5. 短気な織田君、キザな北条君
※ 2025/12/11 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
顔を赤らめた織田君に反して、無表情の詩織ちゃんは冷たく言い放ちました。
「織田君、私たち、もう逢わない方がいいと思う」
「どうして?」
「美樹ちゃんに悪いから……」
「何で悪い? 俺、ずっと詩織に誤解されてるみたいだが、美樹とはつきあってないぜ!」
「うん、知ってる……」
「ならなんで美樹に悪いんだ!」
織田君は少し声を荒げました。
「…………」
「もしかして……美樹からなんか云われたのか?」
織田君はハッとした表情で言ったけど、詩織ちゃんは目をそらしたままです。
「あのさ、俺たち本当付き合ったことないぜ、第一、美樹から告白されたことすらないよ」
「……ん、だけど美樹ちゃんは、あなたのことが好きだったの……」
「はあ?」
一瞬、織田君は呆けた顔をしたが、どうも納得していない様子でいいました。
「確かに俺と美樹は小学校からの腐れ縁で、いつも小中と同じクラスだったけど……知っての通りあいつは男勝りで、いつも俺と喧嘩ばかりして張り合ってた仲だよ。変な話、俺の中では美樹は兄弟みたいな感じで、悪いが⋯⋯女を意識したことはない」
その言葉を聞いてようやく詩織ちゃんが織田君の眼を見つめていいました。
「そうだってね……美樹ちゃんから聞いたわ。『織田君は小学生の頃から、かけっこでも、水泳でも美樹の上をいくから悔しい、だから絶対に勝ちたい!』って。美樹ちゃんは織田君をライバルとみなしてた。あの子は負けず嫌いだったから」
「だろう? そんなあいつが俺を好きなんて言われてもピンとこない。なのに未だに学校の奴ら、俺と美樹の噂を陰でコソコソしやがって……俺たち何もないのに……」
織田君はチッと忌々しげに舌打ちをしました。
──あらまあ、織田君たら舌打ちなんてお行儀が悪いわ。せっかくの容姿が台無し!
私は織田君の顔が好みだったので、態度の下品さに少々がっかりしました。
そんな中、詩織ちゃんはまたもや伏し目がちになって反論します。
「でも……噂はあながちウソじゃないわ。美樹ちゃんは織田君が好きだったのよ、だから……」
「だから何だよ。ああ~もう詩織も、この雨みたいに鬱陶しいな。じゃあ、なにか!もし美樹が俺を好きだとして、俺の気持ちはどうなる?」
「それは……」
「俺が詩織を好きになったら金輪際いけないのかよ!」
「それは……でも……美樹ちゃんは……」
「美樹、美樹ってさっきから、もういい加減にしろ! 俺は詩織の気持ちを知りたいんだ!」
とうとう織田君はキレだたのか、大声で怒鳴りだしました。
「う……」
詩織ちゃんはビクッと肩を揺らして、彼女の大きな瞳から、真珠の涙が溢れそうです。
その時、パンパンパン!と──勢いよく、大きく手を叩く音が響きました。
「はいはいはい! 織田君、君、その辺りで止めましょう!」
「北条!」
「北条君……」
二人の眼の前にスラリとした男子が立っていました。
「織田君、君って人はね~まったく不器用だね! 端から聞いててこっちが恥ずかしくなる」
「何だと?」
「もう僕たち中坊じゃないんだからさ。ほら見てご覧よ、君の可愛い詩織ちゃんが、今にも泣きそうじゃないか」
「あ……」
織田君は我に返って、ようやく詩織ちゃんの哀しげな表情に気付きました。
さっきからカッカと頭に血が上っていたのか、詩織ちゃんが怯えていたのも気付かないようです。
「ね、分かったでしょう?」
北条君と呼ばれた男子は織田君を茶化すように、それでいて織田君を諭すように、妙に大人びた微笑で近寄ってきて織田君の肩をポンポンと叩きました。
「北条、なんだお前……偉そうにカッコつけやがって!」
「あれえ? 幼馴染のくせに今更なにいってんの! これ僕の素でしょう。さっき君のクラスにいったらゴミ捨てにいった、というから見に来てみれば、あろうことか君が詩織ちゃんに猛然アタックしてるんだもの、アハハハ!」
と北条君はとても可笑しそうにゲラゲラ笑う。
「鬱陶しい小雨だけど、なんだか夏の青春してるよね~!僕は、邪魔しないように、君たちにどう声を駆けようかと、さっきから思惑してたんだよ」
「チッ、あいかわらずキザでカッコつけしい……ムカつく奴だ!」
織田君は忌々しそうに、また舌打ちしました。
──むむ、むむむむ?
何ですか、この風変わりな飄々とした男子生徒は?
私は北条君と呼ばれた彼をまじまじと凝視しました。
カチッとした最新の通学リュックを肩にかけて、黒傘をバックホルダーに取りつけています。
彼の歩き方はメンズモデルみたいな身のこなしでした。
パリッとした半袖シャツと紺のラインベスト。
二人の前にくると、長い足を持て余したように組んでギンガムチェックのスラックスを見事に着こなしています。
織田君より少し背は低いがそれでも高身長です。
すこしくせ毛のあるボブカットヘア。
おしゃれな銀ブチメガネをかけていましたが、織田君の切れ長の眼とは違う、くっきり二重瞼が目立つ美男子でした。
──この男子生徒もなんだかモデルみたいにカッコいいわ。
私は三人の美男美女を見つめながら眼福に浸ってドキドキしていました。
自分でいうのも何ですが、のっぺらぼうのくせに相当な面食いのようです。
いつしかシトシト降っていた霧雨は止んで、どんよりとした雲の隙間から陽光が射し始めていました。
※ 北条君みたいなキザッちい男子は好きです。(~_~;)




