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狂犬令嬢は悪魔になって救われたい~婚約破棄された令嬢に皇子様が迫ってくるけど、家門のほうが大事です~【完結です!】  作者: もちぱん太郎


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29 浄化の炎 / 悪魔の劫火

 私はマルク邸の客間で、彼との話し合いを行っていた。

 私は侯爵家を守ることを望み、一方のマルクは侯爵になりたがっていた。

 そんな構図のもと、私たちは交渉に臨んだ。


 私は侯爵家を守る能力を示せ、というスタンスで話を進めた。

 その結果、マルクからさまざまな情報を引き出すことができた。

 思っていた以上に、彼は悪事を働いていたようだった。

 詐欺、薬物取引、違法奴隷など、数々の犯罪に手を染めていたのだ。


 さらに、彼の家族についても不穏な気配を感じた。

 それらの情報だけでなく、私が最も知りたかったことを聞き出すことができた。

 実は、彼は悪事の証拠をこの家に持ち込んでいたのだった。

 書類を隠すために、わざわざ邸宅にすべて集めてくれて、ご苦労なことである。


 私はその書類が屋敷にあると確信した段階で、マッテオとヴォルフ、そして待機中の傭兵たちに指示を出した。


 暴れろ、と。


 マルクは私に罵声を浴びせると

「曲者だ! 出会え!」

 と、昔の時代劇のようなことをいっていた。


 さすがにマルクの屋敷だけあって、たくさんの護衛たちが現れた。

 二十人近くはいるだろうか。


 マルクは後ろに下がりながらいう。

「襲撃はお前の差し金か!」

 興奮しているのか顔が赤くなっている。


「違いますわ♪」

「ぬ……?」


「差し金っていうのは、誰かに指図してやらせること。あなたのお店を襲撃したのは、私本人ですのよ!」

 そういって私は高笑いをあげた。


「小娘が……!」

「その小娘の手のひらで踊る気分はどうですの?」


 マルクは口をパクパクと無駄に動かした。怒りのあまり声がでないようだった。

「……っ! …………!!」

「お店いくつも襲われて、びっくりしましたわよね。まさか自分の店が狙って襲われてるんじゃって……思っちゃったんですわね?」


「この……!」

「それで『上の方によろしく』『またくる』って言伝で、これからも襲われ続けると思いましたわよね。だから書類を引き上げたんですのよね? 一番安全に見えて、一番危ないこの屋敷へ」


「たまたま、絵図を上手くかけただけのガキが……!」

「仮に偶然だとして、その一発のマグレ当たりであなたはおしまいですの♪ コンテニューはありませんわ」

 まぁ、決して偶然などではないわけだけど。


 私はにっこり微笑む。

「あとはあなたをボッコして、書類という名の免罪符を探すだけですわね♪ 私の知らない店にある分も、全部集めてくださったんでしょう? ご苦労様」


 マルクは両手で頭をかきむしる。

 顔がゆがみ、髪が抜ける。

「ああ! あぁぁぁぁぁ!!! ああああああああーーーー!!」

 叫んで地団太をふむ。


「はぁ、はぁ! だからなんだ! どうしたというのだ! ここでお前らが死ねば証拠も何もない! 殺してしまえ!!」

 マルクが叫ぶと護衛たちが剣を抜いた。

 じり、と私たちを囲むように動く。

、そして襲い掛かってくる。


 狭い部屋の中に密集して迫ってくる男たち。

 彼らには、強い圧迫感を覚えさせる。


 しかし、私のところまでは届かない。

 彼らの前に立ちふさがるのは老執事マッテオだ。

 マッテオの背中が広く大きく見える。


 いつの間にか彼の指には、鋼糸を制御するための指輪がはまっていた。


「室内で鋼糸を避けることは至難ですぞ?」

 マッテオが両手を振るう。

 すると鋼糸がまるで生き物のように踊った。

 たった数秒にも満たないその動作だけで、3人の護衛が倒れる。


 その隣に立っていた端正な顔の傭兵ヴォルフが、顔に似合わぬ荒い口調で喝采をあげる。

「爺さんやるじゃねぇか!」

 ヴォルフがマッテオが倒した敵護衛を踏み越えて突撃する。

 いつの間にか抜き放たれた大剣が敵護衛を断ち切る。

 横から迫る敵護衛を裏拳で殴る。

 それだけで敵護衛は吹き飛び、後ろにいる数人を巻き込んで倒れた。


 ヴォルフは、敵の護衛が殴られた衝撃で手放した剣をつかみ、一振り。

 もう一人が苦悶の声をあげて倒れる。

 そのまま机を蹴り上げて、何人かの敵を吹き飛ばす。


 マルクが焦った表情になる。

「な、なにをしている!! 相手はたった二人だぞ!!!」

 言っている間にもまた数人が地に倒れ伏す。


 マルクが私を指さして叫んだ。

「そうだ! あの小娘を人質にとれぇ!!!」

 その一声で護衛のうちに何人かが私のほうに向かってくる。

 しかし伸びた鋼糸が彼らを貫く。


 そこに追加の敵護衛が部屋に入ってくる。

 しかし彼らは何もできない内にKOされていた。


――この人たち、まぁじで強いですわ……。


 気分はまるでタワーディフェンス。

 敵の出現地点にぶっ壊れキャラを置いたせいで、出た瞬間に敵が消滅するような感じ。

 超絶ヌルゲー。


「ひ、ひぃ……!」

 そんな声をあげて、マルクが扉のほうへとダッシュした。


 私は手で弄んでいた、予備の雷鳴爆装をマルクの進む先に向かって投げる!

 パァン!!!

 強い音が響いた。

 マルクが尻餅をつく。


 その合間にも敵護衛は倒され続け、もはやほぼ全滅。

 マルクの守りはほぼなく、丸裸の王将だ。


 私は尻餅をついたマルクのほうへ、ゆったりとした足取りで近づいていく。


「ひ、ひぃ。く、くるな……!」


「大丈夫ですわ♪ それで、書類はどこにあるんですの?」

 マルクのすぐ近くに立ち、彼を見下ろしながら尋ねる。


「知らん! そんなものは知らん!!」


 敵はもうすべて床に倒れている。

 ヴォルフは入り口の警戒をしており、マッテオは私のすぐ近くに立った。


「知らないんですの? 私、思い出せる方法知ってましてよ」

 私は手をポンとたたいて言った。

「……な、なにを」

 私はシンプルな装飾の厚底の靴――プラットフォームソールをはいた足を持ちあげる。


「こうするんですの」

 マルクの手の、小指を思いきり踏んだ。


「ぎゃ、ぎゃあああああああああああ」


「思い出しました?」

 マルクは苦悶の表情で身をよじっている。


 私はもう一度足をあげて、おろす。

「思い出しました?」


 もう一度。

「思い出しました?」


 マルクは黙秘を貫いていたが、繰り返すうちに、ようやく、絞り出すように場所を言った。


 私はマルクから聞き出した書類と財産を屋敷から回収した。

 連れてきた5人の傭兵たちは別の部屋で暴れていたようで、そのおかげでこちらに来る敵の量は減っていたみたいだった。

 正直マッテオとヴォルフの暴れっぷりを見たら、この二人だけで十分な気もするが。


 財産を運び出していると、マルクの妻(元妻?)や娘が抵抗をしてきた。

 彼女たちは使用人たちに私たちを止めるように命令を下す。

 だが敵の護衛ですら簡単に沈黙させた私たちうぃ、戦闘が本職ではない使用人が止めれる理屈はなかった。


 拳で黙らせた使用人たちに命じて、倒れている敵護衛を外に運び出させる。

「な、なぜ外に……?」

 と不思議がっていたが、家の中に入れたままというのもひどい話だろう。


 私はめぼしいものを強奪した後、最後の仕上げをする。

 マルク邸のご立派な暖炉の周りに、火種をまき散らし、火をつけたのだ。

 暖炉から伸びる火はばらまいた木片や布を燃やし、凶悪な炎へと変化する。


 その劫火はマルク邸自体に伸び、どんどん大きくなっていく。


 マルクはその炎を見つめていた。

 彼の整えられた金の髪は、もはや見る影もなくぐちゃぐちゃになっていた。

 この短時間でやつれているようにも見える。

 今の彼がラヴァル領の首都を牛耳っていた悪徳商人だと言われても、彼を知らない人は信じられないだろう。

 幽鬼のような表情で、燃えゆく屋敷を見つめていた。


「わ、わしの財産が……。一生をかけて、集めた財産が……」

 もはや彼は、最初に私に婚約を持ちかけてきた蛇のような男と同じ人間には見えなかった。

 枯れ果てた老人にしか見えない。


 彼の妻は「いや、いやああああ! なんで、なんで私が! 私たちが!」と半狂乱になっていた。


 娘のマルグリッドは現状を認識することを放棄していた。

「な、なんでわたしのおうちが燃えてるの? そっか。もういらなくなったから、かな? 次は貴族のおおきなおうちに住むのよね? ね? お父様」

「ああぁぁ……わしの、わしのぉ……」

「いや、いやぁぁぁぁぁぁ」


 落ちぶれたマルクとその家族を、彼が今までため込んだ権威の象徴である邸宅を燃料とした炎が煌々と照らしていた。


「なぜ、なぜこんなひどいことを、するのだ……」

 力なく問いかけるマルクに、私は呆れた声を出す。

「先に手を出したのはあなたですわよね」


「なぜ、ここまで……」


「私にかる~くでも手を出していいのは、全てを失う覚悟がある者だけですの」


「き、きさまぁ!」

 マルクがわたしにつかみかかってくる。

 一歩だけ後ろに下がってかわすと、マルクは無様に倒れこんだ。


「だって、ほら。あなたは、私が反撃をしないから。もし反撃をしてもたいしたことないと思ったから、婚約からの乗っ取りなんてナメたことをしようと思ったのですわよね?」

 マルクが「ぐぅぅ」とうめいている。


「だから私はやり返すことにしましたの」

 私の微笑みは、屋敷から広がる炎に照らされていた。


「この悪魔……!」

 恥も外聞もなくマルクは、泣きながら私に向っていった。


「誉め言葉ですわ♪」

 私はそう言って、マルクの頭を蹴り飛ばした。


「マッテオ。衛兵はもうすぐきますわね?」

「はい。お嬢様。傭兵のうち二人を呼びにいかせました」


「まぁ、これだけの証拠があれば、言い逃れもできないでしょうね。いくら衛兵が味方とはいえ」

 私はマッテオに持たせた書類に目を向ける。


「そうですな」

「あと、衛兵の浄化もよろしくですわ」

 私はマッテオに軽く言った。

 衛兵の浄化の下準備は、済ませているのだ。


 以前マッテオに頼んだことのうち一つだ。

『握りつぶせる程度の証拠を提出して、衛兵たちの様子を監視できる人員を用意してくださいな』と。

 なので、今回の事件でマッテオのために動こうとした衛兵はある程度把握済みである。

 それをもとに衛兵を浄化しようとしているのだ。


 そこに、衛兵たちが到着した。

 その一団には、ガブリエル皇子一行も混じっていた。


「やぁ。アデライード嬢」

「……やぁって、ずいぶん気軽い挨拶ですわね。私たちそんな仲じゃないでしょう?」

 私は呆れ交じりに言った。


「そうそう。これ、前回渡さなかった書類と、その利子ですわ♪」

 私はガブリエル皇子にマルクの不正の証拠を渡す。


「一週間以内ですわよね? あなたのお眼鏡にかないまして?」

「…………アデライード嬢。君という令嬢は」


「私と婚約しないか?」

 想像だにしてない提案に「はァん……?」と間抜けな声を出してしまう。


 加えてガブリエル皇子が連れている騎士から

「そいつ絶対やばいやつですよ!? やめたほうがいいですよ!」

 という声があがった。


 失礼ですわね!?

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