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私は誰なの?  作者: 星野 満


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8. 湖と不思議な野鳥

2025/12/5 一部修正済み。

◇ ◇ ◇ ◇



既に東京から出発して3時間近く発ったでしょうか。


途中S県のSA(サービスエリア)休憩の後、私は高速道路のビュンビュン飛んで行く並走する乗用車やトラックが、面白くてずっと車窓から眺めていました。



ようやく銀色に輝く高速道路から下りて、更に緩いカーブを旋回した後、小峠を抜けて国道に出ました。

ここからはいよいよ目的地のH県のN市です。

そのままバンは標高高い、湖畔沿いの道を軽快に走行していきます。


ようやく私の眼前に山々と碧い森林にぐるりと縁どられた、大きな湖が拡がってきました。



──わあ綺麗、なんてエメラルドグリーンの大きな湖かしら。


遥か視界一面に雄大な湖、その周辺を大山連峰が連なっています。

青々とした山と森林に反射して、見事な碧いエメラルドグリーン一色でした。

湖には白い遊覧船が優雅にぽっかりと、積み木のおもちゃのように浮かんで見えました。

標高が高いので見事な景観です。



「はあ、涼しくて気持ちがいい!」


助手席の北条君が車窓を大きく開けて言いました。

一気に涼しげな風が後部座席に吹いてきます。



──あれ?


突然、私は湖の香りがさあっと、脳裏に浮かびあがってきました。


なんだろう、この清澄(せいちょう)な匂いは……とても懐かしい……。


車道を見ると“乙女涙の湖畔街道へようこそ!”と大きな看板がありました。


へえ面白い、()()()()()()だって……



◇ ◇



(ひかる)、湖畔の入り口だ、もうすぐ別荘に着くぞ!」


 運転している北条君のお父さんが彼に(うなが)しました。


「分かった、()()、詩織ちゃん、そろそろ到着するから起きて……あへえぇ?」


 北条君は後ろを振り返って、二人を見るなり奇声を上げました。


 驚いた事に、織田君は美樹ちゃんの膝枕ですやすやと寝入っていたのです。



「あ、私は起きてるけど……織田君はぐっすり寝ちゃってる」


 詩織ちゃんは顔を赤らめて苦笑いしました。


 織田君は軽いイビキを掻いていて、半開きの口元からは(よだれ)まで()れていました。


「うっ汚いなあ……詩織ちゃん、まさかずっとその体制だったの? こいつのデカ(あたま)そうとう重いのに!」


 北条君は呆気にとられながらも、織田君の大きなイビキにカチンときたのか。


「おい、海斗(かいと)!起きろよ、N市に着いたぞ!」


「あ、北条君まだいいわよ。織田君、昨日なかなか眠つけなかったって言ってたの。一時間前かな、ようやくぐっすりと眠りについたばかりだから、もう少しだけ寝かせてあげて」


 と詩織ちゃんは優しい表情でいいました。

 日本人形を彷彿させる、前髪を綺麗に切りそろえたオカッパ頭が風にサラサラと揺れています。

 心なしか詩織ちゃんの頬はほんのりとピンク色に染まって見えました。


 その膝枕を背に、無邪気に(よだれ)をだらりと垂らし、眠っている織田君は幼児(おさなご)のようです。


「はあ、詩織ちゃんて、本当にお人好しだね……僕ならドカッっと小突くけど……それにあと十五分もしないで着くよ」

 

 北条君は二人を見て(あき)れたように言います。


 

 ──本当だ。


 私も北条君と同じ気持ちで、ぐいっと長い首を伸ばして、のっぺらぼうの顔で二人を見つめました。


 でも詩織ちゃん、なんだか急に織田君に優しくなったよね。

 先日、学校ではあんなに織田君を拒否してたのに……。


 ちょっと私は腑におちません──。



「コホホッツ  コホホホッツ……コホホホッ!」


 その時でした──。

 野鳥の声が聞こえたと思ったら、すぐさま野鳥の大群が私たちの車をかすめるくらい、低空飛行で突然ぶつかりながら飛んできたのです。


「わ、危ない!!」

「キャー!」

北条君のお父さんは、咄嗟(とっさ)に野鳥たちを避けようとしてハンドルを切ります。


キキキッ……車は急ブレーキをかけて車道の端へ一旦止まりました。

片側 二車線だったおかげで、突然止まっても後方の車が右に避けてくれたので、野鳥たちにも間一髪でぶつからずに済みました。


「あ、ぶねえ……」

珍しく北条君が下品な言葉を発しました。


「わわ!なんだ、どうした!」

詩織ちゃんの膝枕で寝ていた織田君も、車の急ブレーキで飛び起きました。


「はあ、なんだあ、あの野鳥群は!」

「父さん大丈夫? ああ、びっくりした!」


北条親子は目をパチクリして驚愕し合っています。


私は、飛び去る野鳥の群れを車窓から追っていました。

すると一羽、一番大きな灰色と白い斑模様(まだらもよう)の野鳥が、Uターンして私をじっと可愛いあ灰色の眼が金色に光り、両翼をバタバタと羽ばたかせました。


( おかえり、おかえり、()()()()!)


 ──え?


 途端、私は声にならない声をあげました。



 おかえりセレーンですって?



 私を見つめる大きな野鳥から、“セレーン”と聞きなれない声が、私の脳内に入ってきたのです。


「コホホッツ  コホホホッツ……コホホホッ!」


 ──あ? 


 野鳥は元の鳴き声に切り替わって、他の飛び去った野鳥たちの群れの中へと、そのまま飛び立ってゆきました。


 それはほんの一瞬の出来事でした。




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― 新着の感想 ―
ドライアドって…水の精霊みたいなやつですかねー? 不思議な野鳥の正体? それにしても、織田くん羨ましい♪w
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