第161話 新たな施設と今後の方針の確認
お久しぶりです。
書籍第1巻発売記念で更新します。
その日の夜も無事に聖樹の設置が完了した。
それは俺と叶恵だけでなく、茜と先生の方も同じだった。
『そっちも問題なさそうだな』
『うん、ダンジョンの攻略は順調だよ。魔物なら私とクーちゃんがいればどうとでもなるし、面倒な仕掛けがあってもお爺ちゃんがどうにかしてくれるから』
茜達はダンジョンを攻略した後、俺と同じように聖樹が設置できるようになる時間まで近くの人里を巡って治療行為をしたのだとか。
その際には前に言っていたように先生が魔法で美夜に変装した上で。
『これで美夜が死んではいないと相手が思ってくれれば良いんだけどな』
『安心せい、儂の変装はそう簡単に見破れんよ。恐らくは敵も満を持して聖女が動き出したと誤解してくれることじゃろうて』
その誤解を加速させるために今後も先生は定期的に美夜に変装して治療行為をして回るつもりだとか。
『それは良いんだけどさ、賢者様が美夜に変装している光景をちょっと見てみたいわね』
『確かに爺さんが女装して、しかも今の口調じゃなくて女言葉を使ってる姿なんて、ぶっちゃけ想像がつかねえわな』
一鉄が扱き使われている意趣返しのつもりなのか揶揄うように言っている。
『うーんとね、一応は見た目も口調も完璧に美夜姉そのものだったよ。中身がお爺ちゃんだって知ってる私からすると違和感しかなかったけど、知らない人からすれば本当に美夜が治療して回っているようにしか見えなかったと思う』
『へえ、その変身魔法ってのはそんな凄いのか。なら益々この眼で見てみてえな』
この滅多にないチャンスを逃すつもりはないのか、一鉄は先生を茶化すのを止めない。
だが生憎と先生の方が何枚も上手だったらしい。
『これこれ、儂は見世物じゃないぞ。それにこれはあくまで敵の攪乱させるために仕方なくやっていることなんじゃからな。それと一鉄、お前さんは嫌でも儂の気持ちが分かるようになるから、心してその時を待っておることじゃな』
『は? どういう意味だよ?』
『お前さんにもこの魔法を習得させると言っておるんじゃよ。影武者ができる人物は多くいるに越したことはないし、これなら魔物と戦えないお前さんにも治療行為はできる。いやむしろピッタリの役目じゃろうからのう』
理屈の面からすれば分からなくもない話ではある。
これからダンジョン攻略も手伝うようになるなら先生の忙しさは増すだろうし、それなら魔物と関わらない仕事を一鉄が受け持った方が効率的というのは。
『そういう訳で今後の美夜のフリは基本的には一鉄に頼むことになるぞ。ほれ、儂は茜の手伝いでダンジョン攻略をしなければならんからな。いやー実に心苦しい限りじゃて』
『ふざけんな、この爺! そうやって俺を良いように使い過ぎだろ!』
『ほっほっほ。人を揶揄うのなら、やられる覚悟を持っておかんとのう』
そうやって帰還者達が念話で会話を楽しんでいる。
長い戦いの中、ずっと気を張っていたら持たないことが分かっているからこそ、こうやって時には気を抜く必要もあるというものだろう。もっとも一鉄の方はそれで強烈なカウンターを受けてしまったようだが。
『マジかよ、俺が女のフリをするってのか……? 滅茶苦茶嫌なんだが』
『ご愁傷様。そんなことよりこれでまた新しい施設が三つも聖樹に加わるはずだけど、それぞれどんな感じだった?』
『それなんじゃが儂らの方のは施設ではないようじゃ』
その言葉通り先生たちが設置した聖樹では、新しい施設は増えていなかった。
その代わりに魔物の初回討伐時などの特典で得られるポイントなどの報酬が増えて豪華になったらしい。
『聖樹の数が増えたことで神の使いにも多少余裕が生まれたということかもしれんのう』
『それによってこちらに与える恩恵を増やすことができたってか。まあ貰える物が増えるのは悪い話じゃねえし、譲達のような帰還者以外の特典を得た奴が強くなれる可能性が高まったこと自体は良い事だろ』
ポイントは幾ら有っても困るものではないし、今後もそうやって特典が豪華になっていけば、いずれは邪神陣営と戦うのに非常に有効な何かが神の使いからも送られてくるかもしれない。
それこそ聖樹のような特別な施設などに類似した起死回生となるものが。
『私の方も新しい施設って感じではないわね。どうやら既存の施設に徴収機能を作られるようになってはいるようだけど』
徴収機能は言葉通り、選択した対象から一定のHPやMP、あるいはポイントなどを強制的に聖樹に奉納させることができるようになるというものだった。
主な使い方としては牢獄に徴収機能を追加することで、中に収監した人物からHPなどを強制的に徴収して、聖樹に奉納させられるようになる感じだった。
『あとはこれを居住区で上手く使えば、それこそ滞在するのに条件付けすることも出来ると思うわ。それこそ居住区で暮らすためには、一定のMPを期間内に収める必要があるようにするとかで』
『聖樹版の家賃や税金みたいなもんか。まあいつまでも無料で各種施設を使い放題だと思われても困るし、取れるとこから取っていくので良いんじゃねえか』
聖樹を維持するために必要なエネルギーをそうやって少しでも賄えるようにすると。
勿論すぐには無理だろうが、行く行くは俺の無限魔力に頼らないで運用できるようにするためにもこれは必要な機能となるだろう。
『それで最後の俺の方なんだが、どうやら花壇らしい』
『花壇? 花を植えて育てるっていうあれよね』
勿論これはただ花を植えてガーデニングするためだけの施設ではない。
『機能としては農場の花に特化しているバージョンって感じみたいだな』
育てられる花の種類についても色々とあるようで、中にはこの世界に存在しないものもあるようである。
というか主にそれを育てるのがこの施設の主な活用法と思われる。
『聞いた感じだと俺の錬金術とかの生産職で利用できる素材も結構手に入りそうではあるな。分かった、その辺りの検証は俺と大樹とかで済ませておくさ。特に大樹ならそこら辺は得意分野だろうから、俺達では考えられない活用の仕方ができるかもしれねえし』
『ああ、頼んだ。とりあえず俺達は手持ちの聖樹の種がなくなるまではダンジョン攻略に勤しむ必要があるからな』
残念なことに今回のダンジョン攻略で種を手に入れた人は誰もいなかったので残りの聖樹の種は三つしかない。
なので俺と叶恵、そして先生たちで一つずつに分けてあるも同じように三カ所のダンジョンを攻略することにした。
結論から言えば、その三つについても問題なく設置は完了して新たな聖樹が展開されることとなる。
だからこそ問題となるのは、遂に聖樹の種が俺達の手持ちから無くなってしまったという点だった。
前書きにもある通り、12月1日にHJ文庫から第1巻が発売されました!
書籍用に色々と書き足したところもあるので、web版を読んだ方にも楽しんでもらえると思います。
是非、手に取ってください!




