第34話 マイルズ商会4、官憲
俺が店の奥の小部屋でマイルズ商会の会長を尋問していたら、店の外が騒がしくなってきた。
外で騒ぐな! じじいの声が小さくてよく聞こえないじゃないか。
店の外が騒がしいと思ったら、バタバタと騒がしさが店の中まで入ってきた。
『賊はどこだ?』
『隊長、人がケガをして倒れています』
なんだ? 『賊』だと? もしかして俺たちのことか? 店の誰かが官憲を呼んだのか。どのみち、ここマイルズ商会の息のかかった連中だろうからいっちょ揉んでやるか。
「ここだー、賊はここだー!」
おっと、じじいが国際救助隊が来たと思ったのか元気づいて大声でわめき始めた。そんなことをしたら、助けが来る前に目の前の『賊』に殺されるかもしれないとは思わないのだろうか? それと、耳の近くで大声を出すな!
バチン!
フギュ。
とりあえず、じじいを殴りつけて黙らせた。このじじい、妙に漫画チックな声をだして伸びたな。
「アズラン。面倒なことになって来たから、トルシェを探してきてくれるか?」
「はい」
すぐにアズランは視界から消えた。俺も官憲の前に出て対応するとするか。
面白そうだから、社会勉強のために連中に捕まってもいいかも知れないな。よし、そうしよう。
「『収納』!
コロは、闇属性を瘴気から取ってくれるか?」
今度は普段着のベルトに擬態したコロが俺の腰を一瞬締め付けた。もう瘴気で目が見えなくなることはないと思う。
鎧の中でスカートをはいていた関係で、スカートは皺だらけになってしまい少々みっともないが、ここで着替えるわけにもいかないので我慢するよりほかはない。
そんなことをしていたら、警邏の制服なのか、紺色っぽい上下を着た男たちが6人ほど俺の待つ部屋に入って来た。一様に腰に短剣のようなものと、捕縛用のロープを束にしたものを下げていた。
「おまえは、店の者か?」
隊長らしきヒゲを生やしたおっさんに誰何されたので正直に、
「うんにゃ」
「客か?」
「うんにゃ」
「それじゃあ、おまえは何なんだ?」
「ここに文句を言いにきた者だ」
「文句?」
「ああ、文句だ。そしたら、この店の連中が襲ってきたので返り討ちにしたってところだな」
「それじゃあ、おまえが犯人だな?」
「なんの?」
「ここマイルズ商会が賊に襲われたと屯所に通報があった。警邏の屯所で取り調べるから、おとなしくしろ。
こいつをしょっぴけ!」
オラ、ワクワクしてきたぞ。
若い男にロープで後ろ手に縛られた。初めての体験だ。略して初体験! 新鮮な感動をおぼえてしまった。いけないことに目覚めてしまう予感が! するわけないか。
「あと、そこで伸びているじじいも話を聞くから屯所まで連れていけ」
「隊長、あれは、ここの会長ですよ」
「なにー! 早く言わんか! バカ者!
店の者を呼んで、会長をどこかにお連れしろ!」
この隊長、あからさまだな。正直者は嫌いではないが、いちおう公職につく者がこうもあからさまだと、そのうち足をすくわれるんじゃないか。
おっと、アズランがトルシェを連れて近くまで戻って来たようだ。一応指示を出しておこう。
『面白そうだから、俺はこいつらと遊んでくる。二人も適当に遊んでてくれ。あと、二人の居場所はなんとなくわかるかから、宿屋をとっておいてくれ。夕方までには宿屋に行けると思う』
『面白そうだからダークンさんについていきたいけど、まだ裏の倉庫とか拾い物がたくさんあるから我慢しまーす』
『了解しました』
『じゃあな』
二人に簡単な指示をしたあと、警邏の連中に引っ立てられて店を出た。
今回は、カチコミをかけたはいいが、相手が弱すぎて拍子抜けしてしまったようなものだ。武装組織でもないのでそこらへんは仕方のないことかもしれない。トルシェがこの店を根こそぎにして立ち直れないようにしてくれればそれでいい。そういえば、時代劇みたいに借金の証文みたいなのを回収してくれば、徳政令だ。
警邏の連中に連れられて通りを歩いていく俺を、通りを行き来する連中が道を避けながらジロジロ見る。
「まだ若いのに可哀そう」
「何をしたんだろう。美人なのに人は見かけによらないねー」
「このあたりでは見かけない顔立ちだ。外国人か?」
いろいろと世間さまからご講評をいただいたようだ。
市中で逮捕されて引っ立てられるとこういうふうになるのか。なるほど。勉強になるねー。
最初のうち、俺を引っ立てていた若い警邏の兄ちゃんは、俺を手荒く扱おうとしたのだろうが、少々引こうが押そうが俺はマイペースで歩くだけなので、そのうち無駄と悟ったらしく、掴んでいた俺を縛っているロープに力を込めなくなった。
この兄ちゃん、女神さまをふん捕まえた上にロープで縛るという大変バチ当たりな所業をしたわけだから、主犯ではないにせよ、えらい目にあうのは必定だろうな。可哀そうに。
連れていかれた警邏の屯所は、マイルズ商会から五分ほどのところにあった。屯所というから警察の派出所に毛の生えたものくらいかと思っていたのだが、それなりに立派な建物で、俺のいた日本だったら警察署といったところか。
連れてこられたのはいいが、何も言われずそのまま地下の牢屋、いわゆるブタ箱に押し込まれてしまった。俺を縛っていたロープはそのままだった。後ろにロープの先が垂れているので何気に邪魔だ。
これもいい経験かもしれないが、取調室でカツ丼が食べたかった。
そう思うと無性にカツ丼が食べたくなってきた。豚肉、玉子、パン粉、醤油、みりん、玉ねぎ。醤油とみりんがネックか。他に何か必要だったかな。コメを忘れてた。ご飯も食べたくなってきた。……。
いかんいかん、夢想したところでどうにもならない。これは、三人団マターとして後で三人で手立てを考えよう。




