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第四十八話 魔術師、ついに目的を達する?

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「え~!それやんの?」


 開口一番、スイールに耳打ちされたアイリーンの口から漏れ聞こえたのは、そんな子供じみた何とも言えぬ声だった。


「赤竜と戦った時に作った特別製の矢はまだ余ってましたよね?」

「まぁ、余ってるけどさぁ……。ほんとにやるの?」


 嫌々そうに言葉尻を下げるアイリーン。

 スイールはにこにことした表情で”こくん”と一度頷きを返すだけだった。


「はぁ~。あんたと組んで何が嫌って、損な役回りが定期的に回ってくることよね……」


 深く溜息を吐きながら、仕方ないとばかりに矢筒から一本の矢を引き抜いた。

 赤竜との戦いのために特別にあつらえた金竜ゴールドブラムの羽根を使った合金の矢。上手く使えば竜種にさえ深々と突き刺さる程の殺傷能力が与えられている。


「第二射、第三射が必要になるでしょうから、忘れないで下さいね」

「はいはい。わかりましたよ~」


 アイリーンは棒読みで答えると足早にスイールの元から離れて行った。

 それからしばらく、スイールとアイリーンはグリフィンと激しく戦うヴルフとエゼルバルド、そして、ヒルダを観察し機会を探った。


 そして、絶好の機会が訪れようとしていた。

 攻撃を仕掛けるヴルフとエゼルバルド、そのどちらに向かおうかとグリフィンが刹那の間躊躇し動きを止めた瞬間をスイールは見逃さなかった。


「アイリーン!!」

「任せて!」


 スイールはアイリーンの名を叫ぶと共に左手の杖を高々と掲げて魔力を集め始める。

 そして、呼ばれたアイリーンは長弓(ロングボウ)に特別製の矢を番えて一気に弦を引き絞ると、躊躇なくその矢を放ったのである。


 スイールとアイリーンが待ち望んでいたグリフィンの隙。

 動きを止める瞬間を待ち、攻撃を仕掛けた。

 そのタイミングは、ヴルフやエゼルバルドが対峙しているグリフィンへ攻撃を集めるかと思うかもしれないが、目標はグリフィンではなくその後方、玉座の前に置物の様に鎮座している朱い魔石であった。


 放たれた矢は空気を切り裂き、一直線に朱い魔石に向かって飛んで行く。会心の一撃は朱い魔石をも貫き背後にある玉座にまで達する、誰もがそれを期待し、そうなることを望んだ。


「やっぱりそう来ましたか!」


 現実はそう甘くは無い。

 願望と現実、そして理想、その全てを同時に叶える事など現実にはあり得ない。

 今も全てがばらばらに散らばってしまったのだ。

 だが、その中に予測を加えた時、どれか一つと融合して現実のものとなってしまう。

 その予測こそがスイールが頭に思い描いていた事柄である。

 しかし、その現実も予想以上に辛辣な結果を提示してくるのだ。


 スイールが予想した通り、アイリーンの放った矢は朱い魔石に吸い込まれる前に、己の身体能力を全て使って射線上に現れたグリフィンによって遮られてしまった。

 それもグリフィンの胴体中央、一番面積の広い場所で。さらに悪い事に体を斜めに入れたので飛来した矢を弾いてしまった。

 予想通りの事象と予想に反した結果にスイールは一喜一憂するのだった。


「ちょ、ちょっと!どうなってるのスイール」

「説明は後です、先に畳みかけますよ。アイリーンは次の矢を準備して下さい。ヴルフとエゼルも、そしてヒルダも攻撃の手を緩めないでください。氷の槍(アイスランス)!」


 スイールは矢継ぎ早にグリフィンを畳み掛けると他の四人に指示を出し、準備してあった魔力を長い氷の槍に変換させると杖を振り抜き、それを朱い魔石めがけて撃ち出した。

 その氷の槍はアイリーンが放った矢ほどの速度で飛翔せず、明らかに遅い、誰の目にそう見えた。当然、グリフィンにも止まるような速度しか出ていない、そう見えただろう。


 氷の槍がいつも以上にノロノロと飛来するのはスイールの策とでも言える。早すぎず、遅すぎず、絶妙な速度で飛んでいるのだからグリフィンは簡単に対処してしまうだろう。

 そして、スイールと朱い魔石の射線上にグリフィンが入り込み自慢の前足の鋭い爪を振り抜き氷の槍を叩き落し、砕いてしまった。


「ヴルフ!エゼル!」

「おうさ!」

「待ってました!」


 予想通りの行動。それは次の一手を考えるに有利だ。

 自分の名を叫ばれたヴルフとエゼルバルドは即座に床石を蹴り付け、その身を前へと繰り出す。二方向から一直線にグリフィンに向かうのだから氷の槍に全ての意識を向けている限り完全な対処は出来ぬのだ。


「アイリーン!」

「はいさ~!」

「ヒルダは待機!」

「ええっ?」


 次の矢を番えていたアイリーンに声が掛けられると即座に矢が放たれる。狙いは朱い魔石ではなく、畳み掛けるグリフィン。氷の槍を前足で砕き次の相手へ意識を向けようとした絶妙なタイミングに予想もしなかった攻撃が降り注いだ。


 グリフォンは矢を放ったアイリーンも脅威として認識していた。操る朱い魔石へ次も攻撃を掛けてくるだろうと予想していたからだ。だが、ここで自らに攻撃を仕掛けてくるなど考えてもいなかった。遠くにいる魔術師が叫び声を上げて合図を送ったにも関わらずだ。

 だから、グリフィンは飛来する矢を首を下げて躱すしかなかった。


「もらった!!」


 視線をずらしたグリフィンにこの日一番の隙が生まれた。彼の視線から敵全てが消え去った瞬間、目の前に床石を叩きつける足音が現れたと共に胸元に痛みが走った。

 ヴルフが袈裟切りに振り下ろしたブロードソードがグリフィンの胸元の羽毛とその下の肉まで切り裂いたのだ。


「クケェッ!」

「ちぃ!浅いか?」


 グリフォンの胸元の肉が弾け、真っ赤な鮮血が俊出し始めたが、ヴルフには満足できる結果ではなかった。その証拠に瞬時に反撃に移ったグリフィンの体当たりを受け吹き飛ばされてしまう。


「甘い!!」


 だが、ヴルフと二人、グリフィンに向かっていたエゼルバルドがさらなる攻撃を敢行していた。

 グリフィンの真横から捨て身のごとく体当たりをしていたのだ、それも鈍く光る両手剣の切っ先を突き立てようと。

 狙いは巨鳥の畳んだ羽根ごと貫こうとしたが、ヴルフに体当たりをしていた為に狙いは僅かに外れグリフィンの動体に、しかも、上半身と下半身の繋ぎ目、表皮の下に金属板を埋め込まれたその場所にである。


 ヒルダの軽棍(ライトメイス)は力が足りず硬質な音と共に弾かれていた。

 だが、エゼルバルドの体重と両手剣の質量、そして、彼を弾き出す脚力が乗算された一撃は魔法剣の不破壊性も相まって、金属板を易々と突き破り、グリフィンの胴体に深々と突き刺さることに成功した。


「クケェーーー!!」


 まさに致命的(クリティカル)な一撃!

 深々と突き刺さったエゼルバルドの両手剣が帰趨を決定付けたと言っても過言ではないだろう。金属板で守られているとは言え、上半身と下半身の繋ぎ目は誰が見ても弱点以外の何物でもない。そこを内臓に達するまで異物が刺さったのだから尚更だ。

 ()しものグリフィンも胴体からの危険信号を受け取り雄叫びを上げてしまう。


「まだ、まだぁっ!」


 さらに追い打ちを掛けようと突き刺さった両手剣をあっさりと手放し、暴れるグリフィンの毛皮を掴み胴体に上り馬乗りになった。左手と両足で暴れるグリフィンをしっかりと掴み落ちぬように堪えながら腰のナイフを右手で、しかも逆手で引き抜いた。


「倒れろ!倒れろぉーー!」


 掛け声とともにエゼルバルドはナイフをグリフィンの首元に突き立てて行く。

 何度も何度も……。


 それが何回か続いたところでグリフィンは大きく身を跳ねて背中に跨っていたエゼルバルドを振るい落とした。それはエゼルバルドがナイフの根元まで突き立てた一撃が引き金となっていた事は容易に想像が付く筈だ。そのままエゼルバルドは振り落とされ床石に叩きつけられてしまった。

 肺に入っていた空気を強制的に吐き出され、一瞬意識を失いかけてしまう。戦場であれば致命的な隙を作り出してしまう状況であった。しかし、エゼルバルドに襲い掛かる敵はすでに命を失いかけ攻撃が飛んでくることもなかった。


「大丈夫?」


 ()しものエゼルバルドもすぐに動き出せず、足早に近づいてきたヒルダに声を掛けられるまで倒れ込んでいるしかできなかった。

 それから上体を持ち上げ、ゆっくりと立ち上がるとブロードソードを抜き放ち、対峙していた巨体へと視線を向ける。


「倒した?」

「何とか……かしら?」


 エゼルバルドとヒルダ、そして、スイールにヴルフ、駆け寄ってきたアイリーンが目にしたものは胴体の横に深々と両手剣が刺さり、命が燃え尽きそうな、虫の息で横たわるグリフィンの姿だった。


「ヴルフも無事だったか……」


 エゼルバルドはヒルダと共にグリフィンを警戒しつつ近づく。そして、視界の隅に現れたヴルフを一瞥することなくぼそりと呟いた。


「ワシをそんじょそこらの兵士と一緒にするでない。頑丈さでは誰にも負けんわい」


 手放した愛刀を拾い上げ、ゆっくりとグリフィンに近づきながら答えを返す。

 しかし、内心ではグリフィンの攻撃が体当たりで良かったと胸を撫で下ろしていた。

 もし、鋭い爪を振り下ろされてでもいたら命が危なかったことくらい承知してたのだから。


「ヴルフでもエゼルでもいいので止めを」

「おう、任せておけ!」


 ヴルフはグリフィンの後背からゆっくりと近づく。

 ブロードソードを両手で掴み大上段へ掲げる。

 窓から零れ落ちる人工太陽の白い光を刀身に受け、眩く光を反射している。

 ゆらりと切っ先が揺れたと感じた瞬間、ヴルフは己の技を十二分に発揮し、掲げたブロードソードを振り下ろした。

 刹那の後、首元でわかたれたグリフィンの頭が噴水の様に噴出した鮮血と共に数メートル先へゴロゴロと転がって行った。

 ピクリピクリと痙攣を繰り返すグリフィン。その姿を見て初めて終わったと安堵の表情を浮かべた。スイールを除いてであるが……。


「さて、貴方の頼みの綱のグリフィンを倒しましたよ。暗闇に戻す算段は付きました。お祈りする時間くらいは待ってあげましょう」


 スイールは顔を上げて玉座の前に鎮座する朱い魔石に言葉を投げ付ける。

 この場に気配として残っていたグリフィンを屠った事で、スイール達に向ける戦力は全て失ったのだから大人しく闇に帰れ……と。

 後はエゼルバルドに指示して、まがまがしい赤い光を内包する宝石、(あか)い魔石を葬り去るだけである、そう考えるのだが……。


『ふ、ふふふ、ふふふふふ』

「それがお前の答えか?」


 耳に届いた歪な声の笑い声。失笑に似た声が響く。

 ヴルフはグリフィンの首を切り落とし血濡れたブロードソードの切っ先を朱い魔石に向ける。まだ何か隠し玉を持っているのかと視線を動かし警戒を最大限に引き上げながら。


『いや、我の用意したあれが本当に切り札だと考えているのか?』

「いえ、そんなことは無いでしょう。ですが、動けぬ貴方がどんな力を持っていたとしても、こちらも切り札を残しているのですからね」

『魔術師も法螺を吹くか……』

「試してみますか?」


 朱い魔石が告げるさらなる切り札。生きとし生けるものが存在するならば気配を感じる筈だが、一向に感じる事は無かった。この地下遺跡にいたとしても遥か遠くであるだろうからこの場に間に合うはずもない。

 それに対し、スイールの残した切り札。それは傍で柄の長いブロードソードを今も右手に握っているエゼルバルドだ。この盤面をひっくり返すなど出来る筈もない、スイールは確信していた。


「貴方の戯言には飽き飽きしましたよ。人に作られているのですから、人以上の感情、知識などある筈もないですね。それに貴方自身が蓄積している経験も不足しているのです。これ以上付き合ってられませんよ」


 溜息交じりに朱い魔石へ言葉を投げ付けるとエゼルバルドに向けてヒョイと杖を振るった。

 それが何を意味するのか、スイールとエゼルバルド、二人だけが理解できる指示だった。

 それからエゼルバルドはゆっくりと足を動かし始め、一人玉座の前に鎮座する禍々しい赤い光を内包し、どす黒い光を放つ巨大な宝石、朱い魔石へと向かう。

 そして、ブロードソードの柄頭に取り付けられた魔石が青く数秒の間、鮮やかな青色に変色したかと思うと刀身が燃えるような真っ赤に染まった。エゼルバルドがこの時のために温存してあったとっておきの魔法、魔装付与・炎(エンチャントファイア)をブロードソードに付与したのだ。


「これが私の切り札です。さぁ、闇に帰りなさい」


 スイールが言葉を告げる最中もエゼルバルドは歩みを止めず、一歩一歩、朱い魔石に近づく。低い階段を上り、攻撃できる間合いに近づくとブロードソードを両手で掴み高々と掲げる。


「何か言い残すことはありますか?」

『特には無いな』

「では、エゼル!」


 ”ビュン”


 スイールの言葉を合図にエゼルバルドが高々と掲げたブロードソードが空気を切り裂き、音を鳴らしながら袈裟切りに朱い魔石を真っ二つに切り裂いた。


 確かな手応え。


 ブロードソードから伝わった魔石を切り裂いた感触に表情を崩し、これで全て終わったと胸いっぱいに溜めていた空気を全て吐き出した。

 そして、一度、二度と深呼吸をすると真っ二つになった朱い魔石に背を向け階段を降り、スイール達へと向かうのであった。


※ついに朱い魔石を打倒?

 あっけなかったですねぇ・・・・・・。


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