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ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア  作者: 眞三
第5章 バルバロンの闇と英雄の卵たち
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94.カーラの物語 Year Three 白紙の秘書

いらっしゃいませ!


では、ごゆっくりどうぞ

 雨の降りしきるファーストシティの路地裏。その片隅でカーラは蹲って眠っていた。通り抜ける寒風と雨の冷たさで重たそうに目を覚ます。首をゆっくりと振り、視界のぼやけに違和感を覚える。首の動きと脳の位置が一致しておらず、唸りながら頭を叩く。


「ん……ここは……?」見覚えの無い場所に狼狽し、昨日の事を思い出そうとする。が、思考はまるで濃霧の中の様に何も思い出せず首を捻る。身体は疲労が溜まっているのか鉛の様に重たく、立ち上がるのに10分ほどかかった。壁にもたれ掛りながら身体を引き摺る様に歩き、路地から大通りへ出る。


「なんだ? このまち……ごみごみしてるなぁ……」頭を押さえながら歩くが、雨水で滑って転び、地面に倒れ伏す。風邪を引いたのか身体と頭が熱くなり、頭にトゲトゲした激痛が奔る。呼吸は荒くなり、吐き気がこみ上げるが吐く物が無いのか嗚咽だけが口から出る。周囲に人だかりができているのか気配と話し声で包まれるが、誰も彼女を抱き起す者はいなかった。


 するとそこへ影が差し、雨粒が何かに遮られる。カーラはそれに気付かず暗黒の濃霧の中へ意識が吸い込まれていく。


「あら、可哀想に」秘書長ソルツは傘を片手に彼女を見下ろしながら指を鳴らした。




 カーラはファーストシティ内のマンションの一室へ連れて来られ、ベッドの上に寝かされる。そのまま3日間、意識を失い続ける。ソルツは彼女に解熱剤や栄養剤を投与し、順調に回復させる。


「ん……?」目を覚ますと今度は見知らぬ部屋に狼狽し、更に混乱する。


「やっと起きた? 貴女、39度の熱で死にかけていたのよ」ソルツは白々しい笑みを覗かせながら飲み頃の茶を差し出す。「飲みなさい。病み上がりに丁度いいわよ」


「ありがとう、ございます……」カーラは頭の中で疑問に疑問を重ねながら茶を啜る。内心、久々の暖かさと美味しさを感じ取って一粒涙を流す。


「で、貴女はどこから来たの? この街で行き倒れって珍しいわよ?」


「どこ……」自分の出身地を訪ねられて再び濃霧に襲われる。生まれ故郷、両親、なぜあの路地にいたのか、全てが思い出せなかった。


「なに? もしかして記憶喪失?」


「きおく、そうしつ?」カーラは表情を歪めながら頭を押さえる。なんとか自分の過去を一欠けらでも思い出そうとするが、代りに棘に刺される様な痛みに襲われる。


 ソルツは小さく唸り、別室に移り、置いてある書類に目を通す。


「話が違うじゃない。何かしらの記憶が植えつけてあるんじゃないの?」と、アルバス博士から渡された書類を読み返し、頭を抱える。「あー、記憶の定着が済む前に風邪を引いたのが悪かったのかな? 出会いをドラマチックにしたかったから雨の日を選んだのがまずかったわね……」と、書類を仕舞ってカーラの前に戻る。


「何もわからない……私は……一体……」


「なら、記憶が戻るまでここにいると良いわ」と、ソルツは優しく微笑んだ。




 その後、カーラはマンションの一室でしばらく過ごした。定期的にソルツが顔を出し、体調を確認する。1週間すると、彼女は総合病院へ連れられ簡単な検査を受ける。そこでソルツはカーラの優秀な魔力を知り、また白々しく驚いてみせた。


「貴女、見かけによらずクラス4の風使いなのね? 空は飛べるかしら?」


「わからないけど……出来る気はする」カーラは自分の身体を奔る魔力や脚に漲る力を自覚しており、何気なく飛べる気はしていた。


「なら、私の助手にならない? 丁度飛べる秘書を探していたのよ」と、ソルツはにんまりと笑いながら手を叩く。


「……何をすればいいかわからないけど、よろしくお願いします」カーラは彼女に言われるがままお辞儀をし、この日から秘書長の手足となって働く事になった。




 それからというモノ、カーラはバルバロン城の中心で慣れないスーツを着用して働いた。主にソルツ秘書長の使い走りとしてバルバロン各地を飛び回らされた。彼女は自分の仕事に何の疑問も持たず、ソルツの言いなりになった。


 時折、激しい頭痛に見舞われたが、ソルツから鎮痛剤を渡されてそれを飲んで痛みを抑えた。この頭痛は記憶を思い出す前兆の様なモノだった。渡された薬はそれを阻害するモノであり、定期的にエレメンタル研究所へ取りに行く事になった。カーラはこの研究所に来ると毎回嫌悪感と身震いを抱き、アルバスに会うだけで理由の無い殺意を我慢した。


 そんな日々を3年ほど過ごし、そして現在に至る。




 トコロ戻ってダークビルの森。記憶を取り戻したカーラは濃霧の晴れた清々しい思考を取り戻し、やっと気持ちよく深呼吸できるようになっていた。が、頭の激痛は右脛に移っていた。カエデとの戦いで脛は真っ二つにへし折れていたが、その結果勝利を収め、彼女は機嫌よくトニーに事の次第を語っていた。その間、マリーは空気を読み、2歩下がった場所で口を結んでいた。


「ってわけ……痛ててぇ……」彼から応急処置を施して貰い、拾った木の棒を杖代わりにして森を出る為に歩いていた。


「成る程……この3年で色々と酷い目に遭ったわけか……」


「そっちは? あんた、相当強くなったみたいだけど?」トニーの身体の作りや立ち姿、顔つきを見て彼の過ごしてきた3年間がどんなものか推測する。


「あ、わかる? 俺は俺で色々と遭ったんだ。森を出たらもっと凄いぞ?」


「……父さんは?」


「魔王のポケットと呼ばれている施設に閉じ込められている。面会に行ったが、意外と楽しんでいたよ」


「何て言ってた?」


「……お前らはお前らの戦いをしろ、ってさ。だから俺は戦い続け、仲間たちを逃がし……お前を見つけに来たんだ」と、水筒を差し出す。


「それはどうも……それにしても、魔王の城に3年もいたけど……魔王は得体の知れない奴だったわ」水筒を受け取り、一気に水を飲み干しながら魔王の顔を思い出す。スワートの精神世界で見た時と同じ顔であったが、魔力や纏うオーラ、目の奥の気配がただ者ではなく常に不気味に感じていた。そんな気配が城中に広がっており、カーラは常に吐き気を我慢して過ごしていた。


「そんな魔王を倒すんだっけか。討魔団って連中が頑張って人や兵器を集めて、ウィルガルムを倒したそうだぜ」


「知ってる。そこにキャメロン達もいるとか……」


「合流するか?」


「あたしの行く先にいるならね」


「そういえば、これからどうするんだっけ? いきなり魔王を殴りに行くのは無茶だと思うが」


「それもいいけど、あたしにはやりたい事があるのよ……エレメンタル研究所を消し飛ばしてやるのよ!」カーラは拳を握り込んで邪悪な笑みを覗かせる。


「エレメンタル研究所……そこでひどい目に遭ったんだっけ……2人でどうにかできるか?」と、トニーも拳を握り込み、彼女の笑みに応える様に笑い返しながら拳をぶつける。


「よし、その前に……右脚を治さなきゃね」


「ってか、この選抜サバイバルの結果はどうなるんだ?」


「知らね」カーラは鼻を鳴らしながら一刻も早く森を出る為に歩みを速めた。




 その頃、カーラの渾身の蹴りを喰らい気絶していたカエデはゆっくりと起き上り、蹴られた個所を摩る。折られた木刀を見てワナワナと震え、天へ向かって吠える。


「くそぉ!! 思い出してしまった!! やっと忘れたのに!! あの女、カーラの事を!! ただの取るに足らない反乱者だったのに……私に屈辱を味合わせ、左腕を失う原因になったあいつ……あいつは乗り越えなければ! いま、ここで!!」カエデは魔刀の鯉口を切り、カーラ達が向かった方向へ向く。


「あっちか……」彼女は目をギラつかせ、俊足の歩法で向かった。


如何でしたか?


次回もお楽しみに

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