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第11話 ナージャを追え!

「おはようパステル」


「おはようエンデ」


 この町も朝は涼しくて非常に寝覚めは良い。

 ほぼ同時に起きた俺たちはもはや過ごし慣れたホテルの一室で身支度を整える。


「そういえば今日はメイリたちは起きていないのだろうか? いつも私たちより早く起きて起こしに来るのだが……」


「昨日は俺たちの方が早く寝たのかもね」


 俺とパステルは人さらい騒動の後少し話をしてから寝たけど、メイリ達はどうだったか知らない。

 向こうにはおしゃべりなサクラコと冒険者をそれなりに続けていて面白い話もあるナージャ、それに話を聞くのが好きなメイリがいる。

 もうじき帰るかもしれないということで夜遅くまで盛り上がったのかもしれない……って、ナージャは早くに寝てたんだっけ?

 じゃあ、二人で盛り上がったのかな?


「たまにはこちらから起こしに行ってみるか」


 まだ髪のセットが出来ていないので普通のオレンジ髪ロングヘアーになっているパステルと共に隣の部屋に向かう。

 パステルは髪の量が多いのでいつもメイリにツインテールを作ってもらっているのだ。


「メイリ、サクラコ、ナージャ、朝だぞ」


 コンコンと上品に扉をノックする。

 するとしばらくしてドタドタと音が聞こえたかと思うと、寝間着のままのメイリが出てきた。


「申し訳ございませんパステル様……。寝過ごしてしまいました……。罰は何なりと……」


 黒く短い髪はところどころ跳ね、服も白くて地味なネグリジェだ。

 初めて見るなぁ、彼女のこんな姿は。良いものだ。


「いやいや全然いいのだぞ。まだ結構早い時間だしな。準備ができ次第今日の行動についてみなで話そう。別に焦らなくてよいからな」


「はい、承知しました」


 メイリは一礼をし一旦扉を閉め……。


「おいみんな! ナージャがいないぜ!」


「ええっ!?」


 サクラコの声を聞いて俺とパステルは部屋になだれ込む。

 確かにナージャが寝ているはずのベットはもぬけの殻だ!


「どこへ行ったのだろうか? トイレにシャワーなら部屋に備え付けだ。食事……にしてもわざわざ一人で先に行くとは思えんし、買い物の線も薄い。となれば……」


 みんなおそらく同じことを想像している。

 いやしかし……いくら極端に楽観的なナージャとはいえ……。


「置手紙が枕の下にあったぞ!」


 寝起きだというのにキッチリ女の子への擬態がきまっているサクラコが一枚の紙を見つけた。


「なになに……『ピラミッドに行ってきます! お宝持って帰って来るので何か御馳走させてください! ナージャより愛をこめて』……」


 皆一様に押し黙る。

 もはや彼女の行動に疑いの余地なし。ナージャはピラミッドに単独で向かったのだ。


「さて、どうするエンデ?」


 パステルが静寂を破り話しかけてきた。


「うん……今日は俺たちもピラミッドに向かうはずだった。だからピラミッドには行く」


 ここでメイリとサクラコに昨日の夜パステルと考えた計画を話す。

 二人ともピラミッドに興味があり、パステルが下した決定という事もあってすぐ計画に賛成してくれた。

 しかし、気になるのはナージャの動きだ。


「ナージャには幸運のスキルがある。 それにこの数日で過去の冒険の話を聞いた限り生き残る能力は高いぜ。きっと死にはしないさ。こっちはこっちで進めよう」


 サクラコも楽観的に考えてる。


「でもねサクラコ、ナージャの【超運の身体】は完璧じゃない。覚えてると思うけど、店でくじを引くとなった時、彼女は一位狙いを宣言したのに外した。超絶に運が良いなら当たるはずだ」


「まあ、完璧になんでも成功したらそれは『運で済ましていいのか?』って話だからな」


「彼女のスキルが俺と同じ系統……いわば『超身体』スキルなら、どこか抜けたところがあるかもしれない。だから、いざという時は覚悟しておかないといけない。動揺しないように……」


「覚悟も大事だが結局やることは変わらん。ピラミッドに突入し、人さらいを倒し、貴重な物品を手に入れるついでに人々を助ける。その人々の中にナージャが入るだけだ。安心せい、奴らにとってナージャは美しく商品価値は高い。宝石のように扱われるだろう」


「うん……そうだね。突然のことで驚いたけど冷静にシンプルに物事は捉えなきゃ。そもそもナージャとピラミッドに行くプランもあったし、そこまで事態はこんがらがっちゃいない」


「ああ、実は私に良い考えもある。今はまず私の言う通りに準備だ。そして、出来次第動くぞ」


 俺たちはパステルの号令で焦らず準備を整える。

 普段からそんなに大荷物ではないので急がずとも冒険の準備はすぐ完了した。


 ホテルから出て町の西へ。

 そこには砂漠に点在するオアシスとその周辺にある村々に向かうためのラクダとラクダ乗りがいる場所だった。

 馬車ならぬラクダ車もある。四人で行くわけだからラクダ車に乗るべきか。

 俺たちは適当なラクダ車の乗り手に声をかける。


「おっ、お客さんかい? ちょっと前まではピラミッドに向かう冒険者がわんさかいたんだが、流石に帰還者がいないって悪いウワサが広まっちまった。今日もキャンセルが入って暇なんだ。予約なしだといつも料金割増だが今回は通常でいい。乗らないかい? マッハラクダほどじゃないけど速いぜ十分」


 違いが良くわからないので直感でこのラクダ車を選んだ。

 箱型の車とは違い壁が無く、四隅に柱がありそれで屋根を支えている形だ。

 壁が無いので風が通って涼しい。確かに砂漠で密閉された車は辛そうだ。


 サッと乗り込みすぐに出発。

 行き先をピラミッドに一番近い村ヒラムスだと伝えるとラクダ乗りは『来た来た』と嬉しそうな表情をしていた。


「さあ、今のうちに食べてなかった朝食を」


 町の西に向かうまでに買っておいたそれぞれの朝食を食べる。

 なるほど、確かにラクダは速い。この砂でも馬並みのスピードは出ている。

 しかし、速ければ速いほどこちらは嬉しい。なのでこっちでスピードを上げる!


「おじさんここ座っていい?」


「ああ、いいよ。女の子だったのかい。変わった格好してるね。まあ、それなら日焼けしないし安心だ」


 パステルが普通の幼い女の子の様に振る舞い、御者の席に座る。

 ラクダ乗りは帽子を顔に乗せ、うとうとしている。

 この道はラクダも覚えていて何もしなくても運んでくれるのだろう。


 しかし、普通の客ならこのラクダ乗りの態度にちょっとムッとくるかもしれない。

 でも俺たちには好都合だ。


全強化(フルエンハンス)……」


 パステルの小さな声と共にオレンジの光がラクダを包む。

 砂漠の色と日差しの強さでかなり強化の光は見えにくい。

 これなら急にラクダ乗りが起きても安心だろう。


「おっ……今日はお嬢ちゃんが乗ってるからかラクダたちが張り切ってるねぇ……。これならもっと早く着きそうだ……。俺の昼寝も短くなるなぁ……ふぁぁぁ……」


 スピードアップの影響でラクダ車の揺れが多少強くなっているのによく寝れるものだ。

 長年この仕事に就いているのかも。

 そんなこんなで俺たちは計画通りヒラムスの町に到着した。


「ふぁぁぁ……予定もないんでここで寝て待ってるが、時間までに帰ってこなかったら俺は一人で帰らなくちゃいけない。気をつけてな。帰りも乗せて帰れるように」


「ありがとうございます……わ」


 俺は裏声で礼を言う。


「若い女性四人でなんて危ないと思うがねぇ……。まあ、冒険者ってのはそんなもんか」


「オホホホ……」


 今俺は……女装している。

 それも当然だ。だって俺は人さらいに顔を見られてる。

 しかし、ピラミッド探索に俺は必要不可欠。

 この問題に対してパステルの考え出した作戦は『女装』だった。


 白色で短髪のイメージをかき消す濃い緑で長い髪のカツラ。

 普段のシンプルな装備と正反対なオシャレで装飾に凝った装備。

 化粧された顔……。


「エンデ……じゃなかった。今はエンジェだったか? くくっ……似合ってるぜなかなか……! 顔は俺的に合格だ。でもガタイが良すぎるのと胸が無さすぎるのでちょっと好みの外だわ……くっ、すまんな、ふふっ……」


 サクラコは心底楽しそうに笑っている。

 名前についてはまあ女の子っぽくて間違えて普段の『エンデ』と呼んでしまってもあまり違和感がない似た名前だから『エンジェ』にしただけだ。

 深い意味はないけど……今も人間界のどこかで頑張ってるお嬢様へ、ごめんなさい。


「そういうサクラコもずいぶん幼い姿に擬態してるじゃないか。幼い子は好みの範囲外じゃなかったのか?」


 普段は若くても18歳前後の女性に擬態しているサクラコが今回は10~12歳辺りの女子になっている。


「作戦だから何とか工夫してこの見た目にしたんだぜ。ただこのくらいの年齢の見た目でムラムラきたのはパステル含め過去に数人だけだからどうしても今近くにいるパステルに似ちまうな」


 髪型や服装で差別化しようとしているが、よく見ると確かにパステルと似ている。姉妹と言っても通用しそうだ。


「これこれ、あまりおおっぴらに話すことではないぞ。まあ他に人はおらんがな」


 パステルの言う通りヒラムスの村は閑散としていた。

 そもそも小さな村なので騒がしいところだとは思ってなかったけど、昼間だというのに人っ子一人歩いていないとは……。


「ここはピラミットまでの通過点とはいえちょっと気になるね。誰かいれば一言二言質問するんだけど……」


 そう思った矢先、建物の陰から男の子が一人現れた。

 彼もまた俺たちの存在に気付き、こちらに駆け寄ってくる。


「やあ、こんにち……」


「おにいさんも冒険者?」


 食い気味に質問をぶつけられた。

 思ったよりグイグイくるなぁ……。


「そうだよ」


「強い?」


「えっ、まあ強いと思うよ」


「じゃあ砂漠の守り神様を助けてあげて!」


「さ、砂漠の守り神を?」


 急に何を言いだすんだと困った笑顔を浮かべたいところだけど、少年の眼差しは真剣そのものだ。こういう子の前ではヘラヘラ出来ない。


「お兄さんたちあんまりゆっくりはしてられないけど、守り神様の話聞かせてくれるかな?」


「うん!」


 砂漠の守り神……ロマンがあるじゃないか。

 もしかしたら黄金の風の謎を解明するキッカケになるかもしれない。

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