天狗と誘拐と女性と 29
御堂視点
もう一つの部屋では御堂と八雲が部屋にいた。
周りの人が寝ていてもおかしくなく、時間は夜。
灯りもなく暗闇に周囲が包まれていた中で御堂は布団に包まれていた。
(今日は作業できなかったけど、今日はまあいいか)
パソコンを使うに適した場所がなかったことに御堂は心の中でうらめしく思っていた。
だが、今回は急ぎでやることはなかったのでパソコン作業を中止しても良いかとも考えていて、寝てもいた。
(今日は寝付けないけど、そろそろ寝れそうな気もするしな)
寝付けないことへ御堂は心の中でこう呟く。
布団に入ればそのうち寝ていることは御堂も分かっているので、気長に構えていた。
そこで静かな物音がする。
(この音は、もしかして……)
布団が動く音、御堂ではなく、その音が聞こえてきて御堂は察していた。
距離を置いた隣の布団から人が動き始める。
「起きてる? サブロー君」
女性の尋ねる声、それは八雲の声であった。
八雲はかかっている布団から抜け出し近づいてくる。
「まあね、寝付けなくて」
御堂は返答の言葉の後に軽く笑いを付け足す。
「それじゃあ、話いいかしら?」
「ああ、いいよ。まだ寝るには先になりそうだし」
八雲が言葉で話を持ちかけると、御堂はそれを受け入れると話す。
そんなに長い時間の話でもないとも考えての判断だ。
御堂は上半身をゆっくり起こし始める。
「そうね、話だけど……私嬉しかった事があってね、その事でいいかしら」
「ああ、いいけど」
その後に八雲は話の内容について語り、御堂は了承を話す。
八雲は御堂が寝ている布団の端に座ると、横顔から表情を見せることとなる。
(八雲さん、ちょっとだけ嬉しそうな表情だな)
八雲のちょっとした喜びを出しているような表情を見て、御堂の心の中で呟く。
こういう表情の八雲は見た事がなかった事もあり、意外な印象がある。
「私ね、自分のことで色々助言してくれてね、嬉しかったのよ」
座りながら嬉しかったことについて横顔を見せながら八雲は語り始めた。
御堂はというと上半身は既に起こしていて、下半身は掛け布団に包まれたままの状態である。
「少し悩んでもいたところだったから、重みが解消されたようだったわ」
「そりゃ、よかった。その人様様じゃないか」
続けてと八雲は悩みについて語る。
話の様子からすると、悩みとしては長く残っていたもので、御堂も本当に良かったと言葉にした。
「ええ、様様。あなたのおかげで、本当に助かったのよ」
「……ん? 俺のおかげ? 俺がなの?」
次に来た八雲の言葉に御堂は戸惑いを言葉にする。
戸惑いの裏には驚きもあった。
どういうことでか分からず、八雲の言葉は今だに信じられなかった。
「そう。あなたがすまほを選んでくれた時よ。私のことでそのままでいいって進言してくれたからよ」
八雲の詳しい話を聞き、御堂にはその時の情景が浮かばれる。
選んだ後に公園で話していた時かと。
「私、あの言葉を聞いて嬉しかったのよ。本当に。それに変わっているって話したことは密かに気にしていたことだから」
「そ、そうだったとは……分からなかった」
更にと様様な話について八雲が話していると、御堂は驚きの言葉で対応した。
あの時はまさかそんな反応だとも夢には思わなかった。
そして、今の八雲の言葉が割と上機嫌だということも。
「あの時は本で表情を隠してあったからな……」
「そうね、つい隠したくなったからよ」
続けてと御堂は分からなかった理由を話すと、つい隠したくなったとあの行動の理由を話す。
「あの時は私もお礼したいぐらいだったくらいだったわね」
「それくらいか……まあ、それくらいだと隠さないといけないのも分からなくはないか」
続きの言葉として、八雲はどれくらいの気持ちだったかと話し、御堂は納得の言葉を出す。
あまりに嬉しければその顔を見せたくはないという気持ちも御堂は分かるため、隠したい理由として納得入った。
「そのお礼だけど、今していいかしら? おまじないをかけようと思うのだけど」
「おまじない? それくらいなら構わないけど」
先ほどまで横顔だった八雲は顔を御堂に向けて提案をする。
提案に対して御堂は受け入れる旨を話した。
お礼としてのおまじないが来るとは御堂は意外の印象を受ける。
「それじゃ、おまじない、してあげる。目を閉じて」
「ああ、分かった」
御堂との距離を詰めておまじないをすると八雲は目を閉じるよう話し、御堂は了解を話すとともに目を閉じた。
(おまじないとは、女の子っぽいところもあるもんだな。八雲さん)
八雲の見せない一面に関心を覚えて、御堂は心の内で呟く。
どんなおまじないが来るのか、どんな言葉で来るか、内心では興味も湧いてきた。
ただ、御堂は八雲が必要以上に近づいている事を把握まで出来なかった。
それは、おまじないをやるにはおかしい距離だという事を。
目を閉じている間に八雲は御堂の左右の肩にそれぞれの手を置く。
その手は直ぐに御堂の首の後ろへと回っていく。
違和感は感じていた御堂だが、それでどうしていいかも戸惑いがあった。
その戸惑いの中で
(!!)
御堂は言葉にならない驚きが出て、目を開けてしまう。
いや、言葉は出なかった。
八雲が御堂の口を覆っていたからだ、八雲自身の口で。
驚きは御堂の時間を止める。
この光景は誰もが男女のキスと判断するだろう。
そして八雲は御堂の方へと体重をかけていき、御堂は成すすべなく受け入れていく。
八雲は口を離して御堂を自身の身で押し倒すと共に、器用に御堂の下半身にかかっている布団を蹴って払い除ける。
今、御堂は八雲と密着した状態で押し倒された状態だ。
胸も腰も八雲と向き合って密着の状態、間に掛け布団の妨げもなく。
八雲の口は笑みを浮かべていた。
「……!」
その状態で、八雲はもう一度自身の口で御堂の口を塞ぐ。
更には胸も腰も密着したまま緩急をつけて押し付けてゆするように八雲は擦り付けもしていく。
そして、塞がった口は舌を絡めていく、貪るように。
御堂の頭は八雲の腕で固定もされていて、成すすべはない状態だ。
唯一出来た御堂の行動も八雲の肩に手を置くだけで、力も入らなかった。
御堂は八雲に独占される形で貪られていた、どれくらいの時間かも分からず。
そして満足がいったのか八雲は動きを止めて口を離していくとともに、長い髪をかきあげる。
「私のことだけを考えて」
ただ一言を八雲は話す。
その姿に何の考えも浮かばず、御堂は言葉も出ず、八雲の言葉だけが御堂の中をこだました。
その中で、八雲は舌なめずりをする。
「そういうおまじないをかけたから」
「……」
おまじないだと八雲は話す。
これまでの驚きの行動がおまじないだったかと、御堂はようやく無言の中で理解をした。
そして、密着した体をゆっくりと八雲は離していき、御堂が寝ている布団から離れていった。
「これからもよろしくね」
「……は……はい……」
口から笑みを浮かべて、八雲は言葉をかけて、御堂は無意識から肯定の言葉が出てきた。
もしかすると洗脳とはこういう状態なのだろうか。
いつもの御堂の意識や理性は何処かへと消えていた。
最後に八雲は自らの布団へと向かって包まれていき、御堂はしばらく何も動けずにいる。
その後は時間をおいて御堂はかけ布団をかけて寝ることにしたが、朝まで寝れなかったことはこの時点では分からない。




