16. 美樹ちゃんとの対面
※ とうとう美樹ちゃんが私の前に現れました。今回は二人の会話です。
◇ ◇ ◇ ◇
人がまばらになった二階のシアターホール。
機材を運ぶ人が二、三人いましたが、宙に浮かんでいる美樹ちゃんと突っ立っている私を誰も気づきません。
私が美樹ちゃんだと判別できたのはその顔だけでした。
彼女の首から下は白色光を放っていて残念ながら、眩しくて良く見えません。
私はちょっと足がガクガクとすくんで動けませんでした。
──美樹ちゃんだ、美樹ちゃんが浮いている!
私は突然現れた美樹ちゃんの出現に、幽霊なのに慌てふためいています。
美樹ちゃんは先ほど映像や写真で見た、高校生の大人びた顔をしていました。
でも実物の方がだんぜん綺麗だわと思いました。
( 良かった。妖精さん、あなた、ようやく私が見えるのね?)
──え、私が妖精さん?
私はびっくりして口をあんぐりと開けました。
(あ、大丈夫。私たちは互いが霊だから、精神感応で交信できるんだよ。だから無理に口パクパクしなくていいよ )
──え、口パクパクって……美樹ちゃんは私の顔が見えるの?
私はキョトンとしました。
( そうよ、今まで首なしだったのは、私があなたの中に潜んでいたからよ )
え、そうなの? 私に顔があるの?
そう言われた私は、慌てて両手で、自分の顔をぺたぺたと触りました。
──あ、本当だわ。
今まで顎と耳しかなかった、のっぺらぼうの顔に眼も鼻も口も付いてました。
わわ、睫毛もある。わあ~パチパチしてる!
あ~鼻もある。すっごくシュッとして高いみたい。
わあ、指で強めに触るとへなって潰れるわ。
あ、歯もある、なんだかガチガチしてる!
私は自分に顔の凹凸があるのがとても嬉しくて、自分の眼や鼻や口をやたらと触り出しました。
あれ?そういえば、私の髪も鳶色から銀色へと変っている!
私はびっくりして、背中まである長い銀髪を指先にクルクルと巻きつけました。
薄暗くなったホール内でも銀髪はキラキラと光彩を放っています。
(キャハハ、あなたって超面白~い!)
突然、美樹ちゃんはキーが高い声で大笑いしました。
──え、面白い? 私が。
( あはは、面白いわよ、水の精霊ってもっと堅苦しい女の人かと思ったけど、あなたって茶目っ気あるよね~アハハハ!)
──え、茶目っ気? おまけに水の精霊ですって!
私は突然の美樹ちゃんのバカ笑いに面食らうと同時に、私に意味不明な言葉をいう彼女になぜか無性に腹も立ってきました。
なんだか、彼女の笑い方はとても不謹慎な気がしたのです。
美樹ちゃんたら、突如目の前に現れて何なの?
キャハハってこんな時によく明るく笑えるわね。
さっきまでこの場所では、亡くなったあなたを偲んで、多くの来場の人たちが泣いていたのよ!
それを美樹ちゃん、あなただって見てたんでしょう!
そうよ、あなただってさっき、詩織ちゃんを見て泣いてたじゃない?
(あ……詩織ね。そうね、そうだったわね……)
急に美樹ちゃんの笑顔が消えてしんみりした顔をしました。
あ、そうか。私の心がテレパシーでストレートにわかるんだわ。
私はゴクリと唾を飲み込みました。
──ねえ、美樹ちゃん教えて、あなたは霊魂になってずっと私の中にいたって事?
( うん、そうよ。あなたがあたしを食べちゃったから、首なしで死んじゃったんだもの)
──う、そうか。やっぱり私か。
急に私はみぞおちがキリキリと痛み出しました。
でも変だわ、私が湖の精霊って……たしか、私は醜い巨大アンコウだったはず。
(あ、そうか。精霊さんは一年前のあの事故から私が御霊になって、あたしがあなたを取りこんじゃったから、ずっと記憶がないのね )
え、 御霊って……美樹ちゃんは死んだあと、御霊になって私の中にいたっていうの?
一体それは何故──?
( うん、わかる。とっても不思議だよね。本当はあたしも死んだら天に召されたかったけど、でもあたしね、その前にとても後悔してる事があったの。だからずっと妖精さんが目覚める時を待ってた。ねえお願い。あたしに力を貸してくれないかな?)
力を?──私の力って……どういう事?
( あなたは記憶を失っているけど、間違いなく湖の精霊よ!この土地であなたしかできない事があるの。だからあなたはあたしに操られて人間の幽霊になってたのよ。あたしの代わりにあなたが、高校へいって様子をみてくれたのね。多分、あたしだけだったら幽霊にはなれなかった )
──え、幽霊ってそうだったの?
私は美樹ちゃんに操られていたって事?
美樹ちゃんは何も言わず、突然両手を広げた。
彼女の肢体が横に大きく白色に輝きが増していきました。
「妖精さん、あなたに飲み込まれたおかげで、私はただの死人でなく御霊になれた。だから力を貸して欲しいんだ、それには……)
美樹ちゃんは突然、ぐいっと私の手を掴みました。
──あっ!
美樹ちゃんは私の手をギュッとひっぱって、そのまま私を空中にひっぱりあげました。
ふわりと私の体が無重力のように浮かびあがりました。
ふわふわ、ふわふわ。
何だか変な感じです。
( 話はおいおい後でね。もう夕方だよ~、今夜の十五夜満月が登りはじめた。時間がないんだ!)
え、時間がないって…… あ、美樹ちゃん、ちょっと!
そのまま私は美樹ちゃんにひっぱられながら、空中遊泳で二階から一階の控え室に移動していきます。
二階のシアターホールは吹き抜けの階段もありました。
一階に降りると、廊下の奥の突き当り控室のドアは開かずとも、私たちはそのまま扉を通り抜けれました。
詩織ちゃんがベッドで眠っている控室に私たちは入っていきました。




