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第二十五話 入山許可

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「同族?どこの誰だかわからないオレが」


 老人の視線を痛いくらいに浴びているエゼルバルドは、困惑気味に言葉を吐いた。

 その時、彼の脳裏には島へ渡る船の上で船長に珍しいと言葉を向けられた事を思い出した。目の前の老人の髪は剥げていたり、白髪となり参考にならないが、左右に座る十人の男女に視線を向ければエゼルバルドと同じ黒い頭髪をしている。

 瞳に限って言えば、正面い座る老人たちも含めた十三人全てが黒目である。


 スイールが黒髪をしているが瞳は黒とは言い難いし、ヴルフとヒルダに至っては明るさは異なるが茶色の髪。アイリーンは言わずもがなの赤髪である。

 そう考えると十八人中、十四人が同じ特徴の頭髪、瞳を持っている、不思議な光景だ。


「ですが、同じ髪と瞳の色だと言って同族とは言えないのでは?」

「確かに、そなたの申す通りであろう。遥か東方に同じ髪、瞳の色を持つ種族がいるようですが、そちらの方は確実に同族であるとわかりましょう」


 自らの子供として育てたと自負するスイールは反論を口にする。


 遥か東方とは、その言葉通りの遥か東に浮かぶ小さな島国、上代国(かみしろこく)の事だ。

 だが、上代国出身者は全体的にエゼルバルド達よりも骨格が丈夫で太く、若干背が低い。それに比べここで顔を合わせている同じ特徴を持つ者達は、顔がほっそりとしていて、上代国出身者より五センチ程背が高い。エゼルバルド達の特徴とは全くと言って良い程似ていない。


「その話は後にしましょう。それよりも、私達に火山への入山許可を頂きたいのですが」

「仕方あるまい。では問うが、何故山に登りたいと申すのか?正当な理由が無ければ許可は出せんぞ」


 エゼルバルドが同族であるかよりも、赤竜の洗脳を解くことが先決であり許可を得なければならない。スイールが言葉で説明しても長老が容易く首を縦に振るだろうかと疑問を脳裏に浮かべる。

 それならば、言葉よりも確実な方法を取るべきであると、とある証拠の品を見せることにした。


 スイールは斜にかけた鞄を開けて腕を突っ込む。

 その動作とは正反対に精密な指の動かし方をして、ある物を掴むとゆっくりと目の前に取り出した。


「おおっ!それは」

「長老はこれが何かお判りでしょう?」


 スイールが取り出したのは、金竜ゴールドブラムから受け取った羽根だ。

 金色に輝く羽根は薄暗い室内においてもその輝きを失っていない。

 長老の一人がカッと目を見開き金色の羽根を見つめながら感嘆の声を上げているが、他の人々は”何なんだ?”と隣と言葉を交わして騒然とし始める。


「なるほど。我等の信奉する竜とは異なる竜からの使いであったか……」


 長老の一人の言葉を耳にして、雑然と騒いでいた声がぴたりと止んだ。

 長老は一目見ただけで金竜の羽根であると見抜いていたが、他の者達は巨大な鳥の羽根と思っていたたようだ。


「使者とは少し違いますね。私達は金竜ゴールドブラムから依頼を受けてきました。これで許可を頂けますか?」


 スイールは早く許可を貰いたく急かすが、長老は”ふぅ~”と溜息を吐いて天井を見上げる。早まる心臓の鼓動を落ち着かせて長老は口を開く。


「分かった、許可を出そう。だが、経緯を聞かせて貰わなければならん。それに、竜を殺させんぞ」

「ええ。重々承知しています。ゴールドブラムからの依頼はそうではありませんのでご安心ください」


 その後、スイールは金竜からの依頼内容を説明して行く。

 まず、赤竜が何者かに洗脳されている事。それが完全に完了してしまうと世界を滅ぼす生物兵器として使われてしまう。

 だから、金竜から洗脳を解いてくれと依頼を受けたのだと。


 そして、世界に散らばる竜種七柱は人の手で殺す事は出来ないと告げる。


 長老達はそれに驚いた様であったが、しばらくすると”さすが竜神!”と崇める竜を褒め称え始める。

 その光景をスイール達はどこか冷めた目で見つめる……。

 直接金竜と会話を交わしたスイール達には、それほどなのかと疑問を頭に浮かべる。


 騒然とした室内が静かになった時を見計らい、スイールは最後の言葉を口にした。


「私達は赤竜を洗脳から解き放つ方法を持って、この地を訪れたのです」


 そう断言したスイールの言葉を耳にし、長老達はそれぞれが長考に入った。

 だが、横に並ぶ十人のうち一人がすぐに長考を遮った。


「……。それは私達に任せて貰え……」

「赤竜の暴力的な攻撃に(さら)されて無事でいられる自信があるのなら、お任せしても宜しいのですが」

「こ、攻撃に?」


 解き放つ方法を知ると伝えれば、”余所者に任せてられぬ”と思う者が現れるのは至極当然だ。スイールは、いや、スイール達はその答えを全員が予想しており”やっぱり”と溜息を洩らし始める。

 その中でもスイールは、返された言葉を途中で遮り無理難題を突き付ける。

 長老達は恐らく知らぬ筈だ、赤竜の本当の実力を……。


 高度な知能を持つ竜種は人との会話を可能としている。

 金竜ゴールドブラムと魔術師スイールが交友を持っていた事で証明出来るだろう。それも、数千年来の友であれば。


 長老達は赤竜を崇めている。だから、優しさと力強さを知り、竜の凶暴性を全く知らないでいると言っても過言ではないだろう。

 それは、長老達の後ろの壁に描かれた赤竜は力強く描かれているが、表情は何処か穏やかで凶暴性とかけ離れていると証明している様なものだ。


 だから、赤竜が口から吐き出される凶悪で暴力的な炎の暴息(ファイアブレス)を脳裏に浮かべる事さえできないでいるのだ。


「そうです。竜種が持つ最大の攻撃、暴息(ブレス)から……です。しかも、赤竜は竜種で最高の攻撃力を持つ炎の暴息(ファイアブレス)を吐き出すのです。人の体であれば一瞬で死、いえ違いますね、蒸発してしまうでしょう」

「そんなにか?」

「ええ、嘘偽りはありません。ちょっと鼻息を出しただけでも人は簡単に宙を舞う程ですからね」


 スイールの説明通りであれば、長老達が頼みを寄せる戦士達が束になって赤竜に挑んでも一瞬で終わる、長老達の背中を冷や汗が流れながら最悪な事態を思うしかなかった。

 実際、金竜のちょっとした息を受けたヴルフが宙を舞った事実がある。


「門を竜の方角に向けて崇めただけでは、我等の力では太刀打ちできぬか……」


 堂々と告げられれば事実として受け止めるしかない。

 スイールをしばらくじっと睨みつける。


「仕方ない、竜を崇める全ての者達を代表し、この通りお頼み申す。我らの竜を良き方へと導きを……」

「ちょ、長老!!」


 長老はゆっくりと頭を下げながら、言葉を選びスイール達に赤竜を頼むのだった。

 それでも、何人かは長老の判断は間違っていると異議を唱える。それこそ自分達の役割、仕事であると。


「頭を上げてください。私達は依頼を受けて仕事に来ただけなのですから」


 スイールは目の前の長老に”もう、結構ですから”と頭を上げるように促す。

 そして、長老の願い、赤竜を救い出してほしいと暗に告げたのだ。


 長老の説明だと、赤竜は今、火口に続く洞窟の奥で丸まってじっといている状態を続けている。

 少し前までは自らで動きまわり、好物の火蜥蜴を捕食していた。これがこの島に住む人々が目にしているごく当たり前の赤竜の姿である。


 だが、ある時を境にして人の前から姿を消した。

 空を飛べぬ赤竜が人の目に触れぬので何処かでじっとしているだろうと予想を立て、火山の周辺を虱潰しに探した。

 その結果、火山の火口に続く洞窟で丸まっている姿を発見した。


 赤竜がそこにいると知った彼らは喜びの声を上げながら近づいて行った。いつもならば彼らが近づいても二言三言、言葉を交わすのが定例となっているが、この時ばかりは違った。急に頭をもたげると、近づいた人達を刹那の間に死に至らしめた。

 十数人いた者達の半数はその場で命を失い、残りの半数は這う這うの体で麓まで逃げ帰ってきた。


 今まで長老ら、崇める者達に牙を剥いた事は一度もなかった事から、赤竜に異常事態が起こったのだと理解したという。

 その後も何回か、赤竜と会話を試みようとしたが、その度に出向いた者達の半数以上が命を落としている。


 そして今は、赤竜を、同族を失うわけには行かず、念のためとして火山を封鎖している。

 おとなしくしているがいつ暴れだすかもしれぬと気が気でないのだ。


 そこに、金竜の依頼を受けたスイール達が現れたのだから、藁にも縋る思いで頭を下げたのである。

 だが、頭を下げた理由に、もう一つ理由があった。


「お前達も良く聞け。実は数日前、我の夢に金竜様が降臨なさったのだ。この地に金竜様の羽根を持つ者達が来ると。我らの信奉する竜の目を覚まさせるのはその者達しかいないと」

「は、初めて聞きましたぞ。何故それを黙っていたのですか?」


 長老は厳しい事を口にしていたが、実はスイール達が現れると知っていた。

 それを口にすれば若い同族達は血気にはやり、長老の命を無視して赤竜に挑んで行く姿を思い描いてしまった。

 それ故に、長老をその事実を胸の内に隠していたのである。

 そう、口にすると長老は溜息交じりに言葉を続ける。


「わかったか?お前達ではむざむざ死にに行く様なものだ。対抗策があるでもなしに……」


 長老からそう言われると、騒ぎ立てようとした数人はおとなしく身を縮めるのであった。


「我らも力になりましょう。とは言いましても、足を確保する位しかできませんがな」

「いえ、それでも有難いです」


 そして、長老は島に”到着したばかりで申し訳ないが”と一言謝りを入れ、出発はの日取りを早めに設定したいと申し出る。

 スイール達はいつでも大丈夫だと答えを返すと、出発は明日だと決まった。


「では、今日はこの屋敷で心行くまでお休みください。お部屋に案内するように」


 長老はそのように告げると一礼をしてその部屋から去っていった。

 その後、長老に続き他の者達も部屋から去り、スイール達が残されたところで、スッと気配も見せずに案内役の男が現れた。


 それから一度、控室へ戻りバックパックなどの荷物と物騒な武器類を回収して、屋敷の離れにある客室へと通された。

 ホテルのスイートルームもびっくりな一軒家丸々を貸してくれたのである。

 ただ、トルニア王国王都にあるヴルフの屋敷に比べると寝室が相部屋になっていたりと、多少小さい。それでも、数人で入れる風呂を設けているなど至れり尽くせりであることには間違いない。


「ほほう、風呂か?早速入るとするか」

「ちょっと、ウチらが先よ。あんたが入ったらお湯が汚れるじゃない!」

「言ってくれるな!体を流してから入るに決まっておろうが」

「それでもダメよ。レディーファーストとして譲りなさい」


 荷物を下ろして、一軒家の奥から湯気の匂いを嗅ぎ取ったヴルフは一目散に駆けて行き、風呂があると喜び勇んで入ろうとした。

 匂いを嗅ぎ取ったのはヴルフだけでなくアイリーンも同じであった。


 どちらが先に風呂に入るかで口喧嘩に入ろうかと、視線をバチバチと交わしていたのだが、それは強制的に終わりを告げることになった。


「あの~、お客様。宜しいでしょうか?」


 案内役の男とは別に、伝言を持った女がスイール達の下を訪れてきた。

 彼女曰く、長老からの伝言で黒目黒髪の青年、つまりはエゼルバルドのみを連れてきて欲しいとの事だった。


 エゼルバルドだけに用事があるとすれば、一つしか思い浮かばぬだろう。


「まぁ、ちょっと行ってくるよ」

「そうですか……。わかりました、何があってもエゼルの意志を尊重しますよ」


 そこから出て行くエゼルバルドに向かって、スイールは意味深な言葉で送り出した。

 しかし、内心では少しだけ心配しているのであるが……。


「そうか……。エゼルは呼び出されたか。仕方ない、風呂は譲るとするか」

「ほほ~ぉ。話がわかるじゃん。ヒルダ、風呂行こう」

「う、うん……」


 エゼルバルドと汗を流そうと思っていたヴルフだったが、彼が呼び出されたと聞き一番風呂をあきらめてアイリーンに譲った。

 そのアイリーンは早速ヒルダを誘って風呂に向かおうと声を掛けた。だが、ヒルダはエゼルバルドが呼び出しを受けて不安を抱きつつあった。アイリーンを追って風呂に向かうのだったが、返した返事は不安交じりで弱々しかった。


「ヒルダが心配するのも当然でしょうね」

「そうか?」

「そうでしょう。彼の親……とは行かないでしょうが、親類がゴロゴロと出てくる可能性があるのですよ。ここに留まる、そうエゼルが口にしても可笑しくはありませんからね」


 いつもは強気のスイールだが、エゼルバルドの事となるとどうも心配してしまう。

 特に今回は彼の出生の秘密に迫るかもしれないのだから、内心はドキドキしてしまっても仕方ないだろう。


 それとは逆にヴルフは悲観的に考えていない。

 幼い頃にスイールが保護したとは聞いているし、エゼルバルドは親の顔も覚えていない。そう考えれば、おのずと帰る場所は何処になるか、自明であろうと。


「ま、なるようにしかならんさ。あまり気を揉むで無いぞ」


 肩を落とすスイールを珍しくヴルフがなだめるのであった。


上代国(かみしろこく):第9章、その1でエルザに協力した赤川 兼元の出身地である。その他に、第11章、第1話~3話の舞台です。

※ヴルフが宙を舞ったのは第二章 第十七話 竜襲来!!を参考にしてください。


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