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第13話 スケベスライムの叫び

 スケベスライムは伸びたり縮んだりぐにゅぐにゅ動いた後、再びピンク髪の女性の姿に戻った。

 無論俺もその間に服を着た。森は冷える。


「どちらが本当の姿なのだ?」


 パステルが疑問を投げかける。


「本来の姿は普通のスライムと同じくゼリー状の崩れた球体って感じだ。この前髪パッツンピンク髪巨乳美少女は俺の好みであり、女性に近づきやすくするための仮の姿だ。男の姿では女の子に警戒されちまうからな」


「お前は男なのか?」


「性格は男だ。女の子が好きだし、口調も男だろ? ただ見た目と声、それに気合を入れる時は女の仕草をキッチリ再現するから正直女っぽくなりつつあるのも確かだな。まあ、そもそもスライムに性別はないんだが」


「むぅ……何やら思った以上に複雑な奴なのだな」


「竜を追う者は竜になる……なんて聞いたことあるけど、女を追う者は女になるということか」


 二人で目の前の人型スライムを眺めながら少し感心する。


「そんなに見られるとなんだか恥ずかしいじゃないか……。見るのは慣れてるけど見られるのは慣れてないんだ」


 スライムは恥らう様なそぶりを見せる。


「お主名前はあるのか? 私はパステル・ポーキュパイン。こっちはエンデだ」


「名前は誰にもつけてもらったことはないが、俺は『サクラコ』を使っている。女の子と会話するときに名無しじゃ怪しまれるからな」


「で、サクラコ。聞いてほしい話とはなんだ?」


「……本当は話の内容なんてどうでもよくて、君と……パステルともっと一緒にいたかっただけなんだ。でも、一応俺のポリシーについて話そう。『俺は男の装備を溶かさない』『俺は男に体液をかけない』だ」


「そのポリシーに反したからさっきは発狂していたのか?」


「そうだ! 俺は女の子の裸しか見たくない! だから俺自身も女の子の姿にしか擬態できない! それなのに……いきなり全裸の男が私の前に……」


 その場にへたり込み、しくしくと泣きだすサクラコ。

 本当だ。こうしていると仕草まで女の子にしか見えない。

 そして泣かれると俺が犯罪者みたいだ。いや、人間相手にやったら間違いなく犯罪だったけど……。


「それはすまないことをしたなサクラコ。しかし、私たちはどうしてもお前の持つ装備を溶解する毒を手に入れねばならんかったのだ」


「なんだ? 君も誰かの服を溶かしたいスケベなのかい? 君の為ならいくらでも体液を出すよ?」


 グイッと迫りくるサクラコ。見た目と声と発言内容に差がありすぎる。


「違う違う! 私たちはあくまで自らの身を守るために必要なのだ!」


「俺のスケベ体液を身を守るために? なんだか君たちにも複雑な事情がありそうだな。良ければ聞かせてくれ。最近悪評が広がったのかめっきり女の子も近寄らなくなって暇してたとこなんだ」


「うむ良かろう。エンデ、説明を頼むぞ」


 今回の作戦の発案者である俺がパステルから話を引き継ぐ。

 話すのが俺になってからサクラコは明確に態度が悪くなったが、俺たちの出会いからここまでの道のり、そしてこれからの目標を語る時にはその表情は真剣なものになっていた。


「……と、まあこんなところかな。何度も言ったけどサクラコの毒はむやみやたらな殺しを好まないけど、安全は欲しい俺たちに欠かせない物なんだ。ちゃんと会話の出来るモンスターだと知らなかったから、だまし討ちみたいな方法で毒をもらっちゃったのは申し訳ないと思っている。そのうえで改めてお願いする。俺たちに君の毒を使わせてくれないか?」


「ぐすっ……うん、そういう事なら使っていいぞ」


 ちょっと泣いているサクラコ。やっぱりパステルの過去の話は何かしら感情を揺さぶる。


「ゴメンねえええパステル! さっきは怖い思いさせちゃってえええ!!」


 泣きながらパステルに抱き着く。今度は毒が出ていない。


「いや、もう気にしていない。それよりサクラコの方が怖かったであろう? いきなり全裸の男が飛び出してきたのだから。エンデはたまにやるのだ。許してやってくれ」


「怖かったよおおおおおお!!」


 すっかり悪者だが今回は仕方ない。俺も強引な方法をとってしまったのは確かだ。

 人間界のモンスターの中にも話のわかる者はいる、ということを胸に刻んでおこう。


「なぁ、パステルはこの後ダンジョンに帰るんだよなぁ?」


「そうだ。あそこが人間界における私の家だからな。メイドのメイリも一人で待っている。早めに帰らねばならん」


「そこに……俺も帰っちゃダメかな? パステルのこと気になるし、なんだか放って置けなくなっちまった」


「いいのか? この住処には気軽には戻れなくなるぞ」


「それは問題ない。さっきも言ったようにここはもう俺が出現する場所として有名になりすぎた。来るのは女の子じゃなくて俺のスケベ体液を求めてくるオッサンばかり……ここが潮時なのさ。それにダンジョンには女の子の冒険者も来るだろ? 女の子を守りながら女の子の裸が見れるんだ。一石二鳥だ」


「仲間になってくれても私の裸は見せないぞ?」


「ぐううう……ッ!! くっ、あがっ、か、覚悟の上だ!」


「よし、その覚悟しかと受け止めた! 今日からサクラコは私たちの仲間だ。エンデとも仲良くするんだぞ」


「ああ、大丈夫。冷静になってみれば俺は男なんだから男の裸を見ても何ともないはずなんだ。さっきはビックリして女になっちまった。よろしくなエンデ」


 サクラコは手を差し出す。華奢な白い手だ。

 俺はその手を優しく握る。


「柔らかいし、温かい手だね」


「もっと柔らかく出来るぞ?」


 サクラコの手がぐにゅーっとスライム状に変化し、俺の腕をかけ上ってきた。


「うわっ!」


 飲み込まれそうな気がして俺はサクラコから距離をとる。


「ははは、冗談さ。改めて挨拶だ。俺はサクラコ、種族はスケベスライム、ランクはH! 本当はC! スキルは豊富だがそのほとんどが女性への擬態や偽装のスキルだ。またダンジョンに着いたら俺に出来ることをみんなに紹介するぜ! これからよろしくな!」


 輝く笑顔を浮かべるサクラコはまさに快活な美少女だ。

 この仮面の下にとんでもないスケベ心を持っているのだから面白い。


「さあ、ダンジョンはどっちだ!? 俺はこう見えて結構タフだし、体の弾力を生かして走るから速いんだぜ? 早く帰らないとダンジョンに危険が迫っているかもしれない!」


「やけに元気だね。もしかしてメイリ目当てだったり?」


「ぎくっ……」


 図星かい……。俺が背負っているパステルからため息が漏れだす。

 まあ、パステルがスタイル抜群で優しくて美しいサキュバスとサクラコに説明してしまったから、彼女のスケベ心がうずくのも仕方がない。


「メイリは身持ちの固いところが魅力だから、普通のサキュバスみたいに接しちゃダメだよ」


「でもそういうお堅い女性の腰の紐を緩めてみたいのが男じゃないか? エンデもわかるだろ?」


「その気持ちはまあわからんでもない」


「サクラコの場合は緩めるどころかまともな会話をする前に溶かすではないか。それでは真の男とは言えんな」


「そうだよなぁ……。やっぱり女性から脱ぎたくなるような男にならないといけないよなぁ……。でも、無理矢理脱がされて恥らう女の子というのは何物にも代えがたいというか、特別で最高に滾るんだよ……。こればっかしは血に刻まれた欲望……捨てることはできないんだ」


「うむ……種族からして種族だものな……。生まれ持ってのスケベか……それを捨てれば種の否定になる……。うーむ、何とも何とも……サクラコは奥が深いな」


「まあ、やりたいことは薄っぺらいことこの上ないんだけどな」


 話がディープなところに入っていきそうなので、俺たちはとりあえず脚を動かすことにした。

 振り返ってみれば成果は上々。目当ての毒は手に入ったし、新たな仲間にまで出会えた。

 サクラコはスケベだが根っこは悪い奴じゃない。女の子の裸が好きなだけで『脱がせて観察して後は帰す』を繰り返していただけだ。

 ……うん、やっぱそこそこ悪い奴だ。が、そこまで邪悪ではないというのが正しい。


 後はメイリとの相性次第か……。メイリを見て欲望を抑えきれず体液ダラダラ垂れ流して止まらない……なんてことのなったらここに帰ってきてもらわないといけないかもしれない。

 もちろん俺としてはそんなことは困る。見張りなどもそうだが仲間が増えれば出来ることが増え、今までやっていたことも楽にできるようになる。

 さあ、『種の本能』にちょっとでいいから抗ってくれサクラコ!

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