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ヴァンパイア辺境伯 ~臆病な女神様~  作者: お盆凡次郎
第24章 冒険者領にようこそ!
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第24章 冒険者領にようこそ!2

いつもブクマ、評価ありがとうございます


 ――カイトがやたらと早い馬車に揺られ始めてかなりの日にちが経った。モアとLDに弄られ続けた時間もそれと同じだけ経験した。その時間も美少女(元男)、美女(元男)、美女?(ホムンクルス)は姦しく楽しんでいたようだ。カイトはずっと肩を落としているのだが。


「いつまで沈んでるのよ。もうすぐ到着よ」


 アリスが口にした言葉を聞いてカイトが珍しく目を輝かせた。到着、この時間の終りに喜んだのではない、アンジェリスの町でもずっと聞かされていた『冒険者領グリムス』その到着に喜んだのだ。元々は領主のいなかったこの土地でAランクでも特に優れた冒険者達が寄り合って作った集落のようなものだった。そこに王国からアリスが領主に就任し、冒険者達が住みやすいように町を作り、今では敵性モンスターが侵入できないように結界も張った。その結果、道具屋や鍛冶屋など冒険者に関わる店が立ち並び、互いに腕を競い合う、冒険の最前線へと生まれ変わったのだ。

 冒険者達の多くがいつかこの場所に住居を持つ事を目標にする。そしてSランク冒険者になり王国から二つ名を得ることを夢見ている。

 カイトもアンジェリスでたくさんの話を聞いた。


 曰く、そこのモンスターは他の領地より遥かに強い、そこは地獄の始まり。

 曰く、そこで生き残り続けることは無数の栄誉へと繋がる。

 曰く、そこには無限にも等しい財がある。

 曰く、……


 冒険者になってからグリムス領に行く事を楽しみにしていた。冒険者の頂点が行くつく場所に憧れた。カイトもその辺りは『男の子』だったのだろう。それよりも優先されるのがアリスだったりはするが。


「冒険者領か……」


 カイトがソワソワし始める。そんなカイトをアリスが冷めた目で見ていた。


「グリムス領に着いてもすぐに外に出るわけじゃないわよ。この馬車で屋敷まで行って馬を繋がないといけないのよ」


 アリスの説明を受けても尚、目を輝かせたままのカイト。アリスは呆れ果てて無視する事を決める。


(男の子って歳でもないだろうに、男はガキってのはこういう事を言うのかしらね)


 そこまで考えてアリスは自分も元は男だったことを思い出して頭を抱えてしまう。アリスの身体で生活していた時間の方が長いので、しぐさや感性が女性に寄ってしまっているのは仕方ない事なのだが、根っこに根付く『彼』の部分がどうしても現状を認められないでいる。


「マイスターはどうしたのですか?」


「あれは精神的雌雄同体故の苦悩を味わってやがるんです」


 LDは感情がないためアリスの苦悩を理解できないらしくモアに聞いてはみるが、返ってきた答えは酷いものだった。

 そうこうしている内に馬車の揺れが変化する。どうやら町の中に入ったらしい。通常なら町の門には門番がいて通行者の確認をするのだが、この町に門番などいないし、そもそも門すら存在しない。

 この領地には冒険者と冒険者関係の者しかいないので、兵士など一人もいない。人が集まり人が門を作るという流れとは違って、この町ではモンスターが強力すぎて門は意味がないし、技術もないので作らなかった。建築技術がある者が町に住むには危険すぎ、結界魔法ができた後にようやくそういった者も少数入ってきたが、結界魔法があれば門は必要なかった。賊なんかはこんな危険地帯にわざわざ来ない、というか住民が強すぎて略奪なんかできない。物資は行商頼みであるが、その行商を護衛するのがこの町の冒険者なのだ。よって行商も襲えない。賊遭遇確率0%とまで言われる領地の完成である。

 揺れが少なくなってから一時間程経過した頃、ついに馬車が停止した。馬車の停止を小窓を開けて確認したモアは先に馬車から出る為にドアを開ける。そして開いたドアの先を確認しようとカイトが輝いた瞳を外に向ける。


「あら、すごくいい天気じゃない」


 『吸血鬼』のアリスがいい天気と呼んだ外の様子を見たカイトは、目を丸くして肩を落としてしまう。既に日は完全に落ち、周囲は真っ暗になっていてほとんど何も見えない状況だった。

 アリスはそんな様子のカイトを放置して、馬車を降りようとしたところでアリスの肩を抱き止める腕があった。カイトが止める間もなく腕はそのままアリスを引き寄せると、もう片方の腕を膝の裏に通してそのままアリスの全身を抱き上げる形にする。

 所謂『お姫様抱っこ』である。


「おかえりなさいませ、お嬢様。このイカリ、お帰りを心待ちにしておりました」


 アリスの上から響いた声の主は顔の左半分を前髪で隠し、それ以外の前髪を全てオールバックにした短髪黒髪の眼鏡をかけた男性だった。鋭い目つきの男は執事のような服装をしており、アリスをお嬢様と呼んでいる。


「今戻ったわ、イカリ。不在の間ご苦労様。でも降ろしてちょうだい。馬車のことはモアに任せるから、あなたには客人の案内をお願いしたいの。『あの子』に任せるわけにはいかないでしょ?」


 それを聞いたイカリは渋々ながらアリスをゆっくりと地面に降ろす。そして馬車の中で固まっているカイトと、我関せずと馬車を降りてくるLDに視線を移して恭しく礼をする。


「お二方のご案内をさせていただく、イカリと申します。アリスお嬢様の従者をさせていただいております」


 平坦な声音でそう告げるイカリは軽く殺気を出して二人を威嚇するが、二人はそれに動じる事はなかった。


「あぁ、今のでよくわかったよ。君は『憤怒』のホムンクルスだね」


 イカリは殺気を治めると、カイトと視線を交わす。そして小さく笑うと再度口を開く。


「そこまで見抜かれますか。さすがはお嬢様のご友人です。そちらの機械人のお方は……わたくしには興味なしですか」


 イカリの言う通りLDは彼に興味がないのか、この世界で生まれた機械人(馬)のアグニの正面に立って睨めっこのようなことをしている。


「カイト、冒険領が気になるなら明日にしなさい。それじゃ、私は部屋に戻るから後は頼むわね」


 アリスはアリスで言いたいことだけ言ってさっさと屋敷の方へ足早に歩いていってしまった。


「それではお二方は私に付いてきてください。お部屋の準備は終わっていますので、すぐにでもご就寝になれます」


 そう言われてようやく急いで馬車から降りたカイトと、機械人(馬)の正面から離れるLD。彼らは歩き出したイカリに付いて暗い夜道を歩いていく。数分歩いたところで目の前にストムロックの物程ではないが大きな屋敷が現れた。


(これが今のアリスの住居ってわけか。住む世界が違うってこういうのを言うのかな……)


 カイトはそんな感想を抱きながら屋敷へと足を進めるのだった。


 ――自室へ戻ったアリスはベッドに腰掛けて、そのままベッドの上に横向きに倒れこんだ。そして小さくため息を吐く。


「あらら~ん? お姫様はご機嫌斜めなのかしらぁ?」


 部屋の中に妙齢の女性の艶っぽい声が響く。


「また勝手に私の部屋に入ってきたのね。出てきなさい、リリス」


 アリスがそう言うとベッドの天蓋から逆さに吊るされるようにして女性の頭部が現れた。女性はそのままアクロバティックに天蓋から床に降りると、自分の唇へと人差し指を当てる。


「『色欲』の従者リリス、呼ばれて飛び出て参上ってね」


 全身を現したリリスは従者と呼ぶにはあまりに従者らしくない格好をしていた。ウェーブがかった長い真っ赤な髪、濃いルージュの引かれた唇、豊満な胸や引き締まった腰、大きく突き出した尻、それらを強調させた蛇の意匠があしらわれた露出度の高いドレス。知らない人が見れば、従者と言うより高級娼婦か何かに見えるだろう。


「作った私が言うのもなんだけど、相変わらずえろいわね……」


 アリスが感想を漏らせば、リリスは妖艶な笑みを浮かべた表情で嬉しそうに自分の身体を抱きしめて腰をくねらせる。


「あぁん、お姫様に褒められちゃったぁ。お姫様も相変わらず脆くて惨めで愛らしいわぁ」


 従者が主に向けるにしては不遜に過ぎる言葉を投げかけるリリスだが、アリスはそんなことを一々気にしたりはしない。リリスはこれでいいのだとアリスは考えている。『色欲』の魔石を使ったのだから、これくらいでなければならない。

 三人の従者、『強欲』『憤怒』『色欲』はアリスが、AWO時代に確保していた『七罪の魔王』というボスモンスターの魔石をコアにして生み出したホムンクルスだ。AWOではホムンクルスは錬金術師のスキルで生み出せる味方NPCだった。この世界でもそのスキルが使えたので、この領地で働ける従者がいないので自分で作ることにしたのだ。ホムンクルスは魔石次第で製作者のLVの最大八割のLVで生まれる。その結果、三人の従者はLV200、この領地でも十二分に戦えるLVなのだ。ちなみに『七罪』の残りの四つの魔石はAWO時代にアイテム作成の材料にしたので所持していない。

 製作時に性格等も設定できるが、三人はそういったパーソナルな部分には一切手を加えていない。その為モアは『口の悪い守銭奴』、イカリは『忠義の行き過ぎる男』、リリス『色々と自由奔放な女性』となってしまったのだ。

 この性格に合わせてアリスは各々に役割を与えた。お金さえ与えれば優秀で温厚なモアには付き人を、忠義故にアリスの役に立つ為に勤勉であり手を抜かないイカリにはアリスの補佐と不在時の代理を、自由で人受けがよく閨事に優れたリリスには領内外問わずの情報収集を任せている。

 リリスは自由な流れの娼婦として有名であり。様々な貴族が大金を積んで抱きたがり、その結果かなりの情報を仕入れてくる。この情報は国政にも活かされることがあり、従者の中で一番広く活躍していると言えるだろう。


「それで、今日はどんな情報があるのかしら?」


 アリスはだらけたポーズのまま、リリスの顔を見て質問を口にする。リリスはその視線を受けて舌なめずりをすると楽しそうに口を開いた。


「そうねぇ、こんなのはどうかしらぁ? 題名は名付けて『アンジェリスを離れた謎の強力な冒険者達の現在』とか」


 それを聞いたアリスの目がすっと細くなる。その様子にリリスが嬉しそうに身体をしならせながらアリスに近付いてくる。そして抱きしめられる程近くにくると、アリスの耳にかかった髪をかき上げて耳元に口を近付ける。そして艶のある声で仕入れた情報を語り始める。アリスはそれを表情を変えることなく聞き続けた。


 ――リリスが部屋を去った後、モアを待つ間アリスはベッドに横たわったまま聞いた情報を整理していた。転移者達の状況を知ることができたのも収穫ではあるが、それより気になる情報があった。

 『暗黒領域ブランクエリア』の増加。これは『暗黒地域ブランクゾーン』の小規模版とも呼べるものであり、未だ調査すらできていない謎の黒い空間なのだ。これの存在が確認できているのは大きなもので北の『暗黒地域ブランクゾーン』と、旧カトゴア連邦『大破壊領域』中央部に巨大な『暗黒領域ブランクエリア』がある。『暗黒ブランク』は物体が接触できないある理由のせいで調査もできないが、放ってもおけないものでもあった。それが増加しているという情報は王国を困らせるには十分すぎるものだった。

 

(『暗黒ブランク』の増加、ねぇ。こればかりは私でも手が出せないのよね)


 さすがのアリスでも調べられないなら対処方法など、封鎖するくらいしか思い浮かばない。いい考えも浮かばないので、くるりと身体を回して顔を枕に押し付けて、そのまま枕を抱きしめた。

 そこにドアを開けてモアが入ってくる音が聞こえた。同時にアリスは身体を一度だけビクッと跳ね上がらせて、枕の中で表情を憂鬱なものへと変える。モアがいると考えると喉が渇いて動悸が早くなる。身体と本能が行為を求めて熱く火照りだす。

血を求める吸血鬼の本能が今宵もアリスの心に暗い闇を落としていく。虫食いのようにボロボロになった心を闇が蹂躙する。夜が始まる……。


たぶん次回で24章終わります

従者三人揃いました。

ブランクの細かい説明はまた違う機会に!

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