95.襲い来る楓
いらっしゃいませ!
では、ごゆっくりどうぞ
「で、あんた誰?」急にカーラがマリーの方へ向き直る。今まではトニーとのこれまでの空白の3年を埋める為に絶え間なく情報を交換し合い、やっと一息ついて水を一口飲んだ後であった。
「今更? あんた、頭痛いとか喧しかったり、急に戦い始めたり、殺気満々で急に現れた剣士と戦ったり、忙しなくて自己紹介の暇も無かったよ」マリーはおどけた様に手を上げて苦笑いを見せる。
「それは失礼したね。で、誰? トニーの彼女?」
「んなわけねぇだろ!!」彼は間髪入れずにツッコみながらも以前の彼女が戻ってきたのを再確認して微笑む。
「あんたが彼女じゃないんだ。あたしはマリー、吸血鬼見習い。よろしく」と、鋭く伸びた犬歯を見せる。
「吸血鬼に見習いとかあるんだ……」と、彼女の身の上を軽く聞く。小さな反乱軍に属し、最近ついに魔王軍によって潰され、自分が唯一生き残った事。命を拾う為に吸血鬼になった事を端的に説明する。
「あー、アリアンが取り逃したっていうあのマリーか」カーラは知っているような口ぶりを見せる。
「何で知っているの? さっきまで記憶喪失だったあんたが?」マリーは疑う様な目を向け、首を傾げる。
「これでも秘書長や魔王の矢の助手をしていたんでね。入ってくる情報は殆ど頭に入れていたのよ」と、自分の頭を指さす。彼女の3年間は激務続きで秘書長ソルツに使い潰される勢いであった。魔王軍やバルバロン全土で起こる出来事の殆どの情報整理、ソルツに変わって各所施設の訪問、その他雑務。その間に風魔法の修行も行っていた。
「……じゃあ、スティーブの事も知っているの?」
「スティーブ? エレメンタルブースターに適合して捕獲対象になっていたわね。今はエレメンタル研究所の最重要研究対象になっているわ」
「え、生きているの?」マリーは目を丸くする。
「その筈よ。あのクソ野郎がウキウキしていたからね……」アルバス博士の顔を思い出し、一気にはらわたが煮えくり返り、体温が上がる。鼻息が荒くなり、握った拳から血が滴る。
「その研究所はどこ!!?」
マリーはカーラと同レベルの興奮を見せ、目を血走らせながら詰め寄る。彼女は吸血鬼故に心音は止まっており体温も爬虫類以下であったが、カーラに並ぶ程に怒る。
「安心しな、大人しく付いて来れば辿り着くわ。まぁ、到着後すぐに跡形もなくなるけど」カーラは怒りと同時に笑いがこみ上げ、歪んだ笑顔を見せる。
「うーわ、こうなったらもう止まらねぇな……」トニーはため息を漏らしながらも楽し気に頷く。
「……あたしも手伝うよ」カーラの笑いにマリーもつられて笑う。
3日目も夕暮れが近づき、アリアンは腕時計を見て納得した様に頷く。このサバイバルで持参した小型照明弾を打ち、選抜の終了を告げた。すると、同時にアリアンの正面に20人の参加者がズラリと並ぶ。彼ら以外の参加者はカーラ達やカエデ以外おらず、殆どが骸と化したか森から辛くも逃げ出していた。参加者らは何も言わずに各々集めたバッヂをチラつかせる。ある者はひとつ、またあるものはジャラジャラと地面へ落とす。
それを見てアリアンは満足そうに頷く。
「優秀なのが揃ったわね。真夜中まで続けたら、この半数が減っていたでしょうね。それじゃあ勿体ない」と、参加者たちを脚先から頭の先まで眺める。因みに彼らがアリアンの周囲にいたのは、全員彼女のバッヂか命を狙っていたからである。が、隙を見せない彼女の殺気に押されて一手も動けずに冷や汗を掻いていたのであった。
「これから貴方達には魔王の矢として働いて貰うわ。名義上は魔王の元、そして私の下でって事にはなるけど……各々、矢として何をすれば良いかわかっているわね? この国に仇なす者を撃ち抜く。魔王様からの命令が下るまでは各々、普段の生活に戻っていいわ。以上よ。何か質問は?」すると数人が手を上げる。
「貴女はどこでその技術を磨いたのですか?」
「生まれは? どの地方出身で?」
「貴女と共に行動したいのですが、よろしいですね?」
「私についての質問は無しでお願い。じゃあ、広場で個人情報の登録だけして解散!」と、アリアンは一瞬で跳躍してその場から消え失せる。同時に彼女を追って数名がジャンプする。他の者らは互いが気になっていた参加者同士目を合わせ、そのまま森から出る様に駆け出した。
カーラ達はやっとダークビルの森を抜け、魔封じが解除される。カーラとトニーは深呼吸をしながら身体全身に魔力を行き渡らせ、魔力循環をフル回転させる。
「お、あんたも魔力を使えるようになったのか?」カーラは彼を見て珍しいモノを見る様に口にし、口笛を吹く。
「あぁ、あれ以上強くなるには多少は、な。まぁ、これだけじゃないけどな」トニーは得意げに笑み、大地を軽く震わせる。「ま、お前みたいにクラス4でもなければ空も飛べないが」
「え、あんた空飛べるの? いいな~」マリーは恨めしそうな顔で彼女を見る。
「え、あんたは吸血鬼なのに空も飛べないの?」
「蝙蝠に変身できればいいんだけど、ケビンにも出来なさそうだから無理ね。まぁ、あんたの飛行に付いて行けるぐらい速く走れると思うけどね」マリーは脚先をトントンと鳴らしながら口にする。
するとカーラは何かを覚悟する様に深く息を吐き出し、折れた右脚に集中する。
「さて、この3年の成果を……」と、目を瞑る。すると彼女のへし折れた右脚に新緑色の風を纏う。すると徐々に切創や筋肉断裂、骨折がみるみるうちに治癒する。
「凄いな、風の回復魔法か。しかもかなりハイレベルだな」トニーもこの3年であらゆる属性の魔法を勉強し、自分に宿る大地属性の修行も行った。結果、彼は普段はクラス2で抑え、瞬時に爆発的にクラス4級の魔力循環の身体能力を発揮する術を学んだ。その為、今ではカーラの実力を上回ったと自負しており、暇が出来たら一戦交える気でいた。
「回復魔法に数キロ先の話し声や音を拾う魔法、送る魔法とか、色々と学んだわ。それだけはこの3年に感謝ね」ついに脚が完治し、今まで以上に何かを蹴れそうな自信が胸に宿る。
すると彼女らの背後から強烈な殺気が突風の様に吹き荒れる。森の奥からは未だに魔封じが施されている筈だったが、既に風魔法が発動しており、周囲の木や葉を切り裂いていた。
「またあいつか……懲りないねぇ」カーラは殺気の方へ向き直り、楽し気に笑う。
「カーラ……お前を斬り、あの日の屈辱を、汚名をすすぐ」と、カエデは一瞬でその場から消え去り、彼女らの背後に現れる。同時に鯉口を切り、躊躇なく抜刀する。カーラとトニーは一瞬でその場から跳躍してカエデの殺傷範囲から遠ざかる。マリーは一歩遅れ、襲い来る斬撃に身を曝し、手足がバラバラに飛び散って胴体が吹き飛ぶ。
「マリー!!」カーラはその様に仰天したが、彼女が不死身の吸血鬼であることを思い出し、カエデに集中する。
「あー……死なないと分かっていると、簡単に油断するなぁ……」マリーは自分自身を嫌悪してうんざりした溜息を漏らし、自立して動く手足を不器用に動かしながら肉体の再生を始めた。
「今の斬撃、タダの刀からのモノじゃないぞ?!」トニーは完璧に避けたつもりであったが、更に肉体も一瞬で刃物が通らない程に魔力循環で硬化させたつもりだったが、太腿が深く斬り裂かれていたのに驚く。
「魔刀ね……それも最上級」
「我が家の伝統の魔刀嵐牙……」
「聞いてねぇよバーカ」カーラは余裕の笑みを見せ、カエデのイラついた様な眉の動きを見る。
「なら最早、語るまい……」カエデは腰を深く落とし、抜刀の構えを見せる。ゆっくりと目を閉じ、眼前でへらへら笑うカーラに集中する。彼女が一瞬でも動いた瞬間、瞬足抜刀で駆け抜け、彼女をバラバラにするつもりであった。
「達人の構えって奴ね。ただの喧嘩にここまでするかね? 大人げない……」と、カーラが舐めた様な口ぶりで一歩足を踏み出した。
如何でしたか?
次回もお楽しみに




