第二十話 怪我人の手当ては慎重に
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これからも、拙作”奇妙な魔術師とゆかいな仲間たちの冒険”をよろしくお願いします。
「おれは【アマベル=モーラン】って言うんだ。よろしくな、パティ」
「ええ、よろしく」
アマベルは右手を出して握手をしようとしたが、自らの血液がべっとりと付いて汚れた手の平をみてすぐに引っ込め、首だけでちょこんと礼をした。
「アマベルとやら、お嬢様を庇って頂き感謝に堪えぬ。この通り礼を言う」
パティに迫った矢を身を挺して庇った事に頭を下げるアンブローズ。本来であれば、それは彼の仕事であったが、敵を一人捕まえている最中であったために、かばう暇がなかったのである。
「ああ、気にしないでくれ。こっちも体が動いちまっただけだからな。それにしても、面白い主従だな。さっき、姫様って言って無かったかい?」
「ああ、それね。この人、この前までお城で働いてたから、その時の癖が出てしまったのよ、きっと……」
”ほんとかなぁ”と、疑いの目を向けるアマベルだったが、視線を泳がせ笑ってごまかすパティとアンブローズの二人に、これ以上詮索しても失礼だと向けた目を元に戻した。
「おれがここに来たのは、友達が取られた”ある物”を奪った奴らを追いかけたから……なんだけど、信じてくれるか?」
「それが本当か信じられないけそど、わら……っと、私を助けてくれたんだもの。信じてあげるわ、一応ね」
「”一応ね”、か」
アマベルは目を細めて”クククッ”と乾いた笑いを漏らしたが、傷口が痛むのかすぐに顔をしかめた。その顔を見て、男達も見えなくなった事だから、家まで送ろうかとパティが提案をする。
抉られた傷口を考えれば、一人で歩くよりも送って貰った方が助かると思い、お願いしようかと考えたが、もし、この金髪ショートカットのパティがあの男達の仲間であったらどうするか。それに、四人もの男が十分動けない自分を襲ってきたらと考えたら、と素直に喜べなかった。側で気を失っている敵の一人を見ればその懸念は十分あるのだから。
「家までって言いたいけど、あんたらの事を信用したわけじゃないから、途中までだぞ」
「それじゃ、近くまでね」
パティが肩を貸そうとしたが、ここは力のある私がと、アンブローズがアマベルの腕を肩に担いで起こし、ゆっくりと彼女の指示に沿って歩いて行くのであった。
この時、騎士の一人が気絶した男を後ろ手に縛って担ぎ上げると、アマベルを立たせるよりも早くその場から走り、一足先に帰路についた。
アマベルに肩を貸しながら向かったのは王都アールストにある南のワークギルドだった。パティ達にすれば、まもなく王城に到着するはずだったのが、余計な事に首を突っ込んでしまい道を戻る事になったと苦笑する。
王都アールストには東西南北の四か所にワークギルドが存在し、それぞれが独立した仕事を依頼する様になっている。
アールストの人口を考えれば、もう一つ二つあっても不思議では無いが、職員も沢山いる事から今現在は、四か所で足りているのだ。
ワークギルドの自在ドアを開けて中に入る。
南のワークギルドに初めて入ったパティは、熱気と酒と食事の混ざった匂いにむっと顔をしかめた。過去に入った北のワークギルドはこんな匂いだったかと首を傾げて不思議がるが、四か所もあれば独特の匂いが染みつくのだと、自らで納得する理由を見つけていた。
「いらっしゃ~い。何か用ですか……って、どうしたの、アマベル!」
他人に肩を貸してもらってワークギルドに入ったアマベルを驚いた表情で迎えたのは、カウンターで受付業務をしている一人、ブリジットだった。受付嬢から真っ先に声を掛けられるなど、実力者か、難題を解決して有名になったかのどちらかであろう。
まあ、アマベルに四人も付き添っていればそれは驚かれるだろうし、それに注目を集める事も必至だろう。
「私等のお嬢様を庇って怪我を負ったので家まで送ろうとしたのだが、ここまでで良いと言われて連れて来たのだ」
「あら、そうだったのね。それで、アマベルは大丈夫なの?」
はらはらと心配そうな顔でアマベルを見ているが、命に別状はないと伝えるとホッとしていた。
「ええ、怪我はしましたが、治療もしてありますから、しばらくすれば治りかと思います」
矢が肉を抉ったために傷跡は残るだろうが、と一応伝えると、アマベルがそんな事気にしなくて良いと口にして来た。パティもアンブローズもその言葉をありがたく貰ったが、女性の体に痕が残る怪我を負わせてしまった負い目が脳裏に残っていた。
「わら……っと、私達はこれで失礼しますので、アマベルの事はくれぐれもよろしくお願いします」
「は~い。ギルドで責任を持って送りますから、安心してください」
アマベルをワークギルドに残し、パティ達は挨拶もそこそこにワークギルドを後にするのであった。
「アンブローズ、物は相談なんだが……」
アマベルをワークギルドへ預けて王城への帰り道、行儀が悪いと言われようとも屋台で串焼きを買って小休止している所でパトリシアが相談事を持ち掛けた。
「先ほどの怪我をした女性の事ですな」
「ちょっと気になるんだけど、アンブローズはどう思う?」
パトリシアが気付く位である。当然、アンブローズや護衛の二人も気が付いていた。
「あの怪我でしたら、一週間ほどは剣を振るに支障が出そうですね。そうなると……」
「影から支援できないかしら。彼女の身のこなしもそうだけど、とっさに妾を庇った考えは騎士向きじゃないかしら?」
「身を挺して庇ったあの行動は、咄嗟に出来る事ではありませんから、何時もその様な状況に置かれているのでしょう」
串焼きを大きな口を開けて頬張り、咀嚼しながらアンブローズに意見を聞く。彼は、”ただ”と続けてさらに言葉を繋げる。
「騎士としてはあの口の悪さはどうかと思いますが……」
「アンブローズも言うわね。口が悪いのは他にも知ってるから、良いんじゃないの」
「剣の腕は立つのに、口が悪いのは一人だけ知っていますな、元騎士で」
「でしょう。それなら大丈夫じゃないかしら」
口の悪さを気にしないのであればなかなかの逸材、いや、素材ではないかとアンブローズは考えた。男達との切り合いでも、一対三となりながらも、粗削りの剣術をもって、傷を負わずに戦えていた。
「それでは姫様。二人は残しておきますので、早急に王城へと戻りましょう」
「わかったわ。それじゃ、彼女の事、お願いね」
「「承知しました」」
串焼きを食べ終わると、アンブローズは護衛の二人に指示を与える。そして、パトリシア姫とアンブローズは王城へ、護衛の二人は先ほどの街中へと急いで向かうのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「本当に大丈夫なの?アマベル」
パトリシア姫達がワークギルドへアマベルを預けると、受付嬢のブリジットは怪我をした彼女を奥の救護室へと運び込み、容態を案じていた。命に別状はないと言われたが、腰回りを包帯でぐるぐる巻きにされていれば心配するのも当然だろう。
アマベルの顔色が悪くないのが、唯一の救いかもしれない。
「今は結構痛むわ」
「そう、でもどうして庇ったの?貴方らしくない」
いつもなら誰かを庇うなど考えられなかった。何人かのパーティーで活動していても、誰かを庇うなどしたことが無いのだ。
実力主義で”怪我をするのは弱っちいからだ”と考えるだけに、自らの行動が腑に落ちなかった。
だが……。
「だけど、あのパティとか言った女だけは、怪我をさせてはいけないって、頭に浮かんだのよね。不思議な事に」
そう口にすると頭を傾げるのであった。
「でも、四対一になった時はさすがに死を覚悟したけど、さっきのが助けてくれたから命拾いしたわ。そのお返しだったのかもしれないね、この怪我は」
「そう思うのは勝手だけど、お医者さん呼ぶわよ」
「ああ、お願いするよ」
応急手当をしてあるとは言え、このままだと治りも遅いとブリジットは近所のお医者さんを呼ぶべくその場を離れて行った。
(でも、あの女は何者だろう?ただの貴族のお嬢様って訳じゃないよね、きっと)
救護室のベッドに横になっていたアマベルは、話し相手もいなくなり意識が朦朧としはじめ、すぐに夢の中へと迷い込んで行った。
アマベルが救護室で目を覚ましたのは、窓からの夕日が彼女の顔を照らし始めた時であった。
「あれ、寝ちゃったのか……っいたっ!」
ベッドから飛び起きようとしたが脇腹に激痛が生じ、再度ベッドに身をゆだねる事になってしまった。
(そうだ。あの女を庇って怪我をしたんだっけ……)
思い起こすのは昼間の出来事である。友人の持ち物を取り返そうと必死に追いかけ、相手と相打ちになっても取り返すと思っていた所に助太刀され、その後はそこにいた貴族の女の子を庇って怪我を負った。
なんて間抜けなんだと自らを責め始める。
腕で目を覆うと、自然に涙が溢れて来る。止まる気配もない自分に、”こんなに弱かったっけ”と自問自答する。
取り返せなかった自分と、助けて貰った事にホッとした自分と、女の子を庇った自分と、どれが本当の自分なのかわからなくなってしまう。強がって言葉遣いを変えても所詮は女なんだなと悔しい思いを胸に抱きつつあった。
しばらく経ち、気持ちが落ち着いた所でゆっくりと上体を起こす。飛び起きなければそれほど痛みは感じないと傷口に目をやると、包帯は一度解かれ、別のガーゼががそこから飛び出していた。寝ていた間に処置をして貰った様で助かったと思う。
だが、今の格好は傷口を手当てして貰った影響なのか、上半身は裸でシーツを掛けられていただけであった。
胸や腹を見やれば消えない傷跡が白い透き通るような肌に幾筋も刻まれ、女性としてはどうなのかなと少しだけ悲しみを抱く。それでも、幾度も危機を乗り越えた勲章だと思えば少しは誇らしいとは思うのだ。
とりあえずは下着を身に着け、傷口を切り取られたシャツを着込み、ベッドから下り立つ。そして、愛用の剣を手に取り、救護室を後にする。
ガチャリと救護室のドアを開ければ、そこはワークギルドの夕方、当然忙しい時間真っただ中だ。ブリジットに挨拶をしなければと思うが、処理待ちの列を見れば、忙しい時間を割いてくれとも言えず、併設された酒場へと足を向ける。
傷口に響かない様にとカウンターへゆっくりと腰を下ろして、飲み物を注文する。
「今日はどうする?」
仲間といる時はテーブル席だが、この日は一人でカウンターだ。
話し相手はカウンターで話しかけて来たバーテンダーだ。
「今日のおすすめと果実酒かな。あ、果実酒じゃなくて、ジュースにして」
「お酒を飲まないのは珍しいな」
「まぁね、下手こいてこの通りさ」
アマベルはシャツの切れ目から覗く脇腹をバーテンダーに見せると、”確かに下手こいたな”と笑って返された。
仕方がないなと、おすすめ料理を待つ間に、バーテンダーは大きなジョッキになみなみと注いだジュースをアマベルの前に差し出す。
「こんなに頼んでないぞ」
「いいって、笑ったお詫びと良いものを見せてもらったお礼だよ」
バーテンダーの刺す先はアマベルの傷口を塞ぐ包帯であったが、それとは別に豊満とは言えぬ胸を隠す下着がチラチラと見えていたのだ。
「これじゃ、たんねぇぞ。もう一つ寄こせ」
赤くなるアマベルにバーテンダーは”ふふふっ”と笑いを見せるだけであった。
食事も済ませ、ジュースも飲み干してカウンターで暇を持て余していたアマベルの横にひょっこり女性が現れた。
「あら、もういいのかしら?」
声を掛けて来たのは受付業務がやっと終わったブリジットであった。そして、業務がまだ終わっていないからと、アマベルと同じジュースを頼む。
「痛むけど、何とかね」
「傷口を縫ったみたいだから、しばらくは運動しちゃ駄目よ」
「わかってるよ」
ブリジットの小言に、”あんたはおれの母親じゃないんだから”、と言ってやりたい気持ちを抑え、ブリジットが小脇に挟んだ書類の束から一枚差し出した紙にアマベルは目を落とした。
「はい、請求書。このくらい払えるでしょ」
そこには傷を縫う手術代金として金貨一枚を請求する旨が記されていた。
「ちょっと、これ高いんじゃない?」
「あら、格安よ。立て替えて上げたんだし、ギルドからの補助金も出てるんだからね」
「それでも金貨一枚ってのは」
「でも払わないと依頼は受けられないわよ。他に行こうとしても無駄よ」
仕方ないなと思いながらも鞄から金貨一枚を取り出してブリジットへ手渡す。
「はい、預かりました」
にこにこと笑顔を見せながら金貨をポケットに仕舞うと、ちょうど目の前に置かれたジュースを手に取り口に運ぶ。
「それでさぁ。一つ頼みがあるんだけどさぁ」
「あら、頼みって珍しいわね。お金なら貸せないわよ」
金貨の入ったポケットを手で隠し、渡せないとアピールする。だが、アマベルの頼みは金銭からはほど遠かった。
「羽織るものを貸して欲しいんだよ」
「羽織るもの?」
傷口の部分をナイフで切り取られているとは言え、十分な厚着をしていると思われただけに不思議そうな顔をするブリジット。
だが、アマベルが服を少し浮かすとブリジットは納得するのであった。
「ちょっと待っててね。今度来た時に返してよね」
「恩に着るよ!」
顔の前で両手を合わせてブリジットを拝むアマベル。
さすがの彼女でもバーテンダーに下着を見られ赤面していたのだ。包帯は見せられても、下着をチラチラと見せながら歩くのはさすがのアマベルでも無理があるなと思い、ブリジットは貸し出しの外套を取りにカウンターへと戻って行くのであった。
僕っ子は聞いたことあるけど、俺っ子っているのかしら?
それよりも、俺っ子って年齢ではありませんので(笑)
第一王女のパトリシア姫、パティとの表記は貴族のお嬢様の時の表記です。




