなことが書いてある本が有るとしたら…………………
「何で勇者の末裔がアンチ勇者派の書いた嘘だらけの伝記読んでんの!?あれご先祖様滅茶苦茶悪い奴っぽく書かれてんじゃん!?あれに書かれてる勇者とか最早ブラック企業の社長じゃん!?あれが本当だったら初代勇者の裏表に芸能界並のギャップが出来るよ?逆に何でおかしいと思わなかったの?!……………………あ。そうだコイツ阿呆だった。」
「酷い!!」
「煩い。もう転送すんのめんどいからお前は下がってろ。」
いざ、勝負!!




