42 折れない
胸の奥で広がる動揺を、無理やり抑える。
ルイが心配だ。
泣きそうになる。
でも、泣いて何になる? その時間がルイを救うことにわずかでも役に立つ? 立つわけがない。
必死で冷静さを保ち、状況を整理し始める。
ルイは私にとって大切な存在だ。だからこそ、すぐに害したりはしないだろう。
深呼吸を何度も繰り返して、自分を落ち着かせる。
――ルイ。無事でいてくださいまし。
そう願った。
しかしその気持ちをすぐに、切り替える。
いや、切り替えようとする。
私の表情は硬くなり、思考に冷静さが戻ってくる。
焦りの気持ちは消えはしない。頭の片隅にずっとルイのことがある。
だが私は自分の役割を理解している。
弟を救うために何をしなければならないのか、理解している。
私は落ち着いた声が出るように意識しながら、口を開く。
「マッテオ。ヴォルフを呼んで」
私の声は強く、断固としていた。
大丈夫。
私の意志は折れてない。
「は」
ヴォルフはすぐに現れ、彼女が何を要求するのかを尋ねる。彼はすでに事情を理解しているのか、その顔は真剣だった。
「ヴォルフ。お願いがありますわ」
傭兵団の団長は神妙に頷いた。
「部下に命じて、ルイを探してくださいまし。全力で探してくださいまし。さらったのは闇ギルド『黒鴉の巣』ですわ」
「部下にはそう命じよう。だがお嬢。俺ぁ、どうする?」
「ヴォルフも一緒に探してくださいまし」
マッテオが焦りを浮かべる。
「ヴォルフ殿も!? それは、お嬢様の警備が――」
「大丈夫ですわ。フェルナンドの目的は、今夜のパーティで私の婚約者を自分の手のものにすること。ならば、今夜のパーティまで私は安全ということですわ」
「ですが」
「……マッテオ。あなたは私が持つ一振りの剣ですわ。違いますの?」
「……は」
「ならば、私を信じて振るわれなさい。」
「承知、いたしました」
「ではヴォルフ。お願いしますわ。マッテオは少しこの場に残りなさい」
ヴォルフは「わかったぜ。お嬢」と言って去っていった。




