天狗と誘拐と女性と 28
前半愛川視点。後半柄池視点
もう一方の部屋。
こちらは夜の就寝にまで時間を進める。
部屋は電気を消していて外の暗闇が部屋にも浸透していた。
その中で愛川は布団に包まって横になっている状態であった。
その距離を置いた隣には古賀松も寝ている。
愛川も白河や女将の件で複雑な感情はあったものの、整理はつけてもいた。
(マッツの方は気分が悪くない様でいいのだけど、うーん……)
古賀松から背を向けて、愛川は呟きを心に押し留める。
部屋に入ってから二人は普通に会話をしていて、古賀松は下調子の様子でないことはわかったのだ。
先に愛川から触れると危ないと冗談もあって、そこから落ち込んでいる様子はないとも分かる。
しかし、愛川には別件の理由があって古賀松とはどこか距離を置いていた。
(最初の胸について言った事があるから……やっぱり)
古賀松には顔を向けず、愛川は距離を置く理由について心で語る。
距離を置きたい理由に最初に会った時の愛川の胸についての発言もあってなのだ。
あれから古賀松の事も見直す部分は多かったのも事実だが、やはりあの胸の発言は悪い意味での心残りになっていた。
古賀松との会話はほかの皆よりもぎこちない状況である。
(こういう距離感、やっぱ悪いよね……)
古賀松に悪いという感情を愛川は聞こえない様に心情を話すが、それも変えることはできない状況であった。
ここで古賀松の声が聞こえてくる。
「ちょーっと、いいかい? 愛理栖ちゃん」
古賀松の声に戸惑いが愛川の中から先に出てくる。
まさか、この場で何かするのか、そんな考えも頭の奥から湧いてくる。
その考えもあって寝たふりでやり過ごすべきか悩んでもいた事が戸惑いの要因にもなる。
「最初に会った時に愛理栖ちゃんに言ったことは俺悪いとは思ってるんだ。俺なりの自己紹介のうちだった訳なんだけどね、これ」
返しの言葉を出そうか考えていた時に先に古賀松から続きの言葉が来てしまう。
おそらくは古賀松も愛川と同様に、愛川の方に顔を向けていない。
声の響き方がそれに近いため、そう判断する。
「だから、本当にごめんね。これ聞いているか分からないけど、言っておきたいから話しておくから」
そのまま言葉を続けて、古賀松は謝罪をした。
愛川は無言を貫いていた。
(その、黙っていたほうがいいかもだし……このままで……)
申し訳なさも感じつつ、愛川が言えない言葉を心で呟く。
油断させて、という線も頭の中にちらちらしていてこの状態で行こうと最終的に判断する。
「これを聞いていたとして、こっちから距離を縮めて欲しいって話ではないからね。あくまでも謝りたいってことなんだよ」
更にと古賀松は謝罪の補足を言葉でもする。
「じゃあ、邪魔してごめんね。寝ているなら、そのままでいいから。それじゃ」
古賀松は会話の終わりを話す。
それから古賀松の声はしなかった。
更には古賀松からの物音も小さなもの含めてしなかったのであった。
「こっちこそ……黙りっぱなしでごめん」
愛川は小さな声で対応を謝る。
それから、愛川、古賀松はこれ以上のことなく、朝までを寝て過ごした。
もう一つの部屋では柄池が座敷の上で準備をしていた。
こちらは風呂に入る前の時間であり、今柄池は風呂に入る時に持っていくものを用意していたのであった。
「今日は大変だったね、巻き込まれて」
労いの言葉として、同じく部屋にいる大越が大変だっとねと声をかけてきた。
その大越は布団の上で寝そべっていた。
「ま、まあね。まさかこんなことになるなんて、思わなくて」
準備を進めつつ柄池はこんな風になるとはと話す。
八雲から進言はされていたとはいえ、女性絡みで二回も巻き込まれるとは思いもしなかった。
「もしかしてさ、女将さんって雪紗季さんって名前なの?」
「あ、そうなんだよ、よく知っていたね。どこで知ったの?」
とここで、大越は女将の名前について聞く。
その質問には肯定で柄池は答えて、知った経緯について聞き返す。
「女将さんが化者の時に9人揃ってご対面したときあったでしょ? あの時、柄池くんが雪紗季さんって言ったから、それで名前が雪紗季さんってことかと」
「ああ、あの時」
解説する大越に柄池は納得の言葉を出す。
皆と離れている時に知ったかと思ったが、皆が揃った時の柄池の言葉から知ったようだ。
柄池の言葉の後に大越は体の向きを柄池へと変えた。
「その名前、どうやって知ったのー? 気になるぅー」
「んー、そこ聞いてくるか……」
そして笑みを浮かべて大越は質問をした、柄池が名前を知った経緯を。
柄池としてもホロ苦い顔をしつつも答えないわけにはいかないかと言葉を返す。
隠してもしょうがない事でもあった。
「あそこに連れ去られた時ね、雪紗季って呼んで欲しいって言われたからね、それで」
「ほほーん。愛して欲しかったって言ってたしね。女将さん」
あと持っていくのに忘れているものはないかと確認しながら、柄池は大越の質問へ解答して、大越も納得の声を挙げる。
大越の声も上機嫌である。
「で、女将さんは好きなの? 柄池くん」
「あー……そこも聞いてくるのか……」
両腕で顎を支えて、大越は質問をして、柄池はさらに苦味を増した顔になって言葉を出す。
この質問によって持っていくものの確認の動作が止まった。
(雪紗季さんがあれだけのことすれば、女性は気になってくるとこかな)
女将がやったことを思い出し、この質問をされる理由として十分な出来事だと柄池の心の中で判断する。
「その質問には、分からないってしか言えないね。何せ今日会ったばかりだから」
「そっかー、ほほー」
判断の後、柄池は分からないと答えて、大越は理解の言葉を出した。
(それに、もうあの人は離れると言ったんだ。俺の気持ちがどうあったって……)
言葉とともに柄池の脳裏に自らの考えがよぎる。
女将が自ら柄池から離れると言った以上はこちらから何かをしてはいけないとも考えていた。
「柄池くんは本当にモテるね、化者に」
「え!? そうかな……?」
大越の言葉に柄池は驚く。
モテると言われたことで白河のことも含めての言葉かと思っていたが、驚いた理由は別にあった。
(八雲さん、もしかして化者の女性にモテること大越さんに言ったのか?)
会話の中で浮かんだ八雲のこと、八雲が大越に化者にモテると話したのかと疑問が浮かんでいた。
その中で先に大越が言葉を出す。
「実はね、私……愛理栖ちゃんから聞いちゃったの。柄池くんと白河さんのやったことを」
「ああ、そういうこと……え!? そういうことなの!?」
先ほどの発言について大越は発言できた理由を話すと、柄池は驚きの言葉を出す。
柄池は八雲のことではないと安心はしたが、別のことで驚く。
白河が誘ったことが大越と愛川にバレたことだ。
「愛理栖ちゃん、心を読む力があるでしょ? それで白河さんの心を読んで知ったわけよ。これは私と愛理栖ちゃんだけが知っているとだけ言っておくわよ」
「そうか……それで知ったと」
知った経緯を大越は話して、柄池は納得を言葉に表しておく。
二人だけが白河の誘いを知っているなら、まずは大丈夫か。
他の皆にバレたとしても茶化されるくらいだろうが、一応は二人だけが知っていることに留めて貰いたい。
「あなた本当にモテるねー。女性から強硬な手段で攻められるってのも分かる気はする」
「否定はしたいけど、今回の事があるとあれだね。上手く否定できない」
指摘として大越は今回の事を話し、柄池は否定したい気持ちはあるとも話した。
確認の段階で止まっていた柄池は行動を再開する。
「周りの女性からも気をつけたほうがいいかもよ」
「ああ、ほんとそうだね」
その指摘を元に大越から注意の言葉をもらい、柄池は同意の言葉を出した。
八雲も同じ事を言っている上、今日の事があれば、同意せざるを得ない。
ここで一つ気づいたことがある。
周りの女性がもしも仲間も含まれているとすれば。
「ん、その周りの女性に、大越さんが含まれるってこと?」
「え? 私? 私は……って、化者の女性の範囲で言っているのよ、その範囲に私が入っているって?」
気づいた事を柄池は言葉に出すと、大越は戸惑いながら否定の言葉を話した。
「あ、あの言葉だとそういう意味になるか。ごめん、勘違いしていた」
「別に謝るまでのことではないけど、そういうことなら」
否定の言葉で思い出し柄池は謝った後、大越は手を振って謝る必要はないと話した。
柄池としても化者の範囲を失念していたので、一つ前の言葉は大越も化者だと言っているようなものだ。
流石にそれは違うので、柄池は謝罪をしたほうがいいと判断をする。
また、中断していた持っていくものの確認作業を再開させて、柄池は問題ないとも確認ができた。
「あと、そろそろ風呂に行ってきたいんで、この部屋のことは頼んだよ」
「うん、しばらくこの部屋にいるから、私は」
荷物をまとめて、柄池は風呂に行くと話すと、大越も行ってきていいと言葉が返ってくる。
大越が部屋に残るのであれば、留守の心配もないであろう。
そして、柄池は部屋を出て行って、風呂へと向かうのであった。




