29. 湖の女王に目覚めたセレーンの力
※登場人物紹介
◇ 首なし女子高生幽霊(私)………湖の精霊の女王
◇ 上杉 美樹………桜花高校一年時、別荘近くの湖で溺死し御霊となる。
◇ 明智 詩織………同高校二年生 美樹の親友
◇ 織田 海斗………同高校二年生 美樹の幼馴染
◇ 北条光………同高校二年生 美樹の従兄
◇ 上杉 京香………美樹の母親
◇ 上杉 エリック………美樹の父親
◇ 北条 武士………美樹の叔父 光の父親
◇ ◇ ◇ ◇
外に出ると、既に空は日が暮れて湖が茜色に染まっていました。
もうすぐ夜です。
私と美樹ちゃんは、乙女涙の入り江まで来ました。
そのまま私が湖に飛び込もうとした時、
(あ、まって精霊さん、どんなポシェットだかわかんないよね。)
──あ、そうだった。どんなの?
(うん、説明は後でするとして、あたしも精霊さんの中に入って一緒に行くよ!)
──え、大丈夫なの?
(うん、お姉さんたちの話では、精霊さんが目覚めても、十五夜満月が天の真上に登るまでは精霊さんの中に入れるんだって)
──あ、だから急いでたのね。
(うん、あたしがいた方が、早く探せるよ!)
といった傍から美樹ちゃんは、私の体にスッと入り込んでしまいました。
そのまま私はジャンプします。
◇
湖に飛びこんだ私の体は、いつのまにか二本足が、魚の尾ヒレに変身していました。
人魚に戻った私の下半身は、きらきらと赤い宝石みたいに光っています。
とても綺麗なオレンジ色の鱗がびっしりとついて、尾ヒレは真っ赤でした。
──まあまあ、我ながらなんてゴージャスな鱗と尾ヒレなんでしょう。
私は下半身をくねくねとしならせながら、自分のきらきら輝く尾ヒレと鱗に惚れ惚れしました。
──ああ、なんて気持ちがいいの!
さながら水を得た人魚になった私は、大きく水をかきながら、久しぶりの水中感覚に酔いしれていました。
でも優雅に満喫している場合ではありません。肝心の鍵を探さないと。
私は水中をきょろきょろ見渡しました。
──美樹ちゃん、ボシェットってどんな形をしてるの?
(えっとね、シルバーグレイのエナメルで、正方形の掌くらいのサイズで、黒のベルトがついてるやつ)
──わかったわ。多分、一年前の大嵐なら湖底に落ちてると思う。
ここからいっきに潜るからね!
(あい、まかせるよ)
✧ ✧
私は湖中を深く深く潜って、一気に湖底まで辿りつきました。
この場所は鏡湖でも一番水深が深い。
二百メートルともなれば、太陽の光が届かない暗黒の闇世界です。
人間の裸眼ではまったく見えません。
でも、私たち人魚は長い銀髪も光るし下半身の鱗も輝かせて、暗黒の湖ですら、回りを青白く輝かせることができます。
良く見ると湖の底でも魚は泳いでいます。
イワナたちが大群て泳いでいます。
それでも私の進路をけっしてじゃましません。道を開けてくれます。
私が、湖の女王だと知っているからです。
ほら、ナマズもいました。
ナマズは湖底の岩陰や水草の物陰によく潜んでいます。
口ひげをはやして眠たげな顔をしていますが、突然私が現れて恐れをなしたのか、急に尻尾だけ岩陰に隠れました。
──ふふ、ナマズちゃん、眠ってたのに起こしてごめんね。
✧ ✧ ✧
湖の底はとても摩訶不思議な世界です。
真っ暗闇な深湖で、時々ピカッと、あちこちでふわふわ浮遊して光るのはプランクトン。
本来、夜光虫のプランクトンは海水に生息するため、湖にはいないはずですが、この湖に浮かぶ乙女涙の島です。
この真下には、何十万年前の古代湖に通じる穴がある。大昔なら汽水湖であった湖。
だから夜光虫がいても何ら不思議はないのです。
真っ暗な湖底の、ゆらめいた水中で私は尾ヒレを揺らしながら探索を続けます。
折れた大木の沈木を一つ一つ注意深く探索しながら、ポシェットを探しました。
時おり、はるか昔に沈没した小船の残骸も発見しました。
沈没船は人魚たちの間では『御霊の幽霊船』といわれており、人魚たちはめったに近づきません。
人魚にとって、人間の御霊はとても不気味です。
でも水の精霊女王、セレーンに目覚めた私は、御霊の弱い力では容易に操られません。
いま、美樹ちゃんの御霊が私の中にいても、いつでも私が拒否すれば、決別することは簡単にできます。
精霊の女王の能力は、通常の人魚たちの数百倍も威力があるとされている。
湖の荒らし屋といわれる獰猛な肉食魚たちが、束になって襲ってきても一瞬でも殺せるパワーを私は持っています。
その時、私はふと一つの考えが湧きました。
──もし、このままポシェットが見つかって、鍵が見つかれば。
美樹ちゃんはこのまま天界にいってしまうのかしら?
美樹ちゃんは、それでいいのかな?と。
その時でした。
シルバーグレイの小さな光が、キラッと輝いたのを私は見逃しませんでした。
──あ、あった、あそこ! 美樹ちゃん、あったよ!
(え、ホント?)
ポシェットは、大きな古い沈木に引っ掛かってました。
私は大木に近づいてポシェットを小枝からそっと外しました。
──これかしら?
(そう。これだよ精霊さん!あったあった!)
美樹ちゃんは大喜びです。
私はポシェットを掴んで一旦、湖上に出て岩山にあがりました。
空はすっかり日が落ちて、既に十五夜お月さまが登っていました。
湖から上がると美樹ちゃんは、私の体から離れてポシェットの中を開きました。
美樹ちゃんの御霊は、ポシェットを擦り抜けずに、触れることが可能でした。
多分、美樹ちゃんは、無意識に風の精霊の力を借りて、空を飛んだり物を動かせる念動力があると私は察知しました。
昔、ネクトン伯父さんが教えてくれた。
人間の御霊は本来なら天界に召されるが、たまに地上の世界にとどまる御霊もいる。中には、身体は死んでも魂は地上に残りたくて、時に風や地の精霊になったり、そして水の精霊になる御霊もたまにいるのだと……
そして水の精霊になるには、湖の女王の力、そう私の力が必要だというのです。
◇
(あ、あった、精霊さん、鍵があったよ!)
美樹ちゃんが嬉しそうに、シルバー色でピンクのリボンを付けたキラキラした鍵を私に見せてくれました。
──良かった、これで詩織ちゃんたちが日記を見ることができるのね。
(うん、ポシェットはさっきのキッチンの机に置いておこう。そうすれば、ママたちが気付いてくれるだろうから)
──ええ、そうね。本当に見つかって良かった。
(ありがとう精霊さん、いや湖の女王!あ、女王様とお呼びしなくちゃね)
そんな、かしこまらないでいいわよ。セレーンでいいわ。
(そっか、あなたの名はセレーンていうんだね)
そうよ、私の名はセレーンよ。これからもよろしくね。
(これからって? あたしはもうすぐ天国にあがるんだろう?お別れじゃん!)
美樹ちゃんは、少し淋しげにいいました。
──いいえ、必ずしも天国に行かなくったっていいのよ。
(え、どういうこと?)
私はさっき頭で思い浮かんだことを、淡々と美樹ちゃんに説明しました。
◇ ◇
翌日の朝、乙女涙の島の家に出勤した従業員が、机上のポシェットを発見しました。
慌てて上杉家の母屋に電話をかけました。
キッチンのテーブルの上に、生前、美樹ちゃんが所持していたよく似たポシェットがあると。
「ええ?」
それを聞いた京香さんたちは、慌てて日記帳を持って、湖の家に駆けつけました。
もちろん、この日泊まっていた詩織ちゃん、織田君、北条君たちも一緒です。
鍵はびしょぬれのポシェットに入っていました。
なぜ湖の家に濡れたポシェットがあったのか?
とても不思議な四人でしたが、とにかく先ずは日記を見ようとなって、鍵穴に鍵をさし日記帳のロックを外しました。
※ 湖の女王、セレーンがようやく力を発揮しましたね。次で最終回ですが、文字数が増えたら2話になるかも。
すみません。(~_~;)。




