30. エピローグ・爽やかな湖畔の風にのせて(前篇)
※2026/1/23 最終話エピソードタイトル変更。
★最終話の前篇です。
※登場人物紹介
◇ 首なし女子高生幽霊(私)………湖の精霊の女王
◇ 上杉 美樹………桜花高校一年時、別荘近くの湖で溺死し、現在は御霊となる
◇ 明智 詩織………同高校二年生 美樹の親友
◇ 織田 海斗………同高校二年生 美樹の幼馴染
◇ 北条光………同高校二年生 美樹の従兄
◇ 上杉 京香………美樹の母親
◇ 上杉 エリック………美樹の父親
◇ 北条 武士………美樹の叔父 光の父親
◇ ◇ ◇ ◇
「あ!」
「なんだこれ、日記か?」
「うわ、汚い字!」
「あら、まあ……美樹ったら!」
美樹ちゃんの日記を開いた四人が発した第一声でした。
亡くなった日、美樹ちゃんが書いた最終ページをめくると、詩織ちゃんと織田君の悪口が何ページも書いてありました。
しかし四人が驚いたのは文の内容よりもその字でした。
デカデカと大きな字で汚く書き殴ってたのです。
所々、ページの端もビリビリ破れていました。
書いてて美樹ちゃんが、腹を立てて破ったんでしょうか。
◇
8/15(土)晴れ。
メチャクチャ、あったまきた! 詩織のバカやろう!
おまえら高校生のくせに、いちゃいちゃすんじゃねえよ!
影でかくれて、こそこそと、不良め!
織田の奴、手が早いんだよ、デベソ!デベソ!
あたしは織田がすげーデベソだって、子供の時から知ってんだよ!
何がイケメンだ! 何が学年一モテ男だ!
スケベ野郎が、ハナたれ小僧だったくせに!すかしてんじゃねーよ!
詩織の奴、やっぱり好きだったんだな!
あれほどあたしが、織田には手を出すな!と無言の圧力、かけ続けたのに。
しぶてえアマだ。
やっぱり女の友情はもろかった!!
ムカつく、ムカつく!
やってらんねー!!!バカやろう!
あ、ムカつく、ムカついたから、もぐろう!
と何ページにもわたって、詩織ちゃんと織田君に向けた罵詈雑言ばかり書いてありました。
でも不思議なことに日記を読む二人の顔には、時おり笑みがこぼれてます。
悪口書かれてるのに変ね、なぜでしょう?
織田君なんて、ゴホっと咳き込みながらニヤニヤしてます。
最後のページには、美樹ちゃんの怒りが収まったのか、普通の文字で書かれてました。
◇
ああ、すっきりした!
ゴメンな詩織──。
あんたが織田を好きだったってこと。
あんたの目はいつも私と一緒に織田を追ってたもんね。
そして織田の目も……詩織を追ってた。
こうなる日が来るって、多分あたし、最初から分かってたんだよ。
分かってたけど、嫌だったんだ。
あんたたちが仲良くしてるのが、つらかった。
織田があたしに手を差し伸べたあの日。
中学じゃなくて、小学校だったら良かったのに。
張り合ってばかりいた、馬鹿だな、あたし。
ちぇ、もう少し早く気付いてたら、もっと策をたてたのに。
ガキすぎた、好きになるのが遅かった。
でもさ、もう いいや。
やるだけやった。
二人を邪魔するだけ邪魔したんだ。
もういいや、降参!
詩織はあたしが織田を好きだといったから、ずっと我慢してたよ。
ゴメンな詩織。ずっと邪魔してたのはあたしの方だ。
最初から詩織とじゃ勝ち目なかったし。
もういいや。
こうなったら、いさぎよく、あいつらを祝福してやろう!
明日あったら、詩織を抱きしめてやる!
それでチャラだ、詩織はきっとわかってくれる。
さあ、またもぐろう! もぐってもぐって あたしは人魚になる!
もぐれば あたしは自由 いつだって自由。
大丈夫、こんな気持ち すぐに消える。
もぐって、もぐって、涙も 失恋も すべて流してくれる。
でも、今夜は泣いて、泣いて!
明日はきっと、あの子と仲直り。
◇ ◇
詩織ちゃんは織田君たちを見回した後、日記を閉じました。
書きなぐった汚い字に、最初は苦笑していた詩織ちゃんも美樹ちゃんの日記を読み終えた時は、涙ぐんでます。
そんな美樹ちゃんを織田君がそっと抱き寄せました。
「美樹は俺たちのこと、許してくれたんだな」
「うん、私もそう思う」
織田君と美樹ちゃんは、お互い見つめ合い微笑みました。
パンパンパン!
突然、北条君が手を叩いてにやりと笑いました。
「ほーらね、最初から僕がいっただろう? 美樹は漢なんだよ!」
「おまえ調子いいな。昨日はメソメソしてたくせに」
「え、そうだっけ?」
北条君はケロッといいました。
京香さんは三人を両手で包みこむように抱きしめました。
「みんなありがとう。美樹の気持ちをわかってくれたみたいね」
「うん叔母さん、美樹らしい日記や。いつも持ち歩いてたんだね」
北条君が京香さんに頷きました。
「そうね光、昔エリックは美樹がすぐ癇癪おこすので『ミキ、カケバイカリハ、オサマリマス!コレヲ、イツモ、モッテナサイ!』と日記帳をプレゼントしたの。美樹はとっても喜んで、それ以来ずっと日記を付けてたわ。あの子はお父さん子だから」
「叔母さん、ありがとう。美樹の日記のおかげで私は救われたわ」
「俺も……」
「詩織ちゃん、織田君、私もよ。──美樹には悪いけど、あの子が書いた膨大な日記があるから、亡くなってから一冊づつ読んでるの。読んでる時は、美樹が側にいるような気がするの」
京香さんも涙ぐみながらも、優しく微笑んでいました。
その後もしばらく四人は、テーブルを囲んで美樹ちゃん談議に花を咲かせていました。
◇
私ことセレーンは、この光景を空中で、ふわりふわりと漂いながら眺めていました。
──良かった、みんな美樹ちゃんの日記を見て元気になってくれた……
ただ残念ながら、今日は私一人です。
ここには美樹ちゃんはいません。
実は私も風の精霊に頼んで、湖の家に運んできてもらったのです。
精霊は人間には見えません。
──シルフィ―ありがとう。用事は済んだわ。どうか湖に運んでください。
(了解!)
私は風の精霊、シルフィーに導かれながら、乙女涙の島の入り江まで戻りました。
めでたしめでたし。これで一見落着。
さて、美樹ちゃんはどこへいったのでしょう?
※次回がエピローグ後編です。おまけとして可愛い画像も貼りつけました。
※2026/1/23 修正済み




