天狗と誘拐と女性と 25
大越視点
「いや、ダメだ」
柄池の見逃す提案に対して龍富の言葉は冷静な否定であった。
「え……? な、何でだよ? 迷惑かけたのが柄池だけだったら、見逃すって話だろ?」
「頼むよ! 俺だけなんだろ迷惑をかけたのは?」
すぐ食いついた言葉は古賀松のもので、その後に柄池も再度の提案を申し込んだ。
それでも龍富は顔色を変えることはない。
「今回な、迷惑をかけたのはガットだけじゃない」
顔色の変化なく龍富は否定の要因を話した。
のちに龍富は腕をとある人物に向ける。
「朱鷺子さんもだ、その腕の傷は女将につけられたからだ」
冷静な龍富の言葉は柄池の顔色を変えていた、まずい方への驚きへと。
大空もまたこの発言には驚きへと顔色を変更させていた。
「これがか!? こんなのアタシ、こけたと誤魔化したっていいんだぞ!」
傷のついた腕を出して大空は問題はないと龍富に反論をする。
御堂、大越、愛川、白河は戸惑いの様子で見ていたが、その中で八雲は無表情で経過を見ていた。
「おい! 龍富! 頼むよ、朱鷺子もこう言っているんだしよ! いいだろ!?」
急いで龍富に駆け寄り古賀松は龍富の肩を掴んで話をつける。
「ダメだ。何を周りが言っても変わらない」
変わらずと龍富は顔色も変えないで話す。
古賀松の焦りは焦燥へと段階を踏んでいた。
「いいだろ? なあ? 王駕くんって言ったことは謝るし、これから言わないようにするからさ!」
「そういう問題じゃないんだよ。もう諦めろ」
龍富の肩を揺らして古賀松は見逃すように話す。
龍富はそれで顔色を変えることもなく、冷静に言葉を突きつけた。
「ガット以外の人間、朱鷺子さんに傷を付けた。それをほっとくことはできないんだよ」
もう一つ移動しながらの龍富の言葉。
その龍富の言葉を聞いて、手はそのままで古賀松は黙って視線を下げる。
「そろそろいいか? 女将に錠をつけなきゃいけない」
未だ肩を掴んでいた古賀松の手を払いのけて龍富は言葉とともに女将へと歩んでいく。
(こんな……こんなことが起こるなんて……)
言葉を出せない大越は心の中で戸惑いを呟いていた。
その中で古賀松は立ち尽くし、龍富は古賀松に目をくれず歩んでいく。
その光景を柄池は悔しさ混じりの複雑な表情を浮かべて見ていた。
「大変申し訳ありませんでした……皆さんに迷惑をおかけして……」
女将は頭を下げて、謝罪をした。
この言葉と龍富の足音だけが空間を支配していた。
「その……雪紗季さん。こんな結末にさせてしまって……すいません」
その空間に柄池の謝罪が割って入った。
「いいのよ、私はこんなことになる覚悟でやったのだから。柄池君と金髪のあの子を責めちゃダメよ」
「でも……こんなことになったのは……」
優しく許容のある表情で女将は自らを責めてはいけないと話すと、柄池は納得がいかないと話し始めた。
「いいのよ。こんなことにブレーキをかけられなかった私が一番いけないのよ。責めないで、自分を」
女将は柄池の話に腕を掴んで、自分が悪いと話す、柄池を説得するように。
対して柄池は無言であった。
「そろそろ捕まらないといけないぞ」
女将に寄ってきた龍富は錠を手に持ち言葉をかける。
「でも……最後に一ついい? 柄池君」
「えっ……何か?」
女将は最後にと提案をすると、柄池も聞き返した。
柄池も嫌な表情はせず、前向きに受け止める可能性がある。
「もう一度だけ……もう一度だけ、抱いてくれる? これで踏ん切りをつけたいから」
「おい、そこまでは許可できないぞ」
抱いて欲しいという女将の話、龍富は許可をしないと発した。
龍富の言葉は口調が強く咎めの色が混ざっている。
触れる時間を増やせば、おおごとを引き起こす可能性も共に増えると考えて龍富は許可しないのであろう。
大越もその考えは理解出来た。
「そもそもまた触れるなんて、何か」
「リュート! 待ってくれよ……」
龍富が言葉を続けると、強い口調の言葉が制止を呼びかける。
その制止の言葉は柄池のものである。
続けてと柄池は口を開く。
「そんな姑息な手段使う人じゃないってば……」
たしなめるように柄池は説得をすると、その言葉に龍富は黙っていた。
龍富も錠をつけることには別の情も持って入るのかとも大越は見ている。
「では……一回だけ、これで終わりです」
無言を許可をもらったと判断して、柄池は女将の願いを言葉でも受け入れた。
女将の表情も曇ってはいたが、晴れの兆しも密かに見える。
その女将を柄池は静かに手で引き込んでいく。
女将は身を委ねて抵抗の一片も見せなかった。
「ああ……」
静かに抱かれて女将は声を漏らす。
その女将の表情は安らぎが見えていた。
大越と愛川、御堂、大空、白河、そして龍富が複雑な表情の中で、八雲は無表情、古賀松は顔そのものをそらして表情を見せようとしなかった。
「では、これで……終わりです」
抱いた手を離して柄池は告げ言葉と共に女将から距離を置いた。
女将はそれを受け入れて何もせずにいた、名残の残る表情と共に。
「ええ……ありがとうね、柄池君。これで、あなたから離れられそうよ」
「じゃあ、錠をつけてくれ」
女将は優しい顔で礼を言う。
その顔に大越は決別が完全に出来た表情かは分からなかった。
その礼の後に龍富は言葉と共に錠を女将の手につける。
これにて柄池が誘拐された騒動について解決へと至った。




