2. 水が好きみたい
※ 2025/12/11 一部加筆、修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
しとしと しとしと ぺたぺた ぺたぺた、と。
びちゃびちゃ びちゃびちゃ、びちゃんと!
ようやく私は、目的の桜花高校に到着しました。
大きな頑丈な門構え、古い灰色の鉄筋コンクリートの校舎。
降りしきっていた雨は、いつしか銀の小雨に変っていました。
銀の雨は校舎全体を白い霧につつまれていました。
モワァとしてとても神秘的です。
◇ ◇
ここで疑問──。
そもそもどうして私はすんなりと、桜花高校に辿りつけたのでしょう?
私は人に道を訊くこともできません。
でも、なぜか行き方がわかりました。
素足が勝手に歩きだしたからです。
そう、私は自分が何者なのかわかっていません。
透明人間なのか、幽霊なのか?
でもまた一つ……わかったことがありました。
私は水の中を素足で歩くのが、とっても好きみたい!
それも舗装されてる道よりでこぼこの荒れた道がいい。
あえて私は泥濘の道を選んで歩いていました。
ズボズボ ズボズボと踏みしめる。
泥水の湿度感がいい!
私の素足は傷みをまったく感じません。
あるのは暑い空気の中、雨と濡れた泥水の生ぬるさ、なぜだか心地よいのです。
うん、なんだか楽しい、とっても楽しい!
私は深い水たまりを見つけると、幼児のように心が沸き立ちました。
その中をびちゃびちゃと音を立てながら歩くのです。
女子高生とは思えない行動。
我ながら変人なのでしょうか──。
もちろん、誰も気にしやしません。
向こうから来る人達に、私が泥水が跳ね散らかしても、みなさん素通りします。
彼らの顔や服には雨も泥水だって、なあんにもかかりません。
私が下品な歩き方をしても、誰も無視して見てくれない。
──逆に私は、誰かにかまって欲しくてワザとしたのに……
ちょっと淋しい私です。
◇
桜花高校の前に来たはいいが、何も思い出せませんでした。
「やっと来たわ?」
──え?
急に誰かが、私の背後から囁きました。
振り向いたけど、だあれもいません。
──風の音? 気のせいかしら?
何かが変です。
キンコーン、カンコーン キンコーン カンコーン!
突然、学校のチャイムが鳴りだしました。
余りにも大きな鐘の音だったので、私はびくっとなりました。
その途端、ザワザワ、ゾロゾロ。ガヤガヤと人の声!
「またな!」
「じゃあね」
「さよなら」
「明日、漫画もってこいよ!」
「おう!」
大勢の生徒たちが下校してきます。
色とりどりの傘をさしながら、校舎から校庭へとゾロゾロ出てきました。
──下校時刻かしら?
空はどんよりと曇り雨なので、私は時間がまったくわかりません。
黒い鉄柵門は最初から開け放たれていました。
でも私はするっと高校の門を通り抜けてみました。
ああ、やはり、私の体は全てのモノを通りぬけてしまう。
私はすれ違いざまに、学生たちを、きょろきょろと見渡しました。
──まあ、この学校の制服はなんておしゃれでしょう!
男子は半袖白シャツ、
紺のラインベスト、
スラックスはグレーのギンガムチェックです。
女子は上は半袖のセーラー。
スカートは、男子のスラックスと同系のプリーツスカート。
男の子も女の子も、とってもキュートでした。
目立つのは女子のスカーフの色が違う。
白色、水色、赤色の光沢のあるスカーフが胸元をゆらゆらと揺らしていました。
色違いのスカーフは各学年を現しているのかしら?
髪色もみんな黒か濃い茶。
金髪、変なアフロなど一人もいない。
ロングヘアをたなびかす女の子は誰もいない。
長い髪の子は三つ編み、ツインテール、ポニーテールで結わっている。
男の子も高校生らしいボブカットで、良いとこのお坊ちゃんに見えます。
ふ~ん、風紀がしっかりしている高校なのね。
みんな、頭良さそう。
──あれ?
私は自分の胸元のぐっしょりと濡れたスカーフの色に気付きました。
今気付いたけど、私は白いスカーフだわ?
何年生なんだろう?
スカーフを触ると雨の雫がぽたぽたと零れ落ちていきます。
あれ?
私はスカーフから首筋を両手で触ったあと顎を触りました。
顎の上も……でも、顎の上は何も凹凸がなかったのです。
──ひいぃぃぃ? 何もない!
私は声がでないのに、でない声で驚きました。
自分の顔を触ると、目も鼻も口もなあんにもない!!
そうなんです、私は顔なし、いわゆるのっぺらぼうでした。




