3. 意味深な二人
※ 2025/12/11 修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
私は何なのでしょう?
なぜ顔なしの、のっぺらぼうなのでしょう?
そもそも、私は誰なんでしょう──?
わからない、わからない。
でも変だわ。のっぺらぼうなのに髪はあるのよ。
私は片手で髪の毛先をぐいっと強く掴みました。
──痛っ!
凄い、傷みは感じましたよ。
私は掴んだ毛先をまじまじと見つめました。
とても綺麗な鳶色で、白髪が一本もないつやつやの若い髪です。
でもそれは傍から見ると余りにも不自然でした。
傘もささずに私のロングヘアはびしょ濡れです。
それも腰まであって、べったりとセーラーの上服にくっ付いていました。
──なんだか余りにも不気味じゃない?
私はキラキラした健康そうな女子生徒たちと、すれ違いさまに自分のずぶ濡れた風貌を比較しました。
それものっぺらぼうなんてさぞや異様でしょう。
──やだな、私をみてこの学生たちが恐がらないといいな。
あ、でも誰も私に気付かないんだった。
私はホッと胸を安堵しました。
そのまま私の素足は、下校する生徒とは反対に校舎に入って行きました。
◇ ◇
古い冷たい感触の階段を上り、ある教室に私の素足はぴたりと止まりました。
そこは“二年E組”と白い表札がかかっています。
──何故このクラスを選んだのか?
わからない、わからない。
だって勝手に素足が動くのです。
教室には数人、男女の生徒がいました。
ほうきやモップで床を掃除している男子生徒や女子生徒がいます。
黒板消しをしている女子生徒の他、残りは机と椅子を元に戻しています。皆さん真面目の黙々と掃除をしています。
「はあ、やっと終わった、」
「お腹空いた、何か食べて帰ろうよ」
「そうだな」
ようやく掃除が片付いたみたいです。
ひとり、背の高い男子生徒が後ろの窓から下を見つめていました。
薄茶色のボブのサラサラヘアで、顔立ちの整った美少年といってもいい。
その美少年が私の方へと振り向きました。
!?
私はバチッと、美少年と目が合った気がしたのですが、彼は一向に気付きません。
「掃除終わったな、俺、ゴミ捨ててくるよ」
「あ、悪いなあ、織田!」
「ありがとう織田君!」
「いいって……」
その美少年は、慌ててゴミ箱から、ゴミ袋だけを引き抜き、先を結んで教室から後ろのドアから廊下へと渡ります。
わたしは、すかさず彼の後を追いました。
男子生徒は焦っているのか、早歩きで階段もバタバタと、勢いよく駆け降りていきます。
──速い!
私は彼の後を必死で追いかけました。
ふと、廊下の壁に「校舎内は走らない!」とデカデカとポスターが貼ってあります。
──ふふ、ダメじゃん!
この男子と私は知り合いだったのかな?
わからない。 わからない。
彼の美しい顔を見ても何も思い出せません。
◇ ◇
一階の校舎内、中庭に彼は走っていきます。
シトシト シトシトと小雨になったけど、まだ外は雨が降り続いていました。
一階のゴミ捨て場にいくと、男子はゴミ袋を捨てました。
そのまま、中庭の校舎下の花壇がある場所へと歩いて行きます。
◇ ◇
そこには一人の女子生徒がいました。
どうやら花壇の花を手入れしているようです。
赤や黄色のダリアや、紫のグラジオラスなどの花々が雨に濡れて綺麗です。
彼女は花鋏を持っていました。
傘も差さずに花壇の手入れを熱心にしています。
一瞬、私は彼女の横顔をみてハッとしました。
とても綺麗な和風系美少女でした。
オカッパ頭で首のあたりまで、綺麗に切りそろえた菊人形みたいな風貌です。
セーラー服のスカーフは水色でした。
私はこの女子生徒を見ても思い出せません。
「明智!」
「織田君?」
女子生徒は顔を上げました。
「あ……」
小鳥のようなかわいらしい声です。
織田君と呼ばれた男子生徒は彼女に近づきました。
「久しぶり、当番なのか?」
「うん、美化委員だから」
「ああ、綺麗だな……」
「うん、でも雨がずっと降ると、枯れた葉っぱや、花がらを取り除かないと傷んじゃうの……」
「そうなんだ、偉いな」
「そんなことない…………」
二人が立ち並ぶと、織田君といわれた男子の背がとても高いこと!
彼女の頭二つ分も背が高いです。
「二年になってから、クラス変って滅多に会えなくなったな」
「そうね……」
「明後日から夏休みだけど、どこかいくの?」
「いいえ、夏期講習もあるし家で勉強するだけよ」
「だったら、一緒に勉強するか?北条も呼ぶよ」
「……いい、一人でするから」
菊人形みたいな美少女の口調は、酷くそっけないものでした。
何より、ほとんど男子の目線とは合わさずに、彼女は下を向いて話しています。
「じゃあ……手を洗うから……さよなら」
と美少女は立ち上がり、水飲み場の方へ歩きだしました。
「待ってくれ明智、いや、詩織!」
男子は美少女の肩をつかみました。
「!?」
詩織と言われた美少女は初めて織田君の顔を見ました。
「まだ、美樹のことで俺を恨んでるのか?」
「そんな恨むなんて……」
「いや、お前絶対、俺を恨んでるよ。でなければ一年も俺を避けるわけがない!」
「…………」
なにやらとても意味深な二人です。
私は固唾を飲んで……とはいってものっぺらぼうだから、口はありませんけど。
そのままずっと二人を眺めていました。
※ 新たに登場した美学生二人。
のっぺらぼうの女子高生と彼等はどんなつながりがあるのでしょうか。




