11. 水族館と美樹ちゃんの死体
※ 最後、ショッキングな表現がありますので御了承下さい。
苦手な方は読み飛ばして結構です。
※ 2025/12/5 一部修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
館内のロビーに入ると、水族館と別館(関係者以外立ち入り禁止)と矢印が壁に分かりやすく記載してありました。
水族館の奥の方を見ると、なにやら碧白くとてつもなく巨大な水槽が壁面に所狭しとあって、魚たちが気持ちよさそうに泳いでました。
私は水族館がとても珍しくて、本館へ行きかけたけど、みんなが小さなエレベーターで、二階に上がろうとしたので慌ててエレベーターに滑り込みました。
二階の長い廊下を渡った先に別館(母屋)はありました。
別館は本館とは独立した建物みたいで、広々とした居間に通されました。
居間はアンティークな朱色テーブルに山百合の生け花が飾っており、白い繊細なレースのカーテンが爽やかです。
両開きの窓は縦に広く、和洋風の洒落た感じです。
「どうぞいらっしゃいませ」
一人、部屋には高齢のお手伝いさんが佇んでいて、私たちにお辞儀をしました。
「さあ、疲れたでしょう。皆、おかけになって頂戴ね!」
京香さんは私たちに座るように促しました。
椅子は六つあったので私も座れました。
「詩織ちゃんたちは、式が終わったら各個別の部屋へ案内しますからね。悪いけど、まだベッドメイキングしてないのよ。とりあえず荷物はここに置いといて待っていて下さいな」
「ありがとうございます、叔母様」と詩織ちゃんがお辞儀をしました。
美樹ちゃんのお母さんはにこっと笑った。そして横にいる北条君のお父さんに
「兄さん、休憩しながらで良いので、式次第の用紙を持ってきますから、一旦眼を通しておいてください」とテキパキと指示をしました。
「分かった、式は予定通り水族館のシアターホールでするんだったな、準備は整っているのか?」
「ええ、業者には既に来てもらって準備万端です。でも司会だから、映像の人と打ち合わせした方がいいかも⋯⋯」
「分かった、だが司会をやる俺が緊張してきたな。あ、父さんとエリックにも挨拶しないといけないな、どこにいるんだい?」
「お父さんは床屋へいってますよ。あの人は羽田に着いたと三時間前に連絡があったわ。多分、式はギリギリになるわね、スピーチもあるから間に合うといいけど⋯⋯」
と京香さんは少しだけ心配そうに眉間に皺を寄せました。
──? 床屋に行っているお父さんは、多分美樹ちゃんのお祖父さんかな。
でもエリックって誰かしら?
「エリックは相変わらず多忙だな。はは、それにしても今朝床屋とは暢気な父さんらしい。まあ元気でなにより。あ、俺の喪服は洋装でいいよな?」
「ええ、もう用意してあります。休んだらすぐに着替えてください」
「分かった。それより喉が渇いたな」
北条君のお父さんは、とても汗を掻いてました。とても暑そうでポロシャツの襟のボタンを一つ外してました。
「そうだったわ。ごめんなさいね。すぐに飲み物を持ってこさせましょう。峰子さんお茶の用意を!」
「はい奥様……皆様は何をお召し上がりなさいますか?」
「あ、俺はアイスコーヒーにしてくれ、シロップは二個ね!」
すかさず北条君のお父さんが言った。
「光たちは何を飲む?」
「父さん、僕も同じでいいよ、でもシロップは一個だけ!」
「あ、俺もアイスコーヒー、但しシロップなしでお願いします!」
「お、海斗、お前ブラックなんてカッコいいな!」
「へへ、まあね。最近ブラックの渋さがわかってね」
と、織田君が大人びた顔をして答えた。
──ぶぶぶ、高校生がブラックコーヒーだって!
私は北条君と織田君の会話が妙に面白くて、ほくそ笑みました。
「すみません、私はコーヒー飲めないのでウーロン茶でお願いします」
詩織ちゃんが申し訳なさそうに言った。
「いいのよ詩織ちゃん。好きなものを飲めばいいわよ。峰子さんお願いね」
「はい、奥様、承知しました」
こうして眺めて見てると、美樹ちゃんのお母さんの京香さんはとてもテキパキしています。
逆に北条君のお父さんは車内では颯爽と運転してシャキッとして見えたけど──なんだか妹さんに甘えてるようで、お兄さんというより弟さんに見えます。
◇ ◇
「お待たせ致しました。お飲み物です」
峰子さんはすぐに、北条君たちがリクエストした飲み物を持ってきてくれました。あとミックスサンドイッチも有りました。
とてもよく気が利くお手伝いさんです。
叔父さんも、若者三人もお腹が空いていたのか、美味しそうにサンドイッチをパクパク頬張っていました。
こうして私たちは、冷たいお茶を飲みながら……といっても私は喉が渇かないので飲むフリだけして、セレモニーが始まる時間まで一休みをしていました。
それにしても美樹ちゃんの一周忌を水族館で行うと聞いて私は面食らいました。
それは三人も同じだったようで、お茶の時間、京香さんに尋ねてました。
その間、北条君のお父さんは司会の打ち合わせで席を外した後、京香さんが何故、美樹ちゃんの一周忌をこの水族館で行おうと決めたのか、理由を教えて下さいました。
◇ ◇
元々この水族館は美樹ちゃんの曽祖父が私財で作ったそうです。
既に曽祖父は大分前に亡くなりましたが、N市の市長も務めた名士だったそうです。
N市の地域開発に貢献しあちこち養護施設や図書館、大型スポーツセンターなど地域の人々の為に尽力しました。国から叙勲も受けています。
この水族館も地域の子供たちの為にと、設立してくれたとの事です。
ひ孫の美樹ちゃんは水族館が大好きで、余りにも好き過ぎて、近くに別荘がいくつもあるのに水族館で寝泊まりしてました。流石にこれはあまり良くないと、京香さんたち両親は、お父さん、つまり美樹ちゃんの祖父に頼んで母屋も作ってもらったそうです。
美樹ちゃんは毎年春休みや夏休みには、N市に遊びに来て、母屋に泊まりフリーダイビングもするスポーツ万能な少女でした。
何よりも美樹ちゃんは湖の中で潜るのが大好きだったそうです。
それが災いしてか一年前の今日、八月十五日、美樹ちゃんは湖に潜っていた時、突然の大嵐で湖の渦に巻き込まれてしまいました。
その翌日、残念ながら美樹ちゃんの溺死体が早朝に岸辺で発見されました。
美樹ちゃんは、首から上が千切れていて余りにも無残な姿だったそうです。
──え、美樹ちゃんの首が?
京香さんから余りにも悍ましい話を聞いた私は、思わずブルブル身体中が痙攣して、両手でのっぺらぼうの顔をやたら触りまくってしまいました。
※ 美樹ちゃんが首無し死体だったとは!




