十度の天然氷のかき氷
「あついーかき氷食べたいー」
この一言で、私達の冒険は始まった――――
……いや、まぁ、そんなに壮大でもないけどね?
ていうか、そもそもかき氷はこの世界にないからそういう意味では壮大とも言えるわけなんだけど。でも、氷を削ってそれになんか甘い汁かければかき氷になるじゃん? なんとかなるって!!
わがままなオーガさんのお願いにより、作るシロップは数種類。となると片手間で作るのは難しくなるから、シロップを作る人と氷をとってくる人にわかれてかき氷作りをすることになった。
なぜわざわざ氷をとりに行くのかというと、はっきり言って氷は魔法でどうとでもなるんだけど、ハモォヌちゃんが天然氷のかき氷は頭きーんってならなくてすごいよ! と熱弁してくれたので、せっかくだから天然の氷が食べたいとみんなの意見が(珍しく)一致したからだ。
その辺の洞窟にある氷で十分だからそう手間でもないしね。
グッパーの結果。ナミラさんとオーガさんがシロップ作り。私とハモォヌちゃんとミキレイさんが氷を採ってくることになった。
……無 理 だ 。嫌な予感しかしない。
結局、ナミラさんとオーガさんに任せるのは危ないということで人選を逆にした。これなら、なんとかなるでしょ、うん。
side氷組
「あー、もう歩きたくないよオーガァー‥。あ、瞬間移動できんじゃね?」
「無理だよ。瞬間移動は等価交換だから」
「どゆこと?」
「同じ価値の物と物でしか交換できないって事。瞬間移動ってのはただ移動してるみたいに見えるけど、実は性質の似たものを交換してんの。でもってナミラの想像しているような瞬間移動をするには私たちと『空気』を交換することになるでしょ? 私たちと空気ってぜんぜん似てないから、そういう全然違うものを交換するにはかなりの魔力がいるわけなんだよ」
「……なるほど、わからん!」
「要するにめんどい」
「あー、うん、なるほどぉー」
にしてもオーガの言うことは難しすぎる。日本語じゃない。とナミラは言った。そりゃここ日本じゃないもん当たり前だなと反論するオーガ。しかしナミラはちょうちょに夢中だ! オーガはため息をついた。
まーでも、もう少しで洞窟だ。がんばって歩こう。くそ、黒いローブなんて着てこなきゃよかった。とオーガは後悔した。
「オーガ! ここに洞窟あるんだけど!」
「え? いや、洞窟はもう少し先あれ、ねえ、これたぶん先輩が言ってた洞窟と同じとこにつながってる……?」
洞窟の中から少し冷気を感じたオーガは、魔力を手繰り寄せて確認する。やっぱり、間違いない。さすがナミラちゃん。やたらとくじ運がいいだけある。
しかも、入口から見える位置に氷ができている。これなら奥まで進まなくて済むから、予定より早く帰れそうだ。
sideシロップ組
「オーガちゃんたち大丈夫ですかね? なんでも、この頃ボーンラビチュとかいう奴が大量発生してるらしいんですよ」
「あぁ、骨のウサギ? オーガさんいるから何とかなるよ」
「そうですよね! オーガちゃんいますもんね!」
「オーガがウサギに負けるとか逆にびっくりだもんねー?」
オーガさんたちが出ていってから大体一時間くらいたった。頼まれていたシロップは、もうみんな完成していた。
林檎、苺、オレンジ味、試作品としてミントのようにスースーするのも作ってみた。私の頭から生えたあの草は、ミントと同じように清涼感のある葉っぱだったので、丁度良いと思い使ってみたのだ。
「たっだいまー!」
そんなこんな駄弁っていると、ナミラさんとオーガさんが帰ってきた。
「……あれ? 何も持ってないみたいだけど、氷無かったの?」
「ありましたよ」
そう言うと、オーガさんは背中に背負っていた鞄に手を突っ込んで氷を取り出す。……って、え? ちょっと、それ明らかにその鞄に入ることができるサイズじゃないよね!?
「ハモォヌちゃん、重いから手伝ってよなに見てるだけなの馬鹿なのもさもさなの」
「もー! 悪かったねもさもさで!! ちゃんと手伝うから!」
ハモォヌちゃんはどっこいしょと立ち上がり、オーガさんと協力して巨大な氷を取り出す。……これ、ナミラちゃんと同じぐらいの大きさの氷だよね? どうやって削る気なの?
「じゃあ、あとはミキレイちゃん任せた」
「まかされた!」
頼もしく任されたミキレイさんが、刀を取り出して氷を薄くスライスしていく。というより削るか……。氷ってスライスに出来るんだ。ていうか、さすがミキレイさん! 繊細な作業もお手の物だね!!
「って、オーガさん。これ魔法でどうにか出来なかったの?」
「私もそう思ったんですけど、どうにもこういう細かいのは向いてないみたいで。薄く切ろうとしてもぶつ切りが限界でした」
まぁ、その大きい氷は私が切り出したんですけどね、とオーガさんはどや顔をつくる。……ちょっとうざいかな?
必要な分の氷があらかた削り終わったところで、冷やしておいたガラス製の器を並べ、その中に氷を入れていく。
「ふぉおおお! ふわっふわ! ふわっふわだこれ!!」
「先輩うるさいです遅いです口じゃなくて手を動かしてください」
「刀の力ってすげー!!」
「……腕つった」
「ミキレイつーどんまーい」
ふわふわな氷にテンションをあげながら、器を配っていく。
あの大きな氷半分で私たちが食べるには十分な量が出来たので、残りはお店で出してみようかな。
みんな各自好きなシロップをかけて、しゃくしゃくと夢中で食べている。天然氷はやはり頭がきーんとならないらしく、みんなノンストップで食べ続けていた。まあ、私もそうなんだけど。
「あぁー美味しい。やっぱり夏はかき氷だよねぇ」
「本当に美味しいわー……練乳ないんすか?」
「あ、そういえば練乳もどきみたいのがあるよ」
「オーガさんは練乳いるー?」
「いりません。練乳嫌いです」
「あら、珍しい。練乳、あんなに甘いのに」
「甘けりゃいいってもんじゃないんですよ」
ちなみに実験作のミントは、凄く暑いときに食べる人が多くなるんじゃないかな、と思う味だった。……チョコを入れたらもうちょっと違う味がするのかなぁ。ま、これは試作だし、これから改良していけばいいよね。
今年の夏の目玉商品はかき氷になりそうだなぁ。と考えて、食べ終わった器の中にスプーンを置いた。
2/22 誤字脱字等修正。




