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常闇(とこやみ)の女神 ー目指せ、俺の大神殿!ー 闇よ集え! わが権能が、あまねく世界を覆う!  作者: 山口遊子


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第92話 悪魔の所業


 栄冠を手にした悪魔サティアスの入った鳥かごをぶら下げて、通路に並ぶ扉を開けていく。


 ここに並んだ部屋は、どうも黒ローブたち下っ端が寝起きする部屋のようだ。中にベッドがいくつも並んで、木箱が置かれ棚など作りつけられている。


 部屋の中にいた連中はもちろん、部屋の中から通路に出てくるヤツも、見敵必殺の心構えで、トルシェがスッポーンしていく。そのたびにサティアスの口から、エッ! とか、ウヘッ! とかいう声だか音だかが洩れてくる。


「サティアスくん、少し黙っていてくれないかな。うるさいほどではないが気が散るだろ」


「はい。気を付けます」


 とはいってみたものの、トルシェがスッポーンしているだけなので、気が散ろうが散るまいが何も影響はない。


「ダークンさん。とりあえず、一匹捕まえておきました」


 気付けばアズランが『闇の使徒』の下級構成員、黒覆面黒ローブを一匹引きずって来てくれたようだ。襟元を掴んで引きずっている関係か、元からなのか、こいつはどうも気絶して息をしていないようだ。仕方ない、俺がカツ(・・)を入れてやろう。


 黒覆面の後ろに回って、だいたいの見当で、左右の二の腕を後ろに引っ張りながら、背中に膝を当てて、


「カツ!」


 言葉に合わせて、両手と膝に力を込めたら、


 バキッ!


 妙な手応えと足応え。こんな音が体の中からしてはいけないような音がしてしまった。


「ダークンさん、こいつの背骨、折れてますよ。それに、両肩も外れています」


 アズランから的確な指摘を受けてしまった。なんとなくこんなもんだろうと、カツを入れてみたら、一回目は失敗したようだ。ドンマイ。


 俺が先ほど注意しているので、サティアスは口をつぐんでいるのだが、そのかわり目を大きく見開いている。顔が顔だから、目元がパッチリしたくらいでは少しもかわいくないのだ。しかも花柄パンツ一丁。こいつだって今や俺の信者だ、ここで笑ってはいけない。我慢、我慢。


「アズラン、悪い。もう一匹見繕ってきてくれ」


「はい」


 いい返事と一緒に、フェアを肩に乗せたアズランがすぐに視界から消えた。


「あのう、女神さま?」


 おずおずと、サティアスが俺を呼んできた。


「何か用か?」


「今度連れてきた生贄も背骨を折ってしまうのですか?」


「さっきだって背骨を折りたくて折ったわけじゃない。気絶から目を覚まそうとしただけだ。それと生贄とか言うな! さっきのヤツは、骨粗しょう症にかかっていたようで骨がもろすぎたから、ああいった事故が起こっただけだ。次回はちゃんとカツを入れて覚醒させてやるから心配するな」


「そうだったんですね。先ほどは頭が吹っ飛ぶくらいでそのむごさに驚きましたが、実はそっちの方が慈悲深かったわけですね」


「どっちも、気づかぬうちにあの世に行ってるから差はないと思うぞ」


「ソウデスネ。(新しい魔神が誕生してしまったのか)」


 失礼なヤツだ。心の声が漏れているが、ワザと漏らしているのか。そうだとすると、教育せっかんが必要だぞ。



 そう言っている間にも、サクサク部屋の掃除を進めてあらかたの部屋の内外にいた黒ローブを駆除することができた。


 気づけば俺のそばにアズランが立っていて足元には気絶した黒ローブが伸びている。


「それじゃあ、カツを入れてやるか」


 そういいながら、黒ローブの後ろに回ったのだが、そこでアズランに止められてしまった。


「ダークンさん。無難にフェアの万能薬で起こしてやりましょう」


 どうも、アズランは優等生だな。トルシェとはえらい違いだ。


 すぐにフェアが、万能薬を先端に付けたインジェクターで気絶中の黒ローブの唯一露出していた手の甲に軽く傷をつけた。


「う、う、うう」


 とか、黒ローブが呻き始めて急に体が緊張したところを見ると、目が覚めたようだ。


 声からすると、こいつは若い女だ。俺が人間だったころ、巷では男らしいとか、女らしいとか、軽々しく言えない世の中だったが、この世界はそんなことはない。と俺は認識している。実際のところは分からないが、核家族、少子高齢化などの社会問題も起きていない、いたって健全な社会だと思う。


 いたって健全な社会に、悪魔や魔神やら、女神さまがいるって、どうよ? って話だがな。


 俺はしゃがんで、床の上の女?の黒覆面を引っぺがしてやったら、やはり、若い女の顔が現れた。今のところ状況を把握していないようだが、真っ黒い鎧に真っ黒いヘルメットの人物が自分の目の前にいるのを見れば、今現在ピンチに陥っているくらいは察するだろう。


「おい、女。これから俺の聞くことにちゃんと答えろよ。さもないと、そこらに転がっている連中みたいになるからな」


 ベッドとベッドの間に転がっている連中は覆面が取れて、目の辺りから上がなくなった状態で床の上に転がっている。ちょん切れた頭の下の部分から血をまき散らせつつ、床に倒れた時にべちゃりとピンクっぽい脳が頭からこぼれて床に落ちたのだろう、血の池の中に潰れた赤い塊が何個か見える。床に落っこちた覆面の中からもそういった諸々が染み出ていて、まさに凄惨な事件現場の様相を呈している。それに部屋はそんなに広くはないので、血の臭いとその他の微妙な体液の臭いでかなり不快な臭いが部屋中に立ち込めている。舞台設定的にはいい感じになっている。



 部屋の様子を見渡したのか、女は、


「ひっ!」


 っと、一声鳴いて、目を硬く瞑ってしまった。口さえ動いてくれればいいので何も問題ない。


 ただ、サティアスくんが、可哀そうなものを見るような目で女を見ているのだが、そこがせん。


「(悪魔も顔をそむける所業じゃないか!)」


 サティアスくん、きみの心の声は駄々洩れなんだよ。言わないけど。


 悪魔の考えていることがこうして分かるのは、やっぱり女神の能力なんだろうな。俺に向かって嘘は言えないってことか。この能力をもうすこし捻ったらおもしろくなりそうだ。


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