天狗と誘拐と女性と 24
大越視点
愛川が女将に飛びかかってそのまま両者が倒れていく。
不意をついた愛川の方が上に位置してそのまま床へと倒れこんで行った。
女将の頭は愛川の胸に埋もれている為か蓋をされたような小さい声が女将から出されていた。
「助かった……な……」
「そうみたいね」
解放された柄池に視線を向けて龍富は状況を呟き、同様に白河も柄池に視線を向けて呟く。
「俺の手は無事じゃ無いけど、それはまあいいとする。骨折かヒビでも入っているか……?」
「大丈夫だった? 遠慮なく踏んでしまったけど?」
自身の手を見つつの龍富の言葉に白河は心配の言葉をかける。
踏んでも構わないと話したのは龍富だが、心配する白河の気持ちも分からなくはない。
「ああ、気にしないでください。すぐ直せる範囲ですし、これぐらいやらなければ、壊れなかったはずですから」
手を動かしつつ龍富は気にするなと話した。
手の痛さは隠せないようで動きも鈍く、更には若干顔が歪んでもいることが大越の目でも分かる。
「愛理栖ちゃん! 怪我はない?」
「え、大丈夫だよ。痛い所はないし」
そして大越だが愛川の元へと近寄って、怪我はないかと心配の声をかけると、愛川は返答をした。
「だって、氷が落ちきってない所で突っ込んで行ったから、傷が無い方がおかしいでしょ? あなたは……」
その愛川の返事に大越は傷が無い方がおかしいと反論する。
現に壁を破ってすぐさま通過したのが愛川であり、氷のかけらの中を駆けていったので鋭利な部分に触れてないとおかしくあった。
大越は傷がついている場所に人差し指を指す。
「ほら、ほっぺに二つ小さい傷が……」
「え? あ、本当だ。気づかなかった……」
指を指して大越は二つ傷があると話すと、愛川はその場所を触って気づかなかったと話した。
現に二つほど顔に傷がついたもの、不幸中の幸いか傷自体は小さく、対処もすれば傷の跡も残さずに直せるだろう。
「でも、幸い小さい傷でよかったね」
「あ、そんな感じなんだ。でも服も切れ込みが入っちゃったのは……」
不幸中の幸いと小さい傷でよかったと大越は話して、愛川は切り込みが少し入った服を見て言葉を出す。
女性の顔に傷が出来ることはダメージとしても大きいこと。
出来るだけ、傷は避けたいことである。
「大きな怪我じゃなくてよかったわよ」
「愛川さん。そのままでいなさいよ。女将さん、拘束しているわけだから」
結果をまとめた言葉として大越は呟くと、八雲から拘束を続けるようにと言葉が来た。
「はーい」
手の代わりに頭をあげて愛川は了解を伝える。
その女将は愛川の下で大人しくしていた。
特に命の危険になっているそぶりは見せていないようである。
そこで大きく穴が空いた壁から皆が通り抜けてきたのであった。
「で、柄池の方だけど……大丈夫か?」
「こうなっちゃったけど、身体そのものには傷はない感じだな」
御堂は柄池に無事かと聞くと、手を動かして無事を言葉でも伝える。
よく見ていると拘束していた氷は柄池から無くなっていた。
「そういえば、氷くっついてなかったのか?」
「それが、ついさっき氷が砕けて問題なく動けるようになったと。拘束の氷自体も冷たくはなかったから凍傷も無しだ」
氷について気付いた御堂はその事を口に出して、柄池は問題ないと答える。
柄池は軽やかに両手を動かして動きに問題ないと体言する。
「ガットが無事ならそれはいいんだ。で、そっちの女将についてなんだが、そろそろ話せるようにして欲しいんだ」
「あ、はーい」
女将に用があると龍富は話せるようにして欲しい事を愛川に伝え、それに愛川は体をずらして了解の返事を伝える。
女将は抵抗の意思はないのか顔が自由になっても特に暴れる様子もなかった。
「さて、色々聞きたいけど……まず言っておきたいことはあるか?」
「もう、こうなったらどうしようもないかしらね。抵抗なんて意味もないでしょうし」
倒れている女将を見下ろし、龍富は女将が言いたい事を先に聞く。
その答えに女将は抵抗の意思はないと口からも話す。
「あと柄池君の氷だけど、それは私が倒れた時に私の意思で解除させてもらったわ。私にはもう意味もないからね」
「あ、あの時にですか……解けたのは」
女将は柄池へと頭を向けて氷の解除について語ると、柄池は女将の意思であの時に解除したのかと驚きの言葉を出す。
「柄池君にはもう何もしないってことかしら? 抵抗するならそのままにしておくし……」
「愛川さん。もう女将さんから離れていいよ」
抵抗はないと柄池を拘束から解いたとの言葉で、白河は抵抗はしないと言葉でも信じ、龍富もまた女将の解放を指示する。
「はーい」
了承の声を出して愛川は女将から離れると共に立ち上がり、女将もまたゆっくりと立ち上がり始める。
(抵抗するなら柄池君は拘束したままにするから、確かに抵抗はしないかもね。私が抵抗するなら、柄池君はそのままにするし)
そのやりとりを見て大越もまた白河と龍富の意見に心の中で同意していた。
「で、なぜこんな事を?」
「柄池君に愛されたかったからよ」
次に龍富は行動の理由を聞く。
女将は率直に答えを返した。
「愛されるためにはこうするしかないと思っての行動よ」
「そうか……随分と無理矢理な愛だな」
ためらいもなく静かに女将は行動の理由を話すと、龍富は冷静にこの解説について語った。
愛川と古賀松の表情は複雑な色に染まっているのに大越は気づく。
「その……リュート。今回は見逃して欲しいんだけど、大丈夫だよな?」
「そ、そうだよ! さらわれたのは柄池だしな! 今回は見逃せるよな」
柄池は何かしらの雰囲気を読んだのか龍富に歩み寄って話を持ち込み、古賀松もまた柄池の提案に便乗する事を話す。
しかし、それで龍富が起こす反応は無言であった。
「俺からもこんなことは二度と無いように話しておくから、それでいいだろ?」
再びの提案が柄池から出てくる。
その後の龍富の反応はこの言葉であった。
「いや、ダメだ」




