天狗と誘拐と女性と 16
柄池視点
柄池は寝ている時と目覚めている時の意識の境にいた。
そして気づくは周りが妙に冷える事。
5月にしてはこの気温はおかしい。
場所が急に北の地方に移ったのか。
柄池は先ほどまでと違う気温に起こされることになる。
上半身を起こして周りの情景を目に入れる。
「え? ここって……?」
柄池の驚きの言葉。
ここは壁もコンクリートで塗装されているが、天井が土で覆われていて壁も所々岩がむき出しになっている。
「俺、こんなところにいた覚えないんだけど……」
柄池が出すは戸惑いの声だ。
突然の場所の移動で柄池も戸惑いがあった。
「そもそも、ここにいる理由って……」
ここに来た経緯、それと意識のある時の行動を思い起こすて柄池は呟く。
と言葉の後に女性が奥のドアから開けて入ってくる。
その女性は水色の髪をまとい、白の着物を身につけていた。
「気が付いた?」
女性は柄池に声をかける。
あったことのない姿だ。
「あれ、あなたは?」
「この姿じゃ分からないかもしれないわね……柄池君」
あったことのない人に向ける言葉、それを柄池は出した。
女性の方は面識がある様で、柄池にはない、が、柄池ももしかしたらと思うところもある。
(声……聞いた事ないけど、でももしかすると……)
視線を上に持ち上げて柄池は思考をする。
話し方の雰囲気が似ている人が柄池の記憶にあった。
「女将、さん……ですか?」
「そう! そうよ! 旅館の女将の氷村よ!」
その記憶にある人物を駄目元半分で柄池は出すと、喜びつつ氷村は柄池の答えを肯定した。
氷村はあまりの喜びに柄池に駆け足で寄ってくる。
「私のことが分かってくれるなんて……こんな姿なのに」
駆け寄りつつ氷村は言葉を出す。
同時に柄池の手に触れようと手を伸ばそうとするも、氷村は急に手を引っ込める。
「話の雰囲気がどことなく丁寧でしたから、その姿でも以前の姿でもそこは変わってませんでした」
「あら、女将やっていて職業病に近いものかしらね」
柄池は分かった理由について話すと、氷村は職業病のようなものかと返した。
氷村は笑いつつ答える。
口調も最初に会った時より砕けてはいるも、それでも丁寧で聞いてて気分が悪くはならなかった。
「あと、この場所なんですが……」
「ここは、旅館の地下なのよ。私しか入れないところ」
柄池の疑問に氷村は地下と話す。
地下だとすれば、この場の気温に合点が行く。
「そうですか、なんとなくそんな気はしました」
柄池は大体の想像通りだと話した。
急な移動といえど、そこまで遠くに行くことはおそらくない。
その考えを元にすると、旅館の近くとの推測が出てくる。
しかし、聞きたいことはこれではなかった。
「あと、なんでこんな場所に……直前に何があったかも、分からずで」
柄池は首を傾げて詳細に疑問を出す。
部屋に戻ろうとして移動していたことまではわかるが、そこから先までは記憶にない状態である。
その疑問に氷村は表情が曇り色に染まって視線を逸らす。
「その疑問には答えるけど、その前に……一ついい?」
「良いですけど、何か?」
視線をそのままで氷村は提案を言葉にする。
答えてくれるなら、先に氷村の提案を受けても問題はないと、柄池は話を受け入れた。
「私ね、下の名前、雪紗季って言うの……だから……」
恥ずかしがるそぶりを見せて氷村は名前について話す。
「その……雪紗季って呼んでほしい……」
「あ、そうですか。雪紗季さん……こんな感じで良いですか?」
氷村の提案に返事とともに提案の実行を柄池は言葉に出す。
氷村はすぐに柄池に視線を向けて晴れやかな顔を見せる。
「……嬉しい。両親以外でそう呼んでくれるの柄池君が初めて」
「ええ、それで喜んでくれるなら」
嬉しいことを氷村は解説とともに話す。
柄池もあまりの喜びに笑みが移って喜んでくれるならと言葉を返した。
短い期間の上、いつも笑みを浮かべていたが、今回の氷村は心の底から喜びが湧き出している様に見えた。
「本当はもっと早めにお願いしてみようと思ったけど、自分で引っ込めてね」
氷村は笑いつつ言葉で先ほどの補足をした。
それも、すぐに曇り色の表情となってしまう。
「それじゃあ、柄池君の疑問に答えるけど、その……悪く思わないでほしい」
続けてそのままの表情で氷村は疑問に答える言葉に出す。
言葉は正面を向いているが、顔は少し下げて斜め下からの視線を柄池に送っている。
「その……実は私が柄池君を後ろから眠らせて、ここに連れてきたのよ」
「えっ……?」
氷村の語る真実。
柄池は驚きの言葉を漏らす。
「雪紗季さんが助けに来たって訳では……ない?」
「冗談でも、そう言ってくれると嬉しいわね」
正直なところ、氷村が助けに来てくれたと考えてもいたのだが、それを柄池は伝える。
言葉を聞いて少しだけ氷村は笑みを戻して、氷村は喜びを言葉にする。
「でも、事実なの。柄池君が誰かに取られるくらいなら、こんな方法でもって」
「そんな……?」
事実だと先ほどの話を強調して、行動の動機も氷村は語る。
柄池は驚いた、まさかこれだけのために強引な手段をとったことに。
「こんなことまでする必要無かったですよ。仕事以外の話だって雪紗季さん呼びだって、普通に会話していて頼んでくれたらやってましたよ……」
こんな方法で無くともと柄池が話す。
もっと別の穏便な方法もあったのに、なぜこの手段を選んだか分からなかった。
その言葉を黙って聞く、表情は再びの曇り。
「でも、それだけじゃないのよ。やることは」
黙った後に氷村はそれだけでないと話す。
「私、化者でね、この通りの。こんな姿が裏にあるから男の人を好きになっちゃうことがダメなのかと思ってもいたの」
「ああ、やっぱり化者で……」
続けての氷村の話にやはりと柄池は返す。
「かつては普通の人間で好きな人が出来たけど、直後に化者だと分かったわ。それで付き合ってくれる訳ないと自身から身も引いたほど」
続けて氷村は過去に起きた出来事を語る。
その話に柄池は辛さを感じ取り、口を閉じて話を聞く。
「でも、不思議と柄池君はどうしてもって思ってしまったの……どうしても、付き合えればって」
氷村は精一杯の思いを言葉に出す。
この氷村の言葉は心情をありのままさらけ出していた。
「だから、柄池君に少しの間でも抱いて欲しくて……」
氷村はそれらの言葉を置いた上で願いを言う。
「私の願いは……届く?」
氷村の感情いっぱいの訴え。
誤魔化せば、悲しませることはわかる。
下手な対応は許せなかった。




