10. 森と湖の水族館
※2025/12/5 一部修正済み
◇ ◇ ◇ ◇
バンは湖畔沿いの街道を抜けて、左折すると青々とした森林が見えてきました。その中の坂道を登っていきます。
少しすると赤レンガで囲まれた二階建ての大きな建物の中へと入っていきます。
「さあ着いたぞ、降りよう!」
北条君のお父さんが、額に汗をハンカチで拭きながら、大きく息を吐いて言いました。
車内はエアコンが効いていても、真夏の陽射しは強くフロントガラスに日光が反射して、とても暑そうでした。
ようやく目的地に到着したようです。
私はキャラバンのドアを開けずとも通り抜けたので、ひょろろ~っと敷地内にある駐車場から出て、建物の入口へと一人歩いて行きました。
──わあ、ずい分横長で広くて大きな別荘だわ!
ぱっと見た感じ、白亜の建物みたいに真っ白で豪奢でした。
個人の別荘というよりは、二階建てのこじんまりとした外国のホテルみたいです。
私は大理石みたいにピカピカと光って眩しい白亜の階段を数段登って、玄関の両脇にある大きな柱のエントランスの前に立ちました。
正面には『森と湖の水族館』と青色文字の看板が、横文字で大きく飾ってありました。
文字の周りにはカラフルな色をした魚のイラストが、デフォルメに可愛く描いてあります。
──わあ、可愛いお魚の絵なんだ。
あれ……だけど、ここって水族館なの?
私はちょっと驚きました。
◇ ◇
「まあ兄さん、思ったより早かったわね!」
正面ガラスの自動ドアがスッと開くと、喪服姿の女性が笑顔で私を迎えてくれました。
──え、私?
「京香、一年ぶりだな。とても元気そうじゃないか」
あ、北条君のお父さんにいったのか。
んな訳はないよね…⋯
私はのっぺらぼうだけど苦笑いしました。
後ろを振り返ると北条君のお父さん、北条君、その少し後ろから詩織ちゃん、織田君が旅行バックを持ちながら、車から降りてこちらへ歩いてきます。
「叔母さん、お久しぶりです」
「叔母様、こんにちわ」
「……叔母さん……ふぁわ……こんちわ~!」
北条君と詩織ちゃんは礼儀正しく深々と女性に一礼したのに、織田君は欠伸をしながら軽い会釈でした。良く見ると織田君は寝癖なのか前髪が数本、宇宙人みたいにピンと突っ立てます。
織田くんはとても眠そうな顔で目をゴシゴシ擦っていました。
──織田君、なんだかカッコ悪いなぁ。
初対面で見た織田君の精悍なイメージは何処へいってしまったのか?
そんなことはお構いなしに、喪服姿の女性は三人に対して事の他にこやかです。
「光、詩織ちゃん。織田君、良く来てくれたわね。叔母さんとっても嬉しいわ。……美樹もきっとあなた達が来てくれて何処かで喜んでるわ……」
女性は少し声が上ずっていました。
──あ、この京香さんて美樹ちゃんのお母さんなのね。
ようやく私は気付きました。
黒髪、黒目の年相応ですが細面のなかなかの美人です。
「そんな叔母様……あたし……本当は来るのを……」
詩織ちゃんが俯き加減で話そうとしたら、北条君のお父さんが急に遮りました。
「京香、立ち話もなんだから早く中へ入ろう! ずっと東京から飛ばしてきて俺、疲れたよ。お盆休みの渋滞に巻き込まれるのが嫌だったから、みんな早朝七時集合で来たんだよ!」
「それはお疲れさま。兄さん、式は一時からですから……まだ十一時、時間は十分にあるわ。それまで母屋で休んでいてください」
と京香さんは、私たちを労いながら離れへと案内してくれました。




