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サークルの出会い 18

今回のみ御堂視点

 暗い空に黄色い満月が周りの空を黄色に染める。

 時間は夜中。

 日中はまだ暖気があるもののこの四月という時期では夜中はまだ寒気がする日であった。

 その夜中に鈍器がぶつかり合う音が広い空間に響く。

 その空間では男性二人が模造刀で戦いを広げていた。

 ただ、この戦い、というよりも稽古としての意味合いが強いのだが、模造刀での打ち合いは片方の男性の方がより激しく、そして、すぐに片方の男性の方が力でもう片方の男性を押し切ってしまう。

 押し切られた男性は押し切った方よりも小柄で更には眼鏡を掛けていた。


「いった……痛いな……」


 倒された衝撃で小柄な男性、御堂は尻もちをつきながら呟いた。


(あんなことがあれば激しい攻めにもなるか……)


 御堂は今日の出来事を振り返りながら、今回のことに納得していた。


「おい! どうした? 三狼! 今日は押し返しに力がないぞ!」


 男性、御堂の兄、御堂次狼は御堂の行動を咎めるように声をあげた。

 次狼は黒く長い髪を根元でまとめて、道着をまとった姿で佇んでいる。


(そりゃあ兄さんがいつも以上に力めば相対的に弱く感じるよ……)


 御堂は視線を外して言えない言葉を内側に留めた。

 今回での出来事が起こった理由としては御堂がサークルで土の精と対面した時、情けない姿を見せてしまったからなのだ。

 それを御堂は次狼に話したためにこうなるに至る。


「何をしている! 早く立ち上がって次に行くぞ!」


「あ、あぁ」


「俺、怒っているんだぞ! 更に怒らせたいと言うのか!」


 次狼は御堂の行動を捲し立て、御堂の返しの言葉にさらなる捲し立ての言葉を放つ。

 御堂はすぐさま立ち上がり、模造刀を構え直す。


「それにしても、どうしてあんな情けない格好になったのだ? 敵に怯えて立ち向かえない姿になるとは」


 次狼は模造刀を地に突き立て、御堂へと疑問を突きつける。

 御堂としては答えにくい疑問であったが、正直に答える以外はなかった。


「ああいうの実際に見たこともないし、実践も初めてだったし……」


「何のために俺が今まで稽古をつけて来たと思っているのだ! そんなことをされると、俺のやったことが水の泡じゃないか!」


 御堂の控えめな声を力で払うように次狼は強い口調で御堂に言葉をかける。


(やっぱりな……こういう言葉が来ると思っていたよ……)


 御堂は案の定だったと心の中で呟いた。

 御堂がどういう言葉であろうと、怒っている次狼の前では返ってくる言葉は変わらないのだ。


「そうだろ? 俺は今までどれだけの特訓を三狼にやってきたのか? それを考えれば、自分が情けないと思わないのか?」


 次郎は続けて御堂へと事の重さを説く。

 確かに今まで特訓を受けてきたのは事実であったが、それが御堂にとってやってよかったかと言えばそれは大きく違う。


「思い出せ、血豆もつぶれて文字通り手が血でにじんだ三年前の春の山登りの稽古を! 俺は三狼と最後までやり抜いて感動したんだぞ! お前もここまで成長したんだと!」


 次郎は今までのことを例に挙げて、御堂に事の重大さを説明をする。

 次郎は御堂のためを思ってだが、御堂にとっては嫌な記憶しかない。

 現にあの時の山登りの後に血でにじんだ手もあって、物に触れることも痛みが伴ったものだ。

 そういう無茶な稽古を今まで何度も無理やりやらされては嫌にならない方が難しい。


「俺は手が使えなくなって退化するんじゃって思ったけどね……」


 御堂は聞こえるか聞こえないか、際どい声の大きさで愚痴を呟く。

 聞こえても聞こえなくともあまり結果は変わらないが、愚痴を吐きたくなった気分もあって愚痴を漏らすことにした。


「あとだ、俺が怒っている要因はまだある」


 次郎は御堂に告げると、ふと次郎の顔から一本伸び始める。

 その後瞬く間に何本も同じ毛が伸び始めた。

 その毛は人間の体毛とは異なり、動物に近い毛並みである。

 顔から数多の毛が生えつつ、ついには顔の骨格も変えていき、更には手や足からも服を覆うほどの体毛が伸び始めてくる。


「三狼も俺と同じ狼男だろう! しかも俺と同じように化けることが出来るというに似たような存在に後れを取る真似をするなど……」


 次郎は狼男に化けて御堂にため息交じりに告げた。

 次郎の顔や手足は狼に近く、更には服をまとったように見えないほどの体毛を体中に纏い、手足も爪が鋭く獣に近いような存在へと変わっていた。

 次狼、そして御堂は狼男の化者なのだ。


「それは……そうだけどもさ……」


 御堂は肩に手を触れて、肯定とも否定とも言えない言葉を呟く。

 あの時、八雲に銃で撃たれた時、なんとか人間だと誤魔化せたのだが、実はものすごく痛くて、危うく自らが化者だとばれかねなかったのだ。

 現に撃たれた方の肩がたまに痛み出してくる現状である。


「俺はあんな土の精は狼男にならずとも、倒してくれるだろうと期待したものだというのに……」


 次郎は顔と言葉で期待を裏切られたことを告げる。

 御堂にとって狼男である自分はあまり好きではない次郎からも言われていたが、狼男は戦闘に長けていてゲームで言えば戦士タイプの部類に入るのに御堂はインドア派の行動がしっくりくるためだ。


「だが、俺があのサークルに無理にでも入れたことは間違いではないだろうから、あそこで頑張るのだぞ。三狼が強くなるためだ」


「俺は強くなる気はないんだけど……」


 次狼は御堂に進言すると、御堂は愚痴を漏らす。

 最もこの愚痴は次狼にも届いてないことは御堂自身も分かっていることだが。


「やはり素振りをするよりも実戦こそが強くなるのに手っ取り早いだろうからな。素振りもそれはそれで大事だが」


 次狼は御堂の愚痴はどこそこにと実戦の重要さを説いた。

 サークルについても強制加入までは嫌だったが、次狼に抵抗の手段を見せようと言うのであれば、どうあがいても問答無用で押し切られることばかりで御堂はどうしようもなかった。

 そのため、サークルについてもこのまま所属するしかないことも分かっていたことだ。


(ただ、サークルの人はいい人だから、それは救いだったな。龍富って人も化者だって気がつかれない限りは大丈夫そうだし)


 御堂はサークルの幸いな部分について心の中で振り返っていた。

 リーダーの柄池も話を通しやすい人柄で周りの人もそれほど悪い人ではないようである。

 ただ、愛川にやったことがあるため、龍富には化者だと感付かれないようには振る舞う必要がある。

 龍富が愛川を化者と間違って切りかかったと伝聞だけで聞いた身としては、こちらも行動次第で切られる危険性もあるのだ。

 あと、八雲も用心するに越したことはないが、八雲自身は掴めない部分もあって用心するだけでは防げないところもある。

 その為、危害をこちらに加えないように祈りつつ、気をつける必要があった。


(愛川って人は……多分、そこまで気をつけないほうが逆に良さげかな)


 内心で御堂は愛川の危険性について考えていた。

 愛川の力については本人からあまり信用は置けないと話があり、普通の人間として振る舞えば問題はないと御堂は思っている。

 御堂から見た愛川の印象も嘘は下手そうな人である為、下手に気を配りすぎて墓穴を掘ると言う可能性の方を危険視した方がいいと見ていた。


「どうした? 何か考えていたのか?」


 次狼は人間状態に戻りながら考えていた御堂に向けて疑問を投げた。


「サークルのことで、考えていて」


「そうか。分かっていると思うが狼男だとバレないように気をつけて動け。止むを得ず狼男になると言う時は俺は止めはしないが、後先のことは考えておくんだ」


 御堂が次狼の疑問に答えると、偶然か分かっていたのか御堂の考えている内容についての忠告が次郎から送られる。

 自分が化者だと周りにバレる事、それは自分の覚悟が問われる時であり、それは大抵ロクでもないことがこれから起こる事でもある。

 その質問には答えは決まっていた。


「言われなくとも、気を付ける」


「ならいいんだ、気を使いすぎだったか。では、稽古の再開だ」


 御堂は次郎に視線を合わせず答え、次郎は稽古の再開を告げる。


「えっと……やっぱり、まだ続けるの?」


「当然だろう。稽古は始まったばかりだからな」


 御堂の疑問は次狼の言葉により当たり前のように取り払われてしまう。


(嫌だけど、やるしかないんだよな……こんな兄さんだからな……)


 御堂は言えない言葉を内に留めて、ゆっくりと稽古の態勢を整えていった。

 それから、しばらく御堂たちは稽古を続けるのであった。

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