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第四話 天井からの迷惑な客

序章を見直し中ですが、大幅に変えすぎて改変どころが新規作成に近くなってしまってます。その為、改変作業が遅々として進まず、悩んでいたりします。

まぁ、ストーリー自体に変更は無いので言い回しや会話のセリフが変わるくらいなのですが、それでも・・・。


もしよかったら【改訂版】と着いている話をもう一度見ていただくとありがたいかなと思います。

 人々が寝静まる深夜、屋根伝いに忍び歩く二つの影がある。真っ黒なシャツとズボンを身に着け、袖や裾が舞わない様に紐でしっかりと縛られている。靴は足音が出にくい獣の素材が使われ、これだけで幾らの金貨が舞っているのかと疑いたくなる。

 当然だが顔もわからない様に黒い覆面を被っている。


「ここか、上玉のが泊まってる宿は?」

「ああ、リークされたネタだ。間違いない」


 片流れの屋根の上で何やら怪しげな会話をしている二人の男、小声であるため周りには気が付かれないだろう。

 片流れの屋根のてっぺんから軽業師の様に”ひょい”と軒にぶら下がると秘密の開口部のドアを開け、中へと入り込んで行く。ちなみに、この開口部は男達とつるむ建築士達が仕組み、パッと見は模様に隠れていてわからない様に作られ、宿の主人にも秘密にされている。

 天井高は高い所で一メートル位。そこから徐々に低くなり最後には十センチも無くなる。

 屋根を支えている構造物たる極太の木材を少しずつ躱しながら、暗い中を手さぐりで進んでいく。灯りは点けない、隙間から漏れれば台無しだ。

 そして、二人は目的の場所へとたどり着く。先程の開口部から侵入し、すでに十分が過ぎている。そんな二人の背中は冷や汗をかきびっしょりと濡れている。


 天井裏の暗い中、手慣れた手つきで木の板をそっと外す。何処に何があるのか、既にわかるところを見れば何回も繰り返す常習犯だとすぐにわかるだろう。外した板から下を見れば、かすかに月明かりが窓から入り、その中を照らしている。暗闇で慣れた目には、太陽が出ている昼間に見ているのと同様の明るさであろう。

 三人部屋のベッドは布団が盛り上がり、すべてのベッドが使われていると一目で理解できるが、その中で一番の上玉はどれかなと値踏みする。木の板を完全に外し、人の体が通れるまで開ける。


(さて、拝みに行くかな、くふふっ)


 にやけた顔をした二人が音もなく天井から降り立つと、先ほど値踏みしたベッドの傍らにゆっくりと、足音を立てずに移動する。


(さて、拝見拝見!)


 二人が布団に手を伸ばそうとしたその瞬間、布団は大きく宙を舞い二人の視界を奪われ、目の前が真っ暗にされた。


(は?何が起こった)


 目の前で起こった出来事に頭が追い付かず、一瞬体が硬直した。その刹那の時間は決定的でかつ最悪で、ベッドから何者か起き上がると彼等の横に回り込み、それと同時にとてつもない衝撃を受けるのである。腕を引き防御に回そうとするが、そのスピードをも上回る速度で殴られ、体が言う事を効かずに吹き飛ばされ壁へと叩き付けられた。

 そして、目の前が徐々に暗くなるのを頭で理解するが、(あがな)う事も許されず意識を手放していった。




 気が付くと、オレンジに光るランタンが部屋を照らし、彼の目の前には六人の男女が鬼のような形相で睨んでいた。

 これは拙い逃げなければと体を捻るが手足をしっかりと縛られているようで、動く事もままならなず、万事休すと言った所だ。そして、横を見れば相棒も同じように手足を縛られ、気を失っている。


「気が付いたようだが……」


 目の前の男はナイフを片手に構え、言葉をかけてくる。ますます拙いと思うが成す術もない自らを今は呪うしかない。


「オレの相方が寝ている部屋に押し入ったんだ。命で支払う覚悟はできているだろうな!」


 逆手に持ったナイフが振り下ろされ、床にドスっと突き立てられる。


(ごめんなさい、もうしません)


 しかしながら、彼の口は動かずに言葉は発せられず、傍から見ればブルブル震える子犬の様に惨めな格好をしているのであろう。


「こいつでいいんだよな、ヒルダ」

「ええ。そうよ、エゼル」


(はぁ、こいつ等夫婦か?俺よりも二回りも若いのにか)


 少し驚くが、それよりももっと恐ろしい話が続くのである。


「さて、お前には幾つかの選択肢がある。一つはここで人生を終わらせる事。二つは兵士に付きだされその後に人生を終わらせる事。三つはお前の使えないそのモノを切り取り、生かされる事。どれがいいか選べ」


 突き立てたナイフを床から引き抜き、刃を頬に当てながら迫る。男にとってその三つはどれも嫌だった、特に死ぬのは。


(クソッ!クソッ!死んでたまるか)


 体を捻り少しでも逃げようと努力をするが、それも無駄であった。脇腹を力いっぱい蹴られ、無様に床を転がり顔面から突っ込み、床を舐めるのだ。そして、蹴られた衝撃は体の内部を駆け巡り、横隔膜を痙攣させ、息が出来ずにもがき苦しむのだ。


「今さら逃げようっても無駄だよ」


 余り身長は高くない赤髪の女がその間に入り男を脅す。寝間着姿で豊満な胸の膨らみを主張しているが、今はそれを楽しむどころではないのが残念だった。


「そうだ、もう一つあったな。ここの情報を渡したのは誰か言え。有益な情報によっては生かしておいてやる」


 銀色の刃がランタンの光を反射しギラリと光り、鋭い切っ先は首筋へと向けられる。ナイフの先が首に押し当てられ、少しだけナイフが動くと首筋に赤い線が引かれる。所々からプクッと赤い血が泡の様に漏れ出し、幾条もの筋となって胸へと流れる。


『わ、わかった。言うから殺さないでくれ』


 いまだに目を覚まさずに夢の中をうろつく相棒を呪いながら、ゆっくりと聞かれたことに答えていくのであった。まだ死にたくないと思いながら。




「幾つかの組織が絡んでいたか……」


 街への出入りを監視し見た目で選り分けるグループ、後を付け行先を把握するグループ、連絡に特化したグループ、実行し拉致もしくはその場で襲うグループとそれぞれが独立した組織であった。

 複数のグループで代わる代わる交代で見張りをすれば見つかる可能性は少ないので、そこは称賛に値する。だが、


「そこまでは良かったが天井裏を通ってきたのは拙かったな。邪な気配をプンプンさせながら移動すれば誰でも気が付くさ。で、キサマは拉致のグループの一員なんだな」


 エゼルバルドはナイフをちらつかせ男に尋問を続ける。先程の首筋に付けた傷が男の心を打ち砕き、自棄になっているのだろう。それでも末端の男では不明な知らない点も出てくる。


「まとめ役は分からないか。まぁ、七十点って所か」

『知ってる事は話しただろ。何だよ、その七十点ってのは』


 男の焦りが目に見えるようだ。それを一笑に付し、


「ベラベラ喋れば良いってもんじゃない。情報を的確に話すことがお前の生きる道だってわかってると思ったがな。後はアジトだが……。で、話すのか?」


 冷たい目とギラリと光る刃は、最後まで残っていた抵抗する心まで粉々に砕いた。鬼、いや、それ以上に怖い存在であると認めざるを得ないと。

 その後はたどたどしいながらも、自らの所属するグループのアジトを数か所、その口から洩らしたのである。




 男の話を聞き場所を突き止め、そこから行動に移ったのはエゼルバルドとヒルダであった。寝間着から戦闘用の服装へと着替え、武器と鎧、そして盾をも装備し、外套を羽織りフードで顔を隠す。


「近いからすぐ終わると思う。こいつはその後、解放する」

「おう、気を付けて行って来いよ」


 二人は手を上げ皆に挨拶をすると、宿の部屋を出発し男が話したアジトへ向け駆けて行った。


「アイリーン!」

「ん、任せて!」


 スイールは二人が失敗する事は無いと思っていたが、相手に逃げられる心配からアイリーンにもお願いをした。索敵能力と身軽さはメンバー随一。そして達人並みの弓の腕前からの人選である。

 ただ壊滅させるのであればスイールの大火力魔法で消し炭にすれば良いのだが、さすがに街中で使うには躊躇(ためら)われる。




 月が少しだけ照らす街中を走る事十分あまり、人通りの少ない裏路地のある一軒の家の前に来ていた。そっと聞き耳を立てると中なら下品に談笑する声が漏れ聞こえる。


『あいつ等上手くいったかな』

『大丈夫だろう。女三人だ、寝ぼけてりゃ男には敵わんよ』

『うらやましいぜ、俺等の当番はまだ先か、クソ!』


 下品な話に顔をしかめる二人、こんなクズ共を兵士に突き出しても、また悪事に手を染める事になると二人は考え、エゼルバルドはブロードソードを抜き、ヒルダは軽棍(ライトメイス)を構える。

 ドアには鍵もかかって無さそうで奇襲も出来る状況であったが、真正面から攻めると決めドアの前に二人は立ち行動に移す。


 ”ドンドンドン”


 目の前のドアを壊れるかと思うほどに思い切り叩くと家の中に大きく響きわたる。


『誰だ!!』


 中の男達のざわめきが聞こえる。ドアの一番近くにいた男に見てくるように命令を出したらしく、嫌々ながら近づく足音が男の存在をアピールする。


『こんな夜中になんだってんだ』


 ドアをほんの少しだけ開け、顔を半分出し外を見渡す。『何だ誰もいな……』そこまで言葉が漏れただけで、顔を外に出した間抜けな恰好でその場に崩れ落ちた。


『な、何があった!!』


 部屋の中から慌てふためく声が聞こえてくる。そして、エゼルバルドはドアを思い切り蹴飛ばすと中へと躍り込んだ。外套の隙間から刀身の半分が出ているが、銀色の刀身に赤い血がこびりついているのは、先程の男の胸ブロードソードを突き立てた為だ。

 その後に続けと、ヒルダもエゼルバルドの後に付いて部屋に入る。


 部屋の中を見渡すと少しだけ広い部屋にテーブルを囲んで男が四人いた。ただし、一人はドアの側にエゼルバルドが付き殺し、転がっているので残りは三人となっている。一番奥にいる男が命令を出しているか、もしくはここの責任者なのだろう。椅子から中途半端に腰を浮かし、腰に見える短剣は他の男と違い少しだけ良い物の様だ。そして、左右に一人ずつ、合計で三人だ。


『何者だ!!』

「知らなくても良い。これから死神の世話になる奴にはな!」


 その言葉を聞くや否や、左右の男達が腰に差した短剣を抜き突き刺してくる。狭い部屋での混戦は有効かもしれない。だが、少しだけ間合いがあるここでは武器の長さで短剣は不利だ。ドアを開けた男が一突きで絶命した事を重要視しておくべきだった。


 エゼルバルドに向かった男は短剣の切っ先が届く前にエゼルバルドのブロードソードに平突きで串刺しにされ、正確に心臓を貫く一撃を貰った。

 そのまま横へ剣を振り抜くと傷口からどす黒く濁った血が吹き出しエゼルバルドの外套を染める。


「無駄な事を……」


 憐れむように一人呟く。

 もう一人の男も哀れだった。


 同じようにヒルダに短剣を勢いよく突き出す。外套の下に武器があるのは感じていたがそれほど強力な突きを繰り出す武器ではないと感じ、相手を見くびっていたのだ。

 ヒルダは軽棍をその短剣に向け、下から振り上げる。外套の下に隠された軽棍は、男の死角から振り上げら、短剣を握っていた手に命中し指を複雑骨折にしながら握力を無くさせ、短剣が天井へと投げ出される。


『えっ?』


 男が手元の武器を無くし驚くがそれもつかの間、ヒルダの体が翻ると振り上げた軽棍が男の頭蓋骨を粉砕したのだ。男は床に倒れ落ち、軽棍が潰した頭部から無残にも脳漿が飛び出し、目の玉は見にくく潰れ、その男の生命刃終焉を迎えた。

 女を道具や金儲けの何かと勘違いしている男達へ、ヒルダが心から怒っている証拠でもある。


『ち、ちくしょう!!何が目的だ。俺たちを殺ったらこの街で無事でいられないのがわかってるのか』


 目の前で二人の男が血祭りにされ足がガクガクとしているが、それを感じさせない様に気丈に振舞い、侵入者の二人へと暴言をまき散らす。

 男はナイフを突き出して脅し少し傷を与えるのは慣れている様だが、足元に残る血だまりや脳漿が撒き散らされるなど経験が無いらしく慣れていない様であった。


「何が目的って、襲われたから仕返しに来ただけだが?」

『仕返しって、これほどの事をしたか?違うだろ。あれは女を襲うだけだ。それ以上はしてねぇだろう、それに……』

「黙れ!!!」


 男の話をエゼルバルドは一喝し遮る。


「オレの大事なヒルダを襲うだぁ!ふざけるのもいい加減にしろ」


 言い終わるや否やエゼルバルドの体はフラッと揺らぎ、男の元へと一瞬で移動する。目に止まらぬ速さだが男の目には瞬間的に移動したと見えただろう。

 そして、左の拳を鳩尾に容赦なく叩き込み、男の意識を一撃で刈り取る。


「帰ろうか。こいつからは聞く事があるから連れて行こう。終わったら兵士にでも突き出せばいいか」


 ロープで手足を縛り、口には猿ぐつわ、おまけに目隠しと、雁字搦(がんじがら)めにした男を担ぎ宿へと急ぎ帰る。その傍らで見張っていたアイリーンも他に監視の目がないと見るや、エゼルバルド達に先行して宿へ戻るのであった。




 宿に帰り、捕まえ担ぎ運んできた男に冷たい水を掛け、強引に目を覚まさせる。深夜を過ぎすでに明け方の時間まで起きていたのだ、次の日は午前中は寝て過ごす事に決めたので朝までにこの男から情報を引き出すのだと決めていた。


 水を掛けられた男はウーウーと唸りながら目を覚ますが、ロープですべての自由を奪われては動く事もままならず目の前で水の入っていた桶を持った男達をただ睨むだけしか出来ないのだ。殺すならすでに殺されていても可笑しくないが、まだ生きているのは俺から情報を聞き出す為だろうと予測する。だが、そのまま話す訳にもいかないと心を決めるのだ。あの場所で唯一、上の組織とつながりがあるのだから。

 さらに横を見れば女達を襲うために出て行った二人が縛られ寝かされていた。そこからアジトの場所を聞き出され、問答無用に襲撃されたとわかったが後の祭りであった。応援を呼ぶ事も今はもう出来ない。唯一の活路はアジトの状態を他のグループに発見して貰い、この場所へ別の戦闘員が送り込まれる事だけだ。それまでの辛抱だと思うのだ。

 その男の猿ぐつわが外され、エゼルバルドが男を問い質す。


「だいたいはあいつ等から聞いたが、あいつ等の知らない情報がある。お前等に指示をしているのは誰だ?正直に話せ」

『馬鹿正直に話すかよ。お前らなんか、組織に見つかって殺されればいいんだ』

「組織ね……。それがお前達のボスか」

『ああ、そうさ。それ以上は知らねぇぜ、どんなに脅したって駄目だぜ』


 ”ふふん”と勝ち誇ったように鼻で笑う。男はわかっていない、それが致命的に拙い事だと。


「まぁいいか。後でそこら辺の兵士に付きだして終わりだな。おつかれさん、っと!!」


 エゼルバルドの左腕に着けている盾、--バックラーの手甲の部分--、で男の顔面を横から殴りつけると、勝ち誇っていた顔は白目をむき、意識を刈り取られ床へ倒れこんでいった。


「無駄だった……か」


 エゼルバルドは珍しく肩の力を落としている。


「こんな事もありますよ、気にしない事です。でも、おおよその役割が判明したのは進歩ですよ。ここまで大きな組織になっているんです、噂位は何処でも聞ける事でしょう」


 エゼルバルドの肩を軽くたたき、力づけるスイールであった。

 この街に来てまだ一日も経っていないにも拘わらず、事件に巻き込まれるのは何故なのかと。エルフの杖と地下迷宮を探しているだけなのに何故こうなるのかと、この日は自問自答を繰り返すばかりであった。

いつも拙作”Labyrinth&Lords”をお読みいただきありがとうございます。


気を付けていますが、誤字脱字を見つけた際には感想などで指摘していただくとありがたいです。あと、”小説家になろう”にログインし、ブックマークを登録していただくと励みになります。また、感想等も随時お受けしております。


これからも、拙作”Labyrinth&Lords”をよろしくお願いします。

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