第四十四話 グリズリーと再戦!
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エゼルバルドは両手剣を背中の鞘に戻した後、重厚な扉を背にしてトンネルの奥を睨みつける。
パッと右の手の平を大きく開き、トンネルの奥へ狙いを付けるようにスッと前に伸ばす。
左手は多面体にカットされ、ブロードソードの柄頭に取り付けられた魔石へそっと添える。
「それじゃ、スイール。やっちゃうよ」
「タイミングは任せるよ」
「よし。皆、眩しくなるから注意してよ」
エゼルバルドは魔力を集めながら魔法のイメージを膨らませる。
直接見てしまえば痛々しい程の閃光が放たれるだろうと注意を促しながら。
誰もが視線を逸らせた事を確認し、こくんと頷くと一気に魔力を解放した。
「稲妻!」
空間に放出した魔力はトンネルの奥へと目に見えぬ軌跡を空中に引きながら弓から放たれた矢の数倍の速さで飛んで行く。
そして、魔力が届く限界まで飛んで行くと、火にくべた生乾きの竹が一気に爆ぜる様に甲高い轟音と視力を奪う強い閃光を発した。
「うわっ!」
「きゃっ!」
エゼルバルドの後から悲鳴が聞こえると同時に、彼の前では新たな事象が発現していた。
”バリバリバリバリ!”
目に見えぬ軌跡から発せられた稲光が、方々へ乱れ撃たれたのである。
まるで稲光のトンネル、そう思っても差し支えない。
だが、そのトンネルに入った者はだれ一人出られぬ死のトンネルでもある。
そんな直径が数メートルもある死のトンネルに突如襲われたらどうなるか?
その答えは合わせは誰の目にも当然に帰結に見えるだろう。
「えっと、これですかね……」
「黒焦げ?ちょっと魔力が多すぎたかな?」
エゼルバルドが魔法を放ち、それが終息した後、死のトンネルが発現していた場所へとスイールとエゼルバルドは足を運びながら石畳を観察していた。
そして、一つの小さな黒焦げ死体を発見していたのである。
頭と腹に別れ、目が八個に足が四対八本、そして尻からは糸を出す外骨格で覆われた生き物。体長が二十センチもある蜘蛛が真っ黒になり、転がっていたのである。
「まぁ、こいつが正体であればどんな魔法でも、どんな魔力で放っても、死体になる以外にはなりませんね」
「そう言ってくれると助かるよ。ふぅ……」
誰がどんな魔法を使ったとしても、蜘蛛の死体が一つ出来上がるだけだとスイールは笑顔でその結論を口にした。
うっかりと殺めてしまったために気落ちしていたエゼルバルドは彼の言葉にほっと胸を撫で下ろすのであった。
「こいつが正体であれば次は何とかなりそうですね。尤も、次も蜘蛛とは限りませんが」
黒焦げになった蜘蛛に杖の先をガツンと叩きつけて粉砕するとこれで用は終わったと外へと続くドアへとエゼルバルドを連れて向かう。
「じゃ、今度こそ探索へ」
「ええ、お願いしますね。家々には敵が潜んでいそうですから、戦闘態勢は取っておくようにお願いしますよ」
ドアを開けようとするアイリーンをスイールはその様に告げて注意を促した。
誰もが”敵が潜んでいるってわかっている”と思いながらもそれを口に出すことなく、それぞれの武器を再び握りしる。
今、魔法を放ったエゼルバルドは一度両手剣を納刀したので、再度鞘から巨大で銀色に輝く刀身をの両手剣を抜き放ち光らせる。
柄頭から刃の先までは二メートル近い巨大な両手剣。
誰もがその威圧的な外見と圧倒的な攻撃力に期待を寄せる。
エゼルバルドが両手剣を抜いたのを頼もしく思いながら、アイリーンは再びドアを開けて慎重に潜る。
アイリーンが潜ったのを見て、数秒ずつ間を開けながら彼女に続いてドアを潜って行く。
そしてもう一枚、二枚目のドアを潜れば天から降り注ぐ人工太陽の暖かな日差しが彼らに降り注ぎ、様々な場所へと視線を誘導されるのであった。
「これは驚いたわい」
「うわぁ。こんな光景、初めてだ」
「なんか、幻想的って感じなのかな……」
人工太陽から降り注ぐ真っ白な光が、石で形作られた家々を眩しく浮かび上がらせる。
石壁は頑丈に作られ崩れてはいないが、屋根は年月が経っているらしく形を保てていない家屋も存在する。
それでも、現存している屋根は色とりどりに様々な色で染められて、彼らの視線を楽しませる。
その後アイリーンの案内でほんの少し移動した先では、件の巨大な宮殿がそびえ立つ姿が全員の視線に飛び込んで来た。
「どう?あれが宮殿よ」
「確かに宮殿……ですねぇ」
誰もが認める巨大な建物。それを宮殿と呼称しても問題ないだろうと、スイールは頷き、そして、納得して声に出していた。
人工太陽の光に照らされた姿を宮殿と呼ばずして何と呼ぶのだろうかと。その他の名称を上げろと言われれば王や帝の住まう”城”としか出て来ないだろう。それ以外の言葉は喉の門番で必ず止められてしまう、かもしれない。
とにかく、誰の目から見ても立派な建物である事だけは確かなようだ。
だが、この男だけは持ち前の捻くれた思考から、誰もが内心でうすうすと気付いてしまっていた事をぼそりと呟いてしまう。
「見た目は宮殿……なのですが、成金趣味の商売人が建てた……。そんな気もしますねぇ」
そう、スイールが口にした通り、建物は立派な宮殿と口にするには正しいのだが、いかんせんその外観、特に輝き放つ飾りがそう思われても仕方がないのだ。
おそらくだが、建物、宮殿自体はこの地下遺跡に元々存在していたと思われる。それを目立つように素人感丸出しの”金銀宝玉をただ飾りました”と言わんばかりの飾りつけは成金趣味の商売人と同じとみて間違いないだろう。
はっきりと誰もが思う。
そう、酷過ぎる。そして、悪趣味であると。
「まぁまぁ、人の趣味にケチ付けるのはどうかと思うわぁ~。ウチは目印になっていいと思うけど?」
「それ自体がケチ付けてると思うけど……」
アイリーンは成金趣味を悪いように取るのはどうかというが、ヒルダがぼそりと告げた通り、肯定しているように見えてその実は否定を口にしていると同義なのである。
とは言いながらも、誰もアイリーンの言葉を否定も悪口だとも言わないのだから、彼女の言葉は真実を得ているのかもしれない。
「ふむ……。そう捉えるのもありだな。それじゃ、スイール。敵のど真ん中へ行くとするか」
「そうそう、目標もわかったんだからさ」
ヴルフとエゼルバルドが宮殿を見据えながら先頭へと躍り出て、自らの武器を両手でしっかりと握り締める。そして、重いバックパックなど背負っていないとばかりにトントンと飛び跳ね、足元を確かめる。
「では、参りましょう」
スイールは握った杖の先を石畳に”カツン!”と打ち付ける。
それを合図に五人は一斉に足を進ませるのであった。
成金趣味の商売人が設計したような趣味の悪い外観の宮殿へと足を運び始めたスイール達。
石造りの壁の家々を左右に見ながら宮殿へと続く道を百メートル程進んだところでぴたりと足を止めた。
そして、前衛のヴルフとエゼルバルドは武器をぎゅっと握り締めると敵の来訪に備え構えた。
それに呼応するように、後衛のアイリーンも腰にぶら下げている矢筒から矢を数本指の間に入れて引き抜くと長弓に一本だけ番えた。
「おい、隠れているのはわかっているんだ。出てきたらどうだ」
ヴルフが高らかに上げた声が家々の壁で反射し辺り一面にこだまの様に広がって行く。
それを聞いたのか、細い横道からわらわらと白装束の敵が現れる。
その数は十数人だ。
だが、それとは別にスイール達の想像を超える敵が姿を現せば、驚くのも無理は無い。
「待ち伏せるならココ、と絶好な条件と見ましたが、想像の上を行く布陣ですね」
白装束の敵のほかにもう二体、のそりのそりと彼らの後ろから灰色の巨体が現れた。
この地下遺跡へと向かう道すがら、ヴルフとアイリーンの二人で退けた敵、灰色熊だ。
四肢を使い歩いているにもかかわらず、周りの白装束達よりも頭一つ、いや、それ以上に大きな灰色の体は目立つ。しかも、凶暴さを加味すればさらに巨体に感じるだろう。
白装束達は一言も発することなく、後ろから現れた灰色熊を前面に押し出そうと真ん中をすっと開けて通り道を作る。灰色熊もそれを当然承知しているようにのそりのそりと作られた花道を通り前面に出る。
「ヴルフ。一匹貰うけどいいよね?」
「あん?誰に言ってるんだ。二匹とも任せて貰ってもいいんだぞ」
「この間は苦戦してたくせに」
「見てただけのエゼルには勿体ないだろうが」
灰色熊を前にして何を言い合っているのだろうと頭を抱えるスイール。巨体や凶暴さもそうだが、体内に金属片を埋め込まれ強化されているのを忘れたのかと言い合う二人に声を掛けようとしたのだが、それには一呼吸遅かった。
十数メートル前に陣取った灰色熊が巨体を揺らしながら全速力で走り始めた。巨体で一気に仕留めようと考えたのだろう。
四肢を地に着いた状態でも人より頭一つ、いや、それ以上に大きな体は体高、そして質量共に人を凌駕するのだが、そんな灰色熊が駆けて来ようとも前衛のヴルフとエゼルバルドが怯むとは考え憎い。
向かってくるのなら当然迎え撃つと考えるだろう。
さらに、百戦錬磨のヴルフに、彼に師事するエゼルバルドである。その上を行くのは予想通りとも言えるかもしれない。
向かってくる敵に同じように走り出す。
ヴルフとエゼルバルドは灰色熊が石畳を強靭な脚で蹴り、駆け出すとみるや、同じように身を低くして石畳を靴底で黒い帯ができるほどに蹴り付け瞬く間に最高速度にまで達してみせた。
数秒後、二体の巨体な獣と二人の強者が持てる力で交差する。
その時、金属がぶつかり合う高音が周囲に鳴り響いた。
数は二つ。ヴルフとエゼルバルドが灰色熊と交差した数と同数。
それが何を意味しているのか……。
「結構柔らかいじゃん!」
「エゼル……。お前、強引すぎじゃ」
一つ目の高音はヴルフが振るった棒状戦斧と灰色熊が振り下ろした腕が交差した音。
二つ目の高音はエゼルバルドが切り上げた両手剣と灰色熊の左腕に巻かれた金属片とが交差した音。
異なるのはヴルフが弾かれたのに対し、エゼルバルドはしっかりと左腕を金属ごと切り落とした事だろう。
違いは何かと言えば武器の質と重量としか言いようがない。
最上級の鍛造品とは言えヴルフの棒状戦斧は魔法の武器たる不破壊属性の魔法を付与されていない。それに対し、エゼルバルドが扱う両手剣はスフミ王国の地下遺跡で不破壊属性を付与された魔法の武器。その違いが二人の意識に深く残り、百パーセントの力を出せたかの違いになったのだ。
そしてもう一つ。
先端に戦闘用の斧を付けた棒状武器の重量はエゼルバルドの扱う両手剣に一歩劣る。遠心力では勝るかもしれないが、今回はそれが差になったのだから仕方ないだろう。
「なるほどな。だが、ワシも扱いなれた棒状戦斧を使えるんじゃ、エゼルに負けてられんわ!」
腕を切り落とされた灰色熊とは違い、手の平に括りつけられた金属片でヴルフの一撃を簡単に打ち返した事実に、自分より劣ると感じた灰色熊。再び棒状戦斧で切り付けようと向かってくるヴルフに、すくっと両の足で立ち上がり返り討ちにしようと両手を高々と掲げた。
ヴルフでなければそれだけで戦意を喪失させるには十分だっただろう。だが相手はヴルフである。バックパックを背負っていても灰色熊を圧倒できるだけの戦い方はすでに披露してあった筈だ。
とは言え、今更それを思い出しても既に遅いと言わざるを得ない。
ヴルフは棒状戦斧、いや、穂先を取り付けた簡易棒状万能武器の間合いのすぐ手前で一瞬速度を落とした。灰色熊が落とした速度に反応したと瞬時に判断し、今度は膝のばねを最大限に生かし、腰をぐるっと回し、そして、腕をいっぱいまで突き出して攻撃を仕掛けた。
ヴルフが神速で突き出した簡易棒状万能武器は灰色熊が腕を振り下ろす素振りを見せる前に、体内に埋め込まれた金属片の隙間、それも首の付け根に深々と突き立てた。
それだにとどまらず、人の動体視力に捉えられぬ穂先の速度で衝撃波を生じさせながら首元を抉り大きなトンネルを作ってしまった。
首の半分を挽肉にされながら失ってしまい、鮮血が血飛沫となりブシュッと噴水の様に高く舞い上がった。そして、体への信号が途絶えた灰色熊の体は言う事を聞かず前のめりにズズンと倒れ込んだ。
「ふう~……」
灰色熊を屠ったヴルフが振り返り、”さて、もう一匹”と攻撃に転じようとした。だが、それもすぐに別の敵へと意識を向ける事となった。
それはヴルフの目の前でもう一体の灰色熊が骸に変った瞬間だったからだ。
ヴルフに一拍遅れて攻撃に移ったエゼルバルド。
タイミングが遅れたのは気後れしたからではなく、手の先を失った灰色熊の動きが何処か人間臭いと感じてしまった為だ。失った腕を見つめる動作が、である。
そこには野生の獣然とした姿は見受けられない。そう考えると対峙する灰色熊も操られているのだろうと断定するのだった。
それならば、と一気に畳みかけようと石畳を蹴り、両手剣を大上段に振り上げる。
瞬時に灰色熊との距離を詰めると跳躍し空高く舞い上がった。人間臭く呆気に取られている隙に、落下のエネルギーとして自らの体重と背中に背負ったバックパックの重量、さらに、両手剣を振り下ろす速度をも加算して灰色熊の頭部に一撃を食らわした。
エゼルバルドの一撃は灰色熊の頭蓋骨に埋め込まれた金属片ごと真っ二つにして、死を感じる暇も無く命を刈り取った。
※待ち伏せに強靭な四肢を持つグリズリーを当てて来た。
だが、一度戦っている相手では有利に事を進められる筈も無く、あっという間に地に沈んだのでした。。




