【番外編】 十.五文字飛ばしで読んだら暗号?んな訳あるか。_1
「こんにちは、師匠!!今日も何時ものお願いしますね!!」
「せんぱーい今日も面倒な勇者が来ました。かき氷チョコミント味一つ出してやって下さい。今日も頑張って早いところ追い払いますから。」
「はいはい。頑張ってねオーガさん。でも、挨拶するなんて勇者も随分成長したね。」
「それもこれも師匠のお陰ですよ!!ね、師匠!!」
「あーはいはいそ ですねー。………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛くっそめんどくさいいいいいい………ねぇ、なんで?」
どうしてこうなった?
* * *
※月★日
今日は樽と格闘した。
樽と言えばミキレイちゃんだけど、今日のクエストではいつも以上に影が薄くて思わず哀れみを込めた満面の笑みで見つめてしまった。
頭上に「?」を浮かべられてちょっと申し訳なくなったりしたりした。
先輩はテーブルゲーム系がすこぶる弱いらしい。ババ抜きでは隙だらけでカードを覗かれ、人狼では私が悪戯で人狼だとCOしたら露骨に混乱していた。
何であんなに分かり易いの!?意味がわからないよ!!
後、先輩が酒を飲んだら頭がヤバくなった。
これだけ聞くとラリったみたいに聞こえるけどそんな事は無いよ?ただ頭から草が生えて来ただけだよ?
いやー、あれは吹いた。存分に吹いた。そして気が遠くなる位笑った。何だよあれは。頭から、蔦とか蔓がわしゃわしゃ生えてくるとか、うわぁ。
何だか知らないけどあのお酒には呪いみたいのがかかってるっぽい。
でも先輩で実験したら一定時間(一晩)経つと勝手に抜けるらしいから放っておく事にした。
お客さんにはしっかり説明してからすすめる様に言われた。
話は変わるけど荒れ狂う樽を見ながらぼーっと考え事をしてたら杖の素材のチョイスについていい事を思い付いた。
いい事の発表の前に杖の柄についておさらいしようと思う。忘れちゃったら困るもんね!!
主に使われる杖の柄は二種類で木の柄と金属の柄。
そして柄が木の杖は治癒特化、柄が金属の杖は攻撃特化だ。
ちなみに、もう一つ良く使われていた柄があったりする。最近はめっきり見掛けないけど、昔は杖の柄は、生き物の、それも特に強い魔物の骨で作った杖に決まって居たらしい。何でも、バランス型で使いやすいんだとか。
まあ、柄の種類については置いておいて、今度は杖の役割についてだ。
杖は主に二つの役割を持って居る。
一つは魔力を一点に集中させる事。
これによって魔法のコントロールが良くなったり、成功率が上がったりする。
もう一つは魔力を増幅する事。
これについてはコアの影響力の方が大きいっちゃ大きいけど、それでも甘く見ちゃいけないくらいには増える。増えルンです、写ル…………おっと危ない。
他にも色々役目は有るけど、大方こんな感じ。ちなみに某インスタントカメラは関係ない。
で、木の柄は一つ目、金属の柄は二つ目の役割が強い物が多いんだけど、これって中々選べない。
だから私は考えたのだ。両方使って作れば最強じゃん!!とね。
何だよ、その小学校低学年男子の奇行を見守る保護者の様な目は!!出来るもん!!素材二つ使って作れるもん!!出来るもん!!
そして話は変わりますがなんと!!デザインまで決 まっちゃったんですね!! やったね!!
で、具体的にどんなデザインかと言うと、まず、コアに絡みつく様に二匹の蛇。この蛇の部分が柄になる。蛇はコアから離れ下に行くにつれ境界線が曖昧になり、持ち手の辺りで一体化して一番下は綺麗に一本の棒、と言った感じだ。
材料としては、まず、コアの石は緑色にしようと思ってる。一番かっこいいからね!!
そして二匹の蛇の片方は黒檀で作られた木の蛇で、もう片方が銀で作られた金属の蛇。
で、その二匹の蛇の目には私のモノクルの石を使おうと思う。
銀の蛇には緑の石(一昨年の物)。黒檀の蛇には透明な石(去年の物)を使用する予定でごさいます。
今までのモノクルのはなくしちゃったんだけど、割れたモノクルの石だけはいっつも残ってたから、 それ使おうぜ!!って訳。 どうせ今してるモノクルも今年中に割れるだろうし ね。
で、このデザインの方を思い付いたきっかけっての も先日遭った出来事なんですけど、これがまた色々 大変だったんですよ…………。
* * *
今よりずっと、ずっと前、まだピッチピチだった魔王様が暴れまわってブイブイ言わせていた頃に神に選ばれ王に頼まれ魔王を倒して、勢い余って荒れた国まで統一し、挙句の果てにこの国のシステムを確立してお亡くなりになった、現在まで伝わるこの国のスーパーヒーロー的な存在が居た。
それが勇者だ。
スーパーヒーロー勇者様は王にめっちゃ気に入られ、そのまま城に住まわせて貰い、その勇者の子供も、その子供の子供も、その子供の子供の子供も勇者として可愛がられ、お前は選ばれた子だのなんだのと貴族に持て囃されて育って行っている。
そして、そんな風に育った十代目の勇者が今私の目の前に居るのだが…………。
「お前!!避けろよ!!ってか退けよっ!!」
どうしてこうなった。
私は先輩から貰ったお小遣いで行きつけの店の愛しのアイスクリームちゃんを購入していただけだ。
久し振りの自腹アイスに心を躍らせ、アイスクリームちゃんが私の事を思い出しやすい様に初めてここのアイスクリームちゃんと会ったときに着けていた一昨年のモノクルを久々に装着し、意気揚々と施設を出て、はずむ心を抑えながら満面の笑みで街道を行き、途中で先輩とミキレイちゃんを見掛け会話を盗み聞きし、すれ違ったギルドのおっちゃんにチョコレートを貰い更に機嫌を良くしながらも行きつけの、この世界の料理基準で考えれば最高ランクのアイスクリーム屋さんにたどり着き、「いつものお願いします。」と注文し、おまけでもう一個アイスを貰い更に機嫌を良くし、お店のおじさんにアイスクリーム代を渡しアイスクリームを受け取り、「有難うございます。」と言って立ち去ろうとした瞬間、向こうの方から勇者が走って来て私にぶつかって私の愛しの可愛くて甘くて美味しくて素晴らしいアイスクリームちゃんが、真夏の天使が、落ちて、落ちてしまった。私のアイスクリームが。この、先輩が言うに大して役に立た無い癖して生意気な勇者に落とされてしまった。
よし、お前がどんな奴なのかは良く分かった。お前みたいなろくでなしには罰を与えなきゃいけないねぇ。
そう、死んで償え。勇者よ。
「ふ、うふふふふふふふふふっ!!ねーぇ勇者さぁーん、私のアイスクリーム、落とした罪は重いよねぇ?ねえ、勇者さん?………………死んで償え。」
「お前何一人で笑ってんの?キモッ!ってかいきなり何?償うってなにを」「死んで償えこの野郎ぉぉぉおおお!!!!」
ほぼ本能的に風と水で出来たカッター的な物を作って放っていた。
ふはははは!!お前なんぞみじん切りにしてくれるわ!!!
「うわっ!!ちょっ!何だよいきなり!!喧嘩売ってんの?」
勇者は剣を抜いてこちらに向けて構えて来るけど、そんなもので私の魔法に敵うとでも?
もうね!許す気とか無いから!!土下座してもらったって許さない位の勢いで怒ってますから!!喧嘩とかのレベルじゃ無いんでね。
「さぁね?でも、売られた喧嘩から逃げるなんて事、する訳無いですよねぇ?勇敢な勇者様?」
パキンッ
「…………は?」
軽い音を起てて勇者の抜いた剣は根元から斬れた。水圧甜めんなよ!!
それにしても、
おお ゆうしゃのけんよ ! きれてしまうとは なさけない…。
もっと堅いんじゃないの?勇者の剣って、もっと特別な……あ、あれは博物館に納められてるんだっけか?
そして唯一の武器である剣を斬られた勇者は早くも降参ムードである。情けないねぇ。もっと歯ごたえ有るかと思ったのになぁ。
まあ、でも、まだまだだよね!!泣いてもいないし、腕の一本も折れて無いし。
さあさあ、皆さんお立ち寄り!!泣かぬなら、泣かして見せよう勇者様!!
「さぁて、まずは腕にしようか。それとも脚にしようか。…………どっちにしろ行く行くはみじん切りだし関係無いか。」
「なっ!!」
殺気と魔力を込めて勇者を見据えたその時。ぶわあっと何かが私の殺気をを留め、思考をクールダウンして視界を押し広げる。
いきなり視野が広がって混乱したけど、落ち着いて来るにつれ今日の勇者は何だか変だと言う事に気付いた。でも、何処が?
暫くの間、双方身じろぎも瞬きもしない時間が続いたが、そのおかげで違和感の正体が判明する。
勇者は、何となく全身とろっ、ぬるっとした液体に塗れて居たのだ。なんで気付かなかったの?てかどうしてこいつぬるぬるしてるの?ローション?ドッキリ番組?ま、まさか┌(┌^o^)┐?
一気に沸き上がる疑問に、心や思考より格段に速く脳が答えを出して、知らず知らずの内に呟く。
「………………スライムウォール。」
そう言えば此処に来る途中に会ったチョコレートをくれた屈強なおじさま達もえんやこらと土嚢を運びながら愚痴って居た気がする。
でも、途中ですれ違った時盗み聞いた先輩とミキレイちゃんの会話では、勇者はスライムウォールに放り込まれた筈だ。なら、何故此処に?
…………この勇者は私にぶつかる前、何から逃げていた?
これらの全部が繋がるまで数秒。分かったんだし、後の話は速い。
「行きますよ。」
妙に冷静な自分に驚きながら、勇者引き摺り、兎に角スライムウォールの元へ、進む。




