100.送魔施設襲撃
キャメロン達は生き残った飛空艇を強奪し、パイロットを脅して離陸させた。その間、ローズは強がりながらも疲弊し尽された身体で後部座席に横になり、目を閉じる。
「で、本当にこのまま送魔施設へ向かうんですか? 俺達3人だけで?」
「4人だ。もうあんたも共犯だよ~」と、キャメロンはニヤニヤと笑いながらパイロットのヘルメットを撫で回す。
「そりゃないっすよ……」パイロットは震えた手で操縦桿を握りしめ、隙を伺って彼らを振り落そうと考える。が、先程のローズが見せた惨劇や、あっという間に飛空艇を制圧した彼女らの手際を思い出し、その気も失せる。
「無策って訳じゃないですよね? ローズさんに何か考えでもあるのかな?」エルは首を傾げながら呟き、眠る彼女の方を伺う。
「何も考えてないと思うよ? だってあいつ、やっと自由になった身でしょ? 大方、自分の入る予定だった監獄を腹いせにぶち壊したいだけってトコロじゃない?」
「やっぱそうですよね」エルはキャメロンの考えに同意し、溜息を吐く。
すると、キャメロンはガバッと起きて2人の間に割って入る。するとエルが小脇に抱えていた地図を広げ、今から向かう施設を指さす。
「まず、この送魔施設には『勇者の時代』に戦っていた勇者達が繋がれているの。更に元黒勇隊もここにいると聞いた。彼らを助け出せれば、良い戦力になる筈。皆、反バルバロンを掲げる反乱者たちよ。それにこの施設から送られるエネルギーの大半はエレメンタル研究所へ送られているわ。ここではあらゆるエレメンタル兵器の動力源、更にエレメンタルブースターの新型も開発されているわ。ま、これらの情報はアタシが閉じ込められる前の情報だけど……この施設を潰せば多少の打撃にはなる筈よ」ローズは2人の顔を交互に見ながら不敵に笑う。
「成る程、潰す価値はありそうね。迎撃装置とかあると思う?」キャメロンは怯まずに問いかけ、ローズの目を睨み返す。
「流石に施設を直接見た事は無いな。備えはあると予測すべきね」と、ローズは言い終えると再び後部座席へ戻り、目を閉じる。
「……よし、俺が一足先に行って見てきますよ」エルは彼女の返事を待たずに飛空艇から飛び降り、光を纏って降下する。そのまま大の字になって地面へと着地し、そのまま光に乗って駆けていく。その速度は飛空艇の3倍ほどであり、数十キロ先の送魔施設までまさに一足早く向かっていった。
「張り切っているねぇ。多分、ローズが奪還された情報が伝わっている筈だから……」と、キャメロンはパイロット越しに地平線に向かって目を細める。すると小さな火柱が上がるのを目にし、口笛を吹いた。「高度を下げて、滞空レーダーに映らない様に注意して」
「なんてこった……生きて帰れないなこりゃ……」パイロットは今にも泣きそうな表情でコンソールを操作し、地面すれすれを飛んだ。
エルは送魔施設から飛んで来る爆撃の雨を掻い潜りながら駆け、日差しの中へ身を隠して休憩する。彼はクラス3である為、出せる魔力には限界があった。
「この感じ、エレメンタル兵器だな。フレイムボンバーとライトニングバルカンかな? フレイムボンバーが厄介だな……」と、囮である光球を上空へ何発か打ち上げる。すると紫電が襲い掛かり、あっという間に光球が弾け飛ぶ。「ライトニングバルカンは熱探知で自動射撃って所か……さて、どうするか」エルは腕を組んで難しそうに唸る。
そこへ小さな光球が飛来し、彼の顔の周りを飛び回る。
「今、考えているんですよ。黙っていてください」エルは頭を抱えて唸る。すると光球は彼の眼前で呷る様に飛び回った後、そのまま低空を飛んで送魔施設へと向かっていく。備え付けの迎撃兵器へと飛んで行き、凄まじい熱量で持って貫通する。そのままライトニングバルカンとフレイムボンバーを次々に破壊していき、更にその施設にいた魔王軍兵らの眼前で眩く光り、一瞬で気絶させていった。
それを見たエルは頭を掻きながら送魔施設へと脚を踏み入れ、不服そうに唸る。
「俺にも出来ましたって! いや、確かに移動に魔力を使い過ぎて……確かに、キャメロンさん達が来るまでに片付けるのは難しかったですけど……でも、俺がやる分も……はいはい、俺は未熟です……」エルは頭を掻きながら光球へ向かって頭を下げる。すると光球はチカチカと光ながら彼の鼻っ柱を小突き、彼の懐へと入っていった。
「ったく……貴女には敵いませんよ」
しばらくしてキャメロンらを乗せた飛空艇がやってくる。エルは制圧の合図に光球を打ち上げた。そのお陰で飛空艇は堂々と送魔施設の発着場へ堂々と着陸する。パイロットは観念したのか自ら手錠を取り出して手に掛けようとした。それを見てキャメロンは手錠を取り上げ、飛空艇の整備と調整をする様に指示した。パイロットは手を上げて頷き、黙って整備を始める。彼は送魔施設へ着陸した時点でこの施設を制圧した片棒を担がされる形となったため、もう彼女らとは一蓮托生であった。
「もう着いたの?」後部座席で眠っていたローズは目を覚ますと、先程よりも軽そうに起き上り、手足を稲光と共に回す。「やけに静かね?」
「うちのエルが仕事の殆どをやってくれたみたいね? って、そんなにちょろい施設なの? ここ」と、キャメロンは発着場から高く跳び上がり、軽く施設上空を旋回する。迎撃兵器は必要最低限しか用意されておらず、平和ボケした魔王軍兵が少数しか配置されておらず、その全てが光魔法で制圧されていた。が、兵器に残った光魔法痕を見て眉を顰める。キャメロンはすぐさまエルの眼前に降り立ち、炎翼を引っ込める。
「これ、本当にあんたがやったの?」と、疑う様な目を向ける。
「疑う必要あります?」
「……ま、それもそうか。お疲れさん」と、キャメロンは首を傾げながら施設の中へと入っていく。
その先には一足先に向かっていたローズがメインルームの前で立ち止まっていた。部屋にはいくつもの卵型のオブジェが置かれ、その全てが何本ものチューブで繋がれていた。それにはネームプレートが張られていた。
「元黒勇隊の2番隊隊員……彼もここに……」ローズは卵型の中に閉じ込められた者のリストを見つけ出し、目を通していた。
「助け出せるの?」キャメロンは卵型をコンコンと小突き、首を傾げた。
「……無理でしょうね。ここに入った時点で脳死状態にして、食事用と排泄用のチューブで繋がれ、一生肉体が滅ぶまで魔力を絞り尽される……生きながらの地獄ってヤツよ」ローズは目を通し終わるとリストを床へ叩き付け、壁を思い切り殴りつけた。
「あんたもここに入れられていたと思うとゾッとするわね」
「アタシの場合は特別に脳死状態にせず、卵型から顔を突き出した状態で収容される筈だったみたいよ? 悪趣味な事をするわ」
「うーわ……あんたってそんなに魔王軍に取ってタブーを犯したって事よね? 何をしたんだっけ?」
「魔王の娘の誘拐」
「あーそりゃあ当然か……」キャメロンは納得した様に頷き、彼女の隣に立った。
「……ここを跡形も無く消し飛ばす……」ローズはこの言葉を合図に送魔制御室へと向かい、レバーを片っ端から上げ、コンソールを弄り回す。
「何をする気?」
「魔力暴走を起こしてこの施設を吹き飛ばす。ついでにこの施設の世話になっている研究所や他の工場なんかも軽く吹っ飛ばしてやるわ。これでここに繋がれた人たちも自由になる」と、ローズはコントロール装置を徐々に暴走させていき、仕舞には赤いアラート音が施設中に鳴り響いた。
「あんた、よくこんな滑らかに破壊工作ができるわね……」
「アタシも色々やって来たからねぇ」と、仕舞に己の雷魔法でコンソールを破壊し、もう後戻りできない様にする。「さ、ここを脱出するよ」
2人がメインルームを後にする頃、施設全体が轟音を上げ、地響きを鳴らしていた。アラート音が喧しく鳴り響き、魔力エネルギーが壁を破壊して漏れ出し、通路は火花や水蒸気が噴き上がっていた。
「一体何をしたんですか!?」慌てた様にエルが訊ねるとキャメロンは乾いた笑いで返しながら彼の手を掴んだ。
「ローズの怒りが地を鳴らし、天を穿つほどだって事よ。詳しくは飛空艇で話してあげるわ」
「でしょうね……ただごとじゃないですよ、これ……」エルは施設中から鳴り響く音にビビりながらも飛空艇へと走った。
ローズは整備を続けていたパイロットの後頭部を叩き、直ぐに操縦席へ座る様に口にした。
「次の行先は、エレメンタル研究所!」
「もうどうにでもなれ、ですよ」パイロットは呆れた様に笑いながら飛空艇のエンジンを付けて操縦桿を力強く握った。




