人魚捜索 20
夜の話。前半龍富視点、後半御堂視点
龍富は食事後、就寝の準備を進めていた。
食事後は部屋に入る前に父からも電話があり、今回の事でご苦労との連絡と狼男の犯行について調べているとも話していた。
今回も大ごとにならず、任務をこなせたと言えるか。
(俺が焦らなければ……もっと事はうまく進んでいたよな)
龍富は心の中で反省をしていた。
結果的には大ごとではないも、普通であれば酷い被害が出てもおかしくない事だ。
それに早く倒すことを意識しすぎた結果と挑発に乗ってしまったことから、こういう結果が起きたことは分かっていた。
その為次は焦らないようにはと龍富は気持ちを改めていた。
(こっちは気をつければいいとして……問題は他にもあったな)
龍富は言葉を心に留めておき、もう一つのベッドを見る。
そこには愛川が体を明後日の方に向け、スマホを操作している姿があった。
今回、愛川と一緒の部屋に入ることになった為ここにいた。
(また、女性と一緒なのもな……でも、今回は良い機会でもあるか……)
龍富はまた女性と一緒の部屋に不平を心の中で言いながらも、良い機会でもあると思い直していた。
愛川に切り掛かったときのことを謝る機会でもあるからだ。
狼男達に錠をかけるときは時間も惜しく出来なかったが、今は絶好の機である。
「……」
絶好の機である、が龍富は声が出せずにいた。
龍富には謝った後に不味い反応をされる可能性が怖かったのだ。
謝らなければいけないことは分かっている、それでも龍富は言葉が出ない状態であった。
そこで、龍富は一回息を吐いて、気持ちを整えることにする。
(先に、愛川さん良いかな? ……と言えば大丈夫だ……そのはず)
龍富はかける言葉を内で再確認し、小さく頷く。
「あ……その……」
龍富は愛川の方に視線を送り、言葉を話す。
が、その声は自らの耳にもやっと聴こえるかのような小さい声であった。
その後の龍富は言葉が出ない。
そして沈黙。
龍富は言葉を続けることが出来なかった。
(言わなきゃいけないってのに、なんでこんなことしてるんだよ、俺は……)
体の向きを愛川の方から外して、龍富は心の中で自分を責めた。
部屋に入ってから愛川とは短い会話を数えられる回数しか確かに話していない。
それでも自分から謝るべき、であるのにこうも行動出来ない自分が嫌にもなっていたのだ。
(深呼吸すればあるいは……いや、そんなことやって怪しまれたらダメだろ。だったら心の中で深呼吸をすれば……)
龍富は言葉に出さず、次の手を思考していた。
すると、空間に一つの物音がした。
龍富が物音の方へと向きを変える。
愛川はスマホを落としたようだ、どう良い経緯かは分からないが。
「あ……」
愛川はスマホの方へと向いて、声を漏らす。
落ちたスマホは少し移動して体を伸ばせば、龍富でも届きそうだ。
龍富も落としたスマホを取ろうと移動した。
「その……大丈夫だから……」
だが龍富よりも先に愛川はスマホを取ってしまい、愛川から心配いらないとの言葉がかかる。
愛川はスマホを拾おうと上半身を下に向ける。
「そ……そうか……」
龍富は移動をやめて、分かった事を伝える。
愛川はスマホを拾い上げて上体を起こす。
「ごめん……」
龍富は不意に言葉が出ていた。
愛川は何の意味か分からない表情を浮かべる。
「あの時、間違って……斬りかかろうとしてごめん」
龍富は今までの突っかかりがないかのように不思議と声が出ていた。
その言葉に自身も驚くが、愛川の表情は変わらない。
「俺もこうならないように気をつけようと」
「私こそ……ごめんなさい」
龍富が言葉を続けると、愛川も応じて謝った。
「あれは私も紛らわしいことをしていたからだと思うから……その、龍富くんが悪いって、私思ってもいないからね、だから」
「お、俺も愛川さんに責任はないと思っているから、その……」
続けて愛川は申し訳ないことを表情とともに言葉で表し、龍富は責任はないと説明をしながら言葉を続けた。
このままだと謝罪の平行飛行をしているようでどうしようもないと思えてきたことから、龍富はこの言葉を出す。
「この件で言うことは……終わりで……いいかい?」
龍富は話の幕引きを提案する。
話すべきことは話し合えた為、問題はないはずだ。
すると、愛川は申し訳ない表情から明るい表情へと変わっていく。
「……そうね。そうしましょう」
愛川は提案を受け入れてくれた。
問題が一つ解決したことと、あと腐れなく済んだことで龍富は一つ息をなでおろす。
「それじゃあ……こんな時間だし、もう寝ようか」
「そうね」
龍富は時間も時間だと話して、愛川はそれを言葉でも受け入れる。
時間としても寝ておかしくはない時間ではあった。
龍富は電気を消してベットに入り、愛川もベットに入る。
(よかった……あんなことを言って、不味いことにならなくて……本当驚くほどすんなりいったな)
龍富は静かに今回の事で口に出さず、安心を言葉にする。
安心したのもあるが、自分にはあんなに突っかかっていた言葉が一つのきっかけであっさりとスラスラに出てくるのも驚いた。
そんなことを思っている中で龍富はそのまま寝て明日までの時間を過ごしたのであった。
御堂は小さなテーブルでパソコンを置き、パソコンの電源を入れる。
テーブルには御堂が事前に買ったコーヒーと小さな電灯スタンドもあり、周囲が暗くてもこの電灯が光源になりそうである。
「俺は少しパソコンやってから寝たいから、少し明るいけど大丈夫かな?」
「うん、構わないわ」
御堂は部屋の女性、大越に声をかけると大越はそれでもいいと返した。
大越は寝間着でベッドのシーツにくるまった。
御堂はテーブルの電灯にスイッチを入れてから、部屋の電気を消す。
つけた後はパソコンの置かれてテーブルへと向かう。
「よし……あの機能に早速取り掛かるか」
御堂は取り掛かる宣言をして椅子に座った。
今回実装しようと考えている機能は連絡システムで簡単な意思疎通を出来る機能だ。
(誰に頼まれてって訳でないけど、追加して損はないはずだしな)
御堂はキーボードを叩きながら、思考を巡らせていた。
これが必要と思ったきっかけは隠れて襲撃を行った際だ。
あの時は手で信号を送り、特に問題もなかったが、見えない範囲での意思疎通はこれから必要になる、そう思って機能の追加に移った。
実際に機能が使われないとしてもこの機能がベースになって新たな機能の追加に役立つ可能性もあって、御堂は機能追加に取り掛かった訳になる。
(最初は最低限必要な部分を追加するか。後、手間をかけずに意思疎通が出来るようにしたいな)
必要なものを頭の中で確認しつつ、御堂はキーボードを叩いていた。
すると御堂の後ろから足音が聞こえてくる。
大越のベットの方からだ。
「頑張っているわね」
「まあね、今のうちに取り掛かって置きたいこともあるからね」
大越はこちらの後ろに近づきながら、話しかけ、御堂も大越の方に顔を向けて話す。
「やっぱり、電気つけているから寝れない?」
「ああ、そんなことはないよ。ただ、サブローのコーヒーが気になってね」
御堂は大越を気にかける言葉を話すと大越は言葉で否定しつつ、別の話に持っていく。
「置いているのは前に飲んでたスーパーフレーバーエスプレッソミックスエナジーブレンドコーヒーではないけど、サブローってコーヒー好きなの?」
「ああ、コーヒーの事?」
大越はコーヒーに視線を送り話すと、御堂はその事で尋ね返す。
大越がコーヒーの話をするとは、御堂にとっては意外であった。
「好きかといえば違うけどね。夜に作業しているうちにコーヒーを飲むことが多くなった感じだな」
「へー、そう言う事」
御堂はコーヒーの事を話すと大越も納得の言葉を出す。
御堂は眠気を吹き飛ばす手段としてコーヒーを使っていて、それを良く手段で使用するため、コーヒーが好きかと思われ易い。
兄の次郎にもそう思われたこともあり、実際にコーヒーは嫌いとも言えないところではある。
「私は好きだけどね。今サブローが飲んでいるメーカーの爽やかブラック味のコーヒーもいいなって思うんだけど、どう思う?」
「ああ、あれね。朝飲むにはベストなコーヒーでいいよね」
大越はさらにコーヒーの話を広げようとした。
御堂も同意を伝えながら、深いところに突っ込んでいく大越の知識に驚く部分もあった。
「中でもさ、苦味と甘みがこう上手く調和しているホワイトツイストコーヒーもなかなかいいと思うけど、どう思う?」
「へえ……それを出してくるとは中々に通じゃないか。あれ、知名度低いけど、いい味出しているよね」
大越はコーヒーの一種を話に出すと、御堂もそれについて評価の言葉を出す。
大越の挙げたコーヒーは有名どころではないが、独特の製法で苦味と甘味を調和させて独特なコーヒーとして知られている。
このコーヒーを挙げる大越はコーヒーをかなり飲んでいるであろう事が分かる。
「こう見えてコーヒーは結構飲んでいるのよ。ところでサブローってさ……」
大越はさらに会話を続けようとして、突如会話を区切った。
大越の表情としては何かに気づいたと言うところだ。
「あ、これ以上話すと、作業の邪魔だよね。良かったら、サブローが気に入っているコーヒーを次の機会に教えてね」
「あ、そうだった。こっちやっていたんだっけな」
大越は邪魔した事を謝り、御堂は本来の作業を思い出したと言葉にする。
御堂としても作業の事を忘れて話していたくらいであったのだ。
「私は今度こそ寝ようと思うから、邪魔してごめんね。おやすみ」
「ああ、おやすみ。邪魔したことは気にしなくてもいいからね」
軽く手を振りながら大越はその場から離れつつ声をかけ、御堂もまた返答をしてパソコンに向かう。
その後大越は寝て、御堂も切りのいいところまで作業を進めてから睡眠に入った。




