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天狗と誘拐と女性と 23

龍富視点

 龍富達が壁に穴を開けている最中に一方で柄池と女将は会話を始めていた。

 最も立場は女将が一方的に有利であるが。


「もう、こんなことをしたって何にもならないじゃないですか! 雪紗季さん!」


「そんなことはないわ。私の愛を受け入れてくれれば、柄池君も愛を……」


 仰向けだが、言葉で意味がないことを説くと、女将はその話を否定する。


「そんな……」


 同様の言葉かと思えば、柄池は続けて言葉を出す。


「そんなのまやかしです」


 視線を女将に合わせて、静かながら強い意志で、柄池は言い放った。

 その力は女将を静止させるほどである。


「愛を押し付けて触れ合った所で、お互いに愛し合えるわけないです。もしもそれで得られるものがあっても、それはまやかしの他はないです……だから……」


 これからの行動には得られるものはないと柄池は言葉と視線で語る。

 女将もまたそれを静かに聞いていた。


「そう……かもしれない……わね」


「じゃあ、やめましょう! 俺もリュートに言えば、引き返せるはず」


 視線を下げて女将は一応の肯定を言葉に出す。

 聞いた柄池はここぞと止めるように訴えた。

 しかしだ。


「でもね……それでも辞められないのよ」


 制止は効かないと女将は語る。

 いけると踏んでいた柄池の表情は期待の裏切りを受け入れられなかった。


「まやかしや幻想はね……現実よりも甘味なのよ」


 続いて女将は語る、まやかし、幻想、それは甘味と。


「何故なら、あってほしい現実だから、それが一瞬でも本物になるなら私はどんなことだって……!」


「でも、まやかしにすがったって……それで手に入ったものは残らない! こんなことまでするのはダメですよ!」


 女将はまやかしにすがりたい、柄池はまやかしにすがるべきでないとの意見、この二つはお互いを受け入れられなかった。


「そろそろ、柄池君にも高揚してもらいたいのだけど……これでどうかしら?」


 言葉と共に女将は肩と胸の上半分を露出させ、更には足も露わになるまで着崩し始めたのだ。


「それでも、それでもダメです! 冷静さを戻してください!」


 それに対して柄池は制止の言葉を出しつつ、悪足掻きの暴れを行なっていた。


(本当は急いで貯めるのは不味いんだけど……!)


 その柄池の様子は龍富の心に焦りの言葉を生み出すに十分である。

 予定より早いペースで力を貯めることを龍富は決めた。

 この決断は不利なところもあったが、やむを得ないと覚悟を決める。


「くっ……急いで崩したいのに、まだ壊れないのかしらね!」


 同じく見ていた白河は壊れるのはまだかと苦い顔で愚痴が出てきた。

 その白河に向けて龍富は口を開く。


「予定より早く準備を無理やり終わらせます! 白河さん、あと一回お願いします!」


「そう! じゃあ、今すぐ行くわ!」


 予定より早めると龍富は話すと、白河は了承を伝えた。

 本当であれば後二、三回は蹴ってもらいたかったが、事情が事情だ。


「とりゃ! ……これでもダメなのね」


 声と共に白河は助走をつけて蹴りを入れる、だがそれでも壁は壊れない。

 しかし、龍富は次の手を打てるまでにはきていたのであった。


「待たせてすいません! ありがとうございます!」


「それじゃあ、終わりってことね!?」


 謝罪と共に龍富は白河に礼を言い、龍富に視線を合わせて白河は準備完了かと聞く。

 龍富は頷いた。


「壁に刀を刺しますので、その後押し込むように持ち手を蹴ってください」


 走って移動しつつ龍富は指示を出す。

 その後、刀を穴に差し込み、離れようとした。

 だが。


「ダメか……このままでは……」


 刀から片手を離しただけで大きく光が溢れてきた。

 これは炸裂してしまう前兆で、これでは壁を壊すどころか、退魔力とかけた時間を無駄にしてしまう羽目になる。

 時間を早めて貯めたツケはここで出てしまったようだと急いで、龍富は両手で退魔力を抑え込む。


「ちょっと龍富君! 底の方だけでも手を退けてくれるか、別の持ち手を握ってくれないと……」


「すいません、そのどちらも今は無理そうです……こうして片手は底を抑えないと」


 その龍富の状態に別の持ち方を白河は提案すると、龍富は無理だと返した。


「それじゃ蹴れないわ、蹴れたとしても貴方の手を……」


「……俺の手ごと、蹴りで押し込んでください。こうするしか、ないと思います」


 蹴れないと言葉を出す白河に龍富は自身の手ごと押し込んでくれと頼む。


「……分かったわ。遠慮なくいったほうがいいかもね」


「正直、片手を抑える方法以外もあっていいんじゃって思いますが、戸惑う暇もないです。お願いします」


 その頼みに白河は遠慮なく行くと受け入れ、龍富は戸惑う暇もないと伝える。

 他の手段があればそれをしたいとも思う。

 しかし、その方法も思い浮かばない以上はこの方法でいくしかなかった。


「じゃあ、蹴るわよ。手ごと」


 言葉と共に白河は走っていった、龍富の刀に向けて。

 十分な助走をつけた白河は飛んで、足を龍富の手に向けて足を出す。


「はああっ!」


 言葉でも爆発させて白河は龍富の手を巻き込んで、刀へと蹴りを通じて力を押し込む。

 当然の如く、龍富の手にも衝撃が来た。


(これで、行ってくれ!)


 龍富は痛みにも耐えつつ、行ってくれと心中で祈る。

 愛川も大越もまた祈るように手を合わせている。


(この手を……離してはダメだ……!)


 それでもと龍富は強く念じた、手を離さないようにと。

 ここで手を離せば、準備も振り出しに戻って再びだ。

 ならば、手を離すわけにはいかない。

 手の痛みはどれほどか分からないが、痛みの時間は長く感じた。


 そして龍富の刀は更に強く光り

 ひびが入る音が鳴り始めて

 氷の破砕音と炸裂音が響いた。


「え……?」


 その破砕音の中に女将の驚きの声が聞き取れる。

 他の声もあったかもしれないが、龍富が聞き取れたのはここだけ。

 更には一つの影が龍富の脇を通るのを目撃する。

 その人影は真っ直ぐに女将の元へと駆けて行った。


「とあぁ!!」


 駆けた人影、愛川は声と共に女将へと飛びかかる。

 驚いていた女将はそれに対して避ける動作もできなかった。

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