7. 一周忌法要へ
※ 2025/12/11 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
ミーン ミーンミン ミーン ミーン!
ミーン ミーンミン ミーン ミーン!
早朝から蝉の煩い鳴き声が一段と大きく聞こえます。
8月の日曜日。
私は朝早くから、キャラバンという大型車の後部座席に座っていました。
車の進行方向かって正面右が私、真ん中が詩織ちゃん、その隣が織田君です。
といっても私は誰にも見えないので、後部座席は詩織ちゃんと織田君だけ。
織田君は早朝のせいか眠たげで、さっきから詩織ちゃんの肩にもたれかかってウトウトしています。
この日、北条君、詩織ちゃん、織田君は制服を着ていました。
亡くなった美樹ちゃんの一周忌の法要に参加するからです。
私の制服のスカーフは白で、詩織ちゃんは水色と、色違いの理由がわかりました。
白色は一年生、水色は二年生なのです。
つまり私が白のスカーフのセーラー服を着てるのは、私が一年の時に溺死した美樹ちゃんなのかしら?
美樹ちゃんの溺死を知ってからというもの、自分は“美樹ちゃんの幽霊”ではないかと仮説を立てました。
でも、やっぱり よくわからない、わからない。
だって私の頭の中は、なんにも思い出せないのです。
◇
まあ幽霊だとしたら、現世で死んじゃったし生きていた記憶を失くすこともあるよね。
その内、なにか思い出すかもしれないと、私は悶々とするのを止めました。
幽霊が悶々としてもねぇ、何もできないし何だかピンとこないしね。
それより、私は今日初めて車に乗ったので、妙にワクワクしてさっきから、心臓がどきどき高揚しています。
──乗用車って、何て新鮮なんでしょう!
私は後部座席の詩織ちゃんたちを空中で踏み付けながら、嬉しくって車内ではしゃぎ動き回っていました。
車内遊歩が飽きてくると、今度は車窓から風のように飛んで行く景色に見惚れてました。
ビュン ビュン ビュン──!
凄い 凄いわ 何て速いのかしら!
まるでレイクフィッシュたちより速いじゃないの!
──あれ? 今、私、レイクフイッシュっていったよね?
レイクフィッシュって何かしら?
何も考えずに私の脳裏にはマラカイト色の、真っ青なピチピチした魚たちを連想したのです。
んん? 何かがおかしいなぁ。
◇ ◇
そうそう、運転しているのは北条君のお父さんです。
隣の助手席にはもちろん北条君が乗車してます。
北条君は美樹ちゃんの従兄妹さんだそうです。
彼のお父さんと美樹ちゃんのお母さんはつまり兄妹。
何でも美樹ちゃんは一人っ子の裕福な家のお嬢様で、父親は海外の大手企業の部長さんだとか。
北条君は幼くして母を失くして彼も一人っ子。
美樹ちゃんのお母さん、彼のお母さん替わりになってたとか。
それで小さい頃から美樹ちゃんと北条君は仲が良くて、毎年夏は美樹ちゃん家の別荘で遊んでたそうな。
別荘は二人の祖父が所有している洋館なんですって。
そうです今朝、私たちを乗せた車が向かっているのは美樹ちゃん家の別荘です。
H県のN市は、東京郊外から3時間くらいで行ける場所。
そのN市の別荘の湖畔で去年の夏に美樹ちゃんは事故で溺死した。
詳しい事はこれだけ。
北条君と織田君、詩織ちゃんの話だと、美樹ちゃんが溺死した具体的な状況を三人は口をつぐんでいました。それどころか──。
「悪いけど、私、参加したくないわ」
「俺も。悪いが美樹が死んだ場所へ行くのは……なんか怖くて嫌だよ」
校舎中庭で詩織ちゃんと織田君は招待状を渡されても、一周忌に参加するのを断りました。
その時、二人は酷く怯えた顔をして俯いてしまいました。
それでも北条君は「美樹の叔母さんは二人にとても逢いたがっているんだ、叔母さんが一番美樹が亡くなって辛かったんだ。でも最近ようやく元気になってきた。だから一周忌も開催を決めたんだよ」
と再三諭したからか、織田君たちも渋々参加を承諾しました。
どうやら北条君は美樹ちゃんのお母さんをとっても心配してるみたいです。
美樹ちゃんのお母さんは、娘の親友だった詩織ちゃんと、幼馴染の織田君にぜひ来てほしいとお母さんは涙ながらに北条君に頼んでいたそうです。
うん、北条君、君っていい子だね。
私はますます細身の北条君に好感を持ちました。




