28. 私、セレーンの秘密
※ ようやく私は誰なの? か私が分かります。
◇ ◇ ◇ ◇
私が岩山に横たわっていたと、美樹ちゃんはいいました。
──美樹ちゃん、私もそこにいたの?
(うん、正確にいえば、上半身裸の若い女の人で、腰から下が魚の尾ヒレがついていた。つまり人魚になった精霊さんだった。満月の灯りに照らされて銀色の髪がとっても綺麗だったよ。そんでもって隣には女の子の首なし遺体も、一緒に横たわってたんだ)
──え、美樹ちゃん、その女の子の遺体って?
(そう、あたしの遺体……)
美樹ちゃんは少し、顔を曇らせましたが、はっきりといいました。
(精霊さん、あたしは、自分の首なし遺体を見て、今のあたしは霊魂なんだって、死んだんだって、そん時やっとわかったんだよ)
──あ……
(ふふ、だからあたし、さっき、あんなに深く潜れたんだって……おかしいと思ったんだ。人間が何もつけないで、真っ暗な深水に何百メートルもダイビングできるわけないもん。──そう自覚したら、途端に体がふわっと高く高く宙に浮いていった!)
美樹ちゃんは両手を鳥のように、ヒラヒラさせていいました。
(ああ、あたしこのまま天国にいくのかな~って、なんとなく天に召されるのを覚悟したよ。でもさ、ふと思ったんだ。──このままママやパパたちとお別れなんだ、あたしサヨナラなんだって……でも、でもなんか、このまま突然、詩織たちと別れちゃうの嫌だって、あの子と、ケンカしたみたいに別れたくないって、そう思ったらすっごい哀しくなった!)
いつしか美樹ちゃんの瞳から、涙がぽろぽろと溢れていました。
──うっ、美樹ちゃん。
私も胸がつまりました。
美樹ちゃんが『天国に行きたくない!』という気持ちが、痛いほど伝わってきたから。
(でもね精霊さん、そうしたら不思議なことが起きたんだ! 宙に浮かんでいたあたしの体が突然、眠っていたあなたの中にスーッと吸い込まれちゃったんだ)
──えっ、吸い込まれた、私の中に?
(そう、不思議だったよ。ほんとにスーッと吸い込まれた。気付いたらあなたの身体の中にいた。あなたの心臓の音がドクンドクン聴こえてきた。それもあなたは眠っているのに、あたしには視界が見えた。──その後、あなたとよく似た人魚のお姉さんたちが数人、わちゃわちゃと湖から岩によじ登ってきて、あたしたちをぐるりと取り囲んだの)
──姉さまたちが?
(うん、あたしは精霊さんの中にいたから、よく聞こえたよ。お姉さんたちは凄い困っていた。なんでもこの日は精霊さん、あなたは湖の女王に選ばれた特別な日だったんだって、湖の精霊は、何百年もアンコウの姿で古代湖の底で暮らしていて、百年に一度、運がよければ精霊の女王さまに変身するらしい。)
──精霊の女王さま? 私が?
(うん、でもあの日アンコウだったあなたが潜っているあたしを偶然、食べちゃったから、あたしの御霊があなたに憑依して、あなたの意識が眠りに落ちたんだって。どうやら人間の御霊は人魚たちにとって天敵らしい。何百年も前にも同じように、精霊が人間の御霊に憑依されて利用されたとかなんとかって、お姉さんたちがいってた、他にもいろいろ嘆いていたけど、よく覚えていないんだ。ごめんよ )
──あ、美樹ちゃん、それで、その後、あたしたちどうなったの?
と私は美樹ちゃんから、あの嵐の晩の話を聞きました。
※
美樹ちゃんの話だと、とりあえず姉さまたちは私が目覚めるのを待って、一旦は湖底に私を隠したらしい。
美樹ちゃんの首なし遺体はそのままにして。
その後、大嵐は過ぎ去ったけど、湖は朝靄にけぶっていて、美樹ちゃんを捜索していた水難救助隊の人たちも、あの霧では捜索は無理だと一旦引き上げていたが、霧が晴れてから美樹ちゃんの遺体が発見されたんだって。
それから一年近く、美樹ちゃんはずっと私の中に潜んでいて私が目覚めるのをずっと待っていたそう。
そして一周忌の一カ月近く前に、私が目醒めたのを幸いに私の体を操って、桜花高校へ私を誘導して今にいたった。
◇ ◇
(精霊さん、これで、あたしの説明はおしまい、わかった?)
──ええ、美樹ちゃん。だいたい分かったわ。ありがとう。
そうだったんだ。だから私はアンコウの時の記憶しか覚えてなかったのね。
その時、私はまざまざと過去の百年の記憶が、走馬灯のようにさーっと蘇ってきました。
長い長い年月の中、古代湖で暮らしていたアンコウだったあの頃。
ベントスたちがいつも私の腹やヒレのそばにいて、氷のように冷たい湖底で暖をしていたことも。
長い時間、私はずっとずっと湖上を夢見て、姉さまやベントス伯父さんが話してくれる、お伽噺話でしかみたことのない、人間に憧れていた。
──そうだ、私はセレーンという名の古代湖の精霊だった。
ようやく私は自覚しました。
あの日私は精霊の女王の儀式を受ける日だったのです。
百年に一度といわれた、ももとせの月見月に、水神様が家来のレイクフイッシュたちに天空に狂飆を起こす夜に私も一緒に上流して、精霊になる特別な日だった。
自覚した途端、私は自分の体中から不思議な力が溢れだしました。
そうよ、こんなことはしてられない。
──美樹ちゃん、早くすぐに湖に行こう!
(え?)
今度は美樹ちゃんが、私の姿をみて驚きました。




