18. 幽霊と詩織ちゃん(2)
◇ ◇ ◇ ◇
詩織ちゃんは家でも物静かな子でした。
家族構成は両親、弟の四人家族。
弟君はまだ小学校低学年です。
学校が夏休みに入り、家ではお母さんの家事を手伝いながら、クラスメートの女子と夏期講習にいって勉強に励んでいました。
後はお母さんが日本舞踊の教室を自宅で開いていて、詩織ちゃんもお弟子さんたちと一緒に踊りを習っていました。
詩織ちゃんの歩き方や所作が美しいのは、日本舞踊を習っているからなのでしょう。着物姿で優雅に舞う詩織ちゃんはまさに、動く日本人形みたいに色っぽくて素敵でした。
詩織ちゃんはけっして明るいタイプではありません。
クラスの女の子たちと話す時もほとんど聞き役です。時おり、相手から質問されると自分の意見を言う程度です。
あ、別に仲間外れにされてる訳ではないようです。
◇
こうして幽霊の私は、一カ月近く朝から晩まで詩織ちゃんといて分かったのは、外見は美少女、でも中身は普通の大人しい女の子って感じでした。
それでも、どこにいても目立つくらいの美少女です。
夏休みはどこからともなく湧くように、若い男たちが詩織ちゃんをナンパします。
「ねえ、彼女すっごく綺麗だね。俺たちと遊びにいかない?」
「わ、本当かわいいじゃん、君、もしかしてモデルさん?」等々。
「いえ、けっこうです!」
といって詩織ちゃんはサッと踵を返して逃げ出した事も何度もありました。
なので詩織ちゃんは余り一人で外出する事はありません。必ず誰かと一緒です。
夏期講習では友人の女の子。
あとは家族と連れ立って歩いてました。
出歩かないのは、しつこくナンパされるせいなのかもしれません。
先日、夏期講習の帰り、友達と寄ったアイスクリーム屋さんでも、チャラい男たちにナンパされてました。
でも詩織ちゃんの両隣に座ってたガタイの良い女の子たちが、ナンパ男たちを威嚇して彼女をしっかりとガードしてくれました。
詩織ちゃんは、女の子にもけっこう人気あります。
笑うと本当に綺麗で性格も可愛いしね。
そんな詩織ちゃんを見てると、女の子たちもほっておけないんでしょう。
◇
ただ詩織ちゃんは、時々、部屋の窓から空をぼおっと眺めてたり、勉強の合間もよく大きな溜息をつきながら考え込んでる姿を目にしました。
──あ、もしかして亡くなった美樹ちゃんの事を考えてるのかな?って私は思いました。
あと夏休みに入って織田君とは一度も詩織ちゃんからは連絡をしません。
逆に織田君の家に私はひょろっと行くと、時々彼は詩織ちゃん家の固定電話に何度か連絡をしてました。でも、詩織ちゃんのお母さんが決まって出て、なぜか詩織ちゃんとは話せません。
多分、居留守をつかわれてるようです。
その時の織田君の落胆した顔を何回か私は目にしました。
見てるこっちが辛くなるくらいです。
──詩織ちゃんは織田君に携帯電話番号すら教えてないのかも。
もしくは携帯の番号を変えたのかも?と。
詩織ちゃんは徹して織田君をあえて避けていました。
一報で詩織ちゃんは、北条君とは携帯で何度かメールのやり取りをしてました。
実際二年生になってから北条君と詩織ちゃんは同クラスです。
織田君だけ別の離れたクラスでした。
北条君だけ詩織ちゃんのメルアドを知ってて、織田君は知らないのでしょうか。
もしかしたらクラス内だけの学校メールなのかもしれません。
当初、詩織ちゃんは美樹ちゃんの一周忌参加は北条君に何度も断りました。
でも、北条君はあきらめません。
何度も詩織ちゃんに携帯のメール、更に電話で説得していました。
でも北条君、なぜ、そんなにしつこく美樹ちゃんの一周忌に誘うのかな?
北条君にとって美樹ちゃんはイトコであり、お母さん代わりの京香さんの為とはいえ、少ししつこくないですか?
その辺は何か理由があるのかもしれません。
それから詩織ちゃんの携帯には、美樹ちゃんと二人で映っている写真の画像がありました。
中学時代の制服を着ててVサインをして楽しそうに肩を組んで笑い合っている写真です。
それをじっと見つめている詩織ちゃん。
一体、二人の間に何があったのでしょう。
詩織ちゃんは、はっきりと自分が美樹ちゃんを殺した!といって失神しました。
『うう、私なのよ、叔母さん、叔父さん、私が美樹を殺したんだわ!』
さっきの詩織ちゃんの爆弾発言が頭をよぎります。
詩織ちゃんは美樹ちゃんの死になにか関わっていたのでしょうか。
( 妖精さん、詩織は私を殺してない、だから心配しなくていいわよ )
!?
突然、美樹ちゃんが私にテレパシーを送ってきました。
──そうなの?
私は美樹ちゃんを見つめました。
美樹ちゃんも私を見つめます。
──ああ、そうだわ。私ったら! 今、隣にいる美樹ちゃんに聞けばいいんじゃない。
美樹ちゃんの直接の死因はあたしだけど、美樹ちゃんと詩織ちゃんは何かその前に、トラブルがあったのかもしれない。
(……そうね、詩織がなぜあたしの死を自分のせいだって思っているか?)
──あ……美樹ちゃん、私の心が読めるんだったね。
うん、そう。どうして詩織ちゃんは美樹ちゃんを殺したといったの?
(それはね、ずっとあたしが詩織に恐ろしい暗示をかけていたのよ!)
え、暗示──、それってどういう事?
( 織田を好きにならないでっていう暗示よ!)
はあ──? 何それ──?
私は美樹ちゃんのテレパシーの言葉がまったく理解できませんでした。




